雨の日に、君の感情が花開いた
[アラタ]
二ヶ月が過ぎた。
(……)
もうそんなに経ったのか。
(……)
今日は6月10日。
(……)
小雨が降っている。
[ハル]
「やあ、アラタ。
待っていてくれてありがとう」 —ハル
「どういたしまして。
喜んで。」 —アラータ
「散歩しよう。」 —ハル
(……)
二人は歩き始める。
(……)
僕……
自然と彼女の歩調に合わせて歩いていた。
「話したいことがあるんだ。」 —アラータ
「いいよ。」
「今日は何も考えなくていいんだ。」
「この美しい雨の日を、二人で楽しもう。」 —ハル
【アラタ】
「この数か月。
本当にいろいろあったね」
「そうね。
大会もあったし。
新しい友達もできた」――ハル
(……)
僕の気持ちも。
(……)
少しずつ。
君へ向かっていた。
「本当に。
激戦続きの数か月だった」
「他の人より。
あなたが一番大変だったんじゃない?」――ハル
(……)
でも。
君はいつも。
そこにいてくれた。
(……)
どんな時も。
「ハル」
「僕の人生にいてくれて。
ありがとう」
「アラタ。
泣かないで」――ハル
「君がそばにいてくれて。
本当に幸せなんだ」
【ハル】
泣きそう。
(……)
幸せ。
(……)
この言葉を聞いて。
胸が熱くなる。
「大会が終わった後。
セイジはサキに告白したんだ」
「そうか。
姉さんは昔からセイジのことが好きだったんだな」――アラタ
(……)
気持ちは分かる。
(……)
言葉にするのは。
怖いよね。
「あの頃は。
楽しかったね」
【アラタ】
君のおかげで。
素敵な時間だった。
(……)
「この場所。
覚えてる?」
「ああ。
あの日の花見と。
あの日のこと」――ハル
(……)
ここで。
気づいたんだ。
(……)
あの抱擁が。
どれほど大切だったのか。
(……)
今度は。
僕が返したい。
【ハル】
(……)
胸が。
激しく鳴っている。
(……)
彼の腕が。
私を包み込む。
「アラタ……」
彼の名前を呼ぶことしかできなかった。
「ハル」
「あの日から。
君を愛していた」
「愛してる」――アラタ
(……)
その優しい声が。
耳に響く。
(……)
「私も。
愛してる」
【ハル】
私たちは別れた。
(……)
それなのに。
(……)
まだ手をつないでいる。
(……)
胸がドキドキする。
彼は。
私の目をまっすぐ見つめていた。
「ハル」
「あの日。
君が倒れた僕を支えてくれた時から」
「君は。
僕の心の中に入ってきた」
「そして。
ずっとそこにいてくれた」
(……)
「だから。
これからも」
「僕の隣を。
一緒に歩いてくれないか」
(……)
彼は。
私に想いを伝えてくれた。
(……)
胸が。
張り裂けそうになる。
「もちろんだよ、アラタ」
「私は。
あなたのそばにいるために。
ここへ来たんだから」
【サキ】
なんて綺麗なアジサイなんだろう。
(……)
でも。
今感じている幸せは。
花よりもずっと眩しい。
「サキ、どうしたの?」――セイジ
「何でもないわ。
ただ、この瞬間のことを考えていただけ」
(……)
これがいつまで続くのかは分からない。
(……)
それでも。
今は幸せ。
「セイジ。
あなたはずっと私のそばにいてくれるよね」
「約束しただろ」
「あの時、そばにいられなかったことは。
今でも後悔してる」――セイジ
「セイちゃん。
あなたのせいじゃないわ」
「あなたは私を守ってくれた」
「だから。
私の方こそ感謝してるの」
(……)
涙がこぼれる。
(……)
彼はまだ。
あの日のことを背負っている。
「サキ」
「君を守れてよかった」
「今こうして。
二人でいられることが」
「何より嬉しいんだ」――セイジ
(……)
その言葉を聞いて。
胸が温かくなった。
(……)
きっと。
私はずっと忘れない。
この雨の日も。
このアジサイも。
そして。
彼が隣にいてくれたことも。
無理に押し付けたくない。
(……)
まだ早すぎる。
(……)
彼を失ってしまうかもしれない。
「あなたを失うのが怖い」
「どうしてそう思うんだ、僕のアジサイ」――セイジ
「無理に近づきすぎて、あなたに嫌われてしまうのが怖いの」――サキ
(……)
それは無理もない。
【セイジ】
(……)
君を忘れることの方が、ずっと怖い。
「君を忘れるなんて、絶対にありえないよ」――セイジ
「そう言ってくれて嬉しいわ」――サキ
雨音だけが静かに響く。
二人はゆっくり歩き続けた。
「もう僕の家に着いたよ」――セイジ
(……)
