388 雑魚は任せた
黒EXEの方針が俺の戦い方を観察して吸収することであるのは間違いない。
残りの黒ノーマル4体が全滅するまでそうするだろう。
ということは理力魔法で球体シールドにしている現状も真似をされる恐れがあるってことだな。
『適当なところで突破されたと見せかけた方が良さそうだ』
あと、4体の相手が面倒くさい。
パワーは圧倒できるがスピードはそこまで差がない。
4体を同時に相手にするならばだが。
それを考えると1体ずつ倒すのは下策だと思う。
方針を変更されて1体を片付けた直後から黒EXEが動き始めると厄介だ。
間違いなくアレはパワーもスピードも4体より上である。
場合によっては4体まとめてより上かもな。
『ああ、面倒くさい』
思わず溜め息が漏れる。
その間もガンセイバーから黒弾を撃ち出してきているのでシールドがビリビリと震えていた。
あんまり頑丈にして真似されるのも鬱陶しいので徐々に弱めている。
それもあって連中はあと少しで破壊できるとばかりに向きになっているようだ。
『こいつらをどうにかできればなぁ』
せめて足止めできれば黒EXEと直接戦えるんだが。
陸にいるうちの子たちに助っ人を頼むという選択肢はない。
レベル300組なら黒ノーマルと差しで勝負できそうなんだけど。
少なくとも足止めくらいはできると思う。
ただ、呪いを使われると耐えられる保証がない。
今のところ使ってくる気配はないけどな。
が、先のことまでは読めない。
そんな中で一番の懸念事項は自爆攻撃だ。
自爆で単純に大ダメージを狙う程度ならどうにかできるんだが。
『ノエルだと、その攻撃でも厳しいものがありそうだがな』
亜竜を軽くあしらうことのできるノエルで危険と判断せざるを得ない。
ちなみにノエルの現在のレベルは180だ。
こうして考えれば黒ノーマルも決して弱い訳ではない。
そんな奴が自爆の代償として呪いを発動させるようなことがあったなら……
レベル300を超えているローズやシヅカも耐えられる保証がない。
同様にミズキやマイカもな。
最悪、呪いがかけられても生きていればどうにかできる。
解呪すれば助かるからな。
けれども即死なんてことになってしまえばアウトだ。
蘇生を試みようにも解呪を先に行わなければならない。
自爆と引き換えにするような呪いなら簡単には解呪できないだろう。
下手をすれば何日もかかることだって考えられる。
そうなってしまえば蘇生するのは無理だ。
結論。
『うちの嫁や守護組たちに、そんな危ない真似がさせられるかよ』
時間を稼ぐような戦い方をさせればいいという意見があるかもしれない。
それは自爆の条件にもよるな。
累計ダメージが一定以上になった。
一度の攻撃で大ダメージを受けた。
これだけなら時間稼ぎは有効かもしれない。
だが、もっと細かな条件付けがされていたら?
残存魔力が一定値を切った。
武器が破損したり手元から無くなった。
時間経過や攻撃回数で。
増援があった時点で。
他にも多々あるだろう。
条件を組み合わせてということも考えられる。
それを考えれば完全に条件を読み切るなんてできる訳ないだろ。
俺が自分を実験台にすれば少しは判明するかもだが。
そこまでしても戦闘終了までに、ひとつかふたつ判明すればいい方だ。
色々と条件を仮定してチマチマ検証するとかやってられん。
『面倒くせえだろうが』
そんな真似するくらいなら、とっとと黒EXEを始末して終わらせる。
まあ、アレを片付けても黒ノーマルが止まったり消えたりはしないだろうが。
それに自爆覚悟で特攻でもされたらシャレにならん。
『ああー、コイツらみたいに体が沢山あればなぁ』
思わず心の中でぼやいてしまう。
奴のように体を分裂させるなんて真似できないが体さえあればどうにでもできる。
【多重思考】と【天眼・遠見】を組み合わせれば……
そこまで考えたとき俺の中を駆け抜けるものがあった。
『そうだよ!
別に生身でなくていいじゃないか』
せっかく変身スーツのバリエーションは各種あるんだし。
あれらを使わない手はない。
前に使ったことのあるフレイムとダークネス。
力強さを意識したトルネード。
そして海での戦闘をイメージしたオーシャン。
他にもあるけど、今回はこれでいいだろう。
『問題が無い訳じゃないが……』
まず中身がないせいで重心バランスが狂うんだよな。
同様に軽くなるから格闘戦でそこを意識して制御する必要がある。
中に重りを詰め込んだ方が楽に動かせそうだ。
『水でも入れておけばいけるか』
何かが違う気がしたが、もうあまり余裕がない。
黒弾の猛攻がそろそろ仮設定したシールドの限界値に近い。
これは考える時間を稼がないとダメそうか。
『しょうがないな』
少しの間だけでも空中空母の防衛戦力を使うか?
