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罪な人魚の都落ち  作者: 闍梨
第四章
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カタコト、トールボット

「いらっしゃーい! いらっしゃいませー! フランクフルトー、安いですよー!」


 活気があるのはいい事だ。だが、どうだ? お客さんが少ない。フランクフルトなんて一人一本買えば上等だ。一人で二本も三本も食べるようなものではない。お昼時になって人間も徐々に増えてきているものの、未だ売り上げ数は五十本に満たない。


「いっ! イラっしょいマセー! どどど、ドデスカー? フランクフルトオイシヨー!」


 ジルは緊張からか、物凄いカタコトになっていた。こっちの方が留学生らしくていい。俺は心の中で笑ってやった。

 俺と楠宮はフランクフルトを焼く係りで、九時から休みなしで働いている。模擬店をやるクラスは中庭に店を出すので、外から来たお客さんを捕まえやすいのだが、俺達はかなり暇をしていた。


「楠宮ー。暇だなー」


「本当だーなー。しかし、いいもんだな。色んな学校の女子達も来てる。ほらあの子なんか可愛いじゃあないか! あっちには綺麗なお姉さんもいる! OGかもなぁ! あっちの方には----」


「お前、疲れないか?」


「何が? 祭なんだぜ? 海。楽しまなきゃあ損だろ! 昔からよく言うだろ? 笑って暮らすも一生、泣いて暮らすも一生ってな」


「…………」


 ドイツの格言だな。しかもフランクフルトに掛けているジョークなのだろう。少し面白かったのがしゃくに触り、俺は黙っていた。伝家の宝刀だ。


「現見ー! そろそろ休憩いいぞー」


俺は受け付けに居る現見にそう言ったが、現見は透き通る声で、笑顔で反対した。


「みんなが休憩行かないなら私も行かないよ。銛矢君も、楠宮君もまだ休憩していないでしょう? 休憩するならその時にする。四人でまわろうよ! 駄目かな?」


 現見にそう言われてしまっては返す言葉がないな。流石、現見京子。やはり、「天使様」だ。


 俺達四人は、一時間の休憩を貰った。俺はジルをかばう為に今日、明日働きづめなのだが、気のいいクラスの男子(楠宮の友達)が四人、変わってくれたのだ。感謝だな。


「アタシ、あれ食べたい。海、買ってきてよ!」


「はぁ? 面倒臭いなー。うげ……。『沖縄そば』かよ。めちゃくちゃ人並んでるじゃあねーかよ!」


「行ってあげなよ。銛矢君」


 現見が笑顔で言ったが、俺は食べたいものが決まっていたので、現見に反発せざるを得ない。


「いや、悪いが現見。俺は食べたいものがあるんだ。この文化祭の唯一の楽しみと言って遜色そんしょくない」


「へぇ、意外だなー。銛矢君、お祭り騒ぎとか嫌いそうなのに……」


「失礼だな! 俺だって騒ぎたい時もあるさ。大体、お祭り騒ぎが嫌いそうってどこで判断したんだよ? 現見」


「んー? 顔?」


「ショーック!」


 現見にひどい事を言われてしまった……。

 本気で立ち直れないかもしれないな。


「うああ! ゴメンね銛矢君っ! 今のは何て言うのかな、魔がさしたっていうか、ノリと言うか……」


「いや、いやいやいや。いいんだ、現見。俺は俺の道をゆく。幸せになってくれ----ガハッ」


「うおおおお!? かあああああああああい! しっかりしろ! お前が……お前が死んだら、これから誰がツッコむんだよおおおおおおお! 死なないでくれえええええ」


 俺ツッコミ要因だったのか。

 酷い友人を持ったものだ。

 しかし、祭りの空気に当てられ少しテンションがおかしかったのは事実だ。許せ楠宮。


「そんな猿芝居はどーでもいいんだけど、海の言ってた食べたいものって何なのよ?」


 ジルが冷たくそう言った。棘があるというか何と言うか……。こいつは自分の興味の無い事には全くの無関心だな。協調性という言葉を知らないのだろうか。

 そう思いながら俺はジルの刺々しい質問に、「くくっ」と笑ってから言った。


「いいかよく訊け! 今回の模擬店の目玉であるクレープを俺は買いに行こうと思っている!」


「…………」


「…………」


「…………」


 一同沈黙の後、俺は首を限界までかしげ、みんなに『聞こえるように』もう一度言った。


「いいかよく訊け! 今回の模擬店の目だ----」


「海、大丈夫。訊こえてる」


「銛矢君って案外可愛いもの好きなんだね」


「…………」


 楠宮は何も言わなかった。俺おかしい事いったか? なんだよ、三人して同じような顔しやがって。


「じゃあ海のおごりね」


「どしてそうなる!?」


 結局四人分のクレープをジルのせいで奢らなくてはならなくなった。俺の財布のHPはもう殆ど無かった。



 短い休憩を終えて、三年一組の売り場に戻った俺達はエプロンをつけ、三角巾を装着して仕事に戻った。


「フランクフルト、まだ百本いかねーな」


 楠宮は元気無げに呟き、まだ数十本フランクフルトが入っている発泡スチロールの箱を見ながら、肩を落としていた。

 昼時で数を伸ばしてはいるものの、なかなか本数が増えない。値下げを考えた方が得策かもしれないな。受付にいる現見の背中に、

俺は声を掛けた。


「なあ、現見。値下げしたら売れる本数増えるか?」


 現見はこちらを振り返り、キュートなおでこに手を当てて考える仕草を見せ、言った。


「値下げは一日目からするのは原価的に破綻すると思うなぁ。一日目に確認したいのは、お客さんの入りと買っていただいた年齢層だから、ん~。値段を落とすにしても明日の朝からでも遅くはないと思うよ」


「そっか。現見がそう言うんなら間違いないんだろうな。じゃあ値下げは明日からか」


 それにしても、一本二百円は高過ぎるのではないかと思いながら、俺は作業に戻る。


「うん。とりあえず、今日一日を頑張って乗り切ろう! いらっしゃいませ~! フランクフルトおいしいですよぉ~。どぉーですかぁー!」


 すぐさま声出しに戻るところが健気で可愛いなあ。必死な現見を真近で見れてラッキーだ。ジルもなかなか様になってきたんじゃあないかと思う。現見の見よう見まね、聞きよう聞きまね、言いよう言いまねではあるが自然と声が出ているように思う。


 さてさて、一日目は六百分のいくら売れるのだろうか。中庭のステージでは変なお面をかぶっている人が踊っていた。

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