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悪辣執事長の暗殺ミッション

相当疲れていたのか、夢も見ることなく熟睡して目が覚めた。

隣で寝ていたテオは既に起床済みで、ベッドの淵に座って着替えていた。

じっとその姿を見ていると、こちらの視線に気づいたようで振り返って声をかけてきた。


「あ、目が覚めたんですね。おはようございます、ターナ」

「んーおはよ。その指輪、めっちゃ綺麗だな」

「えぇ、これは私の実母が残してくれた唯一の遺品なので……」


指輪はとてもシンプルな作りだけど、中央にある宝石に何か紋章が刻まれているように見える。

横からなので何なのかはわからないが、その宝石自体はとても綺麗な青だ。

かなり高級な代物だろう。


「……その指輪の宝石、すごく青いけどなんか名称あるんだっけ?」

「この宝石ですか?クングスブロー、という特殊な名称なんですよ」


聞いたことのない宝石名だ。

たぶん希少価値の高い品だから、ネックレスにして首から下げている。

死に別れたであろう実母の遺品なのだから、誰にも取られないようにしているのがわかる。


「大事な物だから、首から下げてたんだな。指に付けていると誰に取られるかわかんねぇし」

「ふふ、やっぱりわかっちゃいますか。何度か盗まれかけたことがあるので、この方法を取っているんです」

「苦労人なお貴族様だこと……」

「はいはい、お喋りはここまでにしましょう。朝食を食べたら、着替えて任務を開始しましょうね」


簡単に衣服を着替えると、さっさと食堂へ向かって朝食を取る。

朝からガッツリ食べている俺を見て苦笑しながらも、テオはいつも通り野菜を食べていた。

朝食が終わると、顔を洗い、歯磨きをして潜入用の服へと着替える。

テオはあっという間に終わったが、俺は化粧もあるから時間がかかる。以前やった通りのナチュラルな化粧を施すと、テオが驚いた顔をしている。


「美人がさらに美人になって現れちゃいましたね。女神ですか?」

「何言ってんのお前。しっかりしろ」


軽く小突きながら、手荷物の類は全て受付にいた女将に渡すと女将まで驚いている。

そんなに劇的に変わったはずはないんだけどな。


「あらまぁ……綺麗な兄ちゃんだとは思っていたけど、さらに別嬪さんになっちゃって……襲われそうになったら金的狙うようにね?」

「それを本来男である俺に言うこと?まぁ、自衛は出来るから大丈夫だって」

「坊ちゃん、しっかり守ってやんな!頑張ってね!」

「あはは、ありがとうございます。ターナ、行きましょうね」


俺がいつまでも解せぬ、という顔をしていたせいか苦笑されながら領主館へとたどり着いた。

大きな門を潜り、門番に商業ギルドからの紹介状を見せるとあっという間に招かれた。

そこに現れたのは、ふくよかなメイド長と気弱そうな執事補佐の二名だった。

屋敷内の総まとめはこの二人で行っているらしい。

商業ギルドからの紹介であるため、信頼は取れている。それぞれ見習いとして働きたいことを伝えると、その場で即採用。

どれだけ人手が足りなかったんだろう。

テオとアイコンタクトを飛ばすと、俺は裏声を使って女性らしく振舞う。

メイド長の後を追って、屋敷内を簡単に説明される。その後、すぐに仕事場へと配置された。

まずは掃除と洗濯から。次にエプロンを取り換えて、領主と執事長の私室のベッドメイキングと整理整頓を行う。


「さっきは居なかったけど、この部屋は執事長さんが寝泊まりしているよ。塵ひとつ残さず掃除するようにね?」

「手抜きをするつもりはありませんが……もし、逆らうような真似をしてしまうと怖い目に遭うと伺いましたわ」

「おや、よく知っているね。その通りさ。執事長に逆らわない方がいい。正論言おうものなら、生きて帰れるかどうかも定かじゃないからね」

「まぁ、気を付けますね。ご忠告、ありがとうございます」


一通り確認も踏まえた研修を終えた後、あっという間に夕方になってしまった。

メイド服を再び着替えて、今度は給仕のメイドとして振舞う。人手が足りないので、全て数人しかいないメイドで回しているらしい。

食堂に集まった面々を見ると、そこには伯爵一家がどこか暗い顔で椅子に座っていた。

