428 つくってみた『可変戦闘車両』
修正しました。
食道 → 食堂
どうしてこうなった。
切っ掛けは朝食後の雑談だった。
この時点で食堂に残っていたのは男が俺、トモさん、ハリー、ジェダイト3人組。
女性陣は俺の妻たちと守護者組、トモさんの嫁フェルト、あとはリオンもいたな。
ここから1日の予定が狂うことになるとは夢にも思っていなかったさ。
最初は西方での移動の話だったんだよ。
長距離は輸送機で陸路では車という話になったのは流れとして普通だと思う。
フェルトは何も知らないし、トモさんだってうちの装備を把握していない。
結果として幻影魔法で説明したり縮小版のラジコンを使うことになった。
「ふわああぁぁぁ」
輸送機のラジコンが浮かんだ時のフェルトの第一声。
口なんて開きっぱなしだったからな。
トモさんは例のテーマソングをハミングしてた。
2人の反応に気をよくしたのが俺のミスだったのかもな。
調子に乗って車のラジコン用に山岳コースを用意して走らせたんだよ。
幻影魔法で車載カメラの映像を流しながらね。
予想以上に盛り上がったさ。
ハマーだけテンション駄々下がりになったけど。
まあ、何度も酷い目にあったからな。
「こんな小っさいラジコンで迫力あるわねー」
妙に感心しているマイカ。
「そだねー、豆腐屋のアニメっぽいかな。
ドリフトなんてラジコンでできるとは思わなかったよ」
ミズキも趣味は俺たちの側だからドリフトなんて単語が普通に出てくる。
「ハルさんのとこの奥さんは濃いねー」
トモさんにまで感心されてしまったよ。
「このくらいで濃いってことはないでしょ」
マイカがコメントすると、そこから好きな車のアニメの話になった。
フェルトがまるでついて行けないっていうのに。
古参組は割と動画で見ていたりするので、ある程度は理解できたんだけど。
しょうがないので俺が幻影魔法でダイジェスト映像を見せながら説明もした。
その間に濃い趣味をした人達は話をドンドン進めるし。
知らぬ間に話題はレースアニメの話になっていた。
最初はあんなのがあったとか、アレが好きだったとか。
そのうち至高の作品は何かという方向へと流れていった。
ここで止めておけば良かったんだよな。
今更だけどね。
「やっぱりさ、至高と言うからには電脳フォーミュラは外せない訳よ」
というのがトモさんの主張。
「サーキットを走るマシンが変形してオフロードにも対応するというのが素晴らしい。
そして高速形態でブーストを使っての迫力のバトル。
続編では2段ブーストや特殊コーナリングなんかの要素も追加されて圧巻だったよ」
理由なんかもスラスラと出てくる。
俺以上にこの作品を見ているな。
その熱意には気圧されるものがある。
まあ、俺も反対する理由はないので何も言わずにいた。
誰も対抗しないだろうと思っていたからなんだけど。
「いやいや、圧巻と言うならEGPXでしょう」
マイカが反論してきた。
しかも、あまりアニメを見ない人が知らないようなのを引っ張り出してきた。
「レース中に人型ロボットに変形するのよ。
そこで白熱のバトルを繰り広げる点においてEGPXに勝るものなし」
確かにあの作品はアニメならではの派手なバトルシーンだったな。
レース中にバトルするというアイデアも斬新だと思ったし。
スタートは人型じゃなかったっけ?
俺もよく覚えてないんだけど。
とにかく反論されると同意しない限り反論でかえすよな。
トモさんが選んだのは反論。
譲れないものがあるのだろう。
「ブーストと変形はロマンなんだって」
よく分かってらっしゃる。
「変形するからには人型でバトルでしょう」
それも捨てがたいのは認める。
レースものという縛りがなければ、車が人型に変形してバトルする作品は多い。
「高速形態が極限まで空気抵抗を減らしているからこそのレースだと思うのだが」
「血湧き肉躍るバトルがあってこそレースが盛り上がるんじゃない」
こんな具合に舌戦を加速させていったんだよな。
ここまでヒートアップすると止められない。
「サッパリ分かりません」
真っ先にギブアップしたのがフェルトなのは言うまでもない。
国民になったばかりで動画もほとんど見てないからね。
まあ、じきに細かな部分までアピールし始めて会話について行けない者が続出したけど。
それでも罵りあうことだけはなかったので助かった。
互いに自分の主張する作品の良さをアピールする方向へ突き進んだからだろう。
欠点を指摘しあう形だったら泥沼だったはず。
間違いなく怒号が飛び交うカオスな状況になっていたと思う。
互いにそうしないのは最後の一線を守っていたからではない。
相手の主張する作品のことも好きだからだ。
だから貶さない。
何が一番かというだけで、ここまで熱くなれるのだ。
悪いことではないんだが理解はされづらい。
「そろそろ止めた方がいいんじゃないかな」
ミズキが俺に言ってきた。
俺は頭を振る。
「その段階は過ぎた。
いま止めたら両方から集中砲火を浴びるぞ」
そう思うから俺は口出ししないのだ。
止めるなら初期の段階で止めておくべきだった。
