統領エムと元貴族テオの冷戦(と巻き込まれるタナトス)
連絡を飛ばしたから、近々接触してくるだろうとは思っていた。
思ってはいたけど背後からいきなり登場するのは予想外だった。シンプルに怖い。
それと、さっきから横にいるテオが統領をものすごい顔で直視している。
なんなんだ、この構図は。
異様な空気の中だったが、受付の男が統領にも紅茶を置く。
「あぁ、すまない。場を悪くさせたな」
「い、いえ……まさか、サイレンスのリーダーがいらっしゃるとは思わず……貴方が参加して下さるのでしたら大成功間違いなしだ」
「期待に応えられるように努力はする。さて、報酬はどうなっている?」
「報酬金はもちろん、他に必要な物も用意できるが……ここは長く海賊に奪われ続けた街だ。あまりいい物は難しいと思ってくれ」
ふむ、と考える仕草をする統領。居心地の悪さを感じながら二人の会話を聞いていると、後ろから誰かが立っている。
扉が開いて入ってきたから気づいてはいたが、第二位のセスだ。
統領以上に大柄な男なので、どうしても威圧的に見える。
「セス、いつからこの街に?」
「つい先ほどだ。フォウならば、冒険者ギルドに真っ先に行くだろうとエム様に言われてな」
「なるほど……連絡を受けてすぐ来た感じか」
「二人が請け負うところに割り込んですまない」
「いいよ、別に。俺は別にいいんだけど……その、テオ?さっきからどうした?」
おそるおそるテオに視線を向けると、何を考えているのかわからない無表情だ。
反応は遅れたものの、俺が声をかけるといつもの笑顔を浮かべている。これは作り笑顔だ。
「フォウ、その坊ちゃんに構っている場合じゃないだろう。仕事だ、仕事。フォウは斥候、セスは俺のサポートに回れ」
「承知しました」
「え、あ……あの、エム様?テオは……?」
「坊ちゃんには宿屋で待機してもらえ。戦力にならない奴は足手まといだ」
あからさまな統領からの挑発に、テオの表情がまた消える。無表情でただじっと見つめているだけなのに、交わされる視線が怖い。
俺を挟んで冷戦が起こさないで欲しい。
「では、ギルマス。報酬金については、手筈通りに。それと任務完了後は、フォウを貰っていくから」
「え?えぇっと、それは……ご本人の意思確認が必要では……?」
「フォウは大丈夫だろう?俺が出した任務失敗した経緯についても、よーく聞いておきたいからな」
「うう……俺はいいけど、連れのテオは……」
「ターナの意思を無視されないのなら、ご自由にどうぞ。私は先にやることがありますので、失礼します」
淡々と事務的な口調で、すっと立ち上がり受付の男のところへと歩み寄り、何か話している。
統領の威圧が強いのはわかるが、こうもあっさりと引き下がるとどこか複雑な気持ちになる。
いつもなら、可愛い独占欲を出したはずなのに。
「……なんだよ急に、可愛くない奴」
「拗ねてるんだろう。まだまだ若いな、あの坊ちゃんは」
「エム様は大人げないので、彼の反応は普通です」
「……う、セス、お前……言うようになったな……?」
「正論をお伝えしたまでです」
二人の会話はアジトに居たころから、こんな感じだ。
たぶん元々は主従関係なんだろう。それにしては、主であるはずの統領に対して、厳しいことを言える辺りセスは肝が据わっている。
任務開始の時間は、翌朝。それも早朝に実行すると決定していた。
ギルマスの部屋を出ると同時に、少し離れた位置からテオがこちらを見ていた。
俺にそっと、メモを渡してきた。どうやら今日の宿泊先の情報らしい。
「受付の男性に、宿泊先を取って頂きました。こちらでの宿泊と飲食代はギルド持ちだそうです」
「そっか、わかった。テオも一緒にそこ行くか?」
「いえ、私はまだ準備がありますから……先に休んでいて下さい。では」
