セレナードに行く道中とサイレンスの統領
次の街へ向かう手段は、基本的に徒歩か乗合馬車しかない。
定期便の時間を確認した後、二人は乗合馬車に乗り込んでセレナードへ向かう。
気になることについては、白い鳥を使って緊急連絡を飛ばしてある。統領ならすぐに返事をくれるだろう。
ゆっくりと揺られながら外を見ると、海が見えてきた。
「なぁ、テオ。ここから小さな島が二つ見えるんだけど、アレも国の領土なのか?」
「あぁ……あの島は元々、ノルン連合諸国と呼ばれた国だったんです。ただ、災厄が発生したので今はノクターン小国の属国になっていますね」
「侵略した、とかじゃなくて?自分たちから属国にしてくれって言ってきたのか?」
「はい。ノルン連合諸国とノクターン小国は、それなりに仲のいい国同士だったのです。同盟国を頼ってきたそうですよ」
「属国ってことは、まだあの国に住んでる人がいるんだ?」
「一応はいらっしゃいますよ。それでも、別荘のような扱いですが……」
テオは本当に物知りだ。俺が知りたいことをなんでも答えてくれる。
ちなみに、その情報源はどこかと聞いたら歴史書に書いてあったそうだ。
鈍器になるサイズの本らしい。あるだけで危ないやつだろ。
そんな会話をしていると、俺の近くから視線を感じた。チラ、とそちらに視線を向けると女の子が見ている。
「どーした、お嬢ちゃん?俺に何か気になるもんがついてるか?」
「え、おにーちゃん、なの……?」
「えっ」
小さな女の子は、とてもびっくりした顔をしている。
声も聴いているはずなのに、女と間違えられたのは初めてかもしれない。
お互いにとても驚いていると、保護者らしき老夫婦が小さな女の子を膝抱っこしていた。
「ごめんなさいねぇ、ルルはこんなに綺麗なお兄さんを初めて見たものだから」
「まちがえて、ごめんなさい……」
「ちゃんと謝れるのは偉いな。許すから、そんな悲しい顔しないでくれ。な?」
「ん」
「ふふ、ターナは面倒見がいいんですね?」
「面倒見がいいっつーか、まず統領が抜けているところあるから……自然と身に着いたんだよ」
照れ隠しに、そっぽ向くと何故かテオから頭を撫でられた。なんでだよ。
老夫婦はリートの街から、セレナードへ行くためにこの乗合馬車に乗っているそうだ。
孫娘のルルの両親である息子夫婦は、セレナードに住んでいるらしい。
ルルだけ老夫婦が預かっているのはセレナードの街が海賊共の悪意に晒され続けているから。
俺たちの次の極秘任務に関わっている、あの海賊だ。
リートの街も悪意で閑散としていたが、新星の冒険者により解放されたので久しぶりに会いに行けると言われた。
「新星の冒険者……?」
「あぁ、おひとりは暗殺専門サイレンスのメンバーで、もうおひとりは元貴族の方らしい。不思議な組み合わせだよ」
「言われてみれば確かに……なんだその組み合わせ」
「ははは、それでも我々にとっては救世主さ。ありがたいことだよ」
ヘンテコな呼び名がついていたが、それでも直接感謝を告げられると嬉しい。
誇らしい気持ちに浸っていると、急に乗合馬車が停車した。前方に誰かいるらしい。
先頭へ向かうと、目の前には軽装な盗賊らしき連中が五人佇んでいた。
「随分と軽装な賊だな?」
「えぇ?!にーちゃん、知らないのか?アイツらは、海賊だ!」
「へぇ、アレが海賊か。どう見ても、下っ端連中ってところか。テオ!前方に、海賊五人!後方を確認してくれ!」
「後方からも海賊が三人現れました。先に前方五人をお願いします!」
「殺していいのか?」
「ダメですよ!半殺しにしてください!」
半殺しはいいのかよ。そんな物騒な会話をしていると、御者のおじさんが困惑している。
海賊すら知らない旅人が急に戦闘モードに入ったんだからな。それは別にいい。
「ええっと……?兄ちゃんたち、一体……?」
「俺たちは冒険者。ほら、タグはコレだ。まずは、五人をぶっ倒すとするか!」
御者台から飛び降り、隠し持っていた東方の短刀を使い全員を昏倒させた。
身軽だから動きが素早いかと思っていたが、そうでもなかったな。
五人撃沈させた後、御者のおじさんが縄を投げてくれた。
「後ろにいる相方さんからだ!後方も、全員痺れて動けなくさせたってよ!」
「ありがとな!というか、いつの間に痺れ薬なんて作っていたんだ、テオの奴……天才は怖い」