もしくはクールダウンし始めてからだ。
見極めは難しい。
そんなことをするくらいなら自然鎮火するのを待った方がいいだろう。
現状は互いに何話であのキャラがとか細かなことを言い出している。
はっきり言って熱のこもった危険な状態だ。
『横槍なんて入れようものなら……』
考えるだけでも恐ろしい。
作品の良さを何時間も聞かされることになるに決まっている。
あと、逃げるに逃げられない。
移動しようとすれば捕まるだろう。
2人を止めるのと同じ結果が待っている。
それを本能的に察知したからこそミズキも「止めた方が」なんて言い出したのだ。
このままだと昼食どころか夕食の時間までトークバトルが終わりそうにない。
周囲の皆は「最悪だ……」という顔をしている。
これは俺に矛先が向いてくるだろうなぁ。
最終的には俺が生け贄にされる線が濃厚である。
『俺だけ犠牲者とかマジふざけんな』
どうにか解決策を捻り出さねばならなくなってしまったようだ。
進むも地獄なら戻るも地獄。
『やるしかない』
でも2人には立ち向かわない方向でだ。
俺は目立たないよう気配を薄めつつ倉の中での作業に没頭し始めた。
人はそれを現実逃避とも言う。
なにしろ見つかったら終わりなのだ。
それまでに双方の意見を満たしたブツを用意せねばならん。
条件はいくつもあるのでハードルは高い。
まず、車としてのフォルムの良さ。
空気抵抗を考慮せねばならない。
そして何パターンかに変形。
基本となるノーマル。
高速形態と人型は必須だ。
悪路への対応はノーマル形態の車高調整で行おう。
あまり変形パターンが多いとダサくなりやすいからな。
特に車の形状においてそうなるのは致命的だ。
オーダーを満たせていないことになる。
ある程度は人型の形状を犠牲にしてでも車のフォルムは優先する。
もっとも気を遣うのは高速形態だろう。
ブーストで加速するための形状だ。
空気抵抗を最大限に考慮しないといけない。
ブーストも問題だ。
燃焼系の車両じゃないからな。
トモさんってモーター系のオーバーロード加速って受け入れるタイプなんだろうか。
ダメかもしれんが、ここは妥協しよう。
あんまりゴテゴテ盛り込んでも失敗しそうだし。
『何か言われたら試作機だからってことで逃げよう』
高速形態はそれでいいとしてノーマルが結構めんどい。
走行中のあらゆる状況に対応可能な汎用性が求められるからな。
コーナリング性能だけを追求すればいいってものじゃないのだ。
電脳フォーミュラは内蔵ファンによるジャンプや壁走りは当たり前だったからな。
ファンを使ってジャンプってのは現実だとさすがに無茶があるけど。
そこは魔法で対応だな。
『うーん、やはり形状がネックだ』
人型はとりあえず強靱であればいいかと思ったんだが……
『致命的にダサすぎる』
車のフォルムを優先すると人型の方が犠牲になる。
ノーマルと人型だけなら、どうにか誤魔化せそうなんだけど。
高速形態を盛り込むとダサさ倍増。
これだとマイカが要望するであろう条件すら満たせない。
『どうしたものか』
判明している問題点はふたつ。
ひとつは人型のパーツを隠しきれないこと。
もうひとつは人型のフォルムを少しでも優先すると高速形態に変形させられないことだ。
ゴテゴテしちゃうんだよね。
何かないかと考える。
そりゃ、もう必死だ。
居残りで延々とステレオで話を聞くだけなんて罰ゲームどころの話じゃないからな。
懸命になって考えていたら、ひとつ思い出したことがある。
アニメじゃなくて海外の実写ドラマだ。
新ナイトドライバーはCGをフル活用して無茶なことしてた。
スポーツクーペがピックアップトラックになったりしてたもんな。
『CGみたいにモーフィングさせるのも限度はあるけど』
まあ、敵なんかはダサいロボットになってたか。
やってもいいけど変形に時間がかかるんじゃ意味がない。
そうなるとモーフィングだけで変形させるという選択肢はなしだ。
何かもう一声がほしい。
「……………………………………………………」
そう簡単にアイデアが出てくるなら苦労はしないよな。
延々と考え続けて、そろそろ昼前だ。
非常にマズい状況だと言える。
せっかく周囲に紛れるようにしているのに妖精組が来てしまう。
そうなれば子供組とかが俺に向かってくるだろう。
発見されるのは時間の問題だ。
頭の中で集中できないくらいヤバいが連呼される。
『ああっ、くそっ!
腕とか脚とか頭とか余分なパーツが多すぎるんだよ』
暴論である。
それら全部を省いて人型になる訳が……
「そうか、不要な時は空間魔法で格納すればいいのか」
マリカに与えたネックレスで用いている技術の応用だ。
不要な時は亜空間倉庫に仕舞う。
必要になったら引っ張り出す。
それっぽく変形しているように見せつつってのがポイントだ。
『これで車のフォルムを優先できるな』
シミュレーションも問題ない。
後は本人たちが気に入るかだがな。
こればかりは神のみぞ知るってやつだ。
後日、それは複座型に改良されて新型の戦闘車両として採用されることになった。
読んでくれてありがとう。




