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「君に近づきたい」

日曜日


【アラタ】


ハル、


すごく良かったな。


(……)


あのブロック。


(……)


それに、


あのサーブポイント。


「ねえ兄ちゃん、



何考えてるの?」――サキ


「何でもないよ」――アラタ


「何でもなくないでしょ。


すごく考え込んでるじゃない」――サキ


(……)


昨日の試合か。


「あ、


そうだ。


昨日のことで話があるんだけど」――サキ


(……)


何だろう。


「何の話?」――アラタ


「花田ハルが、


ずっとスタンドから兄ちゃんを見てたよ」――サキ


(……)


あそこにいたんだ。


(……)


知らなかった。


「まあ、


普通のことじゃないか?」――アラタ


「それに、


兄ちゃんが1位になった時、


ハル先輩、


すごく嬉しそうだったよ」――サキ


(……)


嬉しそうだった。


「それに、


『アラタ!』って叫んでた」――サキ


(……)


僕の名前を。


(……)


叫んだ。


「ほら、


ここまで証拠が揃ってるじゃない」――サキ


(……)


そうなのかな。


「お兄ちゃん、


二人の間には何かある気がする」――サキ


(……)


何を言ってるんだ。


「それは、


少し早い結論じゃない?」――アラタ


「早くないよ。


二人とも分かりやすいもん」――サキ


(……)


ハルは。


(……)


僕にとって。


(……)


何なんだろう。


「そういえば、


花見の時、


倒れそうになった僕を


ハルが抱きしめて支えてくれたんだ」――アラタ


「えっ、


ハル先輩が突然?」――サキ


「うん。


それに、


言葉も残ってる」


「どんな言葉?」――サキ


「私のそばにいてくれるって」――アラタ


(……)


サキは黙った。


「お兄ちゃん」


「何?」――アラタ


「それ、


ハル先輩が本当にお兄ちゃんのことを


気にしてるってことじゃない?」――サキ


(……)


気にしている。


(……)


ハルが。


(……)


僕を。


(……)


あの抱擁は。


(……)


本物だったんだ。


(……)


だから、


僕を支えてくれた。


(……)


ありがとう。


(……)


ハル。



【ハル】


その日の昼休み


(……)


さっきの気持ち。


(……)


何だったんだろう。


(……)


安心感?


(……)


それとも、


満足感?


「ハル、


考え事してるでしょ」――ユナ


「うん、


なんだか機嫌よさそう」――アカリ


「何でもないよ」――ハル


「なんで否定するの?」――ユナ


(……)


何を否定してるんだろう。


「石神が勝った時、


嬉しそうだったよね」――アカリ


(……)


頭から離れない。


(……)


あの抱擁が。


「ねえ、


あの時の抱擁って、


ただの抱擁じゃなかったんじゃない?」――アカリ


「どういう意味?」――ユナ


(……)


何かがあった。


(……)


でも、


上手く言えない。


「抱きしめた時、


離したくなかったの」――ハル


二人は黙った。


「それで?」――アカリ


「分からない。


あの感覚が何だったのか」――ハル


(……)


思い出す。


(……)


彼の温もり。


(……)


彼の鼓動。


「ただ、


すごく安心したの」――ハル


「安心?」――ユナ


「うん。


今まで感じたことがないくらい」――ハル


(……)


あの時。


(……)


ただ、


そばにいたかった。


「それ、


もっと特別な感情かもしれないね」――アカリ


(……)


特別な感情。


(……)


そうなのかな。



月曜日


1時間目の休み時間


【アラタ】


「やあ、みんな元気?」――サイト


「うん、元気だよ」――アラタ


「セイジ、


回復はどう?」――サイト


「少しずつ思い出してきているよ」――セイジ


(……)


よかった。


(……)


セイジ。


「無理しないでね」――サキ


「うん、


ありがとう」――セイジ


(……)


また始まった。


「ねえ、


あなたたちって仲いいの?」――アオイ


(……)


もちろん。


(……)


昔から。


(……)


ずっと。


「うん。


子供の頃からの友達だから」――サキ


「へえ、


そうだったんだ」――アオイ


(……)


友達。


(……)


その言葉だけじゃ、


足りない気がする。



「おい、


花田がこっちに来てるぞ」――斎藤


斎藤の言う通りだった。


(……)


ハル?


(……)


どうしたんだろう?


友達と一緒に


こっちに向かってくる。


「石神さん、


私たちも一緒にいい?」 —あかり



【ハル】


なんてストレートなんだ。


(……)


昔からそうだった。


「僕としてはいいけど、

何て言えばいいか分からないな」――アラタ


(……)


アラタくん。


(……)


なんて紳士なんだろう。


(……)


もっと近くにいてあげる。


「私としては問題ないわ」――サキ


「僕たちも大丈夫だよ」――みんな


(……)


やっと。


(……)


入れた。


「うん、カラオケに行こう」――ユナ


(……)


えっ?


私の友達、


どうしちゃったの?


