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424 お見合いなのか、お茶会なのか

 エリーゼ様の無茶振りにトモさんは食い下がろうと試みる。


「他の呼び方とかは……」


「エリママなら可。

 他はすべて却下」


 無下に断られてしまった。


「えー……」


 そんなの呼びたくねえよって顔をしているトモさんの肩を軽く2度叩いた。


「諦めろ。

 俺のように泣かれるよりはマシだと思った方がいい」


 思い出すだけでも罪悪感がわき上がってくる。

 二度と泣かれるのはゴメンだよ。


「冗談……だよね?」


 俺の表情を覗うようにして聞いてくる。


「泣かれたこと?」


 コクコクと頷かれた。


「マジだよ。

 俺の母親はエリーゼ様じゃないからね。

 その従妹でルベルスの管理神ベリルベル様。

 だから俺はベリルママって呼んでるぞ」


 絶句アンド呆然。

 何も言えずに立ち尽くす。

 表情だけは「うわー、マジかー」と語っていたが。


「照れくさいのは最初だけだ。

 そのうち慣れるさ」


 俺の言葉にトモさんはガックリと肩を落とした。


『まあ、君も今日から仲間だ』


 マザコンと呼ばれないよう互いに頑張ろう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 改めて面と向かい合うトモさんとフェルト。

