あなたと一緒に学ぶ
【アラタ】
チェスクラブへ向かって歩いていた。
(……)
後ろから声が聞こえる。
「石神、待って」――花田
(……)
立ち止まって振り返る。
花田ハルだった。
(……)
僕に用事だろうか。
「石神、
電話番号、教えてくれない?」――花田
「ああ、いいよ」
(……)
「英語の課題、
一緒に進めたいの」――花田
(……)
あ。
完全に忘れていた。
「思い出させてくれてありがとう」
【ハル】
(……)
彼が、
素直に感謝した。
(……)
なんだか、
少しだけ彼らしくない。
(……)
でも、
悪くなかった。
「ちゃんと登録できた?」
「ああ。
登録したよ」――アラタ
「ありがとう」
火曜日。
ルナの練習に付き合った後、
帰ろうとしていた。
(……)
その時。
「石神、少し時間ある?」――花田
(……)
彼女だった。
「ああ、いいよ。
何かアイデアでもあるの?」――アラタ
「この近くに、
いいケーキ屋さんがあるの」――花田
(……)
こういう店にも、
詳しいんだろうな。
(……)
やっぱり、
人気者だ。
(……)
きっと、
いろんな人と来たことがあるんだろう。
「じゃあ、行こう」――アラタ
【ハル】
受け入れてくれて、
少し安心した。
(……)
石神は、
私にとって特別な人だから。
(……)
だから、
この場所も気に入ってくれたら嬉しい。
(……)
もう、
同じことを繰り返したくない。
「石神、
きっと気に入ると思うよ」
「まあ、
勉強するには良さそうだね」――アラタ
彼には、
こういう場所が似合う。
(……)
それに。
(……)
まだ、
彼と一緒にいるところを、
誰かに見られたくなかった。
「あかりとユナとも、
たまに来るの。
私たち、甘いもの好きだから」――ハル
(……)
何を言ってるんだろう、私。
「確かに、
落ち着けそうな場所だね」――アラタ
(……)
そう。
この静かな雰囲気も、
きっと彼に合っている。
(……)
気に入ってくれて、
少し嬉しかった。
「ご注文はお決まりですか?」――店員
「オレンジジュースと、
イチゴのショートケーキをお願いします」――ハル
「石神は?」――ハル
「僕はアイス麦茶と、
あんこのケーキを一つお願いします」――アラタ
「承知いたしました。
少々お待ちください」――店員
「石神、口頭発表の課題が出たの」
(……)
不思議だ。
(……)
他の男の子といる時みたいな
プレッシャーを感じない。
「かなり細かい課題だね」――アラタ
【アラタ】
彼女は落ち着いている。
(……)
このままなら、
うまくいきそうだ。
「もしよければ、
ファーストネームで呼んでくれてもいいよ」――アラタ
(……)
どうしちゃったんだろう、私。
(……)
まあ、
もう後戻りはできない。
「……わかった。
じゃあ、
私のこともハルって呼んで」――ハル
「……わかった、ハル」――アラタ
「アラタ、
まずは予定を合わせないとね」――ハル
(……)
ハルはバレーでかなり忙しい。
僕も、
火曜と木曜はルナの練習を手伝っている。
月曜、水曜、金曜はチェスクラブだ。
(……)
「平日に細かいところを進めて、
土曜日にまとめようか」
(……)
そうすれば、
もっと長く一緒にいられる。
(……)
今、
そんなことを考えていた。
「うん、
それでいいと思う、アラタ」――ハル
【ハル】
彼といる時に感じる、
この安心感の正体を知りたい。
(……)
だから、
もっと彼と一緒にいたいと思った。
「まずは対話を作らないとね」――ハル
「二人が出会う場面から始めてもいいと思う」――アラタ
(……)
アラタの案は悪くない。
(……)
でも、
そのままだと、
私たちが仲良いって気づかれそう。
(……)
だったら。
「イギリス人とアメリカ人の組み合わせはどう?」――ハル
「いいと思う」――アラタ
(……)
思いついた。
(……)
アラタは理屈っぽい。
私は人当たりがいい。
(……)
役割を逆にするんだ。
(……)
そうすれば、
私は人気を維持できるし、
アラタも余計な注目を浴びずに済む。
(……)
完璧だ。
「アラタ、
もし役割を入れ替えたらどうかな?」
「いいね」――アラタ
【アラタ】
ハルには驚かされる。
(……)
こんな一面があるなんて、
知らなかった。
(……)
やっと、
まともに話せる相手が現れた気がする。
「ハル、
あんこのケーキ、少し食べてみる?」――アラタ
