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元死神の暗殺者に振り回される初心な契約者

仮眠を取った頃には、日が昇っていた。

城周辺の騒がしさも静まり返り、人の気配も近くにはない。

寝ずの番をしていたテオに近づくと、何も言わずに頷いている。行動するなら今だ。

無言で片づけと荷物の整理を済ませた後、すぐに森を抜けて領地の市場へと足を運んだ。

早朝だからか、まだ人はまばらではあるが朝市が始まる準備が少しずつ進んでいる。


「朝市が始まるまで、もう少し時間がありますね……ターナ、どうしますか?」

「んー、ひとまず宿屋に行く。そこで荷物を置いて、冒険者ギルドに地図を貰いに行くぞ」

「わかりました。城から離れた位置が良さそうですね……それなら、こっちです」


貴族の坊ちゃんのわりには、この周辺の地図が頭にあるらしい。

迷うことなく、冒険者ギルド近くにある一般客用宿屋に辿り着いた。

宿屋に入ってすぐに女将が来てくれたが、すぐにテオの正体に気が付いていた様子だ。

テオのことを知っているのなら、危険なのではと身構えたがお忍び散策で仲良くなっただけらしい。

心配して損したな。


「そっちの別嬪さんは、テオ坊ちゃんのことが大事なんだねぇ……あの坊ちゃんに嫁さんねぇ」

「あの、女将さん。私がここに来ていることは内密でお願いしますね?」

「わかってるわよぉ!んふふ、その様子だと休む場所を探していたんだろ?ちょうど、早朝に出た人たち居るからその部屋を使いな」

「ありがとうございます。えっと……その、ひと部屋ですか……あの、ターナ」

「いいだろ、別に。テオが俺を襲うこともないだろうからな」


横からそう告げると、テオの顔が真っ赤だ。カウンター越しにいる女将も、顔が赤い。

どういう反応だろう、と首を傾げていると女将がとてもいい笑顔でテオを激励していた。何もわからない。

良くわからないまま鍵を受け取り、顔の赤いテオを引きずって部屋へと向かう。

部屋に入ると、とても綺麗にされたダブルベッドの部屋だった。結構広めだから、荷物が増えても問題なさそうだ。


「あの、ターナ?私のこと、ちゃんと男だってわかっていますか?」

「わかるに決まってんだろ。それとも、本当に気があるのか?あんだけ初心すぎる反応していた癖に」

「ううう……ターナは自分の美貌を自覚した方がいいと思います」

「へーへー、わかったからさっさと荷物を置いてギルドに行くぞ」

「うーん、絶対わかってない」


貴重品以外の荷物を整理して置いた後、部屋の鍵を一旦女将に預けて外出する。

だんだんと朝市が賑わってきたようだ。早めに地図を貰う手続きを済ませた方が良さそうだと思い、冒険者ギルドへ向かう。

ギルドに入ると、中は数人の冒険者たちで騒めいていた。


「おいおい、ついにここの領主一族が殺されたって?まぁ、あんだけ悪いことしりゃあなぁ……」

「しかも後処理の為に出した依頼が、なんでSランクなんだよ。何も危なくないだろーに」

「王都騎士団と協力するって書いてあるだろ。よく読めよ」

「あー……オレは絶対ソレ嫌だ。騎士様も仲良くお仕事できねーからな」


なるほど、テオ以外の殺害後に乗り込んできたのは王都騎士団だったか。

証拠は全て消してきたし、主犯が誰なのか判別できない。だからこそ、事後処理のみ協力者を募ったわけか。

ただ、冒険者ギルドへ依頼した内容がSランクなのは理解できない。受付に並ぶついでに、こそっとテオに聞いてみた。


「なぁ、テオ。冒険者と騎士団って仲悪いのか?」

「うーん、悪すぎると言いますか……騎士様って貴族の方でしょう?なので、冒険者たちを下に見る人が多いんです」

「うえ、そんな態度の悪い連中と協力するの嫌すぎんだろ……あーそれで、Sランクなわけね」


依頼内容の難易度ではなく、協力するという時点で高難易度なわけだ。

そんな内容を受けるのは、とても人の良い冒険者か新人冒険者くらいだろう。

色々と考え込んでいると、受付が自分たちの番になった。


