初の極秘任務をリートの街で
人がまばらなリートの冒険者ギルド。いる人間たちは、全員どこか疲れた表情をしている。
その中でも、奥にひとりだけ眠りこけている受付の男性がいた。近づくが起きる気配がない。
「随分とお疲れのご様子ですね……?」
「受付のクセに、職務怠慢じゃねーか。おい、起きろよ受付!」
「んがッ!え、あれ……?冒険者?こんなとこに来るなんて珍しいなぁ……ふぁ……」
大きな欠伸をしながら、寝ぼけた表情で受付の男が返事をする。
ぼんやりとしているが、書類等を引っ張り出してきて仕事モードに切り替わったのがわかった。
「冒険者タグを確認しました。ようこそ、リートの冒険者ギルドへ。街のご様子は確認されましたか?」
「えぇ、人の気配がまるでしませんでした。街の人はいらっしゃるのですよね?」
「はい。街の住人は今もいるにはいます。ただ、とある人物による悪質な行為があり家の中に引きこもるようになりました」
「……いつ自分がその悪意の標的になるかわかんねーから、隠れてんのか」
「その通りです。悪の親玉の気分次第で、冤罪をかけて拷問を行うなどやりたい放題なのです」
想像以上に悲惨な現状だ。
騎士団を要請しなかったのか、と聞くと早い段階で何度も要請を行っていたらしい。
しかし、あちらから全く返事が来ないとのこと。おそらくどこかで、その要請を揉み消していると予想される。
「領主一族は、みなさん善良な方だとお聞きしています。問題となっているのは、一族に仕える家令なのでしょう?」
「はい、よくご存じで……!なので、この案件は極秘任務として取り扱っております」
「極秘任務?なんだソレ」
「ターナには私が説明しますね。極秘任務というのは、その街や国の存亡に関わる重要な依頼になります。今回のように、表立って動くことが出来ない場合に出されるとても特別なものですよ」
「テオさんのおっしゃる通りです。本来ならばベテラン冒険者に依頼する内容ですが、この通りリートの街は人が少なく、外からの冒険者も少ない。専門家に依頼するにも、連絡する手段がなく困り果てていました」
詳細に関しては、ギルドマスターを交えての密談となる。
概要としては、リートの街を悪魔の家令から解放せよ、というものだ。
家令暗殺に関しては、領主一族からも許可を得ているらしい。どうやってやり取りできたのかは不明だけど。
「ちょうどいい。テオ、この極秘任務とやらを受けようぜ。俺が暗殺、テオが悪事の全貌を暴くって割り振りできるだろ」
「あの、ターナ?その、ターナが暗殺者だって正直に言っているようなものだと思いますが……?」
「別にいいけど。実際に俺は暗殺者なんだし」
「すごく軽いなぁ……うーん、ターナがいいなら受けてみましょうか」
テオはどこか複雑な表情ではあったけど、今回の極秘任務を受けることが決まった。
受付にそれを伝えると、すぐにギルドマスターの部屋えと案内を受けた。
中にいたのはごく普通のおじさんだ。ただ、体はガッチリしているところから元冒険者なんだろう。
眼光が鋭いから、子どもから大泣きされそうな顔をしている。第二位のセスに近いから、たぶん気が合いそうだ。
「極秘任務について、軽い説明はあったと思うが……そちらの綺麗な兄さんは暗殺者だとか?」
「あぁ、俺は暗殺者集団のサイレンスに所属している。本来の名前はフォウだ」
「さ、サイレンス……?!あの義賊集団の……!その、統領のお名前は……?」
「本名は教えて貰えなかった。ただ、外ではエムって呼ぶように言われてる」
ギルドマスターにそう伝えると、納得するように頷いている。
隣でテオが「マゾヒスト……?」とか言っていたので、余計なことを言わないように抱き込んでおいた。
しばらく抵抗はしていたが、すぐに大人しくなる。よく見ると、俺の胸部を吸っているようだ。意味がわからん。
「第四位の実力者なら、問題ない。これは、サイレンスの総意の下でのことだと思っていいのか?」
「いや、今回は俺個人で受ける。サイレンスは関係ねぇよ」
「なるほど、個人で受けてくれるのか。助かる。それでその……そちらの少年の所属は……?」
「こいつは一般人。特に所属はないが、苗字から分かる通り元貴族の坊ちゃんだよ」
「元貴族……まぁ、この国にはそういう没落貴族が多いから不思議でもないな。つまり、そっちの坊ちゃんは頭脳派ってことか」
ギルドマスターが勝手に解釈してくれるので、その通りに話を進めていくと下から視線を感じる。
チラ、とそちらに目を向けるとすごい目でこっちを見ていた。ガン見に瞬きがないのは怖い。
「テオ、瞬きくらいしろ。怖い」
「……ターナが勝手に話を進めていくので……」
「身なりが平民服でも、所作でお前が元貴族なのはバレバレなんだよ。諦めろ」
「むぅう……あと、私は坊ちゃんという年代ではないです。これでも、もう17歳ですよ」
「充分、坊ちゃんだろ?」
「ギルマスまで言うんですか?!どうしてこう……って、あ。契約書。ターナは契約書読めますか?」
「難しい言葉が多すぎてわからねぇ……」
「代わりに読んで要約を伝えますね。こういうのはきちんと読んだ上で同意のサインが必要なんですよ」
表情がコロコロ変わりながらも、ちゃんとやることはしっかりやる辺りしっかりしていると思う。
なんだか小動物を見ている気分だ。
テオの要約によると、この任務について成功すれば報酬金とランクアップ。失敗すれば命の保証はないと書かれているらしい。
つまりはギルドが依頼してはいるが、失敗すれば見捨てるという自己責任に同意しろ、とのこと。
「えーっと、つまり……失敗すれば死んでも文句言うなよっていう同意書なんだな」
「その通りです。ターナ、受けますか?」
「うん、受ける。これって俺も名前書くやつ?」
「いえ、代表者だけでいいみたいです。私の名前を書いておきますね。はい、よろしくお願いしますね、ギルマス?」
テオからの圧に少しタジタジになるギルマス。ゆっくりと同意書は手渡され、任務の詳細説明を受けた。
敵本拠地は、リート伯爵の住む領主館。そこの執事長がターゲットだ。
常に人手が足りておらず、現在もメイドや執事見習いを募集しているとのこと。
「大変シンプルな方法ですが、使用人として潜入してみましょう」
「それなら俺はメイドかな。前もメイドとして潜入したから」
「なるほど、それなら私は執事見習いになりましょう。紹介状はギルドの方から発行して頂けますか?」
「冒険者ギルドよりかは、商業ギルドからの発行の方がいいだろう。こっちから話を付けておく」
「ありがとうございます。紹介状を受け取り次第、敵本拠地に向かいましょう」
ニヤリと悪い笑顔を浮かべるテオを見て、なんだか楽しい任務になりそうな予感がした。




