表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/57

2.41

山道は、緩やかに高度を上げていく。


空気は冷たく、

吐く息が白くなる。


足元で小石が転がる。


先頭はレイナ。

その少し後ろにエルナ。

ミラとアレンが並ぶ。


四人。


――昔は、五人で歩いた道。


エルナが振り返る。


「ねえ、昔ってどんな感じだったの?」


あっけらかんとした問い。


レイナが鼻を鳴らす。


「リュナがアレンにべったりだったな。

 ガルドは小言ばっかりで、うるさかった」


ミラがくすりと笑う。


「何かとアレンの作戦、無茶が多かったからね」


アレンは肩をすくめる。


「否定はしない」


エルナが目を輝かせる。


「えー、どんな?」


レイナは少し考え、淡々と答える。


「盾役のガルドと討伐数で競ってな。

 負けた方が“帰ったら飯奢り”」


ミラが吹き出す。


「言ってた」


アレンは遠くを見る。


「あの時は、本気で帰れると思ってた」


風が、少し強く吹く。


一瞬だけ、空気が変わる。


エルナは気づく。


けれど踏み込まない。


「今度こそ帰るよ」


その一言が、山肌に吸い込まれていく。


レイナが小さくうなずく。


「当然」


道の脇、黒い影が動く。


魔族。


だが襲ってはこない。


遠くから観察しているだけ。


統制がある。


ミラが低く言う。


「リュナがまとめてる」


アレンは黙る。


魔王リュナ。


騙し続けた相手。


謝らなければならない相手。


「……リュナ」


かすかな呟き。


やがて視界が開ける。


黒い城が見える。


空を切り裂くような尖塔。


雲が低く流れている。


エルナが息を呑む。


「……大きい」


レイナは目を細める。


「変わってない」


アレンは何も言わない。


だが胸の奥で、何かが軋む。


あの日――

すべてから逃げ出した場所。


夜は静かだった。


焚き火の音だけが、規則正しく空気を裂く。


エルナは少し離れた場所で剣を磨いている。


ミラは湯を温め、

レイナはエルナから教わった精霊との会話を、ぎこちなく試している。


穏やかな光景。


その輪の外で、アレンは炎を見つめている。


明日には、魔王城に着く。


覚悟は、できたことがない。


きっと今回も、できない。


それでも――


語らなければならない。


アレンはゆっくりと目を閉じる。


誰も話さない、心地よい時間。


誰かに求められたわけじゃない。


けれど。


明日には、どうなるかわからない。


今日を逃せば、きっとまた言えなくなる。


炎が、小さくはぜる。


アレンは息を吸う。


「……覚悟ができた」


三人は手を止めるが、振り向かない。


「みんな、そのままでいい。聞いてくれ」


声は静かだが、逃げていない。


嘘で守った一年。


語らなかった真実。


妹と、かつての仲間と、

そして明日会いに行く魔王へ向けた、


自分が選んだ、愚かな決断の話。


炎が揺れる。


記憶が、静かに開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