積まれた箱と世紀末
藤峰祭一日目。
事件は朝から起きる。
「何なんだ……。これは」
模擬店の前に、大量に積まれている発泡スチロール製の箱の山を見ながら俺は言った。
「ええと、確認しよう。この箱一つに何本入ってるんだ? 楠宮」
俺より少し前に到着していた楠宮は顔を硬直させながら答えた。
「ひゃ、ひゃく……って、書いてある」
「オーケイ。理解した。それで俺たちがさばく予定だった本数は?」
楠宮は両手を顔に当てて、肩を震わせながら言う。
「ふ、ふっ……二日で、二百」
「ほほう、ではこの山は何なのだろうな。どうして、箱が……。六箱もあるんだ?」
「…………っぷ。くくっ」
「てめえ! 笑いごとじゃねーぞ!」
泣いてるのかと思ったよ、ったくこいつは。
「で、張本人はどこいきやがった?」
「今皆に謝りいれてる……。多分……教室」
「はぁ、仕方ねえなったく」
教室に上がり、ドアを開けると何とも言えない緊張感が漂っていた。
ジルが床に正座し、周りを女子たちが囲んでいる。その中でリーダー的なイケイケの女生徒が口を開いた。
「あんた、これどうするつもりよ」
「…………」
「二日で六百本売れると思ってるわけ!? あたしたちの最後の文化祭を滅茶苦茶にしたいの?」
「ちがっ……い、ます」
取り巻きの一人がリーダー的な女の子の後ろから言う。
「こんなぶっ飛んだ事してくれるなんてね~。男子に人気あるからって、調子に乗り過ぎよ」
「…………」
ジルは下唇を噛み悔しそうにしていた。
俯いていたからハッキリとは、わからなかったのだけれど。
「だいたいさぁ、あんた謝って済むとか思ってるわけ? 留学生はイイわね~。お気楽、自由で」
「…………」
「いつまで黙ってんのよ。何とか言ったらどうなのーーーーっよ!」
ジルの髪を掴んで、俯いている顔を上げさせるイケイケの女生徒。
ジルは泣いていた。
俺はこれ以上はまずいと思い止めに入ろうとした。すると、俺より少し早く動いている人間がいた。
「やめてっ! ジルちゃんは必死に文化祭を作ろうとしてくれていたんだよ? 皆と仲良くなれるかもって……。張り切ってたの! なのに、なのに! こんな事するなんてひどいよっ!!!」
現見がそう言って止めに入った。ジルの髪を掴んでいる右腕にしがみつき、引き離そうとする。
しかし、女子たちはそんな現見の言葉に耳を貸さない。
イケイケの女生徒は現見にこう吐き捨てた。
「イインチョは黙ってりゃいいのよ!」
パチィィィン
静まり返る教室にそんな音が響いた。
イケイケの女生徒の右手がジルの頭を離れ、現見の頬を打った。
ワザとでは、ない。
だけど、許せない。
許せなかった。
俺はいつ自分が動いたのか分からないほど逆上していただろう。
殆ど記憶と言えるモノは吹き飛んでいた。
「このクソ×××があああああああああ!!!!!!!!!!」
俺がイケイケの女生徒に全速力で飛びかかろうとした瞬間、ふわりと、何かが宙を舞った。
俺は教室の中央からドアの付近までぶっ飛ばされた。多分、殴られて、だ。
「男が、女に手ェあげるもんじゃあないよ。銛矢。でも、止めに入ったことは認める。赤点回避だな」
俺にそう言ったのは、みゃーちゃんだった。騒ぎを聞きつけて職員室を飛び出して来たようだ。
俺は立とうとしたが、身体が全く動かない。口も、動かない。
ぶっ飛ばした俺を無視してみゃーちゃんは教室中に響く声で言った。
「あんた達もだよ! どうしてこんなことになったのさ。あんたらもう十七、八なんだろ? 考えろ! こんなことわざとやるやつがいンのか!? 特に黙って見てた童貞ども! お前らが一番食えねぇ。責めるなら責める。庇うなら庇う、はっきりしやがれ!」
みゃーちゃんの本性というか、怒ったこの人はこんな感じだ。口が悪く、品がない。
けれど、人を引っ張るチカラのある言葉。
女性だけれど、格好いいなあ。
「たかが六百本がどうした! 完売して、皆で美味い飯でも食いに行こうぜ! 出来ねえ、出来ねえって最初っから諦めるようにいつあたしが教えた? そんなこと言う奴に教育を受ける権利も、義務もない! そんな人間失格はあたしの、この一組には居ねえーーーーっ!!!」
気がつくと、皆教室の床にへたり込んでいる。みゃーちゃんの威圧感、説得力、オーラ、その他諸々に感情を奪われたようだった。
教室の中で立っているのはみゃーちゃんだけになっていた。一言でまとめるなら『世紀末』ってところだ。
俺はドアの近くにぶっ飛ばされたので、外が騒がしいのが分かる。もう三十分後には開場だ。
その喧騒に負けず劣らず大きな鼻歌を歌いながら近づいてくる者がいた。楠宮だ。
「ふんふふん、ふーーんん。おーいみんなぁ! そろそろ行くぞ。俺たちも準備しねーとーーーーってなんだこの状況」
驚く楠宮に俺は言ってやった。
「これが、『世紀末』ってやつさ」
「ああ、だいたい何があったか分かったよ。分かる、気がする」
なんとかこの場は収まったが、問題が解決したわけではない。俺たちはこれから、六百という数のフランクフルトを売りさばかなくてはならないのだ。
本当にそんなこと出来るのだろうか……。




