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412 夢の世界の食糧事情

「いやー、飛賀くんも自重しないね」


 しみじみと感想を述べながら頷く純田くん。

 時間に余裕があったので今までの出来事を話した結果だ。


「反省はしない。

 後悔もしていない」


「おいおい、反省もなしか」


「そうだ」


「潔いな……

 だが、嫌いじゃない」


 どちらからともなく握手をして頷き合った。

 ん? なぜ握手するのかって?

 俺も知らん。

 あえて言うなら、なんとなくだ。

 たぶん純田くんもそんな感じだと思う。


「ところで話は変わるが」


 純田くんが真剣な表情で聞いてくる。

 まあ、ふざけている時も表情は真面目なものだったりすることが多いけど。


「んん?」


「何時まで待つのかな」


「向こうの代表の話し合いが終わるまで」


「アレって話し合ってるの?」


「念話だよ」


『こんな感じだけど』


 予告なしで使ってみる。


『おおう!

 なんだこりゃーって、こんな感じでいいのかい』


 即座に使いこなすかよ。


「ああ、うん。

 ばっちりだよ」


「驚いたなー」


 こっちの方が驚くわ。

 あ、でも、俺もそんな感じだったか。

 元現代日本人の対応力はハンパねえな。


 ついでに脳内スマホの使い方も説明しておく。

 エリーゼ様なら面倒くさがって最初に渡すものは渡しているだろうと思ったからだ。

 俺の予想は間違っていなかった。


「便利とか言う以前に謎技術だな」


 呆れつつ感心している。


「魔法だからね」


「何でもありだな」


「神様のすることだからね」


「うわっ、身も蓋もない」


 純田くんが大袈裟に仰け反って驚いている。


「でも、嫌いじゃないだろう?」


 俺が問いかけるとすぐに姿勢を正して返事をした。


「うむ」


「ついでにこれも渡しておこう」


 俺の開発したスマホを手渡す。

 当然のことながら訳が分からないという顔をされるんだけど。


「脳内スマホは脳内スマホとしか通信できないんだよ。

 持ってる面子も少ないし。

 うちの子たちには俺が開発したこれを持たせてる。

 最終的には脳内スマホとも互換性を持たせたいんだけど、まだまださ」


「便利なようで不便だね」


「違いない」


 思わず苦笑が漏れた。


「それよりも飛賀くんの器用さにビックリだけどね」


「んー、魔法が便利すぎて本気を出したらこうなった?」


「自重しないね」


「まあね」


 苦笑して返すとウィンクしながらサムズアップしてきた。


「グッジョブ」


「サンキュ」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 俺は今、うちの子たちの様子を確認中である。

