1.4.5
夜の見張りは、嫌いじゃない。
静かな時間。
誰も喋らない森。
耳を澄ませば、風が草を揺らす音や、遠くの虫の声までちゃんと聞こえる。
エルフであるレイナにとって、それは落ち着く時間だった。
……なのに。
(なんで、今日はこんなに落ち着かないんだろう)
焚き火の向こう。
少し離れた場所で、リュナとアレンが話している。
声までは聞こえない。
けれど距離が近いことは、遠目でも分かった。
リュナは、アレンの言葉に小さく頷いている。
その表情は――安心しきった顔だった。
(……仲がいい、だけだよね)
そう思おうとする。
アレンは優しい。
判断も早いし、戦闘指示も的確だ。
このパーティの中心は、間違いなく彼だ。
リュナが頼るのも、自然なこと。
……でも。
胸の奥に、小さな違和感が残る。
(前から、こんなだったっけ)
リュナは強い。
剣を持てば、誰よりも迷いなく戦える。
なのに最近――
アレンがいないと、不安そうな顔をすることが増えた。
戦いの直前。
夜、眠る前。
何かを決める時。
必ず一度、彼の方を見る。
(……まるで、許可をもらうみたいに)
その考えが浮かんで、レイナはすぐ首を振った。
(考えすぎ、考えすぎ)
私たちは仲間だ。
信頼しているだけ。
それ以上の意味なんて、あるはずがない。
その時。
アレンが、ふとこちらを見た。
視線が合う。
ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。
――彼の目が、笑っていなかった。
(……え?)
すぐに、いつもの穏やかな表情に戻る。
軽く手を振られ、レイナは反射的に振り返した。
それだけ。
それだけなのに。
胸の奥が、ひやりと冷えた。
(今の……何?)
アレンはいい人だ。
リュナを守っている。
パーティを導いてくれている。
疑う理由なんて、どこにもない。
――ない、はずなのに。
視線を戻すと、リュナが微笑んでいた。
アレンの言葉に、心から安心した顔で。
その笑顔を見て、レイナの胸が少しだけ痛む。
(……もし、私の勘が当たってたら)
そんな考えが浮かび、慌てて打ち消す。
(違う。そんなはずない)
信じたい。
このパーティを。
この旅を。
そして――仲間を。
でも、エルフの直感は、いつも静かに囁く。
「見ないふりをするな」と。
レイナは弓を握り直し、夜の森へ視線を向けた。
まだ何も起きていない。
けれど――
何かが、確実にずれている。
その“何か”の正体を。
彼女はまだ、言葉にできなかった。




