騎士団長は元第二王子への愛が重すぎる
極秘任務は遂行完了。残りの残党たちについては、騎士団が請け負ってくれるらしい。
かなりの短期間での完了に、少しだけ拍子抜けしてしまった。
背伸びと大きな欠伸をした後、メイド服を脱ぎ捨てるとまたもやテオから上着を着せられてしまった。
「だからッ!ターナは、もう!人前で脱がないの!」
「えー、もう任務終わったし別にいいじゃん」
「良くないです!周りの目があるので、ダメです!貴方はとにかく綺麗な方なんですから、危機感を持ってください!」
「そんな目で見るのはテオだけだろ……大袈裟だって」
以前にもやったこの押し問答。
正しくは、レイエム領でテオと初対面した時か。全く対応が変わらない初心なお貴族様だな。
執事用の上着を羽織りながら、テオを宥めていると退避していたメイドたちと領主一家が現れた。
俺が男であることに驚いていたのはメイド長だ。
説明しても終始混乱していたので、領主の奥方が代わりに宥めてくれていた。
変装でこんなに混乱する人は初めて見たな。ひとり遠い目をしていると、テオは騎士団長に絡まれていた。
「先程から気になっていましたが、テオ殿は金髪碧眼なのですね?生まれつきですか?」
「え?えぇ、そうですけど……それが何か?」
「ご存じないのですか?この国で金髪碧眼なのは、王族の血筋だけなのですよ」
「そうなんですか?!知らなかったです……あれ?アルベルト騎士団長は、碧眼……銀髪ですね?」
「はい、私は王族の傍系にはなりますが髪の色は銀色なのです。目の色だけが今まで降嫁された王女様の血が遺伝しています」
テオに近づくと未だに首を傾げている。そんなに難しい問題でもない気がする。
つまり、テオは王族のひとりである可能性があるってことではないか。
あれ。それなら、テオを殺すことは危険なのでは。その可能性に気付いて血の気が引いていく。
これは早めに統領に確認を取らないといけないやつだ。
ふと、ここでもうひとり金髪碧眼の男を知っている。その統領本人だ。
「アルベルト騎士団長、金髪碧眼って王族の特徴なのか?」
「えぇ、その通りです。もしや、他に金髪碧眼の方をご存じでしょうか?」
「ターナ、もしかして……サイレンスの統領のことでは……」
「うん。統領も金髪碧眼なんだよ。ただ、右目は潰されたらしくて眼帯しているけど……って、団長?おーい?」
俺の発言で何かを思い出したらしい騎士団長が俯いて、ブルブル震え出した。
え、なんだこれ。大男が急にブルブル震えだすとか怖い。本当に怖い。
「も、もしやその、統領様は……エム、と名乗られたりは……?」
「え?良く知ってるな?そうだけど」
「うぉおおおおおーーーー!!!!生きておられた!生きておられたのだ、愛しの殿下ァアアアーーー!!」
「うわ、うるさ」
間近で叫ばれて思わず両耳を、両手で塞ぐ。
愛しの殿下って誰のことだ。統領の呼び名と何が関係してるのか、さっぱりわからない。
その後ろからひょっこりと別の騎士が現れた。騎士団長の首根っこを掴んで、屋敷の方に押し込んでいる。
「ちょっと、団長ーうるさいですよー。発作は後にして下さい。はい、行った行った」
「あぁ、ちょ、待て待て!ようやくマティアス様の情報が手に入りそうなのに!そんな!」
「あなたは騎士団長なんですよ。ほらほら、職務を全うして下さいねーマティアス殿下もそう望まれていたでしょう?」
「う、ううう……わ、わかった……」
あの感情豊かな大男は、小柄な騎士に促されて渋々と屋敷の内部へ向かって行った。
その騎士さんは大きなため息を吐いた後、俺たちに一礼する。どうやら副団長さんらしい。
「うるさくて申し訳ありません。アルベルト騎士団長は、マティアス殿下のことになるとあんな感じになるので……」
「あのー、そのマティアス殿下?ってのは、誰なんですか……?」
「え。あぁ、最近の方なら知らないでしょうね……マティアス殿下は、追放された元第二王子です」
「追放?その第二王子様って、何か悪いことをしたんですか?」
「いいえ、逆です。第一王子の策略に嵌められて、冤罪で王位継承権はく奪の上の追放刑を受けた可哀相な方なんですよ」
テオによる捕捉によると、当時は第一王子が王太子になるか、第二王子が王太子になるかで後継者争いが発生していたそうだ。
その中で現在の国王である第一王子が、第二王子を消す為に冤罪で追放したとこと。
今の世の中は、その愚王による治世となっている為に国内が荒れに荒れているらしい。
悪いことだらけじゃないか。
その継承権はく奪の上で追放されたマティアス殿下とやらが、サイレンスの統領ではないか?と思い至ったらしい。
愛しの殿下って部分だけは理解不能ですけど、と付け加えられた。俺もわからん。
「あー、実は騎士団長ってマティアス殿下のことものすごーく愛しているんです。今も」
「そ、それは王族としての敬愛的な……?」
「いえ、ひとりの人間としての愛ですね。最愛の人だって断言しています」
「ノルンディーア公爵様なんですよね?え、後継者問題発生していませんか?」
「弟君が成人したら、公爵位を譲渡するっておっしゃっていました。騎士団長個人としても、辺境伯の位がありますからね。見つけたら屋敷内に監禁するとも呟いていました」
「え、騎士団長がヤバい。激重感情がすごい」
「お二人が常識的な方で安心しました」
副団長さんは乾いた笑いをしているけど、こんな騎士団長でよくまとまっているなと逆に感心してしまう。
仕事の時はしっかりと職務を全うする人らしいので、日頃からこんな激重一直線野郎ではないそうだ。
良かったような、悪いようななんとも言えない顔になる。
騎士団長の話を聞いた後は、すぐに解放された。冒険者ギルドに戻る前に、一旦宿泊施設に戻り着替えて再出発する。
ギルドでは、歓迎ムードになっていた。あっという間に諸悪の根源を消したことが伝わったらしい。
リートのギルドマスターからとても感謝された。
報酬金とランクアップは、受付ですぐ対応して貰えた。
結構な金額だし、ランクはFランクからDランクへ上がる。高難易度任務だったからな。
「さて、お二人さん。これからどこへ向かうか決まっているだろうか?」
「テオ、次どこ行くんだ?」
「次はセレナードという街に行きますよ。ギルマスさん、何かあるんですか?」
「あぁ、俺が頼もうとしていたのがそのセレナードなんだ。そこの街は、海賊共に荒らされまくっているんだよ」
「なるほど、つまりは海賊討伐ですね」
「あぁ、そこに向かうのならこっちのギルドから連絡しておく。これが紹介状だから、見せればすぐにセレナードのギルマスに会えるぞ」
次の目標が定まった。
リートのギルマス含めたギルドの従業員や、宿泊施設でお世話になった女将さんたちに見送られて俺たちは次のセレナードに向かった。




