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570 悔いるなら前を見ろ

『いやはや、皆が一斉にレベルアップすると大変だな』


 数レベル程度ならどうってことないんだが、今回は違う。

 かつてないほどの大幅レベルアップだ。


 先に言っておくが、皆に限定してのことだからな。

 俺は除外しないと色々と話が変になってしまう。

 今回の一件は充分に常識外れな出来事なのだ。

 にもかかわらず俺を引き合いに出すと常識の範疇になってしまいかねない。


『自分で言うのも何だけどな……』


 というより俺は誰に向かって語ろうとしているのか。

 色々と考えていたことで精神的な影響が残っているようだ。

 相変わらずメンタルが弱い。


 まあ、だからこそ皆をより強くして安心安全を得ようとしたのだけど。

 それに振り回されているようでは、まだまだ修行が足りない。

 こういうところはガンフォールを見習いたいものなんだが。


『そういや、ガンフォールは何してんだ?』


 ずっと静かなんだが。

 そう思って探してみたら隅っこの方にいた。

 ハマーやボルトと小さな輪になっている。

 何か話している様子でもないのだけれど。

 他の者を寄せ付けないような雰囲気を滲み出させていた。


『どうしたんだ?』


 不審に思ってガンフォールたちの方へと近づいていく。

 側に寄っても彼等は振り向くことはなかった。

 それどころか俺の接近に気付く様子もなく渋い表情をしている。

 そして3人で一斉に重苦しい溜め息をついた。


『なんだかよく分からんが、重症っぽいな』


「おいおい、どうしたんだよ。

 誰かの葬式みたいな辛気くさい顔して」


 そう声を掛けて初めて、3人が振り向いた。

 その動作は重さを感じさせるかのように緩慢である。

 別に疲労が抜けていないとかではない。

 俺がゆっくり考えながら皆のステータスを確認している間に回復している。

 少なくとも普通に動けるくらいにはなっていた。

 念のために拡張現実で状態のアイコン表示もさせてみたが[半消耗]すらない。


『ホントに何なんだ?』


 俺はアイコン表示をオフにしながらガンフォールの反応を待った。


「ハルトか……」


 返事はするが、溜め息交じりである。

 ハマーやボルトもお通夜の雰囲気を醸し出している。


「深刻だな」


 魔神に魅入られたりもしていないはずだが。


「悔いておるのじゃよ」


「どういうことよ!?」


 驚きである。

 それこそ目の玉が飛び出すんじゃないかってくらい予想外の言葉であった。


『今回のパワーレベリングがそんなに不満だったのか?』


 やはりトドメを刺せなかったのがダメだったのだろうか。

 それとも何の危険もなしに過剰なレベルアップをしたことに対する反発とか。


『過保護だと言われると否定はできないからな』


 そこはパワーレベリングである以上、仕方のないことだとは思うが。


「今回のことに不満がある訳ではないのじゃ」


 その言葉を聞いて少し安心。

 けれどもホッとした様子は見せられない。

 ガンフォールたちはお通夜状態のままだからな。

 【ポーカーフェイス】スキルに仕事をしてもらって雰囲気に合う表情にしておく。


「むしろ、かような僥倖を感謝せねばなるまいて」


 しみじみと呟いている。

 合わせてハマーやボルトがゆっくりと頷いていた。

 聞きづらい雰囲気だ。

 無神経に「じゃあ、どうして?」とは言えなかった。

 必然的にガンフォールが話を続けるのを待つことになる。


 重苦しい雰囲気が俺を押し潰しにかかってきた。

 正直、逃げ出したい。

 しかしながら、この話は聞かねばならないと俺の本能が訴えかけてくる。

 ここは面倒くさがったりプレッシャーに負けて逃げ出したりしてはいけないようだ。


「今なら分かるのじゃ」


『何を?』


「我らが如何に未熟であったかを」


『サッパリ分からん』


 言葉だけで判断するなら反省会のように思えるのだが。

 そこまで暗く沈み込むほどのミスをしていたとは思えない。

 魔力の制御やペース配分?

 交代時の手際? タイミング?

 それとも他の何か?


