572 督戦されても雑魚は雑魚
5万の軍勢を相手に射撃戦。
こちらの頭数からすると本来は絶望的な戦力差となるはずなのだが。
色々あって楽勝ムードが漂っている。
空戦支援機を使っているから敵がこちらに飛んで来ないというのは大きい。
こちらはメタルサーバントの武器で撃って撃って撃ちまくっている。
ただし、事前に射撃武器の威力には上限を指示している。
今後はもっとギリギリの状況もないとは言えないので、そのための訓練をかねている。
『撃てば当たるぜぇ~。
どぉこまでも~ってなもんだ』
黒猫3兄弟の長男ニャスケの声がスマホを通して聞こえてくる。
鼻歌交じりで緊張感がまるで感じられないのは感心しないのだが。
無理もない。
敵は数が多いくせに密集しているから撃てば当たるような状態なのだ。
その集団にはシーゴブリンしか居なかったけど。
どうやらシャークマンは督戦のために後方に下がっているらしい。
用心深いと言うよりは士気の低いシーゴブリンを文字通り督戦しているのだろう。
横に拡がって逃がさないように後方を陣取っている。
まあ、魔神の眷属はシャークマンの中から選ばれた者だけだ。
シーゴブリンはシャークマンが怖いから戦っているようなものである。
生涯、奴隷状態になるのは間違いない。
シャークマンに捕まった時点で奴らの運命は決まったようなものだ。
生憎と同情はしない。
習性がゴブリンそのものだからな。
ゴブリンの名称がつく時点でどういう存在であるか、考えるまでもないだろう。
外見はザ・魚人といった感じで陸のゴブリンとは別物なんだけど。
見た目で似ているのは背丈くらいか。
『兄者、そこは更に威力を絞って技術の向上を目指すべきじゃないのか?』
ツッコミを入れているのは3兄弟の次男、ニャンゾウである。
『それはさすがに無茶なんじゃないだろうか』
3兄弟の末っ子、ニャタロウが更にツッコミを被せる。
『これ以上の威力カットはシャークマンにダメージが入らなくなる』
『そこは、こうやってだな』
何が「こうやって」なのかがよく分からない。
が、3兄弟には通じるらしい。
あーだこーだと議論し始めてしまった。
付き合いきれないので、戦場の様子に注意を戻す。
小さい的だが撃てば当たる状態に、皆は些か高ぶっているようだ。
そのせいか狙いが雑になっている気がする。
基本的に頭を撃って倒すように指示を出しているが半数以上が違う結果を生んでいた。
それでも、ほぼ一撃でけりがつく。
シャークマンにダメージが入るように武器の威力設定をしているお陰もあるだろう。
逆を言えば、メタルサーバントサイズの武器でありながら消し飛ぶということがない。
せいぜいが首に命中したときに頭と体がサヨナラをする程度だ。
当たり所によってはグロ注意な状態だったりする。
あるいは血が派手に流れ出したり。
そんな状態の敵が次々と沈んでいく。
『ゴミ掃除ってレベルの話じゃないよな、これ』
海が汚染されないように自動人形を介して回収しているのだが。
血も含めて全てを回収しているので──
『もはや下水処理だわ』
こんな感想を持ってしまう訳だ。
『海を汚すわけにはいかないよなぁ』
5万近い雑魚の死骸を放置すれば、間違いなく汚染されただろう。
あるいはアンデッド化することも考えられる。
海でゾンビになるってのは正直なところ考えたくはない。
いや、陸地でもそうなんだが。
海だと腐肉が自分の周囲を漂ったりするだろ。
『匂いだけ伝わるよりヤバいよね』
お陰で心を無にはできなかった。
ざわつきそうになる心をどうにか落ち着かせる。
無にできないなら波立たせなければいい。
こういうときこそ座禅の修行で得たものが役に立つはず。
とにかく心を平坦にすることを意識する。
うねる波を緩やかに穏やかに。
その状態を維持しつつ機械的に回収作業を行う。
『こんな所で座禅の成果が出るとはねえ』
座禅は冗談半分で始めたんだけどな。
思ったより良さげだったので皆にも布教したんだが。
『まさか、俺自身が効果を明確に体感する日が来るとは』
思わず苦笑してしまう。
世の中、何が役立つか分からない。
色々と修行しておいて良かったと、つくづく思った。
そんな間にもパニックを起こしているシーゴブリンが散っていく。
『シューティングゲームでもこうはならないよな』
散り散りに逃走を図ろうとするシーゴブリンだが、そんなものは許さない。
こいつらの繁殖力はゴブリン並みだし。
異種族すら苗床感覚で繁殖に利用するからな。
そのあたりもゴブリンとそっくりだ。
当然、繁殖対象にはドルフィーネも含まれる。
実に業腹なことだ。
断じて許し難い。
『通り魔で性犯罪者だからな』
許せるはずがない。
『1匹たりとて逃しはしないぜ』
シャークマンの方へ逃げようとする奴は最優先で潰している。
『経験値はこちらに献上しろ』
シャークマンにくれてやるなど勿体ない。
