2.43
黒い城は、以前と同じ姿でそこにあった。
尖塔は空を裂き、
城壁は夜を飲み込むように沈んでいる。
違うのは、近づく側の足取りだけだった。
四人は無言で歩く。
石畳に靴音が落ちるたび、わずかに反響する。
静かすぎる。
エルナが、城門を見上げる。
「……待ってる」
問いではなく、確信だった。
レイナが目を細める。
風が流れる。
その風が、不自然に止まった。
精霊が息をひそめた感覚。
「囲まれてる」
レイナの声は、落ち着いている。
ミラが杖を軽く回す。
金属芯の入った鈍い音。
「上、塔の影。右側の崩れた城壁裏にもいるわね」
エルナはすでに剣に手をかけている。
数は多い。
だが、無秩序ではない。
気配が揃っている。
「統制されてる……」
魔族の兵が姿を現す。
重装の前衛。
中距離に魔力持ち。
そして、姿をほとんど見せない暗殺部隊。
黒装束。
以前と同じ、隙を見せたらやられるのが分かる。
城門が、低く軋む。
開く気配はない。
レイナが弓を構える。
「何かいつもこんな感じだね。みんな大丈夫?」
エルナも余裕ある感じだ。
「問題ない。いつも通りやるだけだ」
視線が、ほんの一瞬だけ後ろをかすめる。
守られるような弱い仲間はここにはいない。
全員が前に出られる。
ミラが小さく笑う。
「回復は任せて。倒れたら起こす」
「倒れない」
エルナは言い切る。
その言葉に、三人はうなずく。
次の瞬間。
地面が爆ぜた。
影が落ちる。
暗殺部隊が来る。
音はない。
刃だけが空気を裂く。
エルナは振り返らない。
半歩踏み込み、体を沈める。
背後に回った影の喉を、逆手の短刀で払う。
返す動作で、肘打ち。
骨の砕ける音。
倒れる前に、もう次が来る。
レイナの矢が走る。
放った瞬間、風の精霊が乗る。
軌道が曲がる。
屋根の上の狙撃を、正確に射抜く。
続けざまに三射。
矢は“狙う”というより、“探す”ように飛ぶ。
隠れた気配を引きずり出す。
ミラは一歩引く。
支援魔法が展開する。
淡い光がエルナの脚に絡む。
加速。
反応速度が一段上がる。
同時に、鈍器が振り抜かれる。
重装兵の顎を、横から叩き砕く。
骨ではない。魔力障壁を。
衝撃を通すための打撃。
魔族の兵が一斉に押し寄せる。
数で潰す気だ。
「押される?」
レイナが問う。
「まだ」
エルナは剣を抜く。
銀光が走る。
正面の三体を、まとめて断つ。
だが数は減らない。
城壁の影から、さらに出てくる。
ミラが小さく息を吐く。
「これは……歓迎というより、足止めね」
エルナも気づいている。
本命は、奥にいる。
ここで消耗させる算段。
レイナが弓を下げる。
両手を広げる。
「少し派手にいくわよ」
風が巻く。
精霊が集まる。
渦が生まれ、前方を押し広げる。
魔族の隊列が乱れる。
「今!」
エルナが突っ込む。
斬撃。蹴り。体術。
流れるように切り替わる。
今までの全ての経験が役に立つ。
一つの動きに縛られない。
だが。
空気が、歪んだ。
足元に、黒い紋様が広がる。
レイナの瞳が揺れる。
「――アレン!」
地面から伸びる魔法陣。
転移系。
その中心にいるのは――