『心当たりはないんだけどなぁ』


 細かなミスがなかったとは言わない。

 だが、目くじらを立てるほどのものじゃなかった。

 それに最初の方でミスが出たときは次の交代時には改善されていたし。

 ラストの疲れが溜まった状態の時も大きなミスはしなかった。

 危うい所がなかった訳じゃない。

 みんな疲労で辛いときに集中を切らさず踏ん張ったのだ。


『そういう経験は大きな糧になると思うんだがな』


 決して無駄ではないはずだ。

 いや、それどころか財産だと言ってもいい。

 そういったものを否定するような何かがあったと言うのか。

 俺にはどういうことなのか分からない。


 だが、ハマーたちは理解できるらしい。

 2人とも重々しく頷いていた。


『んー、何だろう?』


 俺が自分で気付いていない落ち度があったのだろうか。

 振り返ってみるが、見当がつかない。


『条件がシビアだもんなぁ』


 ガンフォールたちだけが、こんな状態になるという時点でお手上げだ。

 他の皆は平気そうなんだよ。

 別にガンフォールたちだけを特に厳しくしたなんてことはないし。

 監視しながら封印と結界に注力していただけだ。

 逆にガンフォール以外を優遇したという事実は……


『あるな、確かにある』


 リオンには依怙贔屓も同然のことをした。

 アレを責められるのだとしたら、それはしょうがない。

 素直に謝罪するしかないだろう。

 けれどもガンフォールがその程度のことでとやかく言うとも思えない。


『だったら、やっぱり俺が気付いていないミスがあったのか』


 それも微妙なんだよな。

 相応のことをやらかしているなら俺に抗議してくるはずだ。

 ボルトはともかく、ガンフォールもハマーも沈黙したりはしないだろう。

 それに周囲の皆だって何かしら言ってくるはずである。

 たとえ自分に関係ないミスだとしてもだ。


『うちの面子は俺に畏縮して何も言えないなんてことはないもんな』


 みんな言いたいことを言ってくれる。

 まあ、性格的な部分もあるだろうから控えめだったりする者もいるけれど。

 子供組のハッピーとかチーとか、そんな感じ。


『他にもマリアとかABコンビもか』


 どちらかと言えば控えめな面子だ。

 しかしながら自己主張はする。

 それぞれのやり方だしタイミングだけどな。


 他の面々はそもそも無遠慮だ。

 俺もそれでいいと思っている訳だが。


 そんな環境で誰からも指摘されていないのが現状である。

 つまり誰かが向きになるほどのミスはしていないということにならないだろうか。

 だが、現にガンフォールたちは、あんな状態だ。

 何かしら原因があるはず。

 問題はそれが何なのかということである。


『こうなったらログをほじくり返して徹底的に調査してみるか?』


 そこまで考えたとき、ガンフォールが何かに気付いたように目を見開いた。


「先に言っておくぞ」


「ん?」


「ワシらが勝手に落ち込んでおるだけじゃ」


「は?」


『どゆこと!?』


 勝手に落ち込むって意味が分からない。


「ワシらが過去のことで勝手に落ち込んでおっただけなんじゃ」


「……………」


 言葉がなかった。

 俺も勝手にヤキモキしてたからな。


『そういうことは先に言ってくれぇーっ!』


 内心で絶叫してしまう。

 俺の心配は無意味なものだった訳だ。

 無駄に費やした時間を返してくれと言いたい心境である。


「それって誰にも落ち度がないってことだよな」


 代わりにそんなことを聞いてしまうのだが。


「ああ、ハルトや他の皆は何も悪くないのじゃ」


 また微妙な返答である。


「ガンフォールたちは何かしら罪があるとでも言いたげだな」


 今回の一件と過去のことにどういう繋がりがあるというのか。


「なに、皆には大した話ではないのじゃ。

 ワシらがあまりにも不甲斐なさすぎたと思い知らされただけじゃからな」


「不甲斐ない?」


「今日は信じ難いほどにレベルが上がったじゃろ」


「まあ、そうだろうな」


 一応は肯定しておく。

 俺を基準にして考えてはいけない。

 だが、ガンフォールには俺の内心も読まれていたようだ。

 このタイミングで苦笑されてしまう。

 一瞬だったが「しょうがない」と言いたげな感じに見えた。


『まだまだガンフォールには敵わねえな』


 修行が足りないのか俺がガキなだけなのか。

 多分どちらもなのだろう。


「それ以前に3桁を超えるレベルに到達していたがのう。

 近頃は常々思っていたんじゃよ。

 ずっとワシらは何をやっていたんじゃろうとな」


 絞り出すように語るガンフォール。

 心底、不甲斐ないと思っていたようだ。

 何となくだが何を悔いているのか分かったような気がした。


「ワシは常々、皆に限界を超えよと言ってきた」


 それは初耳だ。

 けれどもガンフォールなら言いそうである。


「じゃがの、ワシらの努力は超えるどころか、その入り口にすら到達しておらなんだ」


「それは言い過ぎだろう」


 努力を全否定するような口振りは看過できない。


「何が言い過ぎなものかっ。

 ワシらの怠慢が多くの同胞を死に追いやったのじゃからな!」


 やり場のない怒りを感じた。

 地面に向けた挑みかかるような鋭い瞳。

 そこに滲むものを見た。


『翼竜のせいで娘夫婦を失ってるんだったよな』


 決して怒りだけではないのだ。

 過去のことについて俺はとやかくは言えない。


「不甲斐ないと思うなら尚のこと限界を超えるしかないぞ。

 過去は変えられないよ、ガンフォール。

 それはアンタも分かっているだろう」


 俺の言葉にガンフォールが顔を上げる。

 言葉はない、発せない。

 きつく唇を噛みしめていたからだ。


「だったら未来を見ろよ。

 悔いるだけで終わらせるな。

 それは死者への冒涜に他ならないんじゃないのか」


 俺の言葉にドワーフ組はしばし言葉を失っていた。


読んでくれてありがとう。

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