こんな状態だからシーゴブリンからの反撃などは皆無であった。
最初こそ骨で作られたと思われる銛を投げつけてきたけれど。
そんなものは、まったく通用しなかったのは言うまでもない。
この時点でシーゴブリンどもの士気は下がりきっていた。
更には、こちらの攻撃であっと言う間に数を減らしていく。
かような場面を目の当たりにして恐慌を起こさないはずがない。
撃沈するだけの作業になっているうちの面々とは対照的だった。
『なんか作業プレイって感じだもんな』
慌てふためくシーゴブリンどもを見ているうちに皆の心はフラットになっていった。
こうなると動揺することもなければ興奮することもない。
督戦しているシャークマンたちはそうもいかなかったけれども。
どうにかシーゴブリンどもを戦わせようと威嚇していた。
それこそ必死な様子でね。
そのせいか連中がこちらに対してアクションを起こすことがなかった。
我々が海中にいれば、話はまた違ったのかもしれないが。
ちなみに俺は従来型の輸送機に乗っている。
俺だけなら理力魔法で浮いていれば良かったのだが、ヤエナミがいるからね。
エヴェさんも一緒だ。
3人だと広すぎる2階スペースで椅子に座って壁面モニターを見ている。
「ワンサイドゲームでんな」
「そりゃ向こうは空を飛べませんからね」
「それであの装備でっか」
「アレは半分趣味ですけど」
「異世界のアニメとかいう文化でっか」
「ええ」
さすがは亜神。
他の世界のことも知っているようだ。
「元ネタも分かってしまうのが怖いでんな」
「そんなに見てるんですか?」
「そりゃ、もう」
即答した割に苦笑している。
『どういうことだ?』
好きで見ていたのではないのだろうか。
俺が訝しんでいると──
「ロボットものから幼児向けまで散々見せられましてん」
「……………」
その口振りから犯人が分かってしまった。
決してエヴェさんが望んだ訳ではないことも。
「それこそ嫌っちゅうほど何回も」
更に苦笑の度合いを深くするエヴェさん。
「もうええ言うてるのに同じもんを見せられもしましてな」
「うわぁ……」
何と声を掛けたら良いのか分からない。
『人間だけじゃなく亜神相手でもやらかしちゃってるのか……』
安心のおちゃらけ亜神クオリティである。
エヴェさんには相哀れむ気持ちが芽生えてしまったさ。
「ラソル様ですね」
「そうですねん。
ラソルトーイ氏はわてらで色々試しよるんですわ」
諦観を感じる苦笑がそこにあった。
「あー」
思わず納得していた。
いや、無理やり納得させられたと言うべきかもしれない。
そして同志を得たような気がした。
『被害者友の会を結成したような気分だな』
そう思うだけでエヴェさんと固く握手していた。
自然とどちらからでもなく。
どうやら向こうも同じような心境だったようだ。
そんなやり取りをしている間にシーゴブリンは掃討されていた。
「残るはシャークマンでんな。
騎乗してるのもおるみたいでっけど」
「ええ、まあ」
ヤエナミの方を見るが、硬い表情をしているものの大きな感情の変化はないようだ。
メタルサーバントでの戦いを見るのは2回目だからというのはあるだろう。
『大丈夫そうだな』
そう判断して視線を戻した。
「えらい余裕でんな。
あいつら魔法使いまっせ」
エヴェさんの言葉通りシャークマンの魔法が海から飛び出してきた。
もっともオーソドックスな水魔法である水球だ。
雑魚に戦わせようとして失敗はしたものの負けたとは思っていないらしい。
連中の動きに苛立ちのようなものを感じる。
「大したことないですよ」
『ウォーターカッターくらい使えよな』
そうは思うが、難易度的に水球とさほど差はない。
与えるダメージの質が異なるだけだ。
水球が打撃ならウォーターカッターは斬撃である。
『当たらなければ、どうということはない』
今更、この程度の魔法で対抗できると思っているのが憐れですらあった。
客観的に見る分には壮観なものを感じるんだけどね。
飛んで来る数が数だけに。
敵の大半を占めていた雑魚を全て片付けたとはいえ未だ千の敵がいる。
そいつら全員が魔法使いなんだから、一斉に放てば迫力はあるだろう。
着弾前にすべて撃ち落とされていたけどね。
スゴークなんかはミサイルの全弾発射を披露してくれて面白かったよ。
こちらも対抗して水魔法でできたミサイルだったけど。
水球より小さかったが威力が違う。
着弾すると弾けるし。
そのお陰でミサイルが当たった水球は派手に散っていた。
『ミサイルのホーミングアクションは、やっぱいいよな。
命中後の弾け方も爆発してるって感じで素晴らしい』
妙なことで感動しているな、俺。
それはともかく終わらせないと。
「総員、近接戦闘へ移行せよ」
せっかく訓練したんだから実戦で使っておくべきだろう。
読んでくれてありがとう。




