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489 結果を振り返ってみる

修正しました。

疲労 → 披露


 結末は呆気ないものだった。

 ダブルノックアウト。

 しかもゴードンの投げ技でもたらされた結果である。

 攻撃のために防御を捨てたが故に反撃をくらった。

 それだけである。


 だが、密着した間合いでの攻防は並みの冒険者に見切れるものではない。

 現に護衛たちは2人が動きを止めた時点で何があったのか理解できていなかった。

 混乱するのも無理からぬことだったのだ。


 一方で、うちの面子は全員が投げに入った後の攻防を見切っていた。

 投げに入るまでのプロセスに意表を突かれた誰かさんもいたけどね。


「どっちも詰めが甘かったニャ」


 ミーニャさんの試合後の感想である。


「筋肉爺さんは投げに意識を集中しすぎだったね」


 ゴードンを総評するのはルーシーだ。

 そのまま髭爺の評価を始めるのだが……


「子供爺さんは落下ダメージを殺すのに気を取られすぎだったよ」


『子供爺さん!?』


「「「「「ブフッ」」」」」


 奇妙なあだ名の付け方に、ほぼ全員が吹き出した。


「あれぇ?」


 皆が吹き出したのを見て首を傾げるシェリーさんである。


『スゲえネーミングだな』


 俺の髭爺なんかより遥かにインパクトがある。

 おまけに的確すぎて否定しようがない。

 まあ、本人にそれを披露することはないだろうが。

 言ったが最後、絶対に一悶着ある。

 マイカが「クックック」と喉を鳴らして笑った。


「子供爺さんとは面白いわね」


「そーかなぁ?」


 ネーミングした本人は普通だと思っているようだ。

 子供らしい素直な感覚ってやつなんだろう。


「それなら子供ギルド長もいいんじゃないかしら」


 これはミズキ。


「それってなんかアレみたいで懐かしいなぁ」


 トモさんまで参加してくる。


「あっ、車のCMに出てた店長のやつでしょ」


「そうそう」


 なんか3人で盛り上がってますよ。

 フェルトが何か寂しそうだ。

 ネタが分からないせいでションボリしている。


『俺がフォローするのかよ』


 しょうがないので過去のCM動画を引っ張り出してきて見せたけどね。

 そういう事じゃないんだよなぁ。


「エルスさぁん」


 トモさんに向かって話し掛ける。

 ちょっと嫌みっぽく聞こえるようにね。

 ギョッとした表情でトモさんはこちらを向く。

 だが、俺の方は無表情。


 トモさんがアタフタし始めた。

 俺の表情を見てなのか。

 それとも俺の呼び方が気になったからなのか。

 あるいは両方か。

 いずれであるかは分からないがね。


「エ、エルスさん!?」


 こちらの世界ルベルスにおける自分の名前であることは、ちゃんと理解しているようだ。

 苗字で呼ばれたことに困惑しているのは間違いない。

 そして「ヤベえ」って表情になっている。

 俺も怒っている訳じゃないんだが、そういう風に見えたかもね。


「自分の女房をほったらかしで盛り上がるのはどうかと思うんですがねぇ」


 俺に注意されてペコペコ頭を下げている。

 もちろんフェルトに向けてだ。

 フォローするなら俺がこれ以上口出す必要もないだろう。

 そんな風に思っていたらミズキとマイカが俺の前に出てきた。


「えーっと、スマヌ」


 最敬礼の形で頭を下げてくるマイカ。


「ごめんなさい」


 ミズキもマイカと同様に俺に対して謝ってきた。


「いや、俺に謝られてもな。

 そもそも2人を咎めるつもりはないんだが」


「えっ、でもさぁ……」


「私達が日本の話題を出した責任はあるだろうし」


 ここで責任はないと主張しても受け入れそうにない。


「だったら謝る相手を間違えてるだろ」


 俺がそう言うと2人はフェルトに謝りに行った。

 律儀なことだとは思うが、これで皆の関係が円滑になるなら良いことだと思う。

 そこからは話が決闘の結末に戻った。


「「落下ダメージを殺したのは風魔法だよね」」


 ハッピーとチーが話を引き継いだ。

 だから、あの変な音がしたのだ。


「まるでエアバッグみたいだったわね」


 レイナの言葉に「なるほど」と思った。


「威力を調節したエアスマッシュやけどな」


 アニスが補足説明した。

 そう、髭爺が使ったのはエアスマッシュ。

 風壁ではなかったのだ。


『使わなかったのではなく使えなかったと言うべきだがな』


 風壁なら普通に使うだけで威力調節も必要なかっただろう。

 落下ダメージだけなら確実に殺せたはずだ。

 だが、床に投げ出された後が無防備になる。

 風壁を使った場合はゴードンをも覆っていたはずだからな。

 密着状態での投げであったが故に。

 風壁がいかなる状態でも他者を弾き飛ばす術式であったなら話は違ったはず。

 その状態が約束されていたなら髭爺は迷わず風壁を使っていただろう。


『そんな都合良く風壁が使えるもんじゃないよな。

 それができていたなら、この決闘の勝者になれたさ』


 生憎と放出型の魔法の術式はそこまで融通が利かないのだが。

 もし風壁を使っていたならゴードンが勝っていた。

 落下ダメージはゼロにできても後が続かないからな。

 風壁の内側は台風の目の中に居るのに近い状態である。

 風壁の影響を受けないのだ。

 たとえゴードンが殴りかかっても防ぐ手立ては無いに等しい。


 ワンドがある?


