446 模擬試合が始まる
今日も6時ジャスト間に合いませんでした。
すみません。
ジャンケンの結果、チワワなチーさんがトップバッターとなった。
人化していても元の姿が影響するのでチワワっぽい雰囲気が出ている。
薄幸感というか保護欲をそそる感じというか。
見た目は白皙の美幼女だ。
肌の白さに対して髪の色は黒。
緩やかにウエーブがかかったセミロングだ。
黒と白のツートンカラーのロングコートなチワワ妖精さんが人化するとこんな感じ。
そんなチーが訓練場の中央へ向かうと、響めきが発生した。
「子供だと!?」
当然の驚きだよな。
俺はそう思ったんだが──
「いやいや、賢者のとこの子供は侮れねえよ」
「ああ、エルフの嬢ちゃんも凄かった」
こういう反応が少なくなくて些か驚きだ。
「自信満々で送り込んできたんなら見た目で侮らん方が良さそうだな」
「今回はどこまで勉強させてもらえるかな」
「他にも試験を受ける面子が多いそうだぞ」
「そいつは期待できそうだ」
前の試験の時より目の肥えた奴が多いようだな。
それともノエルたちを送り込んだ時の影響が今になって効果を発揮しているのか。
だとすれば対戦相手にも期待していいのかね?
拡張現実でレベルを表示させているが、微妙なラインと言わざるを得ない。
レベルは50に達していない連中ばかりだからな。
これでも前の試験の時よりはマシなんだけど。
『自惚れた奴が混じっていませんように』
そういうのを相手にすると気を遣うからなぁ。
『保険をかけておくか』
俺は前に進み出たチーの側まで行く。
周囲がざわめいたが特別なことは何もしていない。
チーの側まで来ると俺は問いかけた。
「武器は何にする?」
小首を傾げて不思議そうな顔をするチー。
「ベアナックル?」
右拳を目線の高さに持ってきてアピール。
仕草は可愛いが、言ってる内容はバイオレンスだ。
相手を戦闘不能に追い込むのに素手で充分と言っているのだからな。
まあ、うちの面子以外で互角に戦える相手などいないのだけど。
「素手で戦うのは止めておけ。
相手が舐めてかかってくる恐れがある」
その場合はチーの方で加減しても相手が大ダメージを被りかねない。
加減しすぎるとダメージがろくに入らないし。
ギリギリだと相手の状態しだいで事故もあり得る。
「じゃあ掛け矢?」
「それはまたマニアックだな」
掛け矢は木造住宅を建てる時などに使われる大型の木槌だ。
ハンマーの代わりということなのだろう。
「ダメ?」
再び小首を傾げながら聞いてくる。
「いいぞ」
腰に下げたポーチから明らかにサイズが異なる物体を取り出した。
「「「「「おお─────っ!」」」」」
目立ってしまうが、これは解禁することにしたのでスルーしておく。
いちいち反応してたら神経が持たない。
掛け矢を手渡されたチーが俺から数歩離れて振り回し始める。
「おおっ!」
「マジか!?」
軽々と掛け矢を振り回すチーの姿を見てそこかしこで驚きの声が上がる。
「いやいや、見た目がゴツいだけだって」
ギャラリーの1人が周囲の驚きように呆れた様子を見せて自分の意見を述べた。
『まあ、その気持ちは分からんではないがな』
けれどもそれは現実から目をそらしていることに他ならない。
現に同意する者はいない。
「んな訳ねえだろ」
「そうだな」
「少なくとも木剣を弾くだけの強度がないと試合にならねえって」
今日のギャラリーはレベルが高くない割に、そこそこ質が高そうだ。
中には少々疑問を投げかけたいのもいるけれど。
そういうのはレベルが低めでレベルが30に達していない。
逆に目の肥えた連中は冒険者のボリュームゾーン上限のレベル30は確実に超えていた。
チーの対戦相手もそういうベテランの1人である。
ゴードンが苦労して選抜したのであろうことがうかがえる。
そのせいか前に来た時より腕の良さそうなのがゴロゴロいるな。
時間帯の問題とかもあるのだろう。
それでも待機している人数は充分とは言えない。
「今回は1対1で試験するのか」
「スマンが人がいない」
それは知っているので頷いておいた。
「うちを活動拠点にしている連中でも腕利きの奴ばかりを指名したんだがな」
「おいおい、指名依頼にしたのか?」
確かにその形を取れば指名した相手に依頼を強制することができるから人を集めやすい。
反面、依頼料は跳ね上がるはず。
俺が無理な注文をつけたために赤字覚悟で緊急手段を使ったのか?
