387 戦う理由
修正しました。
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敵が俺の真似をしてきた。
御丁寧に色違いで5体分。
だけど仮面ワイザーEXE以外の4体は全部ノーマル。
「リサーチが足りんよ。
フレイムとダークネスぐらい出せよな」
無茶振りである。
俺のことなど今日ここで始めて知っただろうに。
過去のことを調べるなどできるはずもないからな。
もちろん分かった上でそう言っている。
簡単に言えば気に入らないのだ。
まるで子供の八つ当たりである。
だが、コイツら相手ならばそれでも構わない。
力押しで負けるから真似した上に数で勝負しようという発想が気に入らない。
「やってることがセコいんだよ」
黒いEXEの後ろに控えていた4体が一斉にガンセイバーを手にする。
示し合わせたかのように同じタイミングで飛び出してきた。
ひとつの意思で動いているかのようだ。
いや、実質的にアレは奴らではなく奴と言うべきなのだろう。
体は分裂してしまったが同じ思考が支配しているひとつの存在。
それが証拠に殺気はひとつしか感じない。
5体それぞれから感じるのに敵はひとつとしか認識できない奇妙なことになっている。
その疑問に対し【諸法の理】が回答した。
「……………」
単体の意思が複数の体を支配するとか言われてもな。
どうも感覚的に掴みづらい。
蟻やミツバチを想像してしまったが似て非なるものだというし。
「どのみちっ!」
襲いかかってきた1体目の攻撃を受けると見せかけてギリギリで躱した。
突っ込んできた勢いを殺しきれずに俺の脇を通り抜けていく。
「全部っ!」
2体目は逆だ。
躱すと見せかけてカウンターで回し蹴りを入れる。
背後で体勢を立て直そうとしている1体目に向けて飛んで行くように仕向けた。
「相手をっ!」
3体目に背を向ける格好になったが関係ない。
回し蹴りの勢いを殺さずにオーバーヘッドキックを繰り出す。
だが、これは察知されていた。
背後に視界がないと思い込む相手には有効な攻撃なんだがな。
コイツらは視覚に頼らない認識方法を持っているからこそ驚かない。
驚かないから隙ができない。
ものの見事に躱されてしまった。
だが──
「せにゃならんっ!」
そんなことは織り込み済みなんだよ。
ガンセイバーの2丁拳銃で3体目と4体目に氷弾を撃ち込んだ。
至近距離の3体目に命中。
したかに思えたが、ボディに着弾はしなかった。
ギリギリで氷弾が砕け散ったのだ。
砕け散った氷弾が冷気を放出。
ボディの表面を氷で包み込みかけるが氷の塊ができただけだった。
氷塊はそのまま海へと落下していく。
「やっぱりな」
コイツら小さくなった分だけ魔法制御力が増している。
「デカい図体は持て余していたってことだろ」
「……………」
返事はない。
戦いが始まってからただの一度も会話は成り立たなかったからな。
当然と言えば当然の結果だ。
もっとも、俺だって答えを求めての発言ではない。
とにかくコイツが最初に弱いと感じたのは事実。
これは巨体を持て余していたせいだと思われる。
では、なぜそんな姿をしていたのかという話になる訳だ。
まず言えることはクラーケンの記憶に引っ張られたということ。
欠片の灰と同化しているとはいえ記憶はそのまま引き継がれるからな。
大きい=強い。
それがクラーケンには染みついていた。
クラーケンに限ったことではない。
超大型で知能が高いとは言えない魔物にありがちなことだ。
天敵がいない。
縄張りの中で無双できる。
考えて理解しているというより本能的な認識と言うべきか。
それは強迫観念にも等しい。
更なる強さを求めるならば大きくなろうという意識が働くはず。
天敵がいないなら現状で満足したかもしれない。
だが、大きくなる前に人間に手傷を負わされていたらどうだろう。
恐怖と憎しみが過剰に人間を驚異だと思えば……
より強くとクラーケンが無意識で願ったとしても不思議ではない。
その結果、超弩級の大きさになってしまったと考えられる。
あくまで俺の推測だがね。
では、今の姿はどういうことか。
奴が巨大で居続けるための条件が崩れたというのが真相だろう。
俺という天敵に等しい存在が現れた。
今までまともに躱されることさえなかった攻撃のことごとくを回避され。
それどころか反撃を許し。
さらには、その反撃でダメージを受けた。
驚愕以外の何物でもなかっただろう。
混乱もしたはずだ。
比較的短い時間で大きい=強いを否定しなければならなかった。
著しいストレスだったはずだ。
だからこそ第2形態の中途半端な姿だった訳だ。
物理でダメなら魔法で。
魔法の制御をしやすい形態に。
サイズも形状も完全に己の考えを捨て去るには至らなかった。
一方でこのままではダメだという予感もあったのだろう。
明らかに守勢に入っていた。
まともな反撃すらしなくなっていったからな。
あれは観察し最適解を導き出すことに専念していた訳だ。
弱いと断じた俺をぶん殴りたい。
とにかく、奴は第3形態になった。
今は極限まで小さくなっているはずだ。
それが人型、しかも仮面ワイザーの姿を模倣しているというのは皮肉である。
「俺が成長を促進させたっていうのか?」
衝突を回避した1体目と氷弾を回避した4体目が緩急をつけて距離を詰めてきた。
「だったら責任は取らないとな」
迫りながら黒いガンセイバーを構える1と4体目。
「ほう」
撃ってくるか?
