海賊討伐と新情報に動揺する
朝日が入ろうとした頃に目が覚めた。時計を見ると、午前5時を指している。
討伐開始の時間は、午前6時を予定しているので1時間前に目が覚めたんだろう。
身支度を整え、部屋を出るとテオと遭遇できた。
「あ、テオ。おはよ……もう朝ごはん食べたのか?」
「えぇ、おはようございます。食べておいた方がいいと思いまして……すみません、突撃開始まで仮眠を取るので起こして貰えますか?」
「もしかして、寝ていないのか?大丈夫か?」
「大丈夫です。事前準備に時間がかかっただけなので……お願いしますね、ターナ」
無理矢理な笑顔を作るテオを見て、どうにかしてやりたかったが頷く以外出来なかった。
その様子を見て安心したのか、テオは背を向けて自室へと戻って行った。
後ろ髪を引かれる気持ちではあったが、朝食は取らないと動けない。
足早に食堂へ向かい、朝食セットを頼んでテーブルに座ると黙々と食べていく。
「さすがに早いな、フォウ」
「んぐ……セスとエム様……エム様は変わらず朝に弱いんだな……?」
「日頃は夜に動くから当然だろう……セス、コーヒーを頼んでくれ」
「エム様、コーヒーだけではいけません。しっかり朝食は取りましょう」
「そうだぞ、エム様。コーヒー一杯は朝食にならねーんだから」
「あぁ……集団内のお母様が揃っちまった……」
げんなりとした表情をしている統領だが、無理矢理にでも食事を取らないと倒れてしまうのを理解している。
なので、本人が嫌がっても食べられると判断すればしっかり食べろと叱るのだ。
セスが始めたことだったけど、気づけば俺も統領の食事事情に口を出すようになり、集団内のダブルお母様と呼ばれるようになった。解せぬ。
一般的な朝食メニューより、だいぶ軽い内容ではあるが統領は野菜サラダとトースト一枚を口にしていた。
いつも思っていたが、統領とセスは食事の所作がとても綺麗だ。
テーブルマナーや社交ダンス、貴族としての礼儀などを教わったのは統領とセスが主だった。
統領は薄々ではあるが、元王族なんだと思っている。ただ、セスはわからない。本当に謎の大男だ。
「さて、そろそろ出発の時刻だ。フォウ、坊ちゃんは?」
「仮眠を取るって言ってた。起こしてきます」
「……ん?坊ちゃんは昨夜、寝てないのか?」
「え、うん。徹夜で何か準備していたらしいよ。詳しくはわからないけど」
それだけ告げると、俺は統領とセスを置いて部屋へと向かう。
扉をノックしてから、入室すると既にテオは起きてはいた。だけど、どこかぼーっとしている。
「テオ、本当に大丈夫なのか?」
「え、あぁ……ターナ、時間なんですね。ふふ、大丈夫ですよ。少しフラフラしますので、お二人にご挨拶だけしてまた戻ります」
「えぇ……義理堅いなぁ……ほら、支えてやるから」
テオを支えながら、食堂に向かうと統領とセスの表情が一気に青ざめていた。
俺は二人がこんなに切羽詰まる表情になったところを見たことがない。疑問に思いながらも、テオを統領のところへ近寄らせる。
「おはようございます、サイレンス統領エム様、セス様。海賊討伐を、どうぞよろしくお願い致します」
「あ、あぁ……それはもちろんだ。その、首から下げているその指輪は……」
「お気になさらず。そろそろ討伐に行かれるのでしょう?ターナ、海賊船はここから東側にある大きな港にありますよ」
「え?あぁ、わかった。エム様、セス、テオはフラフラしてるから部屋に戻らせるよ」
「あぁ、そうしてやれ。後で聞きたいことがあるから、今のうちに休んでおけ」
「お気遣い、感謝致します」
統領とセスに貴族の一礼を見せると、そのままひとりで部屋へと戻ってしまった。
心配ではあったが、討伐が先だ。統領の合図で、急いで海賊船へと向かう。
先行して俺が海賊船内に侵入すると、あちこちでイビキをかいて爆睡している海賊たちの姿があった。