 自己紹介なんかもして両者共にカチコチ状態だ。


『お見合いってこんな感じになるんかね』


 立ちっぱなしも何だからと俺が机と椅子を用意したんだが。

 着ている服が正装であったなら本当に見合いに見えたことだろう。

 それだけカジュアルな見た目に反した緊張感が漂っている。


 どちらも先程から一言も発していない。

 用意したお茶を啜り合う感じ。

 フェルトが口にして湯飲みを置くと今度はトモさんが湯飲みを手にする。

 以後、ループして続くみたいな。


 湯飲みのお茶が尽きると、側に控えたメイド型自動人形がお代わりを用意する。

 これで何杯目だろうか。

 いちいち数えてないけど結構な量が胃袋に収まっているはずだ。


『タップンタップンしてそう』


 それでも膠着状態が崩れそうにない。

 リプレイの動画を見せられている気分だよ。

 いずれかが意を決して話し始める形では状況が打破されそうにない。

 変化があるとするなら手洗いを要求される形になりそうだ。


『あの2人、飲み過ぎ』


 いっそのことお茶よりアルコールの方が適度に緊張がほぐれたかもな。

 酔いつぶれて終わる恐れもあるから迂闊なことはできないけど。

 いずれにせよ少し離れた場所から見ている我々はヤキモキさせられるばかりだ。


「つまんないわね」


 エリーゼ様が溜め息まじりに呟いた。


「何を期待していたんですか。

 こうなることは充分に予測できたでしょう」


「えー、もうちょっと色々あるかなと。

 トモくんが気合い入った感じだったから」


「それは認めますけどね」


 この席を用意する直前のトモさんは「俺が告る!」って決意に満ちた表情してたからな。

 入れ込みすぎとも言う。

 それこそ、誰が見ても分かるくらいの状態だった。

 でも面と向かい合って、さあというタイミングで──


「「あのっ」」


 見事なくらいハモってしまったからなぁ。

 後は互いに「どうぞ」で「そちらこそ」な譲り合い状態。

 共に押し黙る形になって交互にお茶飲み開始である。


「ねえ、ハルくん」


 ミズキが遠慮がちに呼びかけてきたので、そちらを見た。


「仕切り直した方が良くないかな」


 もっともな意見である。


「だよな」


 周りを見回しても反対意見など出てきそうにない。

 エリーゼ様も「もう好きにして~」と言わんばかりにアクビをしている。

 美人がそういうことをすると誰よりもダレているように見えてしまうんですがね。

 当人はまるで気にした様子がない。


「それじゃ休憩にするか」


 トイレだけ出すのも微妙な気がしたので懐かしの我が家を引っ張り出してみた。


「中でくつろぐなりトイレに行くなり好きにしてくれ」


 建国して直後に作った曰く付きの屋敷である。

 あれのせいで1年寝込むことになったからなぁ。

 でもって目覚めたら4桁レベルになってたし。

 ベリルママには思いっ切り叱られた。

 だけど今となっては何もかもが懐かしい。

 が、それは俺だけである。


「何よ、これ。

 武家屋敷?」


 そんな風に宣ったのはマイカである。


「あー、実家のレプリカだよ」


「凄いじゃん」


「こんなだったんだー」


 マイカとミズキが盛り上がっている。

 まあ、俺の地元に来たことなんてなかったからな。

 だからこそ見せてやりたかったというのはある。


 まずは外からとばかりに家の周囲を見て回っていた。

 庭とかはないから魅力は半減してるはずなのに。

 それでも隅々まで堪能したいようだな。

 俺なんかはさっさと中に入ればいいのにと思ってしまうのだが。


 まあ、それでも思惑通りではあるか。

 喜んでくれるなら何よりだ。


 それよりも他の面子のことを考えていなかった。

 一部の面子が興奮し始めるとは思っていなかったのだ。

 いや、普通に考えれば簡単に想定できたことなんだけど。


「変わった家じゃな。

 フハハ、実に興味深いではないか!」


 徐々に声のトーンが上がっていくガンフォール。

 実に楽しそうである。


「そうですな!」


 最初からテンション高めのハマー。


「どうやら見えない所にまで木がふんだんに使われているようですぞ!」


 分析しながらも子供のように瞳をキラキラさせて、はしゃいでいる。

 ジジイ、落ち着けよって感じだ。


「壁の材質は何でしょうね。

 うわっ、きめが細かいな。

 これ石じゃありませんよ!」


 ボルトも壁を見て興奮している。

 壁で興奮する奴なんて初めて見たよ。

 それに釣られてガンフォールたちが加わって議論開始。

 材質やら施工技術やらをあーでもないこーでもないと熱く語っている。


『ダメだ、ありゃ』


 しばらくは割り込める雰囲気じゃない。

 見慣れない建築物を見ると好奇心が刺激されてしまうようだ。

 さすがはドワーフ+ということにしておこう。

 付き合ってられんからな。


 他の面子は興味深げにしているものの、ここまで前のめりな感じじゃない。

 古参組が新規組に日本家屋の利用の仕方を説明しながら中に入っていく感じだ。


「さて、と」


 かなり人目は減ったと言える。

 エリーゼ様も縁側に座ってボーッとしているし。

 俺の側に残っているのは守護者たちのみ。


『これなら大丈夫かな』


 お見合いの2人に掛かっていた無言のプレッシャーが外れるだろう。

 もっとも、ガチガチになってしまった状態を解きほぐすには至らない。

 俺1人だけで歩み寄る。

 プログラムで動作しているかのようなトモさんたちに近づいたんだが……


『やっぱりな』


 視界に入っても反応がない。

 完全に意識狭窄状態だ。

 下手をするとお互いがまともに見えているのかすら怪しい。

 これじゃあ普通に呼びかけても気付かんかもしれん。


『しょうがないな』


 掌に少しだけ魔力を集めて柏手を打つ。


「パン!」


 何処までも響くような乾いた音がした。

 この2人以外に聞かれると元の木阿弥になりそうなので遮音結界は使ったけどね。


「「えっ!?」」


 我に返った2人が俺の方を見る。


「よお、お目覚めかい」


「おはよう、ハルさん」


 日本人の頃はそう呼ばれると背中がムズムズしてたんだが今は平気なようだ。

 トモさんと呼ぶと、いつの頃からかハルさんと呼ばれるようになったんだよな。

 以前はそれが微妙な感じがして本人の前では純田くんと呼んでいた。

 が、トモ・エルスとなった今は純田くんとは呼べないからな。

 日本に行ってヒューマン+の純田くんを前にすれば話は別だけど。

 そういう機会はあるまい。


「そっちはシャッキリしたか」


 フェルトに目を向けるが赤面して固まっている。


「聞こえているなら右手を挙げろ」


 おずおずといった感じだが右手が挙手される。


「休憩と言って周囲の視線は外しておいた」


 どうする? と両者の目に問いかける。

 トモさんの瞳に力強い反応があった。


「えっと、フェルトさん」


「は、はひ」


 返事をしたフェルトの声が裏返っている。

 相当テンパっているようだ。

 自分でもそれを理解しているからかお茶に手が伸びる。


「俺と結婚してください」


「ぶはっ!」


 フェルトが茶を吹いた。

 茶が噴霧されるが理力魔法で止めておいた。

 美人のだから御褒美だとか変態発言はしない。

 真面目そうなフェルトにそういう冗談は通じないだろう。


 トモさんも真剣な話をしている最中にボケたりはしないはずだ。

 現にゲホゴホと咳き込んでいるフェルトの側に回り込んで背中をさすっている。

 苦しそうにしながらも必死に何度も頷いているフェルト。

 おそらくは「大丈夫」と言いたいのだろう。

 全然、大丈夫ではない。

 それを理解しているであろうトモさんも背中をさするのは止めない。

 おまけに反対の手でフェルトの手を握っている。


『うわ、なに? そのイケメンぶりは?』


 先程までの茶飲み人形状態とは大違いだ。


読んでくれてありがとう。

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