表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/58

2.45

衝撃が消えたとき、そこには夜の匂いが残っていた。


焦げた木片。

踏み荒らされた草。

黒く丸い痕。


焚火の跡だ。


ラディアは、ゆっくりと顔を上げた。


「……ここは」


おかしい。設定した場所と全然違う。

魔王城から離れた地点を設定したはずなのに。


魔王城の近くの場所の覚えがある。


「何故だ。どうしてここに?」


アレンは少し肩を回す。


「急だったからな。用意してた幻は、ここしか思い付かなかった」


ラディアの目が細くなる。


「幻?」


「お前の能力は、頭に思い描いた場所へ飛ぶ。だから――」


アレンは地面を軽く踏む。


「直前に、思い描く景色をずらした」


ラディアの転移は精密だ。


だからこそ、意識への干渉に弱い。


ほんの一瞬。


視界の端に紛れ込ませた“記憶”。


焚火の赤。


揺れる火。


それを“目的地”として固定させた。


「……小細工を」


怒りはない。


あるのは、冷たい評価。


「あなたはやはり危険だ」


ラディアが構える。


魔力が集まる。


足元に、複数の転移陣が展開される。


瞬間移動の連撃。


位置を変え、死角から刃を通す。


昨日までなら、それで終わっていた。


だが。


一歩目。


ラディアの姿が消える。


右。


背後。


上。


刃が閃く。


アレンは振り返らない。


身体が自然に動く。


剣を抜く。


火花。


衝突。


ラディアが初めて、眉をひそめる。


「……見えている?」


「見てない」


アレンは短く答える。


「感じてる」


再び消えるラディア。


今度は三方向同時。


残像を伴う高速転移。


刃が四方から迫る。


アレンの魔力が、解放される。


空気が震える。


地面の灰が舞い上がる。


一閃。


半円を描く斬撃。


幻影が裂ける。


本体が弾き出される。


ラディアが距離を取る。


「力を解放したか」


「最初から本気で来い」


アレンの目は、揺れない。


そこにあるのは焦りではなく――覚悟。


「あなたはリュナ様を不安定にさせる」


ラディアが言う。


「先代もリュナ様も。お前は全ての魔族の敵だ」


一瞬。


焚火の残り火が、ぱちりと音を立てた気がした。


アレンの足が止まる。


ほんの、わずか。


その隙をラディアは逃さない。


最大出力。


空間ごと切り裂く転移刃。


直線ではない。


“存在座標”を削る攻撃。


だが。


アレンは踏み込む。


避けない。


刃を、正面から受ける。


魔力を叩きつける。


衝突。


爆ぜる。


草地がえぐれる。


煙が上がる。


ラディアが目を見開く。


刃が、止まっている。


「逃げないって言っただろ」


アレンは、刃を掴んでいる。


血が滲んでいるが気にする様子もない。


「今度は、逃げない」


握り潰す。


刃が砕ける。


ラディアが後退する。


初めて、明確な動揺が走る。


「あなたは……何を背負っている」


「お前が知る必要はない」


踏み込み。


距離が消える。


剣ではない。


拳。


腹部に叩き込まれる衝撃。


防壁が割れる。


呼吸が止まる。


追撃。


足払い。


地面に叩きつける。


剣先が喉元に止まる。


静寂。


焚火跡の匂いが戻る。


ラディアは、動かない。


だが目は逸らさない。


「……殺さないのか」


「必要ない」


アレンは剣を引く。


「お前もリュナに必要だ」


「それでも、リュナ様に会わせるわけにはいかない」


その執念だけは揺れない。


アレンは空を見る。


夜が薄れ始めている。


「会うさ」


静かに。


「安心しろ。こちらとしては戦うつもりはない

 謝るだけだ」


ラディアが問いかける。


「そんな理由のためだけに来たのか。

 もし拒絶されたらどうする?」


アレンは一瞬、目を閉じる。


焚火。


エルナの顔。


昨日の笑い声。


「それでも、逃げない」


ラディアは、ゆっくりと視線を落とす。


敗北を認めたわけではない。


だが、理解した。


この男はもう、昨日の男ではない。


「……行け」


かすれた声。


アレンは背を向ける。


歩き出す。


魔王城の方向へ。


焚火跡を踏み越えて。


残り火は、完全に消えた。


だが。


その場所にあった温度だけは、まだ残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