船内に入る為の橋をかけると、統領とセスも入って来て驚いていた。
「おいおい、いくら大酒飲みにしてもここまで爆睡するのはありえないだろう……?」
「エム様、海賊のひとりの呼気を調べたところ、どうやら酒の中に強力な睡眠薬が入っていると思われます」
「なるほどな、薬入りの酒が振舞われた結果がこの船内全員が爆睡ということか……やるじゃないか、あの坊主」
「え、坊主?もしかして、テオがこれを……?」
「これだけの量の酒と薬を用意したんだ。そりゃあ、徹夜での作業にもなる。恐ろしい策士だな」
戦力外通告をされたのにも関わらず、俺たちの仕事がしやすいように動いてくれていたらしい。
ひとまずは、ここにいる海賊たちは皆殺しにせねばならない。
熟睡している間に、俺たち三人は手分けして息の根を止めていった。
全員死亡を確認すると、海賊船からそのまま下船して冒険者ギルドへと向かう。
バタバタと起きてきたギルドマスターに報告すると、両手を挙げて喜ばれた。
報酬金と欲しい品物などを手に入れると、俺たちはテオのいる部屋へと急いで向かう。
ノックなしに部屋に入ると、テオはベッド手前の床に突っ伏して倒れていた。
「テオ……!お前、限界だったんじゃないか……!」
「セス、急いで医者を呼べ。冒険者ギルドの横に診療所があったから、そこにいるはずだ」
「はっ、承知しました」
「しっかりしろ、テオリア。絶対に死ぬな!」
常に冷静沈着な統領が焦っている。その姿に驚いていると、手際よくテオはベッドに寝かされて首元を楽にさせていた。
統領に指示をされて、水の入った桶とタオルを持ってくるために女将に話を通すと、急いで用意してもらえた。
待っている間にも、セスが街医者を連れてきたらしい。
セスが街医者を担いで、部屋へ向かっている。そんなに緊急性の高い状態ではないと思うんだけど、それで大丈夫なんだろうか。
水入りの桶とタオルを用意してもらい、急いで部屋へ行くと扉の前で神妙な会話が聞こえてきた。
「……安心して下さい。ただの過労と寝不足です。しばらくゆっくり休めば、回復しますよ」
「そうか、良かった……はぁ……異母弟を亡くすかと……」
「おや、彼のお兄様でしたか。不安な気持ちはわかりますが、あなたが不安そうにしていると患者にも影響します。毅然な態度でいなさい」
「はい、ありがとうございました」
街医者が片づけをすると、ゆっくりと入り口の方に向かっている。
思わず隣の自室に身を隠して、医者がいなくなるのを待った。いや、なんで俺は隠れているんだろう。
自問自答をしながらも、医者がいなくなった後の部屋の前で聞き耳を立てていた。
「マティアス様、やはりこの子は……」
「あぁ、間違いない。俺の異母弟で、セス……いや、レグルス。お前の甥でもある第三王子だ」
「王家の家紋付きの指輪を見て、もしやと思いましたが……そうですか……甥は、生きていたのですね……」
「どこかの領主に預けられたのは知っていたが、まさかレクエム領にいたとは……調査不足だった。もう少しで、俺は弟を殺させるところだった」
「自責の念に駆られるのはまだ早いです。こうして、再会できたのですから今から指令を変更しましょう」
「そうだな……フォウに指示変更を伝えよう。本当に、本当にすまない……異母弟テオリア……」
この部屋にいるのは、統領とセスとテオの三人だ。
そして、セスの本名はレグルス。テオは、テオリアという名前だったので本人ではあるが第三王子。
残るは統領だが、予想通りあの人が元第二王子本人だった。
つまり、この室内には王族が一同に揃っていることになる。
あまりにも場違いが凄くて、俺は動揺した。入っていいものかどうか悩んでいると、統領から呼ばれた。気づいていたらしい。
深呼吸をした後、おそるおそるテオの眠る部屋へと入って行った。