(……)
まるで、
カップルみたいなやり取りだ。
(……)
きっと断られる。
「少し味見させて」――ハル
(……)
食べた。
「……美味しい」――ハル
(……)
そして。
「アラタも、
私の食べてみる?」――ハル
「僕はアメリカから、
君に会うためにロンドンへ来たんだ」――アラタ
「なんだか、
海外のラブコメみたいだね」――ハル
(……)
ハルは、
もうこの意図を完全に理解している。
(……)
「じゃあ、
この設定でそれぞれのパートを作ろうか」――アラタ
「うん。
明日、どう繋げるか考えよう」――ハル
(……)
また、
彼女と過ごした一日。
(……)
不思議なくらい、
完璧な気分だった。
【ハル】
「さて、
そろそろ帰ろうか」――ハル
(……)
なぜだろう。
(……)
もう少しだけ、
アラタと一緒にいたいと思った。
(……)
でも、
もう帰る時間だ。
「ハル、
バス停まで送るよ」――アラタ
(……)
その短い時間さえ、
少し嬉しかった。
(……)
でも、
何を話せばいいのか、
どうすればいいのか分からない。
「……うん、ありがとう」
【ハル】
彼の隣を歩く。
(……)
無理に話さなくてもいい。
(……)
そんなふうに思えたのは、
久しぶりだった。
【アラタ】
(……)
こんな感覚は、
ずいぶん久しぶりだ。
(……)
ハルのこの空気感が、
僕を落ち着かせてくれる。
(……)
でも、
ルナと一緒にいる時とは、
どこか違う。
「ハル、
バスが来たよ」――アラタ
「ちゃんと自分の役割を果たしてね」――ハル
「うん、もちろん」――アラタ
(……)
バスは、
そのまま走り去っていった。
(……)
さて、
家まで歩いて帰るか。
【水曜日】
【アカリ】
「ハル、
何かあった?」――アカリ
「別に。
なんで?」――ハル
(……)
考え込んでいる。
(……)
ハルにしては珍しい。
「なんだか、
最近ずっと考え込んでるよね」
「……どういう意味?」――ハル
「私には分かるよ。
石神くんといる時のハル、
前よりずっと自然だもん」――アカリ
「そんなことないよ」――ハル
(……)
彼女はまだ否定している。
(……)
自分の変化を、
認めたくないんだ。
「別に、
恋してるって言いたいわけじゃないの」――アカリ
(……)
「ただ、
今のハルの方が、
前よりずっと良いって思っただけ」
【ユナ】
今のハルは、
やる気に満ちている。
(……)
何かが、
以前より良い方向に変わったようだ。
「ナイスブロック、ハル!」――チームメイト
「ありがとう」――ハル
(……)
笑っている。
以前より、
ずっと自然に。
「もしかして、
恋でもしてるんじゃない?」――チームメイト
「何言ってるの。
私が恋するなんて、
ありえないわ」――ハル
(……)
すごく分かりやすい。
「ハル、
もしかして……あの人?」
【ハル】
軽く頭を下げる。
「こんにちは、アラタ。
遅れてごめんね」――ハル
「大丈夫だよ、ハル」――アラタ
(……)
よかった。
(……)
怒ってなくて、
少し安心した。
「今日はかなりハードな練習だったの。
学校対抗戦も近いから」――ハル
「チェスもあるし、
水泳のサポートもある僕に言わないでよ」――アラタ
(……)
彼も忙しいんだ。
(……)
よかった。
私だけじゃない。
「アラタ、
英語の準備はどう?」
「まあ、
順調かな。
ハルは?」――アラタ
【アラタ】
発音は少し苦手だ。
(……)
特に、
動詞の活用になると、
時々崩れてしまう。
「動詞の活用が、
少し苦手なんだ」――アラタ
「大丈夫だよ、アラタ。
普通のことだよ」――ハル
(……)
「私も、
イギリス英語だと、
同じようなことあるし」――ハル
(……)
助け合えばいい。
(……)
それだけの話だ。
「じゃあ、
発音はお互いにフォローしようか」――ハル
「ほら、ハル。
チェリーケーキ、ちょっと食べてみて」――アラタ
(……)
まるで、
恋人同士のようなやり取りだ。
(……)
でも、
気づけば自然と差し出していた。
「あっ……ん、美味しい」――ハル
(……)
少し顔が赤い。
(……)
恥ずかしがらせてしまったかもしれない。
「じゃあ、
次はアラタの番ね」――ハル
(……)
同じことを返された。
(……)
仕方ない。
「あはは……」――ハル
「……はは」――アラタ
(……)
気づけば、
二人で笑っていた。




