王族集結と本来の目的
室内に入ると、統領は眠っているテオの傍で顔を伏せていた。
水入りの桶を近くのサイドテーブルに置くと、小さな氷を生成して水を冷たくさせる。
その中にタオルを入れて、ぎゅっと絞ってから形を整えてテオの額に乗せる。
顔に赤みがあり、息苦しそうにしていた。
「あの、統領……さっきの話は……」
「フォウ、この話は他言無用だ。決して、口外するな」
「……はい」
ようやく落ち着いたらしい統領が顔を上げる。目元には涙の跡があった。
どんな状況でも統領の泣き顔なんて見たことがない。
「私は、この国を追放された元第二王子。本名を、マティアス・N・ノクタという」
「やっぱり、第二王子様……だったのか……」
「そして、セスは私の側近であり、今は吸収されたノルン連合諸国の第一王子。本名は、レグルス・G・ノルンだ」
「……は?セスが元第一王子で、側近……?」
「最後に、ここにいるテオリアは赤ん坊の頃に行方不明となったノクターン小国の第三王子。それと、レグルスにとって甥になる」
「ちょ、えっ?情報過多で頭が痛いんですけど?!」
統領が、そうなのか?とセスに顔を向けているけど、当たり前でしょう、と反応している。
セスの正体が一体なんなのかと思ったら、沈んだノルン連合諸国の王族で統領の側近だったとか想像を超えてきた。
つまり、テオリアがレグルスの甥っ子というのなら、テオリアの母親は元々ノルン連合諸国の第一王女様ということになる。
「王族しか居ない……!」
「それはそうと、フォウ」
「重大事案なのに流された……なんでしょうか?」
「テオリアの殺害に関してだが、それは取り消しとする。大事な次代の国王をここで死なすわけにはいかない」
「え、あ、はい……それはそうでしょうね……ん?次代の国王?」
「テオリアは、今現在残っている王族で唯一王位継承権がある。彼を旗頭として、現在の国王を失脚させなければならないんだ」
統領はどうなのかと思ったけど、追放処分を受けているので王位継承権もはく奪されているらしい。
現在のノクターン小国の国王は元第一王子であり、愚王と呼ばれている悪しき存在なのだという。
今の状況が非常に悪いことは知っていたけど、そもそも一番上の位にいる国王そのものが諸悪の根源だった。
「そういえば、テオが言っていました。直接、諸悪の根源を断つのではなく、周囲の悪を潰す必要があるって」
「さすがだな……テオリアの言う通りだ。原因である国王自体を先に討ってしまうと、周囲にある悪は身を隠してしまい潰しにくくなる。さらに一番上が突然消えると、国政に影響が出る以外に平民たちの生活にも悪影響が出てしまう。何事も、順番に正さなければ国自体が瓦解してしまうからな」
「えっと……?セス、じゃない……レグルス様?あの、統領の言葉をもうちょっとわかりやすくお願いしたいデス」
「セスで構わん。あと敬語も慣れないなら、今はやめておけ。わかりやすく……そうだな……」
セスことレグルスが、少し悩んだ後に近くにあった紙とペンを使って、何か書き始めた。
覗き込むと、そこにはノクターン小国の構造が書かれている。
「まず、ノクターン小国には一番上に国王がいる。その下には、国王を支える宰相や文官、物理的に守る騎士団と、身の回りの世話をする執事や侍女がいる。王宮内はこのような構図だ。ここからさらに、国を支える領主たちがいる。領主たちを支える為の配下がいる。さらにその周囲にいるのが平民だ。このように国王を中心として、枝分かれをして人々の生活が関わっているんだ。ここまではわかるか?」
「うん、大丈夫」
「そして、国王が悪い存在。さらに、この領主の周囲に悪い奴らが沢山いる。ここで悪い国王を潰したとしよう。そうなると、一番上にいた頭が消えてしまう。そうなると、下への指令が行き届かなくなり混乱してしまう。この大混乱を起こさない為に、領主周辺の悪を潰して正しく動かした上で、一番上に居る人をテオリアに置き換えれば、大混乱を巻き起こさないで済む。ということだ」
レグルスの説明はとてもわかりやすい。
確かに人間の頭が消えたら、そもそも生きられないからな。それは人々の生活と直結してるのか。
説明を受けている横で、統領がなんだか複雑な表情をしている。
「俺の説明はそんなに難しいものだったか……?」
「マティアス様、そもそもフォウには国の仕組みを教えておりません」
「あ、そうだった。やはり、人間となっても神の感覚が抜けないのかもしれないな。なぁ、元死神筆頭、タナトス様?」
「えー……今更それを言うのか?統領は初めから気づいていたくせに」
「はは、実力を見るまで気づかなかったんだぞ。神力と魔力を使える人間なんて、どう考えても元神様だとしか思えないだろう」
「俺が死神筆頭だってわかった確証はどこで?」
「フォウがテオリアと旅をしている時に、隠密偵察部隊のシャドウから情報を受けた。衝撃の事実で、俺もレグルスも驚いたよ」
本当かどうか、レグルスに視線を向けると「本当の話だ」と教えてくれた。
レグルスと俺が何かと意見合わせをするのが面白くないのか、統領が少し拗ねている。子どもか。
それにしても、まさか俺が関わっている人たちが国の最上位にいる王族たちだったとは。
人間を見下していた神格時代の俺からすれば、随分と驚くことだろう。
「状況は理解した。それで、テオにどうやって次の王様になるように説得するんだ?そもそもこいつは、自分の生に興味が皆無だぞ」
「えっ、そうなのか?」
「いつ死んでもいいから、とりあえず旅をしたい、みたいな感じだった」
「……過酷な環境がそうさせているんだろうな……困ったな、どう説得するべきか……」
「マティアス様……」
三人で悩んでいると、テオがコホコホと咳をして目を開けた。
視線をこちらに向けると、統領とレグルスを一瞥した後に俺へと声をかけていた。
「お話は、聴こえていました……私は、タナトス様の傍に居られれば何も望みません……」
「て、テオリア、無理に喋る必要は……!」
「大丈夫です……あなたたちが異母兄であろうと叔父であろうと、どうでもいいです。私は、タナトス様の……げほ、ゲホゴホ!」
「わ、わかった!わかったから、フォウ。テオリアに水を飲ませてやってくれ」
テオを支えながら、渡されたレモン水を飲ませると全部飲み干せた。
落ち着いたテオに統領が説得を試みたが、どうにも上手くいっていない様子だった。
現状を考えた上で統領は俺に新しい指令を出す。
この旅の続行と俺はテオの護衛役としての任務を行うことを決定されることになったのだ。
旅の続きをしてもいい、というのは嬉しいとは思う反面にテオはどこか諦めたような表情なのが気になる。
そんな気まずい空気の中、その日は解散となり統領とレグルスの二人は、先に次の目的地へ向かうとのことだ。
三日ほど療養を続けてから、俺たちはセレナードを後にすることになった。




