413 残念のち憐れ、そしてようやく……
「どういうことですかって言われてもな」
フェルトが俺に噛みついてくるんだけど、説明が面倒だ。
有り体に言ってしまうと態度を硬化させそうだし。
長々と説明しても、すんなり受け入れられるかは怪しいところだ。
頭に血が上ってるもんな。
故にエリーゼ様を利用させてもらうことにした。
「神様も暇じゃねえんだよ」
「えっ?」
「君らは他所の世界で遭難した。
それも、ここにいる純田くんに迷惑をかける形でだ」
「ええっ!?」
もしかして気付いてなかったとか言わないよな。
「君らが純田くんの夢の領域に隠れ里を作ったことで純田くんは眠りっぱなしなんだよ」
「「「「「ええ─────っ!?」」」」」
念話で相談していた面子が驚いている。
俺にしてみれば今更なんだけど。
「言ったろ、純田くんの夢から君らを連れ出すって。
話の流れから神様の依頼だってのも理解していたと思ったんだが、違ったか?」
俺の問いに返事がない。
今までの話の流れを思い出しているのか。
「あ……」
最初に気付いたというか思い出したのはフェルトだった。
顔に「そう言えば……」みたいなことを書いているのがありありと分かる表情になっている。
やはり俺と直接話をしていただけのことはあるのだろう。
他の面子も次々と似たような表情へと変化していく。
『これなら少しは聞く耳を持ってくれるかな』
少なくとも先程の興奮状態からは脱しているだろう。
「仮に君らが夢の中にいたまま純田くんが目覚めていたらどうなっていたと思う?」
質問はしたが、答えを聞くつもりはない。
考えさせることで自分たちの立場を理解させるのが目的だ。
「エリーゼ様は純田くんを眠らせ続けることで君らの安全を確保した」
彼女らが答える前にほぼ答えを言う。
それが何を意味するか即座に理解したらしい。
全員の顔色が変わっている。
もちろん良くない方でだ。
「もしかして、そちらの方の生死に関わるような迷惑をかけてしまったとか……」
フェルトが徐々にボリュームを下げるような形で聞いてきた。
尻すぼみになるのも自分たちのしでかしたことに気付いた今なら無理はないか。
「俺も詳しくは知らんが、ないとは言えないな。
少なくとも長期にわたって迷惑をかけているのは確かだ。
それと君らが飢え死にせずに済んでいるのも純田くんの夢の世界にいたからだぞ」
「「「「「あ……」」」」」
抱いていた疑問の答えを得たというような「あ」だった。
「ももも申し訳ありませんっ!」
何度も頭を下げて純田くんに謝るフェルト。
それに続く念話相談組の一同。
「えーと、気にしてないので」
純田くんが歯切れ悪く応じている。
先頭に立って謝るフェルトの胸元が気になっているせいだな。
ポヨンポヨンと弾むのは確かに気になる。
ラジオとかでは率先して下ネタを言う方の純田くんだが照れがあるようだ。
意外に純情な男である。
「それに食事を用意しているのは飛賀くんだし」
目先が俺の方へ向かうように振ってきた。
『うまいこと逃げたな』
純田くんの誘導は成功。
フェルトたちの謝りマシーン状態が止まった。
こちらを見る。
「そんなこととは露知らず……
誠に申し訳ありませんっ!」
今度は俺に向けて謝りマシーン発動。
「いいよ、気にしてない」
そう言うと頭が上がって──
「ですがっ!」
ひとこと言って頭が下がる。
「ホントに気にしてないから」
また頭が上がる。
「いえっ、それでは我々は恩知らずになってしまいます」
言い切る前から再び頭が下がる。
『まるで水飲み鳥だな』
こちらとしては気にする以前にエリーゼ様に依頼された仕事の一環なんだけど。
根気よく「気にしていない」を言い続けても、終わりが見えそうにない。
『勘弁してくれよ……』
純田くんはうまく逃げられたけど、俺の方はなぁ。
もう一度、純田くんに話を振っても堂々巡りになるのが目に見えている。
まさか殺気を放って威圧する訳にもいかんし。
自分たちも飯を食えと言ってもなかなか手をつけない気がする。
少なくとも既に食べ始めている隠れ里組の面々が満足するまでは。
『どうすりゃいいんだよ』
関係性が悪化した訳ではないが途方に暮れたくなってしまった。
こうなりゃ自棄である。
エリーゼ様に話を振ろう。
ここには居ないけど、それで俺から注意がそれてくれるなら儲けものだ。
「礼なら依頼主の神様に言ってくれ」
ピタリと止まった。
言ってみるものである。
そう思ったのも束の間──
「我々は何という……」
「神様の手をわずらわせてしまった!」
「罰当たりな」
