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515 @純田朋克:呪い以外にもトラブルはある

修正しました。

道場で会ったら → 道場だったら

 説明会の当日。

 俺はリサと2人で街中を歩いていた。

 貸し会議室のある施設へ向かうためだ。

 自分の車で移動するつもりだったがダメになった。

 何故かって?

 タイヤ盗まれたんだよ。

 朝、起きてコンビニに牛乳を買いに行こうと外に出たら違和感を感じたんだよな。


『んー? いつもより車高が高いような』


 で、近くへ寄って見てみたら──


「タイヤがないぃ─────っ!」


 という訳。

 言っておくが4輪ともだぜ。

 ジャッキアップ用のポイント4個所すべてに煉瓦を積み上げた台を噛ませてあった。


『最初から全部盗む気だったのかよ!』


 とうの昔に逃走しているであろう犯人に内心でツッコミを入れていたさ。

 こうなると牛乳なんて買いに行ってる場合じゃない。

 まずはスマホで撮影。

 写真と動画の両方だ。

 リサと父ちゃんには写真の方をメールに添付して送信。

 顧問弁護士である爺ちゃん先生には先に写真を送って電話した上で動画の方も送った。

 その間に父ちゃんから電話が入ったけど──


「ヘイ、朋克くん!

 車、盗まれたんだって!?

 大変じゃないか、WAO!」


 朝っぱらからテンション高いね、父ちゃん。

 声優なんて昼夜逆転に近い商売してると朝は声が寝てる状態なんですがね。


『どこからツッコミ入れたらいいんだか……』


 声がウォーミングアップできてないせいで言いたいことが頭の中で積み上がっていく。


「車そのものじゃなくてタイヤです。

 ホイールごと4輪全部ですが」


 とりあえず訂正すべき事項は言っておいた。


「HAHAHA!