「あ」
思わず声を漏らしていた。
変身スーツの中を埋めるための中身ならいくらでもあったんだよ。
自動人形だ。
『なんで、こんな単純なことに気付かなかったんだ』
空っぽなら自動人形で埋めればいいんじゃないか。
基本サイズが俺と同じものはないけどな。
が、訓練用や偵察用はサイズ変更ができる。
もちろん、背格好を俺に近づけることも可能だ。
そんなことも失念するとか、あり得ない話だろう。
自動人形なら他のもので埋めるよりメリットもある。
俺が操って戦わせれば実戦で戦闘データが得られるからな。
『俺、アホすぎだろ』
すぐに倉庫の中で準備する。
「……っと」
タイミング良すぎだろってくらいギリギリだった。
黒弾が強度を仮設定したシールドを破壊。
その瞬間、シールドの表面で爆発が発生する。
最初から設定していた目眩まし用だ。
派手に光と煙と轟音を撒き散らす。
当初の予定では、そのどさくさに紛れて転送魔法で脱出するつもりだった。
転送魔法で脱出は予定通り。
だが、俺のいた場所に仮面ワイザーのバリエーション4体を引っ張り出す。
シールド破壊後も飛んで来る黒弾のうち至近距離のものは爆発の余波で破壊された。
そしてそれ以降の黒弾はバリエーションたちに破壊させていく。
煙の中から現れた対抗者たちに奴もわずかながら動揺を見せていた。
ほぼ一瞬のことだったが。
それでも驚きを見せた。
破壊を確認した直後に俺と思しきものが姿を変え4人に増えていたからな。
これが人間だったら、もっと驚いていたことだろう。
そういう隙を見せてくれれば一気に片付けたんだがな。
どのみち、これで互角以上に戦える。
『これでもう多勢に無勢の状態には持って行けないぞ』
タイマン勝負だからな。
1対4の時と違って黒弾は完璧に封殺。
通用しないと見て取った黒ノーマルたちは近接戦闘に雪崩れ込もうとしていた。
『そっちは任せたぞ、俺』
俺は黒ノーマルたちに対応するために呼び出した俺たちに声を掛けた。
『任された、俺』
『任務了解』
『もちろんだ』
『とっとと終わらせようぜ』
さすがは俺、別々の返答をしてくるとは芸が細かい。
などと感心している場合じゃない。
太陽を背に黒EXEの頭上から斬り掛かる。
奴は大きく飛び退いた。
そこに動揺は見られない。
「これで数の上でも同じになったな」
背後からは激しい剣戟の音が聞こえてくる。
各担当の俺が処理しているが、その気になればどんな状況下は把握可能だ。
しかし、今は目の前のコイツに集中すべきだろう。
俺の声掛けなど無かったことのように黒EXEが踏み込んでくる。
「ちっ」
やはり速い。
最初に弾き飛ばされた時よりもスピードが増している。
黒ノーマルどもとは段違いだ。
懐に潜り込んでの格闘戦かと思ったが単にタックルだった。
俺は上に跳び上がって回避する。
『やりづらい』
速い上に読みづらい相手だ。
不発となったタックルの勢いを殺さず、奴は前転で向きを変えた。
そのまま俺の方へと突っ込んでくる。
今度はガンセイバーを使ってきた。
俺もそれに応じて斬り結ぶ。
派手な剣戟の音を響かせながら斬り合っていく。
残像を残した腕が無数に見えるほどに。
にもかかわらず互いに有効な一撃がない。
同じ速さで同じ動き。
まるで鏡の中の自分と戦っているかのように。
互いの攻撃が相手のそれを弾く格好となっていた。
わずかな時間で何度斬り結んだことだろう。
ついには鍔迫り合いとなった。
「くっ」
思わず声が漏れる。
『パワーまで互角かよ』
ぼやきたいのを我慢して力比べに持ち込む。
ここで変化があった。
ただし、力で相手を押し込んだ押し込まれたという話ではない。
「なにっ!?」
ブレードモードの刀身に黒い刃が食い込んだのだ。
『失敗した』
黒EXEの方が注ぎ込んだ魔力が多かったのだ。
「なんとぉ!?」
咄嗟に体を斜めにずらしながら急降下した。
ヒュッと肩口をギリギリで黒い刃がかすめていく。
もちろん、こちらのガンセイバーの刀身は切り落とされている。
追撃は来ない。
思い切って距離を取ったからな。
一旦、ガンセイバーをガンモードにして聖炎弾を撃ち出すが黒弾で相殺された。
『ふむ』
だが、聖炎弾は有効なようだ。
こちらの1発に対して向こうは3発を費やしていたからな。
それでも本体に有効かどうかは怪しいところだ。
牽制にはなっても致命打は与えられそうにない。
俺はガンセイバーを再びブレードモードにした。
それだけで刀身は復活する。
「第2ラウンドと行こうぜ」
読んでくれてありがとう。




