425 人妻と物作りと挨拶と
俺としては付き合う所から始めるものだと思っていた。
ところがトモさんは、いきなり「結婚してください」である。
それは受け入れられたので良かったとは思う。
だけど釈然としないものもあるんだよなぁ。
『やっぱ、こう信頼関係を築いてから……』
そこまで考えて俺も人のことは言えないことに気付いた。
ABコンビとか。
いずれにしても俺がどうこういう話ではない。
お互いが了承するなら、後は親の承諾くらいだろう。
「おめでとう」
エリーゼ様からは以上である。
実にアッサリで驚かされた。
いや、それ以上に気付けばすぐ側にいたことの方が驚きか。
トモさんが告ってフェルトが何やかんやありはしたものの、それを受けて。
さあ、エリーゼ様に報告だと思って振り返ったら……
「ハロー」
目の前にいた。
『縁側でノンビリしていたと思ったのに』
そして俺たちが目を白黒させているうちに祝福のお言葉を頂戴することになった次第。
不意打ちもいいところである。
俺も修行が足りないということだ。
それとも、さすがは神様と言うべきなのか。
あ、そうそう。
後で一部女性陣から怒られたよ。
トモさんの告るシーンが見られなかったって。
そんな風に期待するから、あの2人のプレッシャーになったんじゃないかよ。
そういうのは映像作品あたりで堪能してくれ。
動画ならいくらでも提供するから。
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帰りたくても帰れない。
隠れ里組の一同が記憶を定着させるまでは動かさない方がいいってさ。
俺としちゃ倉にでも放り込んで転送魔法を使えばと思ったんだけど。
生憎とそれもダメらしい。
そんな訳でローズ先生の出番である。
シヅカを助手にして近接戦闘の訓練タイム。
レベルはミズキやマイカの方が上なんだけどね。
上級スキルの【指導】を持っているからな。
強ければ教えるのも上手いとは限らないのである。
特級スキルの【教導】を持っている俺が教えた方がより効率的ではあるんだがね。
それをしないのは俺が別のことをしているからだ。
「面白そうなことをしているわね」
訓練には興味のないエリーゼ様が俺の手元を覗き込んでくる。
この場には俺たち2人しかいない。
起きている面子のほぼ全員が気合い満タンで訓練に励んでいるからね。
欠片の灰により強化されたクラーケンを見た影響だろうか。
アレを見ていないトモさんとフェルトは強制的に参加させられている形だけど。
周囲の勢いに流される格好ではあるが、2人とも真面目にやっている。
日本じゃともかく惑星レーヌじゃ命に関わるからな。
「そうですか?
普通に物作りをしているだけですが」
「備えあれば憂いなしってことよね」
「まあ、欠片のせいで死なれるのはゴメンですから」
「それにしてはサイズが小さいじゃない?」
エリーゼ様が指摘するように俺が作っているモノは模型サイズである。
モノは変形する戦闘兵器。
パワードスーツサイズではない。
本来の大きさは10メートル級の搭乗して操縦するタイプだ。
人型と高速飛行形態を使い分けることで生還率を上げるのが最大の目標である。
汎用性の高い人型は確実に相手を倒すことで、それを成し遂げる。
それが無理であるなら飛行形態で逃げ切る訳だ。
手段は異なるが、どちらも生き残ることを目的にしている。
そのための変形だ。
したがってスムーズで素早い変形が要求される。
「この方が手早く仕上げられますから」
「そのぶん問題点の洗い出しに時間をかけられるのね」
短い返事にもかかわらず俺の目的を見抜いてくるエリーゼ様。
神様なんだから当然か。
「それもあります」
「あら?」
「コイツを利用したシミュレーターも作りますから」
「試作品も利用するのね」
「最終的にはそうなります」
次々と作り上げては動作をさせて素材に戻すを繰り返す。
妥協はない。
廃棄物くらいは相手にできるようにしたいからな。
少しでもダメだと思ったら改良かボツか。
黙々と作業する。
いまネックになっているのは飛行形態への変形時における手持ち武器の回収だ。
変形を今まで以上に素早く行わせようとすると、そこが意外と問題になってくる。
最初に考えていた以上に難しい。
回収がこれほど面倒だとは思わなかった。
「ん? 回収?」
煮詰まっていると不意に他のことを思い出したりすることがある。
今が丁度そのタイミングだった。
「あ」
帰る途中で海エルフを回収しないといけないのを忘れてた。
その件で輸送機の改造をもう1人の俺に依頼したままだ。
我ながらアホである。
「どうしたのよ」
「別口の仕事を忘れてました」
エリーゼ様の問いに答えながら、もう1人の俺に呼びかける。
『おーい、できてるか?』
輸送機の改造依頼を出していた俺だ。
『心配すんな、バッチリだ』
それを聞いて安心していたら──
「もしかして海エルフを迎える準備とかじゃない?」
エスパーかっ!?
