427 実演と雑談
一気に国民が増えた。
種族も多彩な感じである。
人口比率で考えると他所の国では考えられない状態だ。
最も多いのがドワーフ系。
これだけでも普通じゃないんだが次に多いのがフェアリー系である。
しかも全員が上位種である。
ラミーナもエルフもヒューマンも千人単位でいるからね。
数の上では少ないが海エルフもいるし。
結果としてミズホ国の総人口が1万人を突破。
その内、ミズホシティは8千人ほど。
ジェダイトシティに残る者たちもいるのでね。
転送門を使って頻繁に行き来をする者も多いのでカウントは住民票によるものだ。
一気にこの人数が増えると1日や2日で登録の処理が終わらなかったさ。
申請はスマホからできるようにしたんだけどね。
窓口での本人確認を必須にしたから、どうしても時間がかかったのだ。
利便性とセキュリティは相反するものだからなぁ。
なんにせよ今の人口は日本ではちょっとした町規模だ。
村から町になるために基準となる人口は都道府県の条例によって異なるんだけどね。
確か5千人の所が多かったと思う。
ちなみに市へ昇格するには5万人規模にならないといけない。
あくまで日本の法律での話だけど。
目安というか目標にはしたいね。
できれば通過点であると、なお良しだ。
今なら、やってできないこともない気がする。
建国して丸2年でこの人口に到達したのでね。
『ずっと目覚めなかったから実質的には1年と少々だし』
初っ端にやった無茶の反動で人口がここまでになったのかなとか考えてみたり。
まるで関係ないとは言えないんだよな。
信じられないようなレベルアップをした結果、色々とやったからね。
3桁レベルの入り口程度だったなら様々な出会いもなかった。
そういう意味では全国民を上位種にしてしまった責任が俺にもあることになる。
『こじつけだろうけど責任を感じるんだよな』
己が進化したことを知って混乱した者も大勢いたから。
そうは言っても、具体的にどうこうするつもりもなかったりする。
妖精組を初めて見たときの方が衝撃は大きかったみたいだし。
学生服を着て出迎えられるとは思わなかったんだろう。
いや、服装は大した問題じゃないか。
生まれて初めて半妖精を目撃することのインパクトに比べたらな。
自分たちだって驚かれる存在だってことは棚に上げてしまうらしい。
なんにせよ、現在のミズホ国は西方では考えられないくらい人種の坩堝と化している。
東の果ての島国でなかったら戦争を吹っ掛ける国とか出てきたかもな。
いまは無きバーグラー王国が隣国だったなら確実に手を出してきたはずだ。
まあ、消えた国や存在しない隣国なんかを気にしても始まらない。
俺は俺のやりたいように国づくりを進めるだけだ。
新しい国民たちも頑張っている。
ほとんどが学校通いだけど。
レベル100未満は強制的に学生と決めたからだ。
世の中、物騒だからね。
亜竜くらいは単独で狩れるようになってねと言ったらドン引きされたけど。
忘れていたが西方の常識では亜竜は脅威なのだ。
間違っても雑魚ではない。
うちでは亜竜など首ポキで終わらせる相手でしかなくなっていたけれど。
ただ、それを証明するとなると言葉だけでは足りない。
仕方がないので授業の一環として実演用に大陸で亜竜を探してくることになった。
百聞は一見にしかずという訳だ。
翼竜程度ならすぐに釣れるのが大陸東部のいいところである。
何匹かを挑発して引っ掛かったので転送魔法で連れてきた。
国民を大陸に連れて行かなかったのは数が多すぎて面倒だったからだ。
後はミズホシティの防衛力を見せるという意味合いもあった。
結界に守られた状態を確認させるには丁度いい相手だったのでね。
上空から急降下で迫る翼竜を見て泡を食ってパニックを起こしかけていたけど。
そのあたりは事前の説明と全員にバフをかけることで回避。
結界の見えない壁に体当たりが繰り返されるたびに皆は落ち着きを取り戻していった。
そして子供組が首ポキで翼竜の瞬殺を披露。
呆気にとられる間があったかと思うと、万を超える国民が一斉にどよめいた。
「「「「「おおおぉぉぉぉぉ────────っ!!」」」」」
インパクトは絶大だったのだろう。
「凄い、凄いよ、ハルさん!!
