445 ハルト噂に振り回される
修正しました。
由良 → 由来
犯則 → 反則
隠れ里を解放してなんやかやと話してようやく試験を始められることとなった。
『すんごい疲れたんですけど……』
肉体的な疲労感は皆無だが脱力感はあるし気力も相当削がれた気がする。
若い女性たちに土下座をさせたという状況がそうさせたと思うのだが。
しかも人前でだ。
トモさんには「ハルさんはSだねえ」なんて言われるし。
フェルトにたしなめられていたけどね。
否定しなかった時点で気付いてほしかったんだが。
俺がSだと自覚していることに。
頼むから俺が原因の夫婦喧嘩とかしないでくれよ。
気まずくなるからさ。
今回は喧嘩にはならなかったけど、何時そうなるか分からんからな。
『まったく、冷や冷やさせてくれるぜ』
それはともかく周囲の様子が変だ。
変というか思ったような騒動にならない。
俺が鬼畜野郎だと認識されるような状況なのに。
かといって周囲の反応が冷ややかになった訳でもない。
むしろ視線が生暖かい。
『どういうこと?』
理解不能というか謎である。
理由は周囲の冒険者たちの会話の中で判明した。
【聴力補正】のスキルを使って聞いた結果なんだけど。
誰だ? 盗み聞きとか言ってる奴は?
これは盗み聞きにあらず!
聞こえたのは、あくまで結果に過ぎないんだからね。
だから地獄耳と言ってくれたまえ。
それで聞こえた内容がどんなものだったかというと──
「昨日、賢者が悪徳商人を懲らしめたって話は本当だったみたいだな」
初っ端から爆弾発言だった。
『どういうことだっ手羽元』
……駄洒落に逃避している場合じゃないな。
「俺も聞いたぞ。
表向きは3兄弟が捕らえたとか」
「えー、岩石3兄弟も頑張ったらしいわよ」
『岩石って……』
ゴードンの養子たちは奇妙なあだ名をつけられているようだ。
長男のフェルゼンが岩ということらしい。
次男や三男とはまともに会話しなかったな。
それぞれシュタインとキーゼルという名前だった。
で、コイツらが石と小石ってことのようだ。
何を根拠にしているのかよく分からん。
俺なりに考えたが、こじつけにもならない。
盾と攻撃と遊撃の役割分担からかと思ったが「どの辺が?」ってなるし。
考えるのが面倒くさくなったのでパスした。
アイツらのあだ名の由来など、どうでもいいことだしな。
俺が頭を悩ませていた間も話は続く。
「それでも賢者の活躍には及ばないんだろ」
「そいつぁ言わずもがなってやつよぉ」
そこで冒険者たちが一斉にうんうんと頷く。
『……………』
ギャラリーの噂話が聞き捨てならないんですが。
俺のイメージが変な風に定着している気がするんだけど。
しかも昨日の出来事が俺が頼んだ形で伝わっていないのはどういうこと?
『あれはゴードンの養子たちの手柄ってことにするんじゃなかったのかよ』
どうやら情報をリークした奴がいるようだ。
人の口に戸は立てられないとは言うが余計なことしたのは誰だよ。
「それだけじゃないって知ってるか」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
「その商人が別口で借金の割り符を偽造してたって話」
「うわぁ、死刑確実じゃねえか」
「自業自得だよ」
冒険者たちの評価も死んで当然なんだな。
商人だけの認識ではなく一般常識ということか。
「もしかして……」
その集団では紅一点だった冒険者が顎に手をやり思案顔になった。
「何だよ、勿体振るなって」
「それも賢者が解決したの?」
「どうやらそうらしい」
周囲にいた冒険者たちが一斉に苦笑した。
「大活躍じゃねえか」
「さすが賢者サマ」
「悪党に慈悲など不要ってか」
「賢者に目をつけられたら逃げられないって本当だな」
『ちょっと待てぇい!
目をつけられたら逃げられないって何だぁ!?』
いつの間に、そんな恐ろしい話が拡がった?
