488 決闘の決着は
すみません。
遅くなりました。
「今までと違うね」
ミズキがゴードンの動きの違いを指摘した。
「そりゃあ通用しない攻撃はやらなくなって当然っしょ」
マイカがそんなことを言っているが……
「読みが浅いよ」
からかい気味にそう言うとマイカが唇を尖らせた。
「なぁによぉう、どこが浅いのよ。
馬鹿のひとつ覚えのダッシュ&フックが通用しないからパターンを変えてるじゃない」
「それが浅いんだよ。
アイツら長年の知り合いだぞ」
「それは決闘を始める前の様子から何となく気付いてたけどさ」
「あっ」
「なによミズキ」
「決闘のルールも独自のものだよ」
「それも分かって……」
ミズキの指摘も分かっていると言いかけたマイカだが。
目を丸くして途中で止まってしまった。
「あ」
ようやく気付いたようだ。
「ローカルルールなんてできるくらいだから何度もやり合ってる」
「そういうことだ。
つまり、互いの手の内は知り尽くしてる」
「そっかー」
室内訓練場の天井を仰ぎ見るようにして「短絡的すぎたぁ」とか言っている。
反省できるなら十分だ。
この先の伸び代はきっとある。
とりあえず目の前に生の参考書があるのだ。
「今回に限っては初披露の受け方だったみたいだがな。
恐らく今まではまともには受けないような防御の仕方だったんだろう。
一瞬だが、髭爺が呆気にとられてたし。
ゴードンが耐えきった後は表情を読まれないようにしてたけど」
ちゃんと学習するように誘導したつもりだったのだが……
「それで魔法の爺さんが動かなかったのか」
トモさんが先に反応していた。
「相手の出方が読み切れずに考え込んでしまったんだな。
結果として筋肉爺さんに回復する時間を与えてしまった、と」
そう言って、しきりに頷いている。
『自分で髭爺をしたたかだと評したものの引っかかりを感じていたんだな』
何の手も打ってなかったし。
疑念を抱くのも当然か。
そう感じていた者は他にも何人かいる。
マリアとかボルトとか。
同じレベルでもガンフォールやハマーは経験の差で見抜いていたようだ。
妖精組とかもね。
逆に疑念すら持っていなかったのはミズキとマイカの両名。
『……これから頑張ってもらおう』
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ピリピリとした緊張感が高まっていた。
「こぉいうのはぁどおだぁっ!」
うんと沈み込んだ体勢で床すれすれから左の拳を繰り出すゴードン。
そこから伸び上がるようにして拳を突き上げていく。
変則のアッパーカットだ。
「防御も何もあったもんじゃありませんね」
呆れ気味にレオーネが呟いた。
「だが、そういう思い切りの良さが時として突破口を開くことがある」
2人を見据えたままのルーリアがそんなことを言った。
風壁が消えているからこその発言だ。
エアスマッシュを放つために解除してそのままだったのだ。
「どんな状況にも対処できるようにしていたつもりなんだろうがな」
それが意表を突くような攻撃で反応が遅れると──
「ゴッ!」
鈍く重い音がした。
明らかに今までの風壁で受けていたときとは違う音。
「「「「「ヒットした!」」」」」
護衛たちがそう叫んでしまったのも無理はない。
しかしながらアッパーは髭爺には直撃していなかった。
「ワンドに当たったか」
トモさんが言うように髭爺が手にしたワンドに拳が命中していた。
「いや、髭爺が当たるように動かしていたよ」
その意味合いは大きく違ってくるので訂正しておく。
「あのワンドは運動エネルギーを吸収して魔力に変換するみたいだな」
「うえっ、反則ものだろぉ……」
トモさんがしかめっ面になっている。
それもそのはずで、伸び上がろうとするゴードンの動きが完全に止まっていた。
止められていたと言うべきか。
伸び上がるようなアッパーの勢いは完全に殺されていた。
「「「「「うおっ!?」」」」」
護衛連中がここで驚きの声を発した。
「当たってなかっただと!?」
「短杖なんかで受け止めるかよ……」
「どうなってんだ!?」
「あの短杖って盾代わりなのかよ!?」
ある意味、正解だ。
「無茶言うなよ。
あんなので止められる訳ねえって」
