443 どうしてここに居る?
遅くなりました。
すみません。
いま俺は猛烈に声を大にして言いたい。
「一体、俺が何をしたぁ─────っ!?」
声には出していないけど。
目の前の状況を見ると言いたくもなるぜ。
美女が3人で土下座してんだからな。
言っとくが、ここは冒険者ギルドの訓練場だぞ。
俺の仲間が試験を受けるってことでギャラリーも多いってのに何だよそれ。
目立つのも多少なら許容することにしたけど、これはない。
先頭にいるのは顔見知り。
商人ギルドのギルド長シャーリー・ヨハンソンである。
紫の長髪が背中を覆っているせいで余計に目立っている気がする。
ギルド長としちゃあ若すぎるが、お姉さんと言うには微妙な年頃の……お姉さんだ。
日本人だったら厄年が云々と言われていたことだろう。
彼女の後ろに控えるように並んで土下座している相手は赤の他人である。
他人だが知らない相手じゃない。
正体は昨日行った食堂を切り盛りする3姉妹の長女と次女。
面識があるのは長女だけなのに次女もいる。
長女にしたって俺の顔なんて覚えてないだろうに。
『どうしてここにいる!?』
そう思うのも無理ないよな。
食堂でのトラブルでは終わった後も彼女らに会わずに出てきたのに。
それとシャーリーがここにいるのも解せない。
いるだけならともかく土下座をする理由がないだろうに。
思わず「何故だ!?」と言いたくなったぞ。
言ったらトモさんが「坊やだからさ」とか言ったかもしれないがな。
あの方の真似をしながらね。
期待はしていない。
いや、少しだけ嘘だ。
聞きたくない訳ではない。
だとしても俺は悲しみを怒りに変えろとかは言わないぞ。
そもそも悲しむような状況じゃない。
訳が分からず困惑するばかりだ。
考えたら彼女ら姉妹の前で原因たる存在が土下座しているじゃないか。
理由がサッパリ不明だから断言はできないけれど。
それでも彼女が連れて来た以上はそういうことなんだろう。
何がどう繋がってこういうことになったというのか。
『あー、イライラする!』
そうでなくても俺らが注目を集めていたのだ。
このブリーズの街でいつの間にか有名になっていたから、それは許容することにした。
駄々をこねても状況は覆せないしな。
だが、現状は想定以上に騒がしくなってきている。
言うまでもなく3人の……若い女による土下座タイムのせいだ。
「賢者ハルト、どうにかしろ」
ゴードンが苦情を入れてきた。
そう言ってくるのも無理はない。
とてもじゃないが周囲が騒がしくて模擬戦を始められるような状態じゃないからな。
そのせいか賢者のあたりを嫌みっぽく強調してきやがる。
俺だって知らねえよ。
ここまでの流れで何の説明もなされてないんだからな。
最初は訓練場に3人が駆け込んできたんだよ。
その瞬間に注目を集めていた。
商人ギルドのギルド長もそれなりに有名人だからな。
冒険者の何人かは姉妹の方も知っているようだったし。
何にせよ模擬戦の依頼を受けた連中に注意事項を説明していたゴードンまで振り向いていた。
そんな中で俺を見つけたシャーリーが目の前に飛び込んできたから大変だ。
俺たちまで注目の的である。
いきなり何の説明もなく土下座して「申し訳ありませんでした!」とか言われてもな。
これで、どう事情を察しろと?
訳が分からんし何の冗談かと思ってしまう。
ゴードンは俺が何か事情を知っていると踏んでいるようだが。
「どうにかしろって?
俺は何もしてないんだぞ」
「そんな訳なかろう」
「知るかっ!
シャーリーに聞け」
言い合いになって互いに睨み合う。
『あー、もうっ!
冗談じゃねえぞ!
なんでこんなにトラブル続きなんだよ!?』
ここでツバキが半歩前に出た。
「商人ギルド長よ」
それはシャーリーに呼びかけただけの言葉であった。
だが、その一言が俺の心に冷水を浴びせかけてくれたのだと思う。
俺の中で熱くなっていたものが少しだがトーンダウンできた。
『いかん』
完全に冷静さを失っていたもんな。
ブチ切れて我を忘れるほどじゃなかったがね。
『まだまだ修行が足りんな』
こればっかりは賢者としての知識など役に立たない。
人生経験がものを言うはずだ。
元ぼっちの俺としては、そういう部分が弱いのは認めざるを得ない。
『認めたくないものだな。
俺自身の若さ故の未熟さというものを』
ダメだ、ネタに逃避してどうする。
動揺しまくってるな。
少しツバキのお手並み拝見といこう。
ツバキの呼びかけに恐る恐るといった感じで面を上げるシャーリー。
なんか小刻みに震えているんだけど?
