444 やっちまった感はハンパないのにレベルが上がる?
修正しました。
1043 → 1143
『ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!』
俺の頭の中で警報が鳴り響いている。
身の危険を感じるようなことではないが、とにかくヤバい!
食堂3姉妹の次女が口を開きかけたところで俺は形振り構わずに魔法を使った。
フルパワーではないが最速で効果を発揮するように。
本来なら順番に構築していく術式を個別に分割し並列で同時処理。
これにより熟練度が4割程度だった【魔導の神髄】が6割を超えた。
『20ポイントアップとかマジかよ……』
神級スキルでこれって凄まじいものがある。
しかも、それに引っ張られるような形で【多重思考】も10ポイントアップした。
最近は熟練度が半分程度の神級スキルとか伸び悩んでいたというのに、これである。
それだけ俺がやらかしたことが桁外れなことなのだろう。
現にレベルが2上がって1143になった。
『また、やっちまった』
この世界ルベルスに来て始めて魔法を使った時のことを思い出す。
『あのときも我を忘れて魔法を使ったんだよな』
結果は無茶苦茶なものだった。
家を作るのに本気になっただけでレベルが4桁超えたとか普通はあり得ない。
その反動で1年も眠り続けることになってしまったし。
今回はそれに匹敵するくらいのインパクトがある。
上がったレベルは2だが、現状でのプラス2は簡単に成し得るものではない。
現にHPのゲージが何%か減ったからな。
自動で回復中だけど。
レベルが低かった当時の俺が今回の魔法を使ったら、やはり眠りについていただろう。
ステータスが桁違いになっている今だからHPが減るだけで済んだのだ。
俺が行使した魔法はそこまで高度なものじゃない。
隠れ里の一種をつくっただけだからな。
あくまで魔法を構築したスピードが常識外れだったということだ。
『間に合った……』
次女の発言が俺を更なるトラブルに誘う結果になっていたらと思うと安堵するばかり。
周囲の風景に変わった所はない。
その場で作り出した変則的な隠れ里だからな。
それ故に見た目はあまり変わらない。
場所は冒険者ギルドの訓練場のままだしゴードンたちもいる。
ただし彩度が違う。
俺が隠れ里の内側としたもの以外は色が大きく抜け落ちていた。
建物も周囲の人々も。
原色のままなのは俺たちと食堂の姉妹だけ。
他はモノクロにまではなっていないが、その差は誰にでも分かる。
うちの面子は勿論すぐに気付いていた。
「ハル様の新魔法かニャ?」
真っ先に口を開いたのがミーニャ。
「みたいだねえ」
それに同意するシェリー。
「空間魔法かなぁ」
ルーシーが自分なりの推測を述べるとハッピーやチーがコクコクと頷く。
御覧のように子供組は平常運転だ。
見た目の変化が少ないから驚いたり面白がったりする要素はないのかもしれない。
俺が必死になった高速術式構築については見向きもしていない。
おそらく内心で「あ、速い」で終わらせたものと思われる。
『こんなものだよ』
些か寂しい気もしないではない。
だから純粋に驚いてくれると嬉しかったりする。
たとえ術式構築スピードに対するものでなくてもね。
それがフェルト。
「これは隠れ里!?」
自分たちで作ったことがあるだけに別物であっても分かってしまうようだ。
類似する特徴とかがあるのだろう。
「そんな……」
呆然一歩手前の状態で目を見開いている。
『あー、驚かせすぎた?』
この調子だと自分でも何を言っているのか理解していない気がする。
「陛下がたったお一人で……」
『もしもし、フェルトさんや。
陛下と呼ばないでくださいな』
ちらりと食堂の姉妹たちの方を見る。
完全に固まっているので聞かれていないだろう。
ギリギリセーフみたいなので今回の失敗については追及しないことにする。
まあ、女の子相手なのでお仕置きとなっても、そう酷いものにはしないけど。
正座3時間とかかな。
『それにしても……』
魔法が使えないであろう食堂の姉妹たちはしょうがないとして
俺たちの面子の中で常識人的な反応をしてくれるフェルトがこの状態だ。
誰かがフォローしなければ帰ってくるのは何時になることやら。
ハンパなくやり過ぎてしまったのは、ここでも証明されてしまったようである。
やはり自宅をつくってみたときと同じくらいの認識でいた方が良さそうだ。
じゃなくて……
トモさんの方を見た。
「おおっ、スゲー」
なにやら感動している様子である。
「宇宙警視とかの鏡面空間っぽい」
感想は元日本人を感じさせるものだけど。
ずいぶんと懐かしいネタを引っ張ってきたものだ。
まだ両親が健在だった頃の特撮番組だった。
あれには俺も夢中になった覚えがある。
じゃなくて!
