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タナトスの疑問に答えるテオリア先生

しばらく休憩した後、ようやく落ち着いたテオがベッドから起き上がった。

窓から見える景色を見ると、辺りは真っ暗だ。

月も昇っているので完全に夜だろう。

テオがベッドに横になっている間に、市場で晩御飯は手に入れてある。


「お、もう大丈夫そうだな」

「はい……すみません、ご迷惑をおかけしました……あ、晩御飯……!」

「腹を満たしてくれそーなの、買って来ておいた。パンでいいか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。買い物してきてくれて、ありがとうございます」


テオが手に取ったのは、小さなパンがひとまとめにされているものだ。

俺はこの量では足りないので、肉の串焼きと果物も食べていた。

飲み物についてはヤギのミルクをカップに置いてある。

もぐもぐ、と食べる姿はどこか小動物みたいなテオだ。それでも、どこか気品があるのは元貴族だからだろう。

各自が食事を終えると、使った食器類を備え付けの流し台で軽く洗う。

洗い物を置く籠にそれを置くとテオは、テーブルに地図を広げていた。

布巾で手を拭いて、テーブルに近寄ると赤い棒で丸を付けている。おそらく目的地なのだろう。


「洗い物までありがとうございます。ターナは地図を見たことがありますか?」

「あるにはあるけど、ここまで大きなサイズはないな……えーっと、この丸が目的地か」

「はい、この丸の位置へ向かいます。それから、この矢印は旅のルートです」

「ふーん……あ、聞きたいことあるんだった。なぁ、この国の騎士団長の名前って何?」


一通り書き終わったテオが、俺の質問にきょとんとした顔をしている。

あれ、そんなに予想外な質問だったか。

統領からこの国の社会情勢とかある程度教えられているが、騎士団長などの上位の奴らのことは聞いていない。

理由はわからないが、第二位が気まずそうに聞かないでやって欲しいと言われた気がする。覚えていない。


「もしかして、色々と教わったという統領の方がご存じない、とか……?」

「いや、たぶん知ってる。知ってはいるけど、教えたくないみたいな感じだった」

「えぇ……まぁ、深くは考えないでおきましょうか。現騎士団長は、アルベルト・M・ノルンディーア様です」

「ノルンディーア?えっと、王都……?」

「その通りです。彼は王都を守護する最古の貴族、ノルンディーア公爵ですよ」


最古の貴族ということは、長く王家に仕えてきた経歴があるんだろう。

貴族の階級に関しても、テオから説明は受けた。王族を筆頭に、公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵、となっているらしい。

図にして描いてもらったが、ややこしい。すぐに忘れることにした。


「それで、その騎士団長様も冒険者を見下してんの?」

「いえ、逆ですね。高位貴族でありながらも、冒険者に対して頭を下げてお願いしているそうです。階級関係なしに礼儀正しい方だとか」

「なんか変わった人だな。でもさ、騎士団って貴族で構成されてんだろ?人手が足りなさそうだし、平民からも採用すりゃいいのに」

「その話は随分前から議会に出ていたんです。ですが、議会の面々は頭の古い貴族ばかりでして……精練な騎士団には貴族のみが所属できると、否決されたそうです」

「え、意味わからん。平民も貴族も人間なのに、何言ってんの?」

「こういう身分に固執する人間を、選民意識主義と言います。前国王はそのことで頭を抱えていらっしゃったようです」


貴族というのは、随分と厄介な連中だ。

平民よりも上の身分であるからこそ特別だと思い込んでいる。実力は大したことはないのに、プライドだけは高いらしい。

そう聞くと、騎士団長の存在は異質だ。貴族という身分でありながらも、平民にへりくだることができる。


「騎士団長、上からも下からも挟まれてカワイソーじゃん」

「上はともかく、下の方々とはとても良好な関係だと聞いていますよ。いつか実際にお会いする日が来るといいですね」

「俺は暗殺者だし、出来れば会いたくねーや」

「それもそうですね。さて、これは私の憶測ですが……ターナはどうして自分は悪人判定されていないのか不思議ですか?」


そうだ。二番目の質問はそれだ。

依頼を受けて行っているとは言っても、人を殺している。人を殺すことは悪になるはずだ。

それなのに、冒険者タグは悪人判定されていない。


「なんでわかんの……?」

「ターナの顔に出ていますから。まず、一般論としては人を殺すことは悪です。ですが、世論では違う認識を持っています。ターナは悪い貴族や悪い人を殺す専門の暗殺者集団です。そのような悪人を殺すことで、被害を受けていた平民や善良な貴族が助かります。悪い人を消すことで、沢山の人を救うことができる。こう言った人々を、義賊と言い悪人とは言わないのです」

「あー……確かにそうかも。第二位のセスから、統領は義賊の頭だって聞いた」


疑問が解消されていくと、心の中の違和感を消すことができる。

人殺しは悪だと自認していたからこそ、俺たちの集団が良いことをしていると聞いて誇らしく思えた。

冒険者タグはまさにその証明だ。思わず笑顔になる。

俺が笑うと、テオも笑う。その表情は、どこか悲しさも含んでいた気がしたが気にしないことにした。

時間が時間なので、最後に応急処置のやり方も教わった。

血が出ているところを舐めるという行動は、傷を悪化させる場合もあるので今後はしないように怒られた。

統領の真似で覚えた応急処置だったけど、ダメなんだなアレ。

一通りやり方を練習した後は、再びベッドの中に入った。

色々と知ることが多くて、とにかく疲れた。俺はあっという間に、夢の中へと落ちていく。

熟睡する寸前、テオの声が聞こえた。


「契約関係は、いつまで続けられるのかな……」


そんなの約束通りだろ。そう反論したかったが、眠気が勝っている。

小さく唸るだけで、夢の中へと沈んで行った。


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