「このたびは先生に多大な御迷惑をおかけしました」
思わず首を捻ってしまう。
『多大な迷惑って何だよ?
俺はそんなの知らねえよ!』
もはや人前で先生と呼ばれたことなどどうでも良くなっていた。
向こうで勝手に盛り上がって、勝手に話を進めようとするし。
いや、話を停滞させていると言うべきか。
「いかような叱責でもお受けします」
そう言ってシャーリーは再び額を床にすりつけようとしていた。
「待たれよ」
ツバキがそれを止めた。
不安げな様子で見返してくるシャーリー。
実際不安なのだろう。
何を言われるか想定できていないようだし。
どんな叱責も受けるとは言ったものの、明確な覚悟があって言った訳ではないだろうし。
「何でしょうか?」
「叱責以前の問題だ」
「は?」
「我々はどのような迷惑をかけられた?」
「え?」
シャーリーは完全に意表を突かれたと言いたげな表情をしていた。
困惑と疑問。
何故そんなことを言われるのか。
その顔には「訳が分からない」と書かれている。
だが、それを言いたいのはこちらなのだ。
『とにかく説明しろ。
話はそれからだ』
「質問を変えよう。
ギルド長は何故に主の元に来た」
「それはお詫びをするために……
本来であれば副ギルド長も連れて来るべきなのですが……」
困惑しつつもシャレにならんことを言っている。
そこまでの迷惑をかけられた覚えは俺にはないのだが。
「何を詫びる?」
それが問題だ。
「ですから、ムハ・エコップの一件です」
白豚がらみかよ。
どうりで後ろに食堂の姉妹が控える訳だ。
彼女らは土下座したきり一度も面を上げてはいない。
ただただ必死に額を地面にこすりつけていた。
こちらはシャーリーを何とかしないと動かないだろう。
「あの男が何をした?
確かに犯罪行為に手を染めていたのは事実。
主が捕らえ衛兵に引き渡しもした。
だが、商人ギルドのトップ2名が詫びに来るような要素はないぞ」
「とんでもございません!」
シヅカの言葉を思わず否定したシャーリー。
だが、自分の声の大きさに驚いて固まってしまっていた。
『そこから先の言葉が重要なんだっての』
「どういう風にとんでもない?」
そうシヅカに問われ、ようやく我に返る。
「先生がエコップに危険薬物を使われたと聞きました」
「「「「「はあっ!?」」」」」
俺たち全員が呆気にとられてしまった。
『なんだ、誤解かよ』
ちょっとホッとしてしまう。
安堵しつつも気になるのは、どんな風に話が伝わったのかということだ。
「それは誤解だ。
使った連中を捕らえはしたがな。
使われたのは冒険者ギルド長の息子たちだぞ」
「え?」
誤解であることを理解するのに些か時間を要したシャーリーは狼狽え始めた。
「でっ、ですが……」
「衛兵隊長のケニーに聞かれるが良かろう。
他人の伝聞を聞くよりも確実だぞ。
それとも、まだ何かあると言われるか?」
「割り符のこともあります」
「それについても主は迷惑をかけられたとは思っておらぬが?」
「ですが罪を問い詰めたところ大勢の不逞の輩に襲われたと……」
「あんなものは主の手を患わせるほどのものでもない。
暴れた事実を作らせるために連中に暴れさせはしただけだ。
近隣には連中が派手に暴れたように思われたかもしれぬな」
俺がすまし顔で首肯すると、うちの面子全員が追随して頷いた。
「衛兵さんに聞きましたっ!」
『ん?』
ここで姉妹参戦である。
燃えるような赤毛が長い長女の方か。
この姉妹は背の高さや体型などの成長具合以外では見分けがつきにくい。
顔つきも髪の色も同じと言っていいほどだ。
この場にいない三女はより幼くは見えるがね。
「店の修繕費用として見舞金をいただいたと」
『ケニーめ……
律儀に説明しなくてもいいだろうに』
でも、そうしないと受け取らなかったのかもな。
「それは店を壊したからだ」
「ですが悪いのは彼等です。
それに賢者様には壊れた所を直していただいたと聞いております」
『必死だなぁ』
こういうの苦手なんだよね。
「それだけではありません!」
今度は次女だ。
なんか嫌な予感がするんだけど。
読んでくれてありがとう。




