ただのアラタ
【木曜日】
【両親】
「おはよう、アラタ。
昨日はちゃんと眠れた?」――母
「うん。
いつもよりよく眠れたよ」――アラタ
(……)
以前より、
落ち着いている。
(……)
それが分かって、
少し安心した。
「そう。
よかったわね、アラタ」――母
(……)
母は、
少し涙ぐんでいた。
「おい、チャンピオン。
最近どうなんだ?」――父
(……)
何か隠してる。
(……)
だって最近、
帰りが少し遅い。
「誰かと付き合ってたりするのか?」――父
「違うよ。
学校の課題をやってるだけ」――アラタ
(……)
誤魔化そうとしても無駄だ。
(……)
でも、
今はまだ、
本人が気づいていないだけなんだろう。
「あなた、
変なこと言わないの」――母
「ははっ、悪い悪い」――父
【サイト】
「なあ、アラタ。
最近なんだか元気そうだな」――サイト
(……)
また笑うようになった。
(……)
私が知っていた頃の、
あのアラタに戻ってきている。
「どうしてそう思うんだ、サイト?」――アラタ
「ほら、サキ。
前より可愛くなったんじゃないか?」――サイト
「もう、サイト。
やめてよ、恥ずかしいって」――サキ
(……)
以前のサキは、
もっとアラタのことを気にかけていた。
(……)
それだけ、
負担も大きかったんだ。
「サキ、
前より明るくなったよね」
「それは、
アラタが前より人のことを分かろうとしてるからだよ」
「……まあ、
それもあるけど。
私にとっても、
アラタのことを気にかけてくれてたのは助けになってたの」――サキ
(……)
サキには、
それがよく表れている。
「……俺のこと、
何言ってるんだよ」――アラタ
【サキ】
確かに、
前より落ち着いている。
(……)
でも、
それだけじゃない。
(……)
以前より、
ずっと柔らかい雰囲気になっている。
(……)
どういうことなんだろう。
「サイトの言う通りだよ。
最近のセイジは、
前よりサキのこと気にかけてる」――アラタ
(……)
冗談を言っている。
(……)
今のアラタは、
こんなふうに自然に笑うんだ。
「お兄ちゃん、やめてよ!」――サキ
「セイジって、
昔アラタを困らせてたあのバカだろ?」――サイト
(……)
この二人、
今は完全に私をからかってる。
「別に、
セイジとは何もないから!」――サキ
「でも、
セイジは本当に変わったよ」――アラタ
(……)
兄のことを、
嬉しそうに話している。
(……)
前なら、
こんな顔しなかった。
【レセス】
【水泳の先生】
(……)
よかった。
見つかった。
「石神、
少し時間あるか?」――先生
「どうしたんですか?」――アラタ
(……)
どう伝えるべきだろう。
(……)
無理はさせたくない。
(……)
でも、
今のチームには、
彼が必要なんだ。
「石神、
今度の水泳大会、
出場してくれないか?」――先生
「……いいですよ。
出ます」――アラタ
(……)
助かった。
【ハル】
遠くから、
アラタを見つめていた。
(……)
彼は、
自分を追い込みすぎる。
(……)
また、
同じことになりそうな気がした。
(……)
もう、
あんなふうにはなってほしくない。
近づきたい。
(……)
でも、
今はまだ危ない。
(……)
みんな、
すぐそういう目で見るから。
(……)
アラタと一緒にいるところを、
変に思われたくない。
(……)
まだ、
人気を失いたくない。
【クラブの時間】
【ルナ】
「ねえ、
卓球一試合やろうよ」――ルナ
「よし、タケシ。
次、上げるぞ」――アラタ
(……)
どうしたんだろう。
(……)
少し集中が乱れている。
「石神、
僕とペア組んでくれ」――タケシ
「ああ、
分かった」――アラタ
(……)
動きが軽い。
(……)
反応も速い。
(……)
こういう時の石神は、
本当に頼りになる。
「ナイス、石神!」――タケシ
【ハル】
(……)
彼の横を通り過ぎる。
(……)
すごく楽しそうだ。
(……)
彼にも、
私といる時、
あんなふうに笑ってほしい。
「ハル、
二人が一緒にいるの見て、
気まずいの?」――アカリ
「違うの。
上手く説明できないけど……」――ハル
(……)
心配になる。
(……)
彼は、
自分を追い込みすぎるから。
(……)
でも、
どうして。
(……)
あの子といる時は、
あんなに自然なのに。
(……)
私といる時は、
まだ少し違う。
