411 待ち時間にあれこれ
ガンフォールが俺のことを保証すると言っただけで隠れ里組は慌て出す。
俺たちの世界ルベルスにおけるドワーフの信用度はなかなか高いようだ。
フェアリーとはほぼ絡まないはずなんだけど。
ドワーフの大半が名もなき大山脈の住人だし。
世捨て人までは行かなくても隠者に近い。
しかもフェアリーは更に上手を行くからなぁ。
人里に現れることが皆無に等しい。
伝説レベルで目撃情報がないとされている。
その目撃情報にしてもデマであったりエルフとの見間違えだったりする訳だが。
中には何としてでも探し出そうとする輩もいるが発見されたことはない。
フェアリーたちが森の中で結界を形成して隠れ住んでいるためだ。
徹底してヒューマンが信用されていないということでもある。
俺が信用されないのも当然の話なのだ。
ともかくドワーフとも生活圏が異なることもあって本来ならば接点はない。
それでも信用されるのはラミーナから間接的に話を聞き及んでいるからだろう。
「す、少しお待ちいただけますか」
動揺を隠しきれないフェルト。
慌てた様子を見せているが、それだけに懸命に何とかしようとしているのは分かる。
彼女の言葉は仲間と相談がしたいがためのものだろう。
どうも仲間から念話で呼びかけられたっぽい。
俺が頷いて了承すると、そのまま固まってしまった。
だるまさんが転んだで遊んでいるかのようだ。
『思うんだけど、隙だらけだよな』
まあ、彼女の仲間が出てくる前もそうだったけどさ。
なんにせよ念話で会議中のフェルトたちを見ていると溜め息が出てしまう。
とりあえず一息つけることができた安堵によるものだ。
向こうは修羅場で、こちらは平和。
ちょっと可哀相な気もしないではない。
ただ、俺は何もしてないからなぁ。
勝手にビビられていることにはモヤッとするんだけど。
それでも口出しはしない。
余計に悪化することは充分に考えられるのでね。
「一苦労じゃな」
俺の溜め息を見てガンフォールが苦笑してくる。
「こういうの苦手なんだよ」
「そうじゃったか?」
「向こうが変に畏縮してるからな」
「それはあるのう」
苦笑するガンフォール。
「エリーゼ様の依頼だから勝手に話を進められないし」
俺の裁量でやっていいなら問答無用で連れ帰っている。
「それもあるのう」
「作ったり戦ったりの方が気楽でいいよ」
「同感じゃ」
そう言うとガンフォールは「ハハハ」と笑った。
『他人事だと思って……』
気楽なものだ。
だが、ガンフォールが間に入ってくれたから何とかなりそうなのも事実だ。
「サンキュー」
「何じゃな、急に?」
ガンフォールは目を丸くして聞いてくる。
それだけ意外だったということか。
「俺が説得を続けてたら、アイツら畏縮するだけで話は進まなかったはずだ」
それがガンフォールが出てきただけで問題が片付きそうなのは有り難い。
面倒くさいことをしなくて済みそうだし。
あれこれと考える手間も省けそうだ。
願わくば、このまま向こうの話がまとまってほしいものである。
「まだ結果が出た訳ではないぞ」
油断はできぬと言いたいのだろう。
そして礼など無用とも。
実にガンフォールらしいね。
「たぶん大丈夫だぞ」
嫌な予感はしないし。
「楽観的じゃな」
「悲観的よりはいいさ。
ダメならダメで、その時に考えりゃいい」
「……ふむ、それもそうか」
ガンフォールが納得したことで話が途切れた。
フェルトたちに動きはない。
念話に加わっていないその他大勢が不安そうにしているけど。
それを見てふと思いついたことがあった。
が、それを俺が実行するのは余計な混乱を生みそうで躊躇させられる。
「……………」
少し考えて実行するのは俺でなくてもいいかと気が付いた。
向こうの人数を考えると分担して動いた方がいいだろう。
俺は皆の方へ振り返ると手招きして呼び寄せた。
こういう時に練度の差が出るね。
古参の面子がシュバッと参上なのに対して新規組はワンテンポ遅れてしまう。
「主よ、何をするつもりじゃな」
全員が側に寄ってくるかどうかのタイミングでツバキが聞いてきた。
出番が潰れて暇を持て余しているようだ。
「大したことじゃない。
隠れ里から出てきた者たちの様子を見てきてほしいんだ」
「ここから見る限り妙なことはないようじゃが?」
「違う」
不思議そうに聞いてくるシヅカに答えたのは俺ではなくノエルだった。
「ハル兄は彼等が不安そうにしているのを気にしている」