あんなデカいのが小さな子たちの一撃で沈むなんて!」
興奮冷めやらぬ様子でトモさんが話し掛けてきたのも御愛嬌だろう。
「まあ、ワイバーンは竜の中でも最下級種だから雑魚なんだよ」
うちの基準ではという条件が伴うけどね。
「そうなの?」
傍らにいた新妻のフェルトに聞いているトモさん。
フェルトは必死の形相でブルブルと首を横に振っていた。
レベル81のフェルトでも翼竜とタイマンは厳しいだろうから無理もないか。
「西方だと追い払うのもやっとらしいけど」
困惑の表情を浮かべるトモさんに補足の説明を入れておく。
それだけで何かを察したようで達観した表情になった。
「あー、色々とやっちゃったんだ」
思わず「アハハ」と笑いが出てしまう。
「身内を守るには本人を鍛えるのが一番だからね」
「それで学校なのかい」
「そゆこと。
半分は趣味に走ったようなものだけど」
「確かにカリキュラムが凄いっすわ。
日本じゃ考えられないようなのがあるし」
「異世界だからね」
日本人にとってはだけど。
俺からすれば今は向こうが異世界だ。
「魔法とか魔道具の授業があるとか向こうで話しても信じてもらえないよ」
「異世界自体が信じてもらえないと思うけど」
「それは言えてるね。
俺が話すと意識不明の時の夢か単なる妄想だと思われるから」
「話したのかい」
すでにトモさんは何度か向こうへ行ってるから無いとは言い切れない。
ちなみに今はリハビリに励んでいる最中だそうだ。
本当はそんな必要ないんだけど、それだとあからさまに怪しいからね。
何ヶ月も昏睡していた人間が目覚めるなり健常者同然の動作をするのは普通じゃない。
そこはエリーゼ様の配慮で制限がついた。
まあ、普通では考えられないくらいの回復速度と言われたみたい。
ヒューマン+を基準にシミュレートしたからだろうね。
エリーゼ様のミスかと思って脳内スマホを使って問い合わせたくらいだってさ。
返事は『ヒューマン基準に変換して考えるのが面倒くさかったから』だそうだ。
丸投げしないだけマシと思うしかあるまい。
現場復帰のことを考えれば、時期が早まるのは良いことなんだけど。
そういう配慮があったとは思いたくないよな。
あの返事をもらった後だと。
ああ、そういやラジオ番組には電話で出演したって。
本格的な復帰を前に後輩の番組のゲストとしてインタビューを受けたようだ。
そんな中で、今回の一件について喋ったりしたのかもと思ったのだが。
「まさか!?」
即座に否定された。
「家族や永浦くんにだって言えないよ」
そこで女性の名前が出ないのはどうなんだろうね。
始めて向こうに移動する時には「親に孫の顔を見せないと」とか言ってたのに。
「あ、でも慶次とニャン太師匠には話したな」
飼い犬と飼い猫なら人間の言葉を話さないから問題ないと思ったようだけど。
「気を付けなよ。
壁に耳あり障子に目ありだからさ」
誰に聞かれているか分からんからね。
「あー、それね。
向こうでも気配が掴めるようになったから大丈夫」
どうやらこちらで習得したスキルは向こうでも習得しやすくなるようだ。
一応は向こうの体も進化してるもんな。
レベルは低いんだけど。
「いやー、重宝してるよ。
相手の呼吸とか間合いまで分かるんだからさ。
ゲーセンで格ゲーとかやっても無敗だもんね」
「何やってんだよ……」
「社会復帰の一環だよ。
リハビリに通うついでにね」
ものは言い様だ。
「苦手なレースゲームでも勝てるようになったよ。
学校の実習に比べたらリアリティが少なくて物足りなかったけど」
当然の結果だ。
うちの学校は乗り物の操縦もカリキュラムに組み込まれているからね。
それも操縦ができればいいレベルでは終わらないし。
ゲームじゃなくて本物のレースでも勝てるようにシミュレーターを使って教えている。
「思わずハンドルコントローラーまで買っちゃったよ」
「ブルジョワめ」
「ハッハッハ、確かに。
使うゲームは電脳フォーミュラだけだもんね」
「好きだよね」
トモさんはこれの原作アニメがお気に入りだ。
会話でちょいちょいネタを入れてくる。
拾ってもらえないことが多いけど。
「そう言うハルさんこそ」
否定はしない。
故に提案してみることにした。
「こっちで実車を作ろうか?」
「マジで!?」
腰を浮かせそうな勢いで聞いてくるが、元よりそのつもりだったし。
「エンジン車をそのまま作る訳にはいかんから側だけ似せる感じになるけど」
環境に負荷をかけるつもりはない。
「変形とかは魔道具として扱えばどうにでもなるし」
「夢のようだね」
「手始めにラジコンから作ろうか。
今度の魔道具実習でやってみよう」
「カリキュラムを変えてもいいのかい」
本当はやりたいんだろうけど遠慮がある様子。
自分だけが学校で授業を受けている訳じゃないと考えているようだ。
相変わらず真面目だよな。
「この間のダンジョン実習も予定を変更したじゃんか」
「ああ、アレは驚いたよ。
今日の授業はシミュレーターではなく実戦です、だもんな」
シミュレーターというのは実習専用のビルをダンジョンに見立てて模擬戦を行う代物だ。
スマホの網膜投影機能を利用しているために利点は多い。
何と言っても怪我をしないのは低レベルの者にはありがたいことだ。
失敗しても同じシチュエーションを繰り返せるし。
武装や防具も本物を使わないので万が一の事故も少ない。
魔法のフレンドリーファイアは完全には防げないが、これにも対策がされている。
簡単に仕組みを言えば、魔力を込めるほど吸収型の結界が強く発動する。
「うちの学校はできるなら先に進める方針だからね」
「でも、次の魔道具実習は違うよね」
なかなか鋭い。
「常に高みを目指せというのが、うちの方針だ。
でも、詰め込み教育じゃ意味がない。
皆に死んでほしくないからこその方針なんだよ」
虚を突かれたと言わんばかりに目を丸くしている。
「今日のアレもその一環ってことかい?
ワイバーンを実際に倒して見せて心理的なハードルを下げるみたいな」
本当に鋭い。
俺は静かに頷いた。
読んでくれてありがとう。