「心配してるってこと?」――アカリ
「うん。
チェスも、水泳も、数学も……
それに今は卓球まで」――ハル
「あー……
それだけじゃない気がするけどね」――ユナ
【図書館】
【アラタ】
彼女は先に来て、
静かに座っていた。
(……)
今日は、
少し雰囲気が違う。
(……)
何かあったんだろうか。
「こんにちは、ハル」――アラタ
「……うん」――ハル
(……)
彼女の表情は、
今まで見たことがないものだった。
「僕は大丈夫だよ。
でも、
アラタはもっと自分のことを気にしたほうがいい」――ハル
「……そうだったんだ」――ハル
(……)
少しだけ、
安心した。
(……)
でも、
それだけじゃない。
「でも、
最近のアラタ、
前より無理してるように見えるの」――ハル
「そう見える?」――アラタ
「うん。
前より、
ずっと頑張りすぎてる」――ハル
(……)
どうしてだろう。
(……)
彼のことになると、
こんなに気になってしまう。
「……ハル」――アラタ
「なに?」――ハル
「そんなに心配されたの、
久しぶりだ」――アラタ
(……)
心臓が、
少しだけ跳ねた。
「……もう。
変なこと言わないで」――ハル
【ハル】
(……)
落ち着いた。
(……)
そのはずなのに。
(……)
胸の奥が、
少し苦しい。
(……)
どうしてだろう。
(……)
うまく気持ちがまとまらない。
「アラタ、
そろそろ宿題に戻ろうか」
「ああ、
そうだな」――アラタ
(……)
そうしなきゃ。
(……)
なのに、
さっきの話を、
もっと続けていたかった。
「英語の課題、
どこまで進んでたっけ?」
She's waiting for him at the airport.
“Good morning, John,” Haru said.
“Good morning, Diana,” Arata replied.
“How was your flight?” Haru asked.
“It was a little bumpy, but it was fine,” Arata said.
【ハル】
アラタのアメリカ英語は、
驚くほど自然だった。
(……)
それに比べて、
私のイギリス英語はかなり怪しい。
「ふふっ……」――ハル
「ハル、
なんで笑ってるんだ?」――アラタ
「だって、
作戦通りなんだもん」――ハル
(……)
発音の違いが、
完全にラブコメみたいになってる。
(……)
これなら、
みんな笑ってくれる。
(……)
それに、
自然に見える。
「確かに、
すごくコメディっぽいな」――アラタ
【アラタ】
彼女の英語は、
まだ少し不安定だ。
(……)
でも、
その話し方には、
何か違うものを感じる。
(……)
いつもの彼女とは、
少し違う。
(……)
このまま続けたほうがいい気がした。
「このまま続けてもいいよ」――アラタ
「うん、
私もそう思う」――ハル
“Come with me to the hotel. I’ll buy you a cup of coffee,” Arata said.
“Better yet, John, I’ll walk you to the entrance. Get ready, and I’ll pick you up in two hours,” Haru replied.
“Sounds good,” Arata said.
They said goodbye at the hotel entrance.
Two hours later, John was waiting in the lobby.
“Hi, Diana,” Arata said.
“Hi, John. Where would you like to go?” Haru asked.
“I’d like to visit the Statue of Liberty,” Arata replied.
“Then let’s go,” Haru said.
【ハル】
(……)
なんだか、
すごく楽しい。
(……)
こんなふうになるなんて、
思ってもいなかった。
(……)
アラタには、
彼なりの魅力がある。
(……)
一緒にいると、
不思議と心地いい。
【アラタ】
(……)
まさか。
(……)
こんなに自然に話せるとは思わなかった。
(……)
ただの課題のはずなのに。