 純田くんにはスマホの操作に慣れてもらっているし。

 フェルトたちは話が長引いているようだし。

 暇を持て余していると言えなくもない。


 まあ、マリカの方が俺以上に暇だとは思うけど。

 こちらはかき氷を渡しておけば大人しいので特に問題は発生していない。


 それよりも皆の方が問題だ。

 最初の方はなかなか相手にしてもらえなくて。

 そのあたりは向こうのラミーナたちが徐々に歩み寄る形で解決したのだが。


 今は殺到に近い状態をさばききれなくなりつつあった。

 ガンフォールが一喝して整列させなければ酷いことになっていたな。

 大人数がひとつ所に集まったときは統率がとれないと極めて危険である。


『今の状況で将棋倒しとかシャレにならん』


 いざとなれば魔法で対処するにしてもだ。

 ただでさえ薄い信用がマイナスになりかねない。

 原因を作ったのが俺たちサイドってことになるのは間違いないからな。


『どうしたもんかな』


 何かしら対応策を用意しないとマズそうだ。

 そんなことを考え始めた時のことである。


「陛下」


 ボルトが駆け戻ってきた。

 足取りはしっかりしているが見た目はヨレヨレ。

 かなり揉みくちゃにされたようだな。


「ボルト、国外だぞ」


 俺が指摘すると直立。


「申し訳ありません、ハルト様」


 何が問題かはすぐに気付いたようだ。

 俺が気にしすぎという話もあるけどね。


「それで?」


「親父殿から伝令です。

 グミでは足りないと」


「あー、みんな腹ぺこさんなんだ」


「はい」


 食糧事情まで考えてなかった。


『補給なんてできるような環境じゃないしなぁ』


 慌てて逃げ出しただろうから備蓄なんてほとんどないだろうし。

 今までよく持ったものである。


「分かった。

 ガンフォールには何とかすると伝えてくれ」


「了解です」


 ボルトが走り去っていく。

 さて、【多重思考】の出番である。

 倉の中で人数分の食事を器も込みで確保していく。


 数千人だろうと多重分身で理力魔法を駆使して調理すれば時間はさほどかからない。

 魔力はそれだけ消費するが、この程度のことなら回復分でチャラである。

 そこは気にしなくても良いもののメニューには気を遣わないとな。


 誰も[飢餓]状態ではない。

 それでも長期にわたって空腹に苦しんできたはずだ。

 空腹だけでは状態異常とは見なさないようにしていることも気付かなかった原因だろう。

 拡張現実の表示設定をいじって、これも状態異常とした場合は……


『全員が[空腹]か』


 表示がゴチャゴチャするので設定を元に戻す。


『酷いものだ』


 気付かなかった己の間抜けさが恥ずかしくも腹立たしい。

 全員ということは[飢餓]一歩手前の者もいるはずだ。

 そんな相手にガッツリ系は論外だろう。

 消化が良いものが最低条件になる。

 胃腸への負担を少なくしないと体調不良を訴える者が続出しかねんからな。


『おかゆにするか』


 ガッツ食いしてもこれなら大丈夫だ。

 昆布で出汁をとって味が単調にならないようにする。

 栄養補給の側面から野菜も細かく刻んで入れておこう。

 肉は消化時に負担がかかるので今回はなしだ。


 本当ならもっと凝ったものを食べさせてやりたいんだがね。

 それは次の機会に取っておこう。

 彼女らと縁があるかどうかは微妙なところだがな。

 強引にここから出てもらうことにしたからね。


 推測に過ぎないが、ここで食事しても空腹が満たされない恐れがある。

 夢の世界だけに状態異常が強調されている気がするんだよ。

 それなら空腹も強調されて[飢餓]になっているんじゃないかとも考えた。


 そのあたりが夢の世界の厄介なところだ。

 もし、ここが通常空間で彼女らが同じ状況だったなら、とっくに死んでいるのだ。

 どういう作用があってとかは考えても無意味である。

 夢に常識は通用しないからね。


 だからこそ食料がなくても飢えずに空腹を感じるだけで済んでいたのだ。

 無茶苦茶だけれども、そのおかげで助かった。


 ただ、今の状況で食べさせてもどうなるかが読み切れない。

 おそらくは食べても食べても空腹が解消されないままになると思う。

 絶対ではないが。


 とするなら確実に解消されるように持って行くしかあるまい。

 それは彼女らを夢の外へ連れ出すということだ。

 飢えない世界から飢える世界へ。


 考えようによっては残酷なのだろう。

 が、この世界に留まり続けるのは危険だ。

 異常な環境にいずれ本能が耐えられなくなる。

 そうなれば精神を病んで心が死に至ることになるだろう。


 現状でそういう状態異常の兆候は見られないが、それも怪しいものだ。

 根拠を持って説明できないのが辛いところだがね。

 だが、そんなことを言っている場合じゃないと思う。

 形振り構わず無理にでも連れ出す。


 そのことでフェルトたちとの関係がこじれたとしても死なせるよりはマシだ。

 だから俺は倉の中で食事の用意が完了した直後に転送魔法を使った。

 予告なく唐突にである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 見渡す限り真っ白な世界だった。

 光源もなければ影もない。

 なのに白い。

 そして皆が見える。

 地面がないのに踏みしめている感触。


 ここは世界と世界の狭間にある亜空間。

 ベリルママに連れられてルベルスへと渡る時に連れて来られた場所だ。


『懐かしいな』


 まあ、そんな風に思うのは来たことのある俺だけなんだが。

 普通は突如としてこんな環境に放り込まれると混乱する。

 特に隠れ里組と純田くんはね。

 うちの面子でもプラム姉妹なんかはヤバそうだ。

 もちろん、そこはバフをかけて対処した。


 そして煩いことを言われる前にテーブルを引っ張り出して器を並べていく。

 中身はもちろん俺の作った多色粥である。

 ガンフォールの方を見た。

 それだけで隠れ里組をテーブルの方へと誘導してくれる。

 うちの子たちもフォローに回ってくれた。


 この状況に対する疑問はとりあえず飲み込んでくれたようだ。

 そういう訳にはいかないのも中にはいるんだけどね。


「これはどういうことですかっ!?」


 代表としての自覚に囚われたフェルトである。

 こうなることは予測済みだったが、実際になってみると面倒くさい。

 どうしたものか。


読んでくれてありがとう。

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