2.50
「次はあなた」
リュナの声は、静かだった。
エルナは剣を握る。
腕が重い。
視界が滲む。
だが一歩、踏み出す。
「……まだ、終わってない」
踏み込む。
今度は迷いなく一直線。
振り下ろす。
リュナが受ける。
火花。
力負けする。
弾かれる。
追撃。
膝が腹にめり込む。
エルナが崩れる。
剣が床を滑る。
「エルナ!」
風を裂く音。
矢が飛ぶ。
リュナが即座に横へ跳ぶ。
矢が壁に突き刺さる。
その軌道を追うように、もう一本。
三本目。
連射。
「遅れてごめん!」
レイナが駆け込む。
弓を構えたまま、状況を把握する。
倒れているミラ。
膝をつくエルナ。
立つリュナ。
「……三人目」
リュナの視線が、レイナへ。
レイナは矢を番える。
「今度は三人よ」
エルナが立ち上がる。
傷だらけ。
それでも剣を握る。
レイナの矢が放たれる。
正確。
速い。
リュナが弾く。
その隙にエルナが踏み込む。
完璧なタイミング。
挟撃。
だが。
触れた瞬間、読まれる。
エルナの踏み込み。
レイナの射線。
全部。
リュナは最小限の動きで避ける。
剣で弾き。
体を捻り。
蹴りを入れる。
エルナが吹き飛ぶ。
レイナが距離を取る。
再び射る。
今度は角度を変え、床に当てて跳ねさせる変則射。
だが。
「左、二歩」
リュナが言う。
言葉通りに動き、避ける。
矢が空を切る。
レイナの呼吸が乱れる。
「読まれてる……!」
エルナが再び踏み込む。
今度は低く。
剣を地面すれすれに。
だがリュナは跳ぶ。
空中で回転。
踵落とし。
エルナの肩に直撃。
床に叩きつけられる。
「エルナ!」
レイナが矢を連射。
リュナが一瞬、矢を受ける。
腕にかすり傷。
だが止まらない。
一瞬で距離を詰める。
弓を蹴り上げる。
レイナが後退。
体術の一撃。
肘が鳩尾に入る。
息が詰まる。
エルナが割り込む。
剣を振る。
読まれる。
逆に柄で顎を打たれる。
視界が白くなる。
三人。
それでも。
届かない。
リュナは静かに言う。
「連携は悪くない」
一歩踏み出す。
「でも、遅い」
魔王の力が膨れ上がる。
身体能力がさらに上がる。
次の瞬間。
剣が霞む。
レイナの矢が弾かれる。
エルナの剣が折れかける。
蹴り。
打撃。
連撃。
三人が次々に崩れる。
ミラは動けない。
レイナは壁に叩きつけられる。
エルナだけが、辛うじて立つ。
剣を杖に。
呼吸が荒い。
視界が揺れる。
リュナがゆっくり近づく。
足音が響く。
「終わりにしましょう」
剣が振り上げられる。
エルナは動けない。
剣を構えるだけで精一杯。
(ここまで……?)
振り下ろされる。
その瞬間。
エルナの前に、黒い影が割り込む。
金属音。
火花が散る。
衝撃波が広間を揺らす。
リュナの目が、大きく見開かれる。
「……どうして」
低く、掠れた声。
「遅れた」
荒い呼吸。
傷だらけの青年。
アレンが、剣を交差させて立っている。
エルナの視界が滲む。
「……ばか」
リュナの手が震える。
剣を握り直す。
怒り。
混乱。
悲しみ。
全部が混ざる。
「死んだはず……!」
踏み込む。
全力の一撃。
アレンが受ける。
弾く。
火花。
間合いが詰まる。
リュナが反射的に、アレンの腕を掴む。
触れる。
能力が発動する。
流れ込む記憶。
飛ばされた瞬間。
別世界での戦い。
帰ろうと足掻いた日々。
迎えに来ると決めた覚悟。
全部。
全部。
リュナの呼吸が止まる。
剣が手から落ちる。
「……っ」
アレンが一歩踏み込む。
剣を弾き飛ばす。
そして。
抱きしめる。
強く。
「ごめん」
低い声。
「遅くなった」
リュナの身体が震える。
能力で理解している。
アレンだと。
嘘じゃないと。
だからこそ。
取り乱す。
「……なんで」
涙が零れる。
魔王の力が揺らぐ。
勇者の剣が床を転がる。
広間に、重い沈黙が落ちる。