メイド長から俺の紹介、執事補佐からテオの紹介があると領主は目の下に濃い隈を付けた顔で歓迎してくれていた。

精神的に酷く参っているんだろう。それでも周囲に気を配っているのがわかる。優しすぎるんだろうな、領主一族は。

晩餐が終わると、給仕メイドとしての仕事が終わり、次はキッチンメイドに変わる。

翌朝の仕込みを執事見習いと共に手伝うそうだ。ちょうど隣に座ったテオに、小声で声をかける。


「めちゃくちゃ忙しいんだな、使用人って……」

「いえ、普通はこんなに少人数ではありません。おそらく、意図的に少人数で回しているのでしょう」

「……あの執事長か」

「はい、逆らえないことを理解しているので、使い潰そうとしている魂胆が見てとれます。それと、既に悪事の証拠書類は手に入れました」

「仕事が速くね?じゃあ、今晩に暗殺を実行すれば終わりそう、か……?」

「えぇ、出来れば深夜三時頃がいいかと。執事長の部屋は把握されていますか?」

「大丈夫。鍵も簡単な物だったし、潜入後に暗殺できる」

「では、実行をお願いしますねターナ」


二人でジャガイモの皮を剥きながら、作戦実行を決めた。

仕込みの手伝いを終えると、主人たちが入った後のお湯を少し貰って簡単に体を清めて指定された部屋へ戻った。

これで一日は完了の様子だ。太ももに隠していた暗殺用ナイフを確認すると、深夜三時まで待機する。

時間前になると、暗い室内を駆け抜けて施錠された執事長の部屋へと侵入する。

室内に入ると、ベッドにはひとりの男がぐーすかイビキをかきながら寝ている。

悲鳴をあげないように口を塞ぎ、すぐさま心臓を滅多刺しにする。小さなうめき声は聞こえたが、すぐに絶命したのがわかった。

暗殺は完了だ。血濡れのメイド服を剥ぎ取り、小さくして闇魔法で消滅させる。

自室に戻れば、予備のメイド服があるので問題はない。これで結果は、翌朝になればわかるはず。


ひとまずは、朝日が昇るまで仮眠を取ることにした。

そして日が昇ると同時に、執事長の部屋の前から悲鳴が上がった。おそらくメイド長が見つけたんだろう。

飛び起きてすぐに身支度を整えると、その現場に駆け込んだ。


「やはり、暗殺者が紛れておったか……!ふん、わかっておるぞそこのメイド見習い!」

「あら……?どちら様でしょう……?」

「白々しい!儂が執事長本人だ!貴様が殺したのは、儂の影にすぎん!」


なるほど、やけにあっさりと殺せたなと思ったが身代わりを用意していたか。

さて、どういう反応をするべきかと思ったが、とりあえずは挨拶からだろう。


「そうなのですね。初めまして、わたくしはターナ・ノクターンと申します」

「自己紹介なんぞ要らんわ!おい、衛兵!さっさとこいつを捕まえろ!……んん?衛兵?!」

「衛兵という名のゴロツキの皆様でしたら、先程騎士団の方が連行していきましたよ」

「はぁ?!ど、どういうこと……だ……?まさか、貴様もこいつの手の者か?!」


満面の笑みで俺の横に付くと、同じように自己紹介を始めるテオ。

同じようなツッコミを受けつつも、聞いたことがないくらいの大声量で騎士団を呼んでいた。

来てんのかよ。


「ようやく貴様の悪事を全て出揃ったぞ!悪辣執事長を捕縛せよ!」

「な、なん、なんでだぁあああ!くそがぁあああ!」


執事長を捕縛し、罪状を読み上げる。その書類はどう見ても、テオが見つけた悪事の証拠書類だ。

間違いない罪の数々と、救いようのない悪だという証拠ですぐさま斬首刑が言い渡された。

メイド長など女性陣には刺激が強い為、退避させた後に騎士団長自ら首を落としていた。すごいな、一刀両断だ。


「急な要請でしたが、駆け付けて頂いて助かりました。アルベルト騎士団長」

「いえいえ!こちらこそ、とても助かりました!ははは、なんとも素晴らしい冒険者が居たと感心しておりますよ!」


どうやら早朝に駆け付けたのは、王都騎士団の本部隊らしい。

そして、目の前にいる豪快に笑うこの大男こそがアルベルト・M・ノルンディーア公爵様であり騎士団長本人。

間近で見て感じた印象はただひとつ。関わったらすごく懐いて面倒そうな奴だな、ということだった。

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