いや、神様だ。
それくらい読まれても不思議ではない。
分かっちゃいるが脱力ものだ。
「ええ、まあ」
「それならルディアちゃんの説得が終わりしだい、ここに連れて来る予定だから」
「さすがです。
下準備がしっかりしてますね」
「あら? 最初からそのつもりだったけど」
初耳である。
「言ってなかったかしら」
「はい……」
ガックリだ。
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数時間後、海エルフたちが連れて来られた。
エリーゼ様に向けて定番の土下座タイムもあったが、そんなに長引かなかった。
どうやらルディア様の説得中にある程度は慣れたようである。
そのうち隠れ里組も目覚める者たちが出始めて海エルフたちと挨拶を始めた。
互いにすんなり受け入れている。
再会を喜び合う姿もチラホラと見受けられた。
顔見知りでない者の方が多かったが、それは事前に説明されていたようだ。
隠れ里組は睡眠学習中に。
海エルフたちはルディア様の説得時に。
ちゃんと根回しされているなら問題ない。
で、皆の前で国王として挨拶しろと言われましたよ。
誰にって?
ルディア様に決まってるじゃないか。
エリーゼ様が、そんな几帳面なこと言うと思うかい?
そんな訳で即席のステージを作って壇上の真ん中へと進み出た。
試しに用意してみたマイクの魔道具を使う。
ぶっつけ本番だが問題ないだろう。
「やあ、ハルト・ヒガだよ」
マイクを持たない左手を挙げつつ軽い調子で第一声。
そしたら離れた場所にいたルディア様に睨まれた。
真面目にやれと言いたいらしい。
これくらいの方が皆も緊張しないと思ったんだけどな。
一番肝心な新たに国民となる面子の反応は若干の困惑かな。
緊張されるよりはいい。
「遙か東の果ての島国、ミズホ国の王だ」
そう言うと空気が引き締まった感じがした。
「あ、ちなみにこんな感じの所だから」
幻影魔法でミズホシティの風景を動画で流す。
傍らには位置関係を示すべく地図も表示させながら。
山や川に囲われた場所。
そして広々とした海。
「これが建国当初の映像」
平野部にポツンと建っている一軒家が物悲しさを醸し出す。
「王都ミズホシティとして定めた場所だ」
ザワザワした感じの反応が見られる。
口々に互いの感想を言い合っているようだ。
まあ、これは想定していた反応だ。
「そして建国から2年後の現在が、こちら!」
映像を切り替える。
「「「「「おお─────っ!!」」」」」
一気にどよめく。
そうとう驚いたみたいだな。
まるでコンサート会場にいるかのようだ。
俺が行ったことあるのはアニメのイベントだけど。
まあ、そんなに差はないだろう。
……たぶん。
実際、よく分からんのよ。
俺が知っているのはその他大勢の側だから。
そういうのはトモさんなら知ってるはず。
だけど、いま壇上で聞く訳にはいかんだろ。
『聞いときゃ良かった』
後の祭りである。
だが、皆の反応を見る限りは拒否的な空気は感じられない。
とりあえず静まるのを待って飛び地であるヤクモの話をしたりもした。
「そんな訳で、まだまだ我が国は発展途上だ」
そう言ったら何故か何度目かのどよめきが湧き起こった。
なんでだ?
もしかして生産量とかに不安があるんかね。
「心配しなくても皆を養うくらいはどうってことない。
水産資源は豊富だし農業も魔法で安定した収量があるからな」
更にどよめく。
なんか徐々に収拾がつかなくなってきた気がするんだが。
食糧問題じゃないのか?
それで考えてみたのが国の立地条件。
そしたら合点がいった。
『あー、東側だからか』
安全面で不安があるんだな。
「うちは自動人形による防衛網が確立されている。
なお、これらは日々強化されているから安心して暮らせるぞ」
「「「「「おおぉぉぉぉぉ─────っ!!」」」」」
逆効果だった。
むしろ余計に興奮しているみたいなんですけど。
なんでだぁっ!?
読んでくれてありがとう。




