2.49
「遊びにもならない」
その一言が、広間に落ちる。
エルナは立っている。
だが足が震えている。
呼吸が荒い。
ミラの支援がなければ、とっくに倒れている。
(このままじゃ削り殺される)
ミラは冷静に状況を見ていた。
エルナは強い。
だがリュナは、その上をいく。
技術も、身体能力も、戦闘経験も。
しかも触れられた瞬間、読まれる。
長引けば不利。
ならば――短時間で崩すしかない。
「エルナ、十秒」
「……何?」
「持たせて」
それだけで、エルナは理解する。
踏み込む。
今度は防御を捨てた突撃。
リュナが迎え撃つ。
剣と剣がぶつかる。
火花。
体術の応酬。
エルナの肩が裂ける。
脇腹を打たれる。
だが止まらない。
時間を稼ぐ。
その背後で。
ミラの足元に、赤い魔法陣が展開される。
支援陣とは違う。
もっと荒々しい。
もっと危うい。
「――限界突破」
空気が震える。
ミラの瞳が赤く染まる。
魔力が跳ね上がる。
全身の神経が焼けるように活性化する。
制御を外す。
本来なら壊れる出力。
それを強引に解放する能力。
反動は確実。
だが、今は。
「代わって」
エルナが後退する。
ミラが前へ。
速い。
今までとは別人の動き。
杖が唸る。
リュナの剣を弾く。
衝撃。
床が軋む。
リュナがわずかに目を見開く。
「……あなたが前に出るの」
「守るだけじゃ、足りないから」
踏み込む。
急所狙い。
鳩尾。
喉元。
膝裏。
正確無比。
リュナが受けに回る。
初めて。
押している。
ミラの連撃は止まらない。
体術を織り交ぜる。
肘打ち。
回し蹴り。
杖の柄で顎を打つ。
リュナの身体がよろめく。
喉元に刃が迫る。
「……終わり」
ミラの声は静かだ。
だがその瞬間。
リュナの手が、ミラの手首に触れる。
ぴたりと。
視線が交差する。
「――トレース」
空気が変わる。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
ミラが打ち込もうとした動き。
その“前”に。
リュナが同じ軌道で動く。
完璧に。
角度も。
重心も。
呼吸も。
「……っ!」
弾かれる。
逆に鳩尾を打たれる。
膝が崩れる。
ミラが立て直そうとする。
だが次の動きも読まれる。
右足に重心。
来る。
剣の柄で肋骨を打たれる。
衝撃。
呼吸が止まる。
反撃を試みる。
遅い。
すでに読まれている。
足払い。
転倒。
喉元に剣。
「その能力、扱いきれてないみたいね。
反動がありすぎるししょうがみたいだけど
あなたの癖も、呼吸も、読んでしまえばあとは単純。」
冷たい声。
「あなたの動きは完全に見切ったわ」
ミラの身体から、光が消える。
リミットブレイクの時間切れ。
その瞬間。
全身に反動が走る。
神経が焼ける。
筋肉が痙攣する。
動けない。
完全に。
剣がわずかに喉へ近づく。
だがリュナは斬らない。
見下ろす。
「惜しかったわね」
エルナが立ち上がろうとする。
だがミラの反動と、自身の傷。
限界が近い。
それでも。
剣を握る。
リュナがゆっくりと振り向く。
「次はあなた」
その瞳に、揺らぎはない。
読める。
勝てる。
そう確信している目。
エルナは震える足で踏み出す。
背後では、ミラが動けない。
この一合で、終わる。
広間の空気が、さらに重くなる。