(……)


何か企んでる。


「いいね」――セイジ


「もちろん、行こう」――みんな




【チェスの対局】


アラタ


カガルのユナ(セイル学院)



マヤラのキョウコ(埼玉学院)


(……)


これからだ。


(……)


長い対局になる。


対局開始。


駒が静かに動く。


(……)


互角だ。


(……)


いや。


少しずつ、


ユナが主導権を握っている。


時間が過ぎる。


「チェックメイト」――ユナ


会場がざわつく。


「勝者、


セイル学院のカガル・ユナ!」――審判



【セイジ】


次は僕の番だ。


「サラチ・リウ(タラナ高校)対 タヤミラ・セイジ(セイル高校)」


(……)


集中しろ。


(……)


君ならできる。


対局開始。


駒が動く。


(……)


しまった。


(……)


少しミスした。


リウが前に出る。


(……)


まだだ。


ビショップを動かす。


「チェック」――セイジ


キングが逃げる。


(……)


読めた。


(……)


もし僕が相手なら、


クイーンをここへ置く。


(……)


そして。


(……)


チェックメイトだ。


「チェックメイト」――セイジ


「勝者、セイル高校のタヤミラ・セイジ!」――審判


「いい手だった」――アラタ


「ブラボー!」――みんな


サキが駆け寄ってくる。


(……)


ああ。


(……)


この笑顔だ。


「よくやった、セイジ!」――サキ


サキが僕を抱きしめた。


(……)


温かい。


(……)


勝ててよかった。



【アラタ】


「第3ラウンド


セイル高校・石神新



ラマダ高校・古賀小樽」


(……)


僕の番だ。


(……)


始めよう。


対局開始。


古賀の先手。


(……)


典型的なオープニングだ。


クイーンの道を開く。


(……)


なら。


ナイトから始める。


時計を押す。


数手後。


相手がビショップを展開する。


(……)


予想通り。


もう一方のナイトを動かす。


(……)


ビショップに圧力をかける。


時間が過ぎる。


15手目。


(……)


残り時間が少ないな。


相手は焦り始めている。


(……)


僕の番だ。


ルークを動かす。


「チェックメイト」――アラタ


「勝者、


セイル高校・石神新!」――審判



「さすがキャプテンだな。


いつも時間を支配してる」――宇多良


「どういう意味?」――ハル


「相手の指し手を見てる間に、


次の手を決めてるんだ。


だから時間をほとんど使わない」――宇多良


(……)


そうなんだ。


「よくやった、


新くん」――ハル


【アラタ】


(……)


ハル。


彼女が僕の腕に触れる。


(……)


温かい。


(……)


あの時と同じだ。


(……)


花見の日。


「ありがとう、


ハル」――アラタ


「みんなでお祝いしようよ」――アカリ


「そうね、カラオケに行こう」――ユナ


【ハル】


(……)


悪くないかも。


【カラオケ】


アオイが歌う。


サイトも歌う。


(……)


楽しそう。


「この曲どう?」――サイト


「いいですね」――みんな


音楽が流れる。


「みんな、本当にお疲れさま」――サキ


しばらくして。


「アカリ、次はウタと一緒に歌おう」――サキ


(……)


楽しい。


「セイジ、こっちに来て」――サキ


「ん?」――セイジ


「私たちのあの曲、覚えてる?」――サキ


「いや、覚えてないな」――セイジ


(……)


じゃあ。


私から。


サキが歌い始める。


♪ ある春の日


♪ 君の瞳は輝いていて


♪ そして君の髪はなびいて


【セイジ】


(……)


ああ。


(……)


覚えてる。


「続けるよ」――セイジ


♪ そよ風に揺れて


♪ 君の笑顔が


♪ 僕にも伝染していった



「次はキャプテンの番だ」――セイジ


「俺が?」――アラタ


「はい、キャプテン」――部員


「あなたなら大丈夫よ」――サキ


「ハル、石神の付き添いを」――ユナ


「なんで私が?」――ハル


「残ってるのはあなただけだから」――アカリ


「まあ、アラタ、僕たちの番だね」――ハル


【アラタ】


(……)


何を歌おう。


画面を見つめる。


(……)


これにするか。


『天ノ弱 ピアノバージョン』


♪ ある結論に達した


♪ この間ずっと


♪ 君の中に何かを感じていた


♪ 君を理解したいけれど、できない


♪ だって、君が近づいてくると


♪ 僕は君から離れてしまう


♪ 悪気はないんだ


♪ 正直に言うよ


♪ 君はもう、この方程式の一部なんだ



♪ ある日のことなんだけど


♪ 静寂の中に、物音がした


♪ あの時、私は考えを巡らせた


♪ でも答えは見つからなかった


♪ 一瞬たりとも


♪ 君のことを頭から追い出すことができなかった


♪ はっきり言うよ


♪ 僕の中の何かが変わった


♪ もう限界だ


♪ このまま続くなら


♪ ……もう、ここまでにしよう



♪ この変化を、どう処理すべきなんだろう


♪ もう後戻りはできない


♪ 日常はすでに変わった


♪ 誤った考え方


♪ 誤った判断


♪ 既に排除されたものもある




♪ 結末を話そう。


♪ これからは、


♪ きっともう気づいているだろうけど。


♪ 君の声は、


♪ずっとここに留まるための周波数なんだ



【ハル】


(……)


聞き覚えがある。


(……)


このメロディー。


(……)


懐かしい。


あの日を思い出す。



♪ 君を待ち続けるよ


♪ 君のことが理解できるまで


♪ でも、僕を待ってくれるって約束して


♪ 君は前に進んでいる


♪ それなのに僕は立ち止まっている


♪ この距離をどう縮めればいいんだろう


♪ 日に日に広がっていくこの距離を


♪ ――どうすればいいんだろう。


♪ この気持ちを。


♪ どうやって、


♪ 伝えればいいんだろう。



♪ 今、君はここにいるのに。


♪ もう、


♪ 気づいているよね。


♪ この気持ちの意味を。


♪ だから、


♪ 少しだけ待つよ。


♪ 大丈夫。



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