あれがタダの杖ならね。
そこには気付かないようだ。
「でも、止めてるぜ」
「魔法で何かやってんじゃねえのか」
「風魔法って見えねえからなぁ」
「でもよぉ、いくら風魔法でも至近距離の相手を止められるか?」
「できるんだろうよ。
でなきゃ、どうやって止めるんだよ」
ワンドの機能とまでは思わないようだ。
普通の木にしか見えないから、それも当然なんだが。
「こぉんのおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
ゴードンがいかに吠えようが己が拳を振り切ることができない。
「これだから脳筋は……」
溜め息交じりにマイカが言った。
が、ゴードンの目は頭に血が上った者のそれではない。
虎視眈々と獲物を狙う獣のそれであった。
「おいおい、さっき読みが浅いと言ったばかりだぞ」
「えっ!? あれってわざとなの?」
『まったく……』
ゴードンと面識がないから見た目だけで脳筋という先入観ができてしまっている。
そういう傾向がないとは言わないが、何もかもがそっち側でもない。
何でも力任せなんて人間にギルドマスターは任せられないからな。
「決まってるだろ。
曲がり形にもギルドマスターだぞ」
「そうなのよ。
信じたくないけど……」
「それを言うなら髭爺の方が信じたくねえよ」
「アハハ、言えてる。
なんか無責任そうに見えるもんね。
子供っぽいっていうかさ」
それは否定しようのない一面である。
別の側面を持っているから責任者でいられるのだが。
「でも、わざとかどうかなんて見抜けるものなの?」
「あるさ」
「えっ」
俺が断言したのがそんなに意外だろうか。
こういう勝負事の時には芝居でなかなか誤魔化せないものがあるのだが。
「目を見てみろよ」
「……あ」
マイカがゴードンの瞳の輝きに気が付いたときには次が始まっていた。
ワンドに拳を押し当てたままの体勢から次のモーションに入る。
「「「「「なっ……」」」」」
護衛たちには意外な手であったらしい。
単純に考えれば、攻撃を止められて体勢を崩しているしな。
距離を取るべきだと考えていても不思議ではない。
先程のエアスマッシュをカウンターでかまされたらなんて思っているかもね。
「ぬぅん!」
『いちいち煩いな。
黙ってパンチは打てないのかよ』
うるさいのはともかくとして右ストレートだ。
それも今までの出来損ないのフックからすると無駄のないシャープなパンチだった。
パンチスピードも軌道も違う。
実力が拮抗している者同士には有効な手だ。
フックに目を慣らされた状態でこれを躱すのは、なかなか難しい。
「右で!?」
「これが本命!?」
ほぼ同時にミズキとマイカが驚きの声を漏らしたのだが。
ゴードンの拳は空を切る。
「「「「「外した!」」」」」
護衛たちが一斉に叫んでいた。
無理な姿勢から放ったが故に髭爺の左頬をかすめるように拳が突き抜けたのだ。
護衛たちはそう思ったのだろう。
ミズキとマイカも恐らくは同じはず。
『だが、これはフェイクだ』
顔の横を通り抜けた拳は開かれていた。
ゴードンはこの瞬間を待っていたとばかりに不敵な笑みを浮かべている。
「もらった!」
ローブの襟首を掴む。
そしてそのまま右手を引く。
ただしパンチを引き戻すときのような動作ではない。
体を捻りつつだ。
「「「「「なにぃ!」」」」」
『そんなに意外かよ』
パンチだけが攻撃手段じゃないだろうに。
それは投げ技であった。
生憎と柔道は詳しくないので何という技なのかは知らない。
だが、無理な姿勢だったのを逆に利用していた。
相手より低い姿勢も崩しやすいバランスも投げのモーションに織り込んでいる。
滞空時間は短いが確実に投げ落とす。
「ボフン!」
落ちた瞬間、鈍く奇妙な音がした。
それきり両者は動かない。
「どうなった」
「分かんねえ」
「どうして動かないんだ?」
「わからん」
「これで決まったのか」
「どっちが勝った?」
護衛たちが混乱している。
『確かに決着はついたが、こういう結果になるとはな』
ガブローが駆け寄って覗き込み様子を確認する。
おもむろに顔を上げ──
「両者、戦闘不能!」
結果を告げた。
読んでくれてありがとう。




