見つかった感情
【土曜日 午後5時】
【ハル】
「私は、
あなたのそばにいる」
(……)
あの抱擁。
(……)
あの時、
私が感じたものは何だったんだろう。
(……)
アラタの鼓動が、
不思議と
私を落ち着かせてくれた。
(……)
そんなこと、
本当にあるのかな。
君が、
ひとつひとつの瞬間を
大切にしているのが分かる。
(……)
以前の私は、
君を拒絶していた。
でも、
これからは違う。
(……)
君の沈黙こそが、
私が守りたいもの。
なぜなら――
(……)
私はまだ、
君のことを知りたいから。
【アラタ】
彼女は、
まだここにいる。
(……)
君は、
僕の中にあった
答えのない疑問を、
少しずつ解き明かしてくれた。
(……)
君の腕は、
温かかった。
(……)
そして、
誠実だった。
(……)
君は、
僕を怖がらなかった。
(……)
あの数分間、
君は周りなんて気にせず、
僕のことだけを見ていてくれた。
(……)
だから今度は、
僕が君を守る。
今日、
君が僕にしてくれたみたいに。
なおさらだ。
(……)
英語の劇は、
きっと成功する。
「ハル、
もっと練習しよう。
もっと自然に聞こえるようにしたい」
「ふふっ、
何それ」――ハル
「みんなを笑わせたり、
混乱させたりするため?」――ハル
「その通りだ」
【ハル】
私の人気。
(……)
きっと、
色々変わってしまう。
(……)
でも、
今一番大切なのは――
この場所と、
この瞬間。
(……)
まだ、
悩む時間はある。
今は、
この時間を楽しもう。
(……)
この安らぎを、
失いたくない。
「……アラタ、
少し歩かない?」――ハル
「うん、
どうしたいんだ?」――アラタ
(……)
今はただ、
歩きたい。
(……)
もしかしたら、
君といる時間を、
楽しみたいのかもしれない。
「花見の道、
歩こう」――ハル
【アラタ】
何か、
返さなきゃいけない。
(……)
あの時間、
君はずっとそばにいてくれた。
(……)
ハルにとっても、
きっと大変な時間だったはずだ。
(……)
だから、
この花見は、
彼女にとって特別な場所なんだと思う。
(……)
ぬいぐるみ屋。
(……)
輪投げか。
「何見てるの?」――ハル
「いや、
特には」
「すみません。
挑戦したいです」――アラタ
「はいよ、
800円だ」――店主
「了解」
一投目。
(……)
外れた。
二投目。
(……)
入った。
「おっ、
狙いがいいねぇ」――店主
「ありがとうございます」
「はい、
好きなの持ってっていいよ」――店主
「可愛いぬいぐるみ選んだね」――ハル
「……ハル、
これ君に」
「え?」
「あの時、
そばにいてくれたお礼」
「素敵な気遣い、ありがとう」――ハル
「こちらこそ」――アラタ
夜。
【ハル】
「おやすみ、ハル。今日はどうだった?」――母
(……)
アラタは、
私が思っていた人と全然違った。
(……)
ちゃんと、
人の気持ちに気づける。
そして、
すごく思いやりがある。
「うん……その……」
「どうしたの、娘。
すごく動揺してるみたいだけど」――母
(……)
どうしたんだろう。
また、
今日のことを思い出してる。
(……)
彼が震えていた時、
私は咄嗟に抱きしめた。
(……)
でも、
落ち着かせてもらったのは、
私のほうだったのかもしれない。
(……)
そのあと、
このぬいぐるみまでくれて。
「見たの、ママ。
アラタが震えてたから、
すぐ抱きしめてあげたんだ」
「……どうして泣いてるの、ハル?」――母
(……)
どうしてだろう。
分からない。
でも――
「今まで、
アラタみたいに
接してくれた人、
誰もいなかったから」
「ちょっと休むね、お母さん」
(……)
アリくんって呼ぼうかな。
(……)
内緒だけど。
コンコン。
「ねえ、妹ちゃん。
そのぬいぐるみ、どうしたの?」――兄
(……)
アリくんがくれた。
「えっと……
アラータがゲームで取ってくれたの」
「へぇ〜、
ハル、顔赤いじゃん」――兄
「な、何言ってるの!?」
(……)
おかしいよ。
なんでこんなに意識してるの。
「いや、
ただ感謝してくれただけだから」
(……)
でも、
あの時のアラータの顔が、
頭から離れない。
【ハル】
「今日は、
一緒に寝ようね」
(……)
絶対に、
そばにいるから。
ssssssss
【アラタ】
「おやすみ、アラタ」――母
「おやすみ、ママ」
「どうしたの、お兄ちゃん?
なんだかぼーっとしてる」――サキ
(……)
今回は、
本当に危なかった。
(……)
メルトダウン寸前だった。
(……)
でも、
あの抱擁が、
頭から離れない。
「ストレスが限界だったんだ。
もう爆発しそうで……」
「お兄ちゃん、
それちょっと恥ずかしいよ」――サキ
「でも、
ハルがすぐ抱きしめてくれて、
言葉をかけてくれたから、
落ち着けたんだ」
(……)
今でも覚えてる。
『そばにいるよ、アラタ』
(……)
あの温もりを。
「アラタ、
お風呂入ってから寝なさい」――母
「そのほうが落ち着くわよ」
「うん」
【アラタ】
(……)
どういう意味なんだろう。
(……)
『そばにいるよ』
(……)
でも、
あの抱擁が、
その言葉を本物にしてくれた。
「サキ、
あとでお茶持っていってあげて」――母
「分かった」――サキ
コンコン。
「入っていい?」――サキ
「いいよ、
お姉ちゃん」
「お兄ちゃん、
なんか変わったね」――サキ
「どう説明すればいいのか、
分からないんだ」
(……)
本当に難しい。
(……)
あの抱擁と、
あの言葉が、
頭から離れない。
「受け入れられないの?