コイツらに遠慮などあるはずがない。
あるのは攻撃の意思のみ。
そのタイミングを狙いつつ、すぐに撃たないのは回避されることを計算してのことか。
そんなことを考えているタイミングで黒弾が射出された。
「おっと」
単発の射撃など当てる気がありませんと言っているようなものだ。
こちらからも光弾を撃って相殺させる。
「頭数で押し切ろうという意図が見え見えなんだよ」
3体目も向かってくる。
4体で同時攻撃するのかと思ったら3体で斬り掛かられた。
2体目は黒弾を撃ってくる。
「こんにゃろう!」
地味に避けづらい。
2体目の射撃がいい仕事だ。
ひとつの意思で制御されているだけはある。
だが、さすがとは言ってやらねえ。
黒弾を光弾で相殺しつつ格闘をこなす。
1体目の突きを半身になることで回避。
3体目の袈裟切りをガンセイバーで受け流した。
4体目はその隙を突くように背後から斬り付けてきた。
「死角の概念があるんじゃねえかよ!」
後ろ回し蹴りで斬り付けてきた手を蹴りつける。
そうすることで黒いガンセイバーの軌道は逸れ4体目も体を泳がせることになる。
これで少しは余裕が……
「なんてことはねえんだ、これが!」
蹴り終わりのもっとも無防備になる瞬間を狙って1から3体目までの射撃。
すぐに体勢を立て直した4体目までもが射撃に参加してきた。
「いっそがしいな、もう!」
1対4で撃ち合いとか冗談きつい。
全弾を相殺できない。
それこそが向こうの狙いなのは分かっているので、すごく腹が立つ。
「手数が4倍だと思ったら大間違いだ!」
光属性魔法で球体のシールドを作る。
これで捌ききれない黒弾をすべて消失させた。
向こうは構わずにガンガン撃ってくる。
シールドを突破するつもりらしい。
そこには意地と言うより憎しみがあった。
どうやら俺に海エルフへの憎しみを重ね合わせているようだ。
成長過程の段階での恐怖体験と今回の戦闘がシンクロしたのだろう。
恐怖によって著しく膨れ上がった憎悪がコイツの行動原理だ。
怖いと感じていたからこそ今までは陸地に近づかなかった訳だが。
強くなったと自覚してもトラウマは簡単には克服できないからな。
欠片の灰と同化してさえ、しばらくはコソコソしていたくらいだし。
海エルフを1人また1人と殺めるうちに恐怖を克服したのか。
あるいは憎しみが恐怖を上回ったのか。
もしくは他の理由があるのかもな。
正解に行き当たるまで追及するつもりはない。
とにかく強くなったコイツは陸地を目指した。
しかし俺に阻まれ再び恐怖を味わった。
「恐怖が奴を強くするってことか」
それだけではない。
高みの見物を決め込んでいる黒EXEを睨みつけた。
あれの魂胆は分かっている。
奴の第2形態のときと同じ発想だ。
俺を観察しているのだ。
観察することでより強くなろうとしている。
あるいは最適化しようとしていると言った方がいいのかもしれない。
何が必要で何が不要なのか。
それを見極めるために4体を切り落とされた触手と同じように捨て駒にしているのだ。
最強の体を残し、より強者を目指すために。
「そんなに人間が憎いかよ」
奴は海エルフに深い恨みを持って復讐するべく動いている。
どちらが悪い訳ではなかった。
生存競争に敗れそうになった奴が必死で生き延びた結果だからな。
それを欠片の灰にねじ曲げられた。
「同情はしねえぞ」
同化した時点でクラーケンではなくなってしまったからな。
元の自我は存在しない。
今のアレは殺戮マシーンだ。
邪魔者は完全排除。
そういうプログラムで動作する機械と言い換えてもいいかもしれない。
陸に向かうことを中断してでも俺と戦うのはそういうことだろう。
復讐心ですらプログラムの一部に置き換えられてしまっているのかもな。
もし、海エルフを全滅させたとしても恐らく奴は止まらない。
次は人間全般を対象にして復讐を続行するだろう。
「ここで止める。
俺が止める!」
読んでくれてありがとう。