だとしたら申し訳ないな。
赤字を補填する気はないけれど。
指名依頼にしてくれと頼んでのことなら話は別だったがね。
それだと俺が依頼主になる。
故に依頼料を全額支払う義務が発生していた。
今回のが指名依頼であったなら、依頼者は冒険者ギルドということになる。
ゴードンが個人的にということもないとは言わないが。
ただ、脳筋っぽい外見の割に策謀家なところがあるからな。
指名依頼にはせずに、それに近い結果を得るような手は使いそうだ。
「そこまでにはせんよ。
人もギリギリなら予算もギリギリだ。
そんなことができる余裕などない」
『あ、やっぱり』
ついでにゴードン個人の予算もギリギリなんだろう。
少なくとも指名依頼で大量に人を雇う余裕はないと見た。
「俺から話があるってことにして呼び止めはしたがな」
「ちゃっかりしてるな」
ギルド長が直にお願いした訳だ。
実質的な強制力はないが今後の関係性を考えれば断りづらい。
複数の活動拠点がある冒険者なら話は別だが。
あるいは昔のルーリアのように同じ所に留まらず旅を続けているような者とか。
いずれにせよ、そういうのは少数派である。
大抵は地元の連中だから断りづらいよな。
「そういう手ばかり使っていると嫌われるぞ」
「ハッハッハ、違いない」
俺の忠告も何処吹く風だな。
ツケの尻ぬぐいをこっちに回してきたりするなよ。
そういうこと平気でやるタイプだから油断ならねえし。
『そして悪びれない』
結構、図太いんだよな。
ムカついたので瞬間的に殺気を叩き込んでおく。
それと理解されることがないよう加減した程度のものだけどね。
「始めろよ」
結果を確認する前にゴードンに声を掛け、その場を離れる。
「お、おう」
若干だが動揺したような声で返事をするゴードン。
『少しは周囲の苦労も考えろよな』
ゴードンが使い物にならなくなっても困るので警告程度に止めておいた。
『いつか闇討ちにあいそうな気がするけどな』
並みの相手なら返り討ちにしそうだけど。
まあ、国民でもないジジイの心配をするだけ時間の無駄だな。
そんなことより模擬試合である。
対戦相手は槍使いのオッサンのようだ。
練習用の槍は木剣と同じように木の棒の先端に皮を巻き付けてある。
あと、石突きに相当する部分にもか。
掛け矢にそれをしても意味はないのでそのままだ。
そもそもハンマーを武器にするなら金属製にするさ。
「それじゃあ始めるぞ!」
ドスの利いた声でゴードンが宣言した。
槍使いのオッサンがゴードンに頷きを返す。
それを見たチーが真似をした。
「始めっ!!」
号令によって試合が開始された。
最初に動いたのはオッサンだ。
ただし距離を取るために飛び退ったのだが。
『舐められてはいないな』
待ちの姿勢に入ったのは武器の特性も考慮してのことだろう。
なんといってもリーチが違う。
向こうが使っている槍も短槍だから槍としては短い方だが掛け矢とは比べるべくもない。
無駄に振り回したりせずに静かに構えている。
『下段か』
リーチがあるから踏み込んできたら足払いをするつもりのようだ。
後は持久戦を想定して楽な構えをしているというのもある。
充分に警戒しているとは言えるのだろうが力量は読み切れていないな。
事前に注意事項として簡単に終わらせるなとは言ってなければ、すぐに終わっただろう。
試験をあっさり簡単に終わらせると評価しづらいからな。
やり過ぎ防止の意味合いもある。
一瞬で終わらせようとすると、どうしても力んでしまうことがあるからな。
レベル50に達していない相手にそれは致命的である。
『さて、初手はどうするかな』
先手を取るのはチーなのは間違いない。
待ちを選択した相手が、そこからすぐに動く訳はないからだ。
チーは早くダンジョンに行きたいと考えている。
だからか先に動くのはチーだ。
『行くか』
チーが無造作に数歩前に出た。
踏み込んだというよりは何も考えずに歩いたと言った方が適切な表現になるだろうか。
そんなだから掛け矢を構えておらず、片手で持ち運びしているようにしか見えない。
それを隙と見たのだろう。
槍使いは間合いに入ってきたチーに向けて突きを繰り出す。
選択としては決して間違いではないのだが……
「刺さった!?」
誰かが叫んだ。
『ハズレ』
角度によっては、そう見える際どい躱し方をしているだけだ。
「いや、紙一重で躱したんだ」
次々に繰り出される連続突き。
そのことごとくを歩法だけでさばいていく。
したがって上半身はブレない傾かない。
「お、おい、何かスゲえぞ」
「どうなってるんだ?」
「オッサンの槍が当たらねえ」
ギャラリーが次第にヒートアップしていく。
「当たらないんじゃない。
ことごとく躱されているんだ」
「マジかよ……」
「スゲえな、あの子供」
「賢者が連れて来た子供がただ者の訳ねえよ」
「そうだった!」
『もっと素直にチーを評価してくれよ!』
頑張っているのはチーなんだからさ。
俺を絡めた評価は不要だっての。
読んでくれてありがとう。




