冷淡なテオリアと貿易都市ソナタ
次の目的地は、ここから西にある貿易都市ソナタ。
いつもの乗合馬車だが、今回は砂漠地帯を通り過ぎることになっていた。
領土の境を越えた瞬間に広がる砂漠地帯。
それにしては、砂漠の範囲がはっきりとわかるというのは珍しい。
普通だと、地平線まで砂だらけのはずだが目視でも、砂漠化している範囲がはっきりと見える。
新たに護衛任務として契約を切り替えた俺たちは、ギクシャクしていたが会話自体はそれほど変化はない。
なんとなくテオに、この辺りの砂漠について聞いてみることにした。
「砂漠、と言いますが……そこまで広くはありません。何故か領地の真ん中だけ砂漠化しているのです」
「確かに急に、砂漠になってんな……?次行く貿易都市のギルドの人とか、理由知ってそうだけど」
「どうでしょうか……この部分だけ砂漠化したのは、随分昔の話のようで……それこそこの世界が出来た時からこうらしいです」
「え、じゃあゼクシオンに聞かないとわからないやつじゃん」
「ふふ、主神様に気軽に会えないので、我々としては謎が深まるばかりです」
いつかの作り笑いのテオを見て、どこか気まずい。
感情をコントロールすることについては、テオが上手い。というか、上手すぎる。
それこそ、肉親だと分かった統領とレグルスについても、どこか冷めた態度をとっていた。
セレナードを出る前に、テオに次代の国王になって貰おうと統領が説得を試みたが心底どうでもいい、という顔。
「私の目的は、あくまでもこの国の住む人々が過ごしやすい生活の手助けをすることです。王位に興味はありません」
「その手助けをする為なんだ。頼む、テオリア。次の国王になってくれ」
「……他に王位継承者がいない、とおっしゃいましたね。では、私はその次の国王が現れるまでの繋ぎとなりましょう」
「は……?」
「新たな王が生まれるまでの代理です。譲歩できるのは、そこまでです」
統領としても、まさか国王に即位することを拒否されるとは思っていなかった様子だった。
譲歩しても代理役としての立場。酷く戸惑っていた統領ではあったけど、仕方がないのでそれを受けることにしたようだ。
テオにとって、統領とレグルスは身内のはず。そんな身内が必死に頼んでいるのに、冷たいのでは、とテオに言うが、彼の瞳は冷え切っている。
「彼らは、確かに血の繋がりがあるのかもしれません。ですが、私にとっては他人も同然です。そもそも、セレナードでの任務を横取りした上に私を除外したのはこちらのお二人でしょう?所詮は、その程度の人間だと思われていますから」
「いや、あれは……!」
「言い訳は不要です。ここまで譲歩しているのですから、これ以上要求しないで下さい」
暗殺集団で長くいた俺にとって、血の繋がりのない皆のことを家族も同然だと思っている。
けれど、血の繋がりがあったとしても赤の他人になってしまう。その光景を間近で見ることになった。
複雑な気持ちのまま、統領とレグルスは先にセレナードを出発し、その後に俺たちが出ることにした。
そして、現在。乗合馬車の中で、俺たちの関係もなんだか淡々としている。
乗合馬車が貿易都市の城門に到着すると、門番に止められた。
どうやら、身分確認をしている様子だ。外からの来訪者で悪い奴がいないか調べているんだろう。
俺とテオも、冒険者ギルドのタグを見せると通過は出来たが、何故か俺だけ呼び止められて手紙を渡された。
「なんスかこれ」
「領主様からの特別な招待状だ。必ず行くように」
「あ、これ招待状なんだ。はーい」
軽いノリでそれを受け取ると、門番はどこか複雑な顔をしている。お前が受け取れって言ったんだろ。
乗合馬車の停車位置は、門を抜けてすぐのところだった。
貿易都市と言われるわりには、人が少ない。しかも、中央通りにあるはずの市場は閉鎖されているようだ。