『確かにアレで受けることができれば防ぐことはできるな』


 だが、それが届かないように組み付かれれば終わりだ。

 例えばマウントポジションとか。

 あるいは柔道なんかの寝技とか。

 ゴードンがどんな組み付き方をするかは不明だ。

 それでも髭爺が一方的に殴られる展開になる。

 多少の抵抗は見せたとしても焼け石に水だ。


『タコ殴りにされるのが目に見えてるぜ』


 魔法専門職が近接戦闘専門の人間に勝てる訳はないのである。

 極端なレベル差があればあるいは覆せるかもしれない。

 しかしながら、この両名のレベルは拮抗している。

 ゴードンに掴まれた時点で、できることは限られてしまっていたのだ。


『掴んだ瞬間には投げに移行していたからな』


 投げられる前に反撃するのはベテラン冒険者でも無理だろう。

 レベル3桁に到達した者でもないとね。

 その場合は掴まれる前に勝負がついている。

 遊ぶつもりがなければ最初の一撃でカウンターを入れて終わり。

 故に参考にはならない。


『手本を見せるつもりもないけどな』


 結局、髭爺は受けを選択しつつも反撃せざるを得なかった訳だ。

 前後にエアスマッシュを放つので精一杯。

 特に背中側の威力調整に気を遣いすぎたようだ。

 投げのダメージを重く見ていたのだろう。


『決して間違いじゃないんだけどな』


 己と相手の体重が乗った状態で堅い床に叩き付けられれば、かなりのダメージになる。

 それなら立った状態でパンチをもらった方がマシだ。

 衝撃を逃すことができるからな。

 それを髭爺は経験か知識で知っていたようだ。


 結果として落下ダメージは防げたが誤算があった。

 ゴードンの狙いが投げそのものではなかったのである。

 投げ落とした直後に己の体を落とし込んでの体当たり。

 それが決まるのと髭爺のエアスマッシュがほぼ同時に発動。

 ゴードンは防御を無視していたために直撃を受けた。

 直撃と言っても体当たり攻撃中だったので多少はズレたけどな。

 おかげで内臓破裂はまぬがれたと言える。


『お互い様だがな』


 エアスマッシュの命中により体当たりの狙いも少しズレていたから。

 ゴードンの狙い通りになっていたら、やはり内臓破裂していた。


『ほぼ同じ痛み分け状態とはね』


 あのままだと損をするのはガブローだ。

 目を覚ましても会談なんてする余裕があるとは思えんし。

 こちらの方を見てアイコンタクトで確認を取ってきた。

 治癒魔法を使って良いかということだ。

 頷いて了承しておく。

 後は何もしない。

 無責任?


『別に俺が冒険者ギルドを運営する訳じゃないからなぁ』


 それはガブローも一緒だが、なぜか熱心に勉強したがっていたからね。

 やりたいと意気込む者にやめろとは言えないさ。

 色々と経験を積んでおきたいのだろう。

 ガンフォールのようになりたいらしいからな。


 そういう訳で俺たちは訓練場から引き上げた。

 その後どうなったかというと一騒動があったようだ。

 ドワーフが治癒魔法を使えば騒がれて当然なんだけどな。

 治療される爺たち以外の部外者が護衛たちだけだったのが不幸中の幸いである。

 騒ぎもすぐに下火になった。

 目を覚ましたゴードンに一喝されたそうだ。


『血が有り余ってるんだな、きっと』


 現代日本で献血に協力してほしいぐらいだ。

 両者ともそのままガブローとの会談に雪崩れ込んだという。

 そして飯まで食って去って行ったと。


「タダ飯を遠慮せずに食っていったそうだ」


「なかなかやるじゃん」


 ヒューっと口笛付きでそんなことを言うマイカ。


「タダほど高いものはないって言葉を知らないのね」


 ミズキさんはゴードンたちの印象が悪くなったようで。


「別にミズキの作った御飯じゃないだろうに。

 ガブローの奢りだから、いいんじゃないか?」


「そこは構わないんだけど。

 遠慮せずにっていうのがね」


「要するに図々しいと」


「うん」


 俺も人の奢りで飯を食うときは慎みを持った方がいいかもな。


読んでくれてありがとう。

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