「罪深いことだ」
「なんと浅はかだったのだろう」
フェルトの後ろにいる面々が懺悔を始める。
他にも何か言ってる人達がいる。
まあ、おかゆに舌鼓を打っている人達に比べればうんと少ないのだけれど。
「懺悔なら他でやってくんない?」
彼等に直接言っても無理そうなので、申し訳なさそうにしているフェルトに言ってみた。
「申し訳ありません。
しばらく待つ必要があります」
「……………」
どうやらフェルト以上にポンコツなようである。
若いフェルトが代表的な立場になっているのも、これが関係していそうだな。
『コイツら優秀なのかダメダメなのかよく分からん』
欠片がらみの事件に巻き込まれそうになって逃げ延びたのは凄いことなんだけど。
何か残念すぎるんだよなぁ。
『まさかフェアリーの種族特性とか言わないよな』
そこまで酷くはないと思うが、元はノンビリした種族なのかもしれない。
過去に何かあって用心深くならざるを得なくなったとか。
もしそうだとするならヒューマンが関与しているのは想像に難くない。
直接には関わりのなかったドワーフが信用されてヒューマンだとダメだったからな。
最終的には純田くんや俺にも謝ってくれたけど。
過去に何があったかは調べておいてもいいかもしれない。
まあ、今は気乗りしないのでパスだ。
「とりあえず腹ごしらえしてくんないか」
「えっと……」
「そっちで懺悔している連中もな。
これ以上、神様に迷惑かけたくないなら腹ごしらえしろとでも言えばいい」
「私が言うんですか?」
「俺が言ったらグダグダになりかねんからな」
「ソウデスネ」
自分が水飲み鳥のようにペコペコ謝っていたのを思い出したのだろう。
一気に赤面して、そして目と声が死んでしまった。
どうやら黒歴史になってしまったらしい。
心の中で激しく身悶えする姿が目に浮かぶようである。
『憐れよな』
ショボーンという書き文字を背負っているかのような姿に同情を禁じ得ない。
それでも自分の役割を果たそうとする。
俺の指示に従い仲間に声を掛けていくフェルト。
なかなか天晴れな女である。
『せめて暖かい飯を食って元気を出してくれ』
そう願わずにはいられなかった。
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隠れ里組が腹一杯になったところで次の準備を開始する。
といってもテーブルや食器を片付けてお立ち台を用意するだけだ。
派手に飾り付けたりもしない。
『そろそろ出てきてもらってもいいですかね?』
回線はつなぎっぱなしだったのだ。
今までよく口出しナッシングで通せたものである。
さすがは安定の丸投げ女王。
可能な限り首は突っ込まないってさ。
『シカトするなら統括神様に──』
『ブチッ、ツーツーツー』
「マジか」
最後まで言い切る前に回線が切断された。
脅しには屈しないという意思表示だろうか。
まさか、ここまで強硬な姿勢を見せるとは思わなかった。
神様を怒らせるのは下策もいいところだ。
『失敗したなぁ……』
どうしたものかと考え始めたところでお立ち台が眩しい光に包まれた。
『そう来たか』
怒ったんじゃなくて動揺したらしい。
けど、それは焦りすぎである。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
「眩しいっ!」
お立ち台の近くにいた者にとっては、いい迷惑だ。
被害者、続出。
幸いにして特殊な光なので目を痛めるようなことはないのだけが救いである。
それでもしばらくは目が眩んで何もできない感じだった。
「何だ、何だ!?」
「どうなってんだ!?」
「大丈夫かっ!?」
「何が起こった!?」
「分かんないよっ!」
それ以外の者にも混乱がもたらされている。
落ち着いているのはうちの子たちだけだろう。
新規国民組は厳しいみたいだけど。
それでも古参組が普通にしているのを見て落ち着こうとしていた。
本人が未登場の状態でこれだと、この後どうなるかは想像がつくけど。
「派手な登場の仕方するなぁ」
純田くんも平気なようだ。
感心する余裕があるとはね。
平然とお立ち台を見ていられるのは俺と同じエルダーヒューマンだからだ。
眩しさをカットして見ているのは明白である。
そして、光が収まるとお立ち台に若い女性が立っていた。
派手に登場してきた割に落ち着いた雰囲気がある。
プラチナブロンドのゆるふわヘアにベリルママとよく似た面立ち。
そして薄紫の瞳は神様であることの証。
エリーゼ様の登場である。
読んでくれてありがとう。