それとも、
受け入れたくないの?」――サキ
「受け入れたよ。
だから、
ぬいぐるみも渡したんだ」
「それは感謝でしょ。
でもね、お兄ちゃん――」
(……)
「心の中で、
ハルちゃんに
ちゃんと居場所を作ってあげてる?」
(……)
どんな場所なんだろう。
(……)
ハルは、
僕の友達だ。
「……そうだね。
今は、
それでいいと思うよ」――サキ
「お茶飲んで、
ゆっくり休みな」――サキ
「ありがとう、
お姉ちゃん。
サキも休んでね」
【月曜日 玄関前】
【ハル】
遠くから、
彼の姿を見つめる。
(……)
アラタは、
今日も落ち着いた様子で歩いている。
(……)
これからは、
ちゃんと気をつけないと。
私の友達、
アラタ。
「ねえ、
石神のこと見てる?」――ユナ
「べ、別に。
ただ遠くから見てただけだよ」――ハル
「土曜日、
何かあったの?」――アカリ
(……)
あれは、
ただの抱擁じゃなかった。
(……)
約束みたいなものだった。
「アラタが倒れそうになって、
思わず抱きしめたの」――ハル
「えっ、
抱きしめたの!?」――アカリ
(……)
まだ、
あの鼓動を覚えてる。
「そのあと、
リングトスして、
ぬいぐるみまでくれたんだ」
「ほら、
石神くん言ってたじゃん。
『変なんじゃない。
特別なんだ』って」――ユナ
【最初の休み時間】
【セイジ】
(……)
あそこに、
サキがいる。
(……)
あの言葉が、
頭から離れない。
「サキ、
ちょっと話せる?」――セイジ
「どうしたの、セイジ?」――サキ
(……)
記憶に、
空白がある。
(……)
断片的な思い出。
そして――
答えなければならない疑問。
「うまく説明できないんだけど……
君と話せば、
何か分かる気がするんだ」――セイジ
「いいよ。
話してみて」――サキ
「どうして、
『がっかりした』って言ったの?」
(……)
「もしかして、
僕たちって前から知り合いだった?」――セイジ
(……)
「……覚えてないの?」
「セイジ、
何があったの?」――サキ
「記憶は曖昧なんだ。
でも――」
(……)
「君たちや、
カガミ先輩のことを、
断片的に覚えてる」
【サキ】
(……)
過去に、
何かあったんだ。
(……)
でも、
セイジは思い出せない。
(……)
なのに、
こんなにも苦しそう。
「セイジ、
落ち着いて。
無理に思い出そうとしなくていいから」――サキ
「……うん。
ありがとう、
この時間をくれて」――セイジ
【サキ】
それを見た瞬間、
ふと、
頭に浮かんだ。
(……)
あの約束。
(……)
何年も前の記憶。
『バカなサキ!
変人と一緒にいるぞー!』――子供たち
(……)
あの広場。
『お前ら、
何してるんだ!』――幼いセイジ
『だ、大丈夫だよ』――セイジ
『俺がいる限り、
あいつらは君を困らせない』
(……)
どうしたんだろう、
セイジ。
(……)
でも、
今はまだ言えない。
君にとって、
辛いことになるかもしれないから。
1時間目の休み時間終了のチャイムが鳴る。
英語の授業。
【アラタ】
(……)
教室には、
もうほとんど人が残っていない。
「石神くん、花田さん。
前に出てください」――先生
(……)
ハルが、
こちらを見る。
(……)
その視線だけで、
少し安心できた。
Two people who met online and decided to meet up.
—Is that really you in the photo, Jennifer?
—Good morning, Jennifer — said Arata.
—Good morning, Jason. How was your trip? — asked Haru.
“Not bad for a trip from New York to London,” John (Arata) replies.
“John, I’ll walk you to the hotel, and then we can meet for lunch,” Jennifer (Haru) suggests.
“Jennifer, that sounds wonderful. I’ll wait for you in the lobby of the London City Hotel,” John (Arata) replies with unnecessary superiority.
“Hey, John, what’s with that attitude? Just because you’re American doesn’t mean I’m going to wait forever,” Jennifer (Haru) replies, sounding slightly annoyed.
“Sorry, Jennifer. I didn’t mean it that way,” John (Arata) replies softly.
“Look, I’ll take you to the hotel first. Freshen up, and then I’ll come pick you up for lunch,” Jennifer says, still sounding disappointed.
“Very well, Jennifer,” John replies submissively.
教室がざわつき始める。
「ねえ、
あの二人、
喧嘩してるカップルみたいじゃない?」
「あれ演技なの?
完成度が高すぎるんだけど」――クラスメイト
【アカリ】
「す、すごい……。
なんて自然な演技なんだ……!」
「みんな、
静かにしなさい。
演技の邪魔になりますよ」――先生
【ハル】
(……)
なんて静かなんだろう。
(……)
終わった。
(……)
アラタは、
最高だった。
「花田さん、石神くん」――先生
「はい」――私とアラタ
「素晴らしい演技でした。
100点です」――先生
(……)
私は、
今までで一番自然な笑顔で、
アラタを見つめていた。
(……)
そして、
彼の笑顔が、
私にも伝染してくる。
(……)
気づけば私たちは、
勝利したみたいに笑い合っていた。




