2.48
魔王城へ続く広間。
高い天井。静まり返った空気。
その中央に、リュナは立っていた。
黒い衣。勇者の剣。
魔王の力が、静かに脈打っている。
エルナは一歩前へ出る。
剣は抜いている。
だが、構えてはいない。
ミラが小さく息を吸う。
「……久しぶり、リュナ」
その声は、懐かしさを含んでいた。
リュナの視線が、ゆっくりとミラに向く。
感情は、ない。
「話すことなどない」
冷たい声。
エルナが口を開く。
「別に戦う気はないんだけど。会話する気はないかしら」
わざと軽く言う。
空気が張り詰める。
リュナは一歩も動かない。
「敵が自宅に攻めてきておいて、会話する気になるのか」
その言葉に、エルナは息を詰める。
「……私たちは敵じゃない」
「人間は全て敵だ」
即答。
ミラが一歩前に出る。
「違う。元々は、あなたとアレンを引き合わせる予定だった」
その名。
空気がわずかに揺れる。
エルナが続ける。
「アレンが、もうすぐ来る。だから待って。私たちはそのために――」
リュナの瞳が、わずかに震える。
そして。
「アレンは死んだ」
静かに。
「私の目の前で」
その声に、初めて感情が滲む。
「お前らには関係ない」
魔王の力が、膨れ上がる。
「もういい」
勇者の剣が、ゆっくりと持ち上がる。
「死ね」
一瞬。
姿が消える。
エルナが反射で剣を構える。
衝撃。
金属音が広間に響く。
重い。
腕が軋む。
「エルナ!」
ミラの支援魔法が即座に発動する。
身体強化。
反応速度上昇。
視界が研ぎ澄まされる。
リュナの二撃目。
三撃目。
止まらない。
剣技は鋭く、無駄がない。
勇者として磨かれたそれ。
そこに魔王の身体能力が上乗せされている。
圧倒的。
エルナが踏み込む。
横薙ぎ。
リュナが受ける。
火花。
一瞬、押せたように見える。
だが次の瞬間。
力が流される。
重心を崩される。
肘打ち。
腹に衝撃。
エルナが後退する。
「……甘い」
淡々と。
再び踏み込み。
今度は体術。
足払い。
エルナが跳ぶ。
間に合う。
だが着地と同時に膝蹴り。
肺の空気が抜ける。
ミラが回復を重ねる。
エルナの傷が塞がる。
「前、出て。まだいける」
エルナが歯を食いしばる。
「当たり前」
再び踏み込む。
今度は低く。
下段から斬り上げ。
触れた瞬間。
リュナの目がわずかに細くなる。
軌道が読まれている。
剣を弾かれる。
反撃。
肩に裂傷。
血が散る。
それでもエルナは下がらない。
ミラの支援がある。
動ける。
戦えている。
今まで殺して奪ってきた、力だけならエルナの方が上。
善戦しているように見える。
だが。
リュナの呼吸は乱れていない。
汗もない。
余裕。
エルナが連撃を重ねる。
五撃。
十撃。
受けられる。
流される。
隙を突かれる。
腹に一撃。
吹き飛ばされる。
床に転がる。
ミラの回復が間に合う。
エルナが立ち上がる。
肩で息をしながら。
リュナは静かに言う。
「それで終わり?」
魔王の力が、ゆっくりと脈打つ。
「遊びにもならない」
エルナが睨み返す。
まだ立っている。
だが。
技術も何も力以外の差が、明確だった。