スッ、と貴族としての一礼を統領に向けて行うテオを見て、戸惑った。
傭兵団の姐さんから教わったことだけど、これは自分よりも位が高い相手にする最高礼だ。
薄々思っていたけど、もしかして統領って王族だったりするんじゃないのか。
「フォウ、俺のことを深く考えるな。まったく……随分と賢いクソガキだな」
「子ども相手に敵意を剥きだしにしたのは、エム様の方でしょう。あのような対応など、可愛い仕返しにすぎません」
「さっきから、お前はどっちの味方なんだよ……セス……」
「任務遂行する為、正しい位置にいると自負しております」
基本的には統領の味方ではあるセスだが、任務遂行を最優先にすると統領すら突き放すこともある。
街を散策してくる、と統領が先にギルドを出ていくとそれに何も言わずについていくセス。
なんだかんだ言いながらも、あの二人はアレで仲がいいのだから不思議だ。
セスに喧嘩しないのか、と聞いた時もあったが統領が一方的に暴言を言い放つだけで終わるらしい。
「まぁ、深追いするなって言われてるし……やめやめ。宿泊所に行って、ゆっくりしよ……」
難しいことは深く考えない。
それは今までの任務の中でも、身をもって体感していたことだ。
地図通りの宿泊所に行くと、街中でもかなりグレードの高いホテルだった。
受付で案内されると、鍵を渡される。宿泊するところは、全員個室らしい。
ほんの少ししかない荷物を自室に置くと、ベランダの方へと進む。カーテンを開けると、夕日が完全に沈む前だった。
ぼーっと日が沈むまで見ていると、お腹がすいてきた。
夕食については、一階の食堂で食べることが出来ると言われている。メニューは選択可能だが、そこまで多くはない。
現状を考えても、食材や備品の類は海賊たちの影響を受けているんだろう。
部屋の鍵をかけて、食堂へと降りると一階の食堂にはそこそこ人が居た。
隅っこの席を取ると、カウンターでメニューを見て注文する。受け取り窓口で食事を受け取ると、席に座って食べ始めた。
俺が選んだのは、肉料理だ。温野菜とたまごスープもついてきているから、豪華な夕食に見える。
ひとり黙々と食べていると、フォウ、と声をかけられた。
「もう夕食は済ませたのか」
「うん、食堂の使い方はわかる?」
「いや、その説明は受けていない。教えてくれ。エム様、何かお腹に入れましょう」
「俺はフォウの食事量を見て腹いっぱいになっているんだが……どこにその量が入っているんだ、フォウ……」
スープも飲み終えて、ナプキンで口元を拭くと正直に統領へ返事をする。
「お腹です」
「確かにそうだな。お前はそういうやつだよ……!セス、胃に優しいメニューがあったらそれで」
食べ終わった食器類は、返却口に置いてセスのところへと戻る。
食堂でのメニュー選びのやり方や、統領が欲しいだろう胃に優しいメニューを頼んで二人分の注文が終わった。
食事の受け取りと、食後の返却についても説明すると後は大丈夫らしい。
その説明が終わると、俺は先に部屋へと戻った。
室内に用意されているシャワー室と浴室に入ると、汗を流せてさっぱりできる。
もうだいぶ夜は遅い。ベッドに入ると、俺はあっという間に寝落ちてしまった。
時刻は深夜を過ぎた頃。タナトスの部屋に、ほとんど音もなくテオが入ってきた。
ぐっすりと眠る姿を見て、どこか安堵の微笑みを零す。
静かに片手を取り、額に当てて目を閉じる。何かを捧げ祈るように。
「この契約が終わるまで、どうかお傍に。最愛の人から殺されること切に願う私を、お許し下さい」
額を放すと、その手を広げさせた。そして、手のひらに口づけを落とす。
唇が離れると、その手をそっと降ろしてブランケットを掛け直すテオの姿があった。