ブツブツとぼやきながら、五人を纏めてひとつの縄で縛り上げる。
通行の邪魔なので、端に寄せると痺れて動けない連中も縛り上げることは出来たようだ。動かせないらしい。
元はお貴族様だし、腕力もないんだろう。後方に向かって、その三人まとめてズルズルと同じ隅っこに寄せた。
「これでいいのか?テオ」
「はい、あとはセレナードの冒険者ギルドで騎士団の方に回収して貰うよう依頼しておきます」
「あの騎士団、常にあちこち動き回ってんだな……大変だな、王都騎士団」
「本当は、各領地に私的傭兵団があったんですけど、金銭的理由で解散してしまったそうです」
「また再結成される可能性はあるのか?」
「国政が正常化すれば、可能性はありますよ」
なるほど、大元がどうにか改善されないと他も改善されないってことか。面倒な仕組みだ。
そんな会話の後、乗合馬車に乗り込んでセレナードへ進み始めた。
海賊下っ端共による襲撃後は、特に問題なく進み無事にセレナードへ到着した。
乗り合わせた住人から感謝され、またも御者から感謝されて運賃が無料となってしまった。
レイエムからリートに行くときもそうだったが、簡単に無料化するのは危険だと思う。
そんな思考が顔に出ていたのか、テオが「気になるのなら商業ギルドに寄付しに行きましょうね」と提案してくれた。
乗合馬車の御者の所属は、商業ギルドらしい。いい提案だと思って、それにのった。
商業ギルドへ向かう前に、まずはセレナードの冒険者ギルドに立ち寄った。
リートと同じく、中は閑散としていて受付の人間は完全に爆睡している。やる気のない連中多すぎだろ。
「いくら人がいねぇからって、なんで受付が爆睡してんだか……」
「職務怠慢だと叱る人間がいないのでしょうね……ターナ、受付さんを起こして下さい」
ほんの少しだけ力を込めて、受付の頭を引っ叩くと大袈裟に悲鳴があがった。
爆睡していた受付の男はどう見ても、貴族のような顔立ちだ。たぶん没落貴族ってやつだろう。
「いってぇ……!手加減なしに叩く奴があるか!全く……んで?セレナードの冒険者ギルドに何の用ですか?」
「かなり手加減したんだけど。テオ、例の手紙を渡してやってくれ」
「ありがとうございます、ターナ。はい、こちらはリートのギルドマスターからの紹介状です。こちらのギルドマスターにお願いします」
「はぁ?そんな、あのリートのギルマスが……げっ、本当じゃないか……あー、めんどくさ……ギルマスー!」
あまりにも緩慢な動きに、呆れ果てているとテオの笑顔が完全に怒りモードになっている。
日頃は穏やかで怒りもしない奴が怒ると、笑顔でも怖い。テオを抱き寄せて、額にキスを落とす。
滅多にこういうことはしないが、テオにはそれが効果的だったらしい。借りてきた猫みたいに大人しくなっていた。
「あ、あの。ターナ?私たちは、契約関係であって、その……」
「わかってるっつーの。さっきのは、応急処置みたいなもんだ。爆発寸前のガキにやると効果あるやつ」
「……また子ども扱いしていますよね……うう……」
そんなじゃれ合いをしていると、受付の男が戻って来てギルマスの部屋に通された。
セレナードのギルドマスターは自分から子爵だと名乗った。さりげなく、お茶も出されたが誰がしたのかと思ったら受付の男だ。
驚いてそっちを見ていると「紅茶くらい淹れられるっつーの」とジト目で返事をされた。
「さて、ここセレナードの現状はご存じかと思います。それで、リートの英雄様はこちらの極秘任務を受けて頂けますか?」
「その極秘任務、俺たちも参加させて貰ってもいいか?」
「え……?」
扉が開いた音もなく、俺の背後に知っている気配がある。後ろを振り返ると、そこにいたのは統領本人だ。
肩には連絡用の鳥が佇んでいる。俺からの視線に気が付いたのか、統領は胡散臭い笑顔を浮かべた。
「久しぶりだな、フォウ。随分と面白いことに巻き込まれたな?」
「と、統領……」
「フォウ、外での呼び方は?」
「すみません。エム、様……」
「いい子だ。セレナードのギルドマスター、初めまして。暗殺専門傭兵団サイレンスのトップのエムだ」
目の前にいるギルマスも、側近も顔を真っ青にしている。
隣にいるテオはどうなのかと視線を向けると、何故か無表情だ。こうして、突然のサイレンス統領を交えた話し合いが開始された。