しばらく街に来なかったら、それか。
いや、来ていてもこうなってたかもな。
噂が変に一人歩きしているというか。
『これ、もはや訂正不能だよな』
修正するだけでも著しく困難だ。
ここまで噂が成長しているってことは拡散具合も相当なものだ。
全てを修正するとか現実的じゃない。
下手に手を出すと余計に変な方向へ行ってしまいそうだし。
『放置するしかないとは……』
ガックリである。
苦笑されているのが不幸中の幸いというところか。
単に恐れられているのとは違うようだ。
ただし、理由は不明。
『正義の味方とか思われてるのか?』
だとしたら噂がどのように変遷していったのだろう。
『ないよな、いくら何でも正義の味方はない』
いずれにせよ第三者の評価というのは恐ろしいものだ。
何処でどんな風にねじ曲げられるか分かったものではない。
「しかも商人ギルドの会員が詐欺の被害者なんだとよ」
苦笑から一転して痛そうな表情になる一同。
『今度は何だよ!?』
いや、それよりも3姉妹が商人ギルドに登録してた方が気になる。
あの店の状態で登録するのは不自然に感じたからだ。
『ああ、でも彼女らが始めたんじゃないよな』
父親が会員だったのを引き継いだと考えれば違和感はない。
白豚に追い込まれなければ真っ当に食堂を続けられていた可能性は高いし。
少なくとも妨害されていなければ、あの味と値段で客足が遠のくとは考えにくい。
「それってヤバくね?」
「商人同士の詐欺なんて粛清ものじゃない」
「しかも割り符の偽造だ」
「何が何でも犯人を捕まえて処分しなけりゃならなかったはずだ」
「それを賢者に掻っさらわれたのか」
「ギルドの面子が丸つぶれなんてもんじゃねえな」
「そこは大丈夫みたいだぞ」
「「「「「なんでさ?」」」」」
「賢者って商人ギルドの金クラス会員なんだってよ」
「マジかよ!?」
「凄腕冒険者の上に商人ギルド幹部って……」
「反則だな」
「だが、それなら商人ギルドの面子もギリギリ保てるか」
「そうなるか」
「会員が捕まえて解決した形にはなってるもんな」
「だけど、大きな借りを作ったことにもなるわね」
「その程度じゃ済まないみたいだぜ」
「どういうことだよ?」
「あの賢者の手を患わせてしまったんだぞ。
それも最初から最後まで全部な」
「「「「「あっ」」」」」
気まずい沈黙が訪れた。
『俺の評価って……』
ますます訳が分からない。
気にするだけ無駄なような気がしてきた。
「そりゃあギルド長が自ら詫びにも来るよな」
一斉に頷かれる。
噂話を聞くだけの連中まで一緒になって。
『……………』
もう好きに言ってくれって言いたくなる。
「商人ギルドが蜂の巣をつついたような騒ぎになってるらしいぜ」
『知らねえよ』
向こうの都合なんて。
「賢者はよくキレねえな」
【ポーカーフェイス】スキルを使っているだけだ。
内心では結構キレてるよ。
さすがに八つ当たりするほどのレベルじゃないけどね。
「尻ぬぐいどころか全部だもんね」
まるで俺が狙ってそうしたかのような認識だ。
偶然の結果だと言っても信じないだろう。
「賢者を名乗るだけのことはあるってことだな」
「やっぱ悪党には容赦ねえけど面倒見がいいんだな」
「根無し草の流れ者をさらっと引き受けるくらいだぜ」
「何処のお人好しだよって思ったけどな」
「あの時も賢者が悪党を締め上げたんだろ?」
「そうだっけ?」
「あっと言う間に片付けたみたいだな」
ルーリアのことを言っているようだ。
正しくない情報が混ざっているけれど……
チンピラ冒険者どもを一撃で沈めたのはルーリアなんですがね。
まあ、ここで訂正しても意味がないか。
どうせ他所でも拡散してるし。
そんなことより面倒見がいいって誰のこと?
俺にはそんな自覚はないんですがね。
『まあ、いいや』
噂に振り回されて右往左往するのも面倒くさい。
誤解が誤解を呼んでの現状だということは、何となくだが分かった。
鬼畜野郎と思われてなさそうなのが分かっただけでも良しとしようか。
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「それでは模擬試合を始める」
ゴードンの宣言によって訓練場がワッとわき上がった。
さっそく賭が始まっている。
「賢者よ、最初は誰からだ」
審判を務めるゴードンが訓練場の中央から聞いてきた。
俺が順番を決めることになっているらしい。
面倒なので立候補してもらうことにした。
「最初に行きたい人ぉー」
「「「「「はーい!」」」」」
俺の呼びかけに、すかさず手が挙がる。
子供組はビシッと突き上げるように。
カーラは無言でスッと顔の横あたりに。
新婚さんは様子見のようだ。
フェルトが少し尻込みした様子を見せたのでトモさんも控えたのだろう。
出番が最後になったりしたら余計に緊張することになるからな。
「それじゃあジャンケンでトップバッターを決めよっか」
俺が言い終わるかどうかのタイミングで、さっそくジャンケンが始まる。
『気合いが入りすぎだ』
やり過ぎるなとは言ってあるけど不安は残る。
最悪、殺さなきゃ何とかするけどさ。
噂の方はどうしようもないからな。
読んでくれてありがとう。