「おお! なるほどの」
「それじゃあ声かけるだけでいいの?」
何か足りないでしょと言いたげにレイナが聞いてきた。
「とりあえず魔力回復のグミポーションでも配ってくれるか」
「それやったら疲労回復の方がええんとちゃうの?」
アニスが聞いてくるが、それは上策とは言い難い。
「疲労回復はダメですよー。
あちこちで騒ぎになりますー」
すかさずダニエラがツッコミを入れていた。
「なんでや……あっ」
聞き返そうとしてアニスも気付いたようだ。
「酸っぱいのに耐性があるとは限らんねやったな。
慣れてしもたから、うちらはどうってことないけど」
少し遠い目をするアニス。
どうなるかを想像しているのだろう。
「アカンわ、どう考えてもあちこちで騒ぎになりよる」
言うなり落ち込んでしまった。
双子たちが慰めに回ったので俺からはフォローしない。
「だが、魔力回復の方もどうなんだろうな」
そんな風に疑問を口にしたのはリーシャだった。
「味がどうこうよりも食べてもらえるだろうか」
畏縮している相手がビビって食べてもらえないのではないかと懸念している訳か。
「だから皆に動いてほしいんだよ。
俺だと畏縮されるのは間違いなさそうだし。
実際に目の前で食べてみせれば何人かは食べてくれるんじゃないか」
フェアリーは全滅かもしれんけどな。
ラミーナもいるから、そっちは大丈夫だと思う。
リーシャたちがいるから信用してくれるんじゃないかと期待してしまうのだが。
虫が良すぎるだろうか。
「そうなると我々は動かない方がいいかもしれない」
ルーリアが腕を組んで考え込むようにしながら呟いた。
「どうでしょうか?」
側にいたクリスが首を捻る。
「そこまで気にする必要はないでしょう。
逆に勘繰られたりするかもしれないし。
変に気を遣うより皆で堂々と動いた方がいいでしょうね」
エリスが即答した。
若いのに人生経験の豊富な人が言うと説得力が違うね。
思わず頷いてしまう。
そうすると俺の方へと視線が戻ってくるんだよな。
「いずれにせよ、俺は動かない方がいいだろう」
言い終わる前から皆の視線が同情的なそれへと変わっていくんですが。
まるで俺が涙目で訴えたかのようだ。
そんな事実はないんだけど。
「はいはい、そういうことだからお仕事はじめようか」
生暖かい視線を感じつつ皆が散らばっていくのを見送る。
「あ、マリカは残れよ」
俺にそう言われて振り返ったマリカが首を傾げること数秒。
「みんな、こわがる」
ハイフェンリルに戻った時の向こうの反応を思い出したようだ。
「ざんねん」
そう言いながら俺の方へと戻ってきた。
ションボリした感じはないがモフっておく。
フェルトたちが決断するまでは暇だし。
『そういや純田くんは、うんうん唸らなくなったな』
「結論は出たかな?」
ダメ元で声を掛けてみた。
「まだだね」
すぐに返事があるのは良かったが、葛藤は続いていたようだ。
本当に真面目な男だ。
人によっては重いと思うだろうけど。
「とりあえず保留することにした」
煮詰まってもしょうがないしな。
「あんな凄いもの見せられたら考えている余裕がない」
心当たりのあるマリカが純田くんを見上げる。
「ああ、マリカのこと?」
「そうそう」
純田くんは肯定するが、マリカはすぐに興味を失っていた。
大きなアクビをして仕事を始めた皆の方へ視線を向ける。
向こうは苦戦気味のようだ。
しょうがない。
初対面の相手と打ち解けることができる人間はそういないからな。
「まさか幼女が変身するとは思わなかった」
「逆だよ。
ハイフェンリルが人化しているからね」
「どっちにしてもスゲえって」
「あれは様子見のためのジャブだったんだがな」
「マジでぇ?
あれで序の口ってこと?」
興奮する純田くん。
何処にスイッチがあるのか、俺にも分からん。
幸いにして声の大きさは控えめだったので目立ちはしなかったが。
「のじゃ口調のお姉さんが龍だ」
「おおう、いきなりぶっ込んでくるね」
「ちなみに聖天龍っていう種族でかなりレアだ」
「種族名、カッケー。
なんか神様っぽい」
「うん、一歩手前の神獣と同格だよ」
「……マジスゲーな」
「それと同格の神霊獣もいる」
「だ、誰っ」
挙動不審な感じでうちの面子を目で追い始める純田くん。
「今は霊体化して俺の側にいるから見えないよ」
「それを先に言ってくれないと」
「そうかい?」
その後も色々と暴露してみたが、なかなか好評だった。
読んでくれてありがとう。