『おーい、トモさんや』
念話で呼びかける。
『おや、ハルさん』
すぐに気付いてくれたのはいいんだよ。
念話で返してくれたのもね。
暖気に返事している場合じゃないっての。
俺の呼びかけ方が軽すぎたのが悪かったのか。
だとしても、もうちょっと周囲の状況に敏感になってくれー。
『おやハルさん、じゃねーだろ』
小さなジェスチャーで嫁を指差す。
『おおっと、これはいけない』
ようやく気付いてフォローに回ってくれた。
『……それは、いいんだけどさ』
人前でイチャイチャするの止めてくんない?
まあ、いいや。
放っておこう。
急がんとドンドン時間を浪費してしまう。
この隠れ里は外界よりも時間の流れが著しく速いからな。
中の人間はそれに合わせた速さで行動できるけど。
外の人間がそれを知覚できたなら、超高速で動いたり会話しているはずだ。
もっとも、知覚することなんてできやしないからね。
でなきゃ隠れ里の意味がない。
何のために、こんなものを作ったのか。
食堂姉妹の次女の口を封じるためである。
この部分だけを聞かされたりすると物騒なシーンを思い浮かべてしまいそうだ。
もちろん、そんなことはない。
俺は俺の直感に従い次女の発言を周囲の人間に聞かせないことにした。
そうしないと俺の元に人が殺到していた恐れがある。
魔法を使う瞬間までは、そこまで考えが至らなかったけれど。
ここで部外者には聞かせられない話をして口止めをするつもりである。
こんな突拍子もない空間に連れ込まれたと言っても誰も信じないとは思うが。
何にせよ話をするための場所と時間は捻出した。
隠れ里から出てきた時には数秒経過している程度。
大事な話をしていたとは夢にも思われまい。
問題は気を失ったも同然の姉妹たちをどうやって会話の席に着かせるかだ。
意地でも振り向かせなきゃならんのだが難しそうだ。
子供組やトモさんたちが話し込んでいる状況でも戻ってこないからな。
どうしたものかと思った時、思い出したことがある。
『人間は匂いをかぐと脳が活性化するんだったか』
日本人だった頃にテレビの番組でやっていた。
何の番組だったかまでは覚えていないが。
『試す価値はあるか』
さっそく虫刺されのCMでお馴染みのツーンとする匂いを風魔法で送ってみる。
念のため少し薄めておく。
アレはもろに匂いをかぐと涙がボロボロ出てくるからな。
そよ風のような風量で送り込んでいると──
「「っ!?」」
2人そろって気付いたようだ。
長女も次女も真っ先に俺を見る。
匂いの送り主が俺だと気付いているようだ。
「何が言いたいのか、おおよその見当はつく」
次女に向けてそう言うとガバッという書き文字が似合いそうな勢いで頭を下げた。
ほぼ同時に長女も頭を下げている。
「「この度は本当にありがとうございました!」」
2人そろって大ボリューム。
これだけでも隠れ里に連れてきて正解だった。
元のままだと何をしでかしたのかと周囲のギャラリーに思われていたに違いない。
「店を守っていただいたばかりか妹まで助けていただき何とお礼を言ったらいいか……」
「妹が毒に犯されているなど私達でも気付きませんでした。
それを見抜いただけでなく治療までしていただけるなんて」
長女も次女も大袈裟である。
そして次女は爆弾発言だ。
「感謝など無用だ」
「「ですがっ」」
反論しようとする2人を手で制し、俺は話を続ける。
「その話が他人に知れ渡ると迷惑するんだよ」
毒の種類を症状から見分けるのは簡単ではないからだ。
しかも俺の場合は完全に治療まで済ませている。
この事実が知られれば我も我もと人が押し寄せてくるだろう。
薬師は弟子にしてくれと。
中毒症状が出ている者は治してほしいと。
姉妹にその辺りを説明すると俺が受ける被害については理解してもらえたようだ。
「俺は聖人君子じゃないんでな」
「で、では、どうして……」
長女が理由を問おうとするが最後までは言えないようだ。
聞くのが怖いのかもな。
タダほど高いものはないというのは日本以外でも同じらしい。
俺は何かを要求するつもりなんてないがね。
ただ、向こうは俺の心情なんて分からんだろう。
ビクビクするのもしょうがないということだ。
「値段以上の飯を食わせてもらった」
抜群に旨いという訳ではなかったが、それは言う必要がないだろう。
「後はメニューを使った暗号だな。
あれが気に入った。
苦しい状況の中でも何とか客を助けたいという心情の表れだろ?」
2人が呆然としている。
縦逆さ読みを見抜くとは思っていなかったのだろう。
「賢者は伊達じゃねえんだぜ」
ニヤリと笑ってドヤ顔でサムズアップ。
内心「決まった」とほくそ笑んでいたら2人に泣かれてしまった。
調子に乗りすぎたようだ。
向こうも色々と思うことがあるだろうしな。
とはいえ俺にできるのは彼女らが泣き止むのを待つだけ。
そしたら後は口止めを念押しして隠れ里の解放だな。
ようやく実技試験ができそうだ。
シャーリーの方は試験を見ながら話を聞いておけば充分だろう。
読んでくれてありがとう。