「すみません、こちらで地図が貰えると伺ったのですが」

「あ、はい!ええっと……こちらですね。あの、お二人は旅の方ですか?」

「えぇ、そうです。あ、でも違う国に入るには身分証が必要ですよね……どうしよう、そこまで考えてなかった」

「旅を始めたばかりなのですね!それなら、冒険者ギルドに登録されていきませんか?」


受付嬢が、地図を取り出したところをもう一度ごそごぞしている。

何かの書面を取り出すと、そこには冒険者ギルドの新規登録について書かれていた。


「冒険者ギルドの登録タグは、各国の関所を通る時の身分証にもなります。それと、他の冒険者ギルドからお仕事を受けることもできますよ」

「登録って簡単に出来るもんなの?」

「はい!こちらのタグに、血を一滴垂らせば登録完了です!」


タグを見せて貰うと、ほのかに魔術が仕込まれているのがわかる。何かの判別と、刻印の術式のようだ。


「あの、それだと悪人まで登録できてしまうのでは?」

「いや、大丈夫だテオ。このタグ、血液で悪人かどうか判別できる術式が仕込まれてる。刻印についても、入っているし二重術式だな」

「お兄さん、ソレの魔術式がわかるんですか?!」

「うお……え、あ、あぁ、うん……」


さっきまで土気色だった受付嬢が一気に生き生きし始めた。元気すぎて少し怖い。

しばらく魔術式のことを語っていたと思ったら、しばらくして暴走していたことに気が付きそっと登録用の器具を机に置いた。


「あ、あの、お姉さん気にしないで下さい。好きなことを熱く語りたいという気持ちは、とてもわかりますので……!」

「テオ、テオ。落ち着け。それはフォローになってねぇから」

「あう……すみません……えっと、ターナは文字の読み書きは?」

「出来る。統領から最低限は教わったからな」


チラ、とテオの書く名前を見て家族名を同一のものにした。

テオ・ノクターンとタナトス・ノクターン。どこでそんな家族名思いつくのか不思議でならない。

受付嬢が俺の名前を見て、真っ赤になった顔が真っ青になっている。表情豊かだなと遠い目をしながら、指を小型ナイフで切りタグに血を垂らす。

タグにはきちんと、その通りの名前が刻まれていた。テオも同じのようだ。

手慣れた手つきで、俺の指先をハンカチで拭っている。あっという間に血が止まった辺り、止血剤が仕込まれていたんだろう。

そういう気配りをしたテオは、血が出ている指先をそのままにしている。


「おい、このハンカチ……」

「ターナが使った分が最後なんです。あ、私はこのままにしていれば血は止まりますからね!」


元気だと腕を振り回しているが、そのままにしておくのはよろしくない。

振り回す片手を掴み、血が出る指先に舌を這わせる。

血の味は久しぶりだ。一通り舐め取り、口に含むと血が止まったのがわかった。


「ん……もう血は止まったみたいだな……って、どうしたテオ」

「んひぇえええ……」

「なんでそんなに真っ赤なんだ?別に傷を舐めるくらい普通だろ?」

「普通じゃないです!全然、普通とは違います!もうっ!ターナの舐め方が、すごくいやらしいんですよ!!」


それは大袈裟なんじゃないかと、受付嬢と周囲の冒険者を見ると全員顔が赤い。

隅にいる冒険者は静かに自分のイチモツをしこっているのは見なかったことにする。


「……とりあえず、宿に戻ったら常識を教えて欲しい」

「はい……そうしましょう……」


受付嬢からタグを受け取り、冒険者ギルドの使い方について説明の後すぐに宿へと戻った。

市場は活気づいているが、顔を真っ赤にさせたテオをそのままに居させるわけにはいかない。

部屋に戻ってすぐに、テオをベッドに寝かせておいた。色々とキャパシティオーバーのようで、気絶するように眠ってしまった。

どの程度なら普通なのか。俺自身の居た場所が特殊すぎたせいか、その認識がずれていることはしっかりと理解できた出来事だった。

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