サキは足を止めた。
アジサイの花に落ちる雨粒が静かに揺れている。
「ただいま」――セイジ
「おかえりなさい」――母
(……)
ドアが開く。
「こんにちは」――サキ
「あら、サキちゃんじゃない」――母
「お久しぶりです」――サキ
「そんなにかしこまらなくていいのよ」
「メイアって呼んでちょうだい」――母
(……)
相変わらず優しい人だ。
(……)
昔から変わらない。
「メイアさん、お元気そうですね」――サキ
「ありがとう」
「あなたも元気そうで安心したわ」――メイア
(……)
母はサキを見ると。
いつも少し嬉しそうになる。
「セイジの面倒を見てくれてありがとう」――メイア
「そんな」
「私の方こそ助けられてばかりです」――サキ
「ふふっ」
「二人とも昔からそう言うのよね」――メイア
(……)
顔が少し熱くなる。
「お母さん」――セイジ
「何よ」
「余計なこと言わないでよ」――セイジ
「ごめんなさいね」
「でも、二人が仲良くしているのを見ると嬉しいのよ」――メイア
(……)
その言葉に。
サキは小さく微笑んだ。
【サキ】
私の不安は。
まだ消えていない。
(……)
「お母さん」
「僕、サキと付き合ってるんだ」――セイジ
(……)
顔が熱くなる。
(……)
本人の口から聞くと。
やっぱり恥ずかしい。
「サキちゃん」
「あなたで本当に良かったわ」――メイア
「私も同じ気持ちだよ」――父
「セイジには君が必要だった」
(……)
優しい言葉。
(……)
それなのに。
胸の奥の不安は残ったまま。
「サキ」
「その悲しそうな顔はどうしたの?」――メイア
(……)
隠せない。
「彼を失うのが怖いんです」
静寂が訪れる。
雨音だけが聞こえる。
「サキ」
「聞いてほしい」――父
「医師からも確認されている」
「セイジの記憶が失われる心配はないそうだ」
(……)
本当に?
「それにね」――メイア
「息子を私たちのところへ戻してくれて」
「本当にありがとう」
「私たちはずっと感謝しているのよ」
(……)
涙がこぼれそうになる。
(……)
私は。
一人じゃなかったんだ。
【サキ】
電話が鳴る。
(……)
葵からのメッセージだった。
『ねえ、うちに来てくれない?』
(……)
どうしたんだろう。
「ごめん、ちょっと待って」
「サキ、何かあったの?」――セイジ
「うん。
葵が家に来てほしいって」
「セイジ。
サキをバス停まで送ってあげて」――メイア
「うん、分かった」――セイジ
(……)
なんて優しい家族なんだろう。
「メイアさん。
お父さん。
今日はありがとうございました」
「いいのよ」
「この家はいつでもあなたを歓迎するわ」――メイア
【セイジ】
バス停へ向かう。
(……)
さっきより。
サキの表情は穏やかだった。
(……)
もう少しだけ。
こうして歩いていたい。
「セイジ」
「どうしたの?」――セイジ
「私ね」
「あの日からずっと。
あなたのことが大好きだった」
(……)
胸が温かくなる。
「僕も」
「ずっと君を愛していたよ」
「僕の美しいアジサイ」――セイジ
バスが到着する。
(……)
別れの時間。
「無事に着いたら連絡してね」――セイジ
「うん」
「連絡するね、セイちゃん」――サキ
ドアが閉まる。
(……)
走り出すバス。
窓越しに手を振る彼女が見えた。
(……)
雨はまだ降っている。
それでも。
今の僕には。
世界が少し明るく見えた。
【葵】
私の心は。
もう溢れそうだった。
(……)
「来てくれてありがとう、サキ」
「どうしたの、アオイ?」
「すごく緊張してるみたい」――サキ
(……)
もう限界だった。
「この気持ちを。
これ以上隠していられないの」
(……)
彼を見るたびに。
(……)
抱きしめたくなる。
「斉藤くんのことね」――サキ
「やっぱり気づいてたのね」
「気づかない方が難しいわ」
「彼を見るたびに笑顔になってるもの」――サキ
(……)
そんなに分かりやすかったんだ。
「断られるのが怖いの」
(……)
怖い。
本当に怖い。
「アオイ」
「私が弟のことで学んだことを教えてあげる」――サキ
「何?」――葵
「答えが分からないまま悩み続けることと」
「勇気を出して答えを知ること」
「どちらがあなたにとって苦しい?」――サキ
(……)
答えを知らないまま。
悩み続けること。
(……)
それとも。
気持ちを伝えること。
(……)
私は目を閉じた。
そして。
小さく笑った。
「ありがとう、サキ」
「今度彼に会ったら。
ちゃんと伝えてみる」