あまりにも貿易都市とは程遠い現状を見て、小声でテオに話しかけた。
「えーっと、テオ?ここって、貿易都市、なんだよな?」
「はい。現在の領主になる前までは、貿易都市として栄えていました。噂によると、領主と悪徳商人たちが貿易流通を停滞させているらしいです」
「たぶん本当なんだろうな……これからどうする?」
「タナトス様は領主の招待状を手に入れていますから、後は私の分が必要です。ひとまず、冒険者ギルドに寄りましょう」
「……なんか、様付けされるの違和感あるんだけど」
「そういう契約ですから。適切な呼び方をしているだけです」
テオがぱたん、と手帳を閉じると慣れた様子でソナタの冒険者ギルドを見つけ出していた。
だいぶ入り組んだところにあった建物ではあったが、確かに冒険者ギルドの看板がある。
中に入ると、そこにいるはずの冒険者の姿はない。奥にひとり、本を読んでいる受付ならいた。
「珍しいこともあるもんだな。お前さんたちは、冒険者かい?」
「はい、セレナードのギルマスより書状を受けております。こちらのギルマスに繋げて頂けませんか?」
「ほぉ……あぁ、本当だな。わかった、少し待っていてくれ」
どこかくたびれた男性が、奥にある部屋へと向かうとすぐにギルマスらしき人物が現れた。
恰好を見てもわかる貴族の男だ。どこか品の悪さも感じる。
「イヒヒ、失礼しました。私が、このソナタの冒険者ギルドのマスターでございます。お二人は、極秘任務を受けて下さるのでしょうか?」
「その前に、現状の把握をしたいのです。情報提供と、私の分の招待状をご用意して頂きたい」
「もちろんでございます!えーっと……ジェイ、代わりに説明を」
「はぁ……申し遅れました。私は、受付を兼任している副ギルドマスターのジェイです。まず、このソナタが貿易都市だということはご存じですね?」
「えぇ。それと、噂ではありますが領主と悪徳商人たちが貿易停滞を起こしているとも伺いました」
「おおよそ、その通りです。領主様と子飼いの悪徳商人たちが、この領地の貿易を独占しています。他商人に対して、高い関税をかけることで流通を排斥。この土地に住む民間人は、領主様の機嫌を損ねれば公開処刑が当然のように発生しています」
想像以上に酷い現状に、俺たちは顔を顰める。その気持ちはわかります、とサブギルマスは無表情で頷いている。
ひとまず、現状は理解した。これは早めに領主と子飼い共をなんとかしなければならない。
けれど、ギルマスはそんな中で何か提案があるらしく、声をかけてきた。
「あのぅ……出来れば、大物獲りは控えて頂きたいのです。こちらのギルドを、潰されたくはありませんので……ンヒヒ」
「なるほど、癒着ですか」
「え?!あ、いや、そのぅ……!こちらはそれでなんとか経営していまして……!」
「ふふ、すみません。お金がなければ、どうにもなりませんからね。それで、参加することになる夜会について何か注意事項はありますか?」
「そうですねぇ……ドレスコードがあるくらいでしょうか。そちらのお連れ様は、とてもお綺麗なので領主様は気に入るでしょうなぁ……ヒヒ」
「ん?テオ、ドレスコードってなんだ?」
「夜会や舞踏会といったパーティーには、ある程度の礼儀も含めた服装の指定があります。それがドレスコードですよ」
説明を聞いて思い出した。お姉様方が言っていたドレスとかスーツとか、そういう堅苦しい服装のことか。
しかし、俺たちにはそんな服など持ち歩いていない。
どうするべきかと悩んでいると、冒険者ギルドの方で手配してくれるらしい。
この様子だと、おそらく俺はドレスだろう。夜に着るタイプのやつ。メイド服といい、どうして女装が似合うのか自分でもわからない。
その謎を抱えながらも、テオの分の招待状も無事に手に入れてすぐに夜会へと行くことになった。