 小さい小さいねー」


 一瞬、理解できなかったが「細かい」と言いたかったらしい。

 細かくはない、大事だ。


「今の車に思い入れとかあるのかい?」


「いえ」


 小回りが利いて燃費のいいコンパクトカーですぜ。

 特に思い入れはないが必要充分なので不満もない。


「そんな縁起の悪いことがあるなら買い換えた方がいいよ。

 ついでだからセキュリティ万全の駐車場つきマンションに引っ越したらどうだい?」


 無茶苦茶なことを言っている。

 車の方は買い換えもやむなしなんだけどね。

 タイヤを盗むだけじゃなく変に弄ってあったからさ。


 それにしたってスーパーカーとか薦めてきそうだし。

 その上、家賃がどれ程になるかも見当がつかないようなマンションまでだもんな。


『あー、通ってくるリサのことを心配してるのか』


 お嬢様だもんな。

 そうなると引っ越しも少しは考えておかないといけないか。


 だが、予防線は必要だ。

 でないと先に用意されてしまうのがオチである。


「リサと相談します」


 これ以上の予防策はあるまい。


「おお、それはいいね」


 目論見通り、父ちゃんは引き下がってくれた。


『やれやれ……』


「ところで警察には通報したのかい?」


「はい、伊達先生にお願いする形になりましたが」


「それがいいだろうね。

 今日の説明会に支障が出るといけない」


 俺もそれを考慮して、じいちゃん先生に頼んだのだ。

 でなきゃ回りくどい真似はせず真っ先に通報しているさ。

 盗難の上に器物破損だしな。


「移動はどうするんだい」


「電車で行きます」


「良かったら、こちらで車を手配して送迎するよ」


『勘弁してくれー』


 重厚感たっぷりのリムジンで会場に乗り付けるとか、何処のセレブだよ。


『すでに片脚ツッコミかけてるけどさ』


 給料の予定額を聞いて卒倒するんじゃないかと思ったくらいだ。

 ビビって何も言えずにいたら少ないと勘違いされたけどな。

 直後に倍になりそうになったので全力で止めた。


『常識がぶっ壊れてるにも程があるだろ』


「いえ、本当に大丈夫です。

 電車の方が到着時刻を読みやすいので」


 適当な理由を付け加えておかないと押し切られる恐れもあるんだよな。

 この言い訳では納得させられるか微妙に感じたのでダメかもとは思ったのだけど。


「おー、そうだよね。

 日本の公共交通機関の正確さには狂気すら感じるよ」


『狂気って、アンタ……』


 納得してくれたみたいだから良かったけど。

 という訳で急遽、時間を調べて電車で移動したという次第。

 多目的施設まで徒歩で20分ほどである。

 駅前からリサと合流したんだが。


『すっごい注目されてたよな』


 ただでさえ金髪碧眼のリサは目立つ。

 面立ちは日本人に近いんだけどね。

 そんなのは側で見ないと分からないことだ。

 その上、リムジンから降りてきたのだ。

 ドアを開けるのはザ・執事って感じの爺さんだし。


『超目立つって、あんなの!』


 その状態で俺を見てリサが笑顔で駆け寄ってきた訳で。

 必然的に俺まで注目される訳だ。

 いや、リサよりもずっと注目されていたと思う。

 おそらく「何者!?」とか「どうしてこんな奴が!?」みたいなことを思われていたはず。


『憎悪に近い殺気まで感じたほどだもんな』


 これから普段とは異なる仕事で気合いが必要なときに気力を削られてしまった。

 リサが隣にいるので、それを表情に出す訳にはいかなかったが。

 彼女には気付かれていないようだ。

 仕事のスケジュールについて確認した後は普通に世間話をしていた。


「朋克さん、予定より随分と早いようですが」


「ついでだから昼食を向こうでと思ったんだよ」


「ああ、施設内にレストランがありましたね」


 そんな訳で2人でランチにしようと和気藹々と話していたのだが。


『変なのがいるな』


 俺たちをずっと尾行しているのがいる。

 勘違いなどということは断じてない。

 【気力制御】のスキルは伊達ではないのだ。


『尾行が下手くそすぎて気配が丸わかりなんですがね』


 こちらの様子を覗おうとしている時点で尾行は失敗していると言っていい。

 ゴシップ系の雑誌記者や興信所の人間であるなら失業ものである。

 そのどちらでもないのは明白であったが。


 雑誌記者ならば俺やリサをつけ回す理由がない。

 昨今は声優であってもスクープ記事になったりするようだがね。

 俺とリサは婚約しているし、これから変なことをしようとしている訳でもない。


 興信所にしたって同じである。

 父ちゃんを敵に回すような依頼人など、依頼する前に潰されている。

 仮に依頼を持ち込んでも興信所が断るだろう。

 よほど金に困った小規模な所ならありえるのかもだが。


 なんにせよ後ろに居る輩は、そういった類いの人種ではない。

 駅前から10分近く歩いているが、その間ずっと殺気を放っているからな。

 尾行することで少し控えめになってはいるものの俺には手に取るように分かるし。

 これだけ殺気を放っていれば、することはひとつだろう。


『そろそろか』


 駅周辺と違って人通りは少ない。

 これ以上、施設に近づけば逆に人が増えてくる。

 今日は特にイベントなどはないようだが、貸し会議室などの稼働率は高いのでね。


 後は車の往来か。

 そちらも目撃者という観点からは期待できない。

 道路が広いせいで、どの車もそれなりに速く通り過ぎていくからだ。

 歩道側のことをいちいち気にかけてなどいないだろう。

 歩道でのトラブルに気付いても「何だろう?」で終わるのは目に見えている。


 つまり目撃証言なんてものは、ほぼ得られない状況だった。


『普通ならね』


 その辺については俺がどうこう言うべきことではない。

 後はタイミングだろう。


『っと、その前に魔法だよな』


 リサを筒状の結界で覆っておく。

 干渉できるのは俺だけだ。


『これで一安心』


 仮にバスやトラックが突っ込んできても掠り傷ひとつ負うことはない。

 唯一、真上からは無防備になるのだけれど。

 それもしょうがない。

 魔法が使いづらいセールマールの世界で咄嗟に使った結界だからな。


『来る!』


 後方にいた輩が殺気を一気に膨らませた。

 直後にダッシュを始めるが──


『遅いな』


 気を引き締めたのにガッカリするほど遅い。

 俺はリサの腕を引いて背後に庇うような形を取った。


「え? 朋克さん?」


 リサは訳が分かっていないが安全確保できているので気にせず数歩ばかり前に出る。


「っ!?」


 気付かれているとは思っていなかった野郎が驚愕していた。

 それでも走り込んでくる勢いを止めない。

 すぐに憎悪の表情に変わったことからも殺意に支配されているのがよく分かる。


『そこまで恨まれるようなことしたっけ?』


 そう思う一方で今朝のタイヤ盗難事件が脳裏をかすめた。


『もしかして、コイツが犯人か?』


 断定はできないが、そんな気がした。

 そんなことを考えている間も相手は突っ込んできていたが。


「遅い」


 間合いに踏み込んでサバイバルナイフを手にした側の手首を取り。


「緩い」


 脇の甘さから楽々と腕を捻り上げ。


「脆い」


 飛び込んできた勢いを利用して地面に投げ落とした。

 これが畳敷きの道場だったら「ズバン!」と派手な音がしただろう。

 生憎と透水性舗装がされた歩道にそんなものは期待できない。

 クッション性など欠片もないため腰を打ち付けると大ダメージだ。


「ガハッ!」


 痛みで一瞬にして意識を手放してしまうくらいには。

 それと腰骨とか背骨が酷いことになっている。


『加減したつもりだったんだけどなぁ』


 【並列思考】を用いながら【システム】のスキルで検証してみた。

 相手の突進を少し止めておくべきだったようだ。

 今回のでデータは充分に得られたので次からはダメージを抑えられるだろう。


『次なんてあってほしくないけどさ』


 とりあえず魔法で死なない程度には回復させておく。

 でなきゃ救急車を呼んでも病院に到着するまでに死んでいただろう。

 過剰防衛とか言われたくないので仕方あるまい。

 現状だけでも面倒なことになっている。


『さて、どうしたものか』


 まずはリサのケアからだな。


読んでくれてありがとう。

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