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真夏の雪  作者: つむぎ舞
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対決①

 高森雪緒を乗せた陸上自衛隊のヘリコプターは神戸港の倉庫から約三十分で尾道上空へと到着し、尾道中央高校の校舎裏のグラウンドに着陸した。

 それを迎えに出たのは木崎警部と水原巡査部長の二人、一橋警部も応援に駆けつけたそうだが、負傷し今は尾道ホテルの第二会議室に帰還している。

 二人の表情はいつになく険しい。既に高森由季子死亡の報告は受けています。ヘリと特戦群の支援要員三名には現状待機を命じて校舎へと進みます。木崎警部が私に現状を報告。

 すでに学校の周辺は地元警察によって封鎖され、マスメディア対策など学校内への厳しい入場規制が行われている様です。

 二年二組の担任教師と生徒達は保護され、軽傷者の手当の後『外事六係』を置く尾道ホテルへと全員を一旦バスで輸送するとのこと。殉職したSP二名と警戒員二名、射殺した武装グループの三名の七人、それと高森由季子の遺体は体育館に搬送される様です。

 捜索中だった最後の『ぬっぺらぼう』は一橋警部が射殺、武装グループは傭兵リチャードと思わしき人物を含む六名がヘリコプターにて南の海上方面へと逃走したと伝えられる。


 校舎の階段には激しい銃撃戦の跡、第二校舎二階の二年二組の教室。破れたガラス窓に銃弾で穴の空いた天井と黒板。

 床に流れて乾きかけの青色の血の海、誰もいない教室の中にはビニールシートに覆われた小さな遺体が一つだけ。

 流した涙の跡の残る由季子の目を見開いたままの顔、冷たい彼女の身体を高森雪緒は抱きしめた。

 高森由季子は体に数発のライフル弾、そして額に止めの銃弾を受けている。彼女の頭に銃弾を撃ち込んだのは金髪の西洋人だったという。傭兵リチャードめ。こんな酷い事がなぜ出来るのだろうか。

『雪女』化した自分の目からはもう涙は流れない。悲しみと怒りの感情に黒髪が反応するようにたなびくだけ。

 目を赤く腫らした木崎警部が私の側に立って言います。


「生徒達の話によると、彼女はクラスの皆を守ろうと一人で銃を持った連中に立ち向かったそうです。我々がもう少し早く到着出来ればと思うと残念でならない。任されておきながら、すまない」


 由季子の遺体に実況検分や鑑識活動は行われません。ただ存在しなかったものとして処理されるだけ。彼女の開いた目を閉じその遺体を高森雪緒は抱え上げた。


「高森さん、お願いです。彼女は私に運ばせて下さい」 

 水原龍子巡査部長がそう申し出る。校舎裏の体育館に向けて歩を返します。

「ごめんね、守ってあげられなくて。本当にごめん」

 そう由季子の遺体に何度も言いながら、彼女は赤く腫らした目からまた涙を流してくれています。


 高森由季子の死の知らせは『外事六係』を通じて『人外』側の代表となる長老会議の元へと届き、彼女を守り切れなかった日本政府はそれなりの責任を問われる事になるでしょう。その結果、私はともかく人間達の側にどのような裁定が下るのかは分かりません。

 でも由季子は自分の好きな友人達を守る為に勇気ある人間として戦い命を落としたのです。その気持ちは無駄にしたくはないと思います。


「あの、高森さん。ちょっとこれ、頭の傷が」

 そう言いながら由季子を抱えた水原巡査部長の足が止まる。見ると由季子の額の銃創がシュウシュウと音を立てながら修復されていき、頭の中にあった弾丸がポロリと廊下に落ちて転がって行く。

 水原さんの流した涙に反応して由季子の傷が再生を始めた様です。


「水原巡査部長、すぐに救急車を回して由季子を病院に搬送して下さい。外科治療の必要はありません。代わりに大量の水分、出来れば生理食塩水に全身を浸し続ける様に伝えて下さい」


「この子、助かるんですか?」

「由季子の中の『雪女』の再生能力がこれ程に発現しているとは知りませんでした。もしかしたら」


 完全体の『雪女』ならば私がそうである様に問題なく復活を遂げるでしょう。

 ですが由季子はまだ人間。

 一部『雪女』の力を有しているとはいえ、人間としては既に死んでしまっているのです。傷が再生したからといって生き返るとは限らない。

 そもそも混血の状態での死亡例は過去に無く、その結果は私にも分からない。

 ただ祈るのみです。


 木崎警部が一橋警部からの連絡だと自分の携帯電話を私に差し出します。空自と海自の哨戒網の協力も得て逃走した民間ヘリコプターの追跡を行っているが、対象は発見できず。走査記録では因島近海にてヘリの航跡はロストしている様です。彼女は引き続き目視に切り替えての捜索を継続すると伝えてきます。


「負傷してるって聞いたわ。無理はしないでね」


 高森雪緒は一言そう告げると木崎警部の方に向き直って言う。

「木崎ちゃん、まだ奴らはこの近くにいる。今度こそやっつけるよ」

「喜んでお供しますよ」


 高森雪緒等の乗る陸上自衛隊のヘリコプターは尾道中央高校を離陸後すぐに海上、尾道水道へと出た。向島を超えて因島上空へ。

 眼下の海上には大小の多くの島がある。ヘリコプターが駐機出来る大きさの空き地がないか、自衛隊員達も双眼鏡を覗きながら目視で捜索します。武装グループの潜伏地もきっとそのすぐ側にあるはず。

 見つからない。周囲の島々にはそれらしい場所が見当たらない。


 一橋警部からの連絡、衛星にまで手を伸ばしたので解像度は非常に低いが、海上を航行中の貨物船上にシートを掛けられたヘリの様なものがかすかに見えたとの情報。パイロットにその事を伝え、周囲を航行中の貨物船の捜索に切り替える。


「高森二佐、発見しました。前方八時の方角に貨物船。船名は『バレンシア』」


 接近してきた私達のヘリコプターに向けて船上から武装した船員達による銃撃を受けました。カンカンと機体に火花が上がり、急上昇して銃弾を避けます。


「あれに間違いなさそうね。今度は絶対に逃がさない。海自司令部に支援要請、U型の派遣をと」

 パイロットが高森雪緒の命令を復唱、無線連絡を開始する。


「高森さん。乗り込むんですか?」

「ええ、とりあえずは私が一人で行く。一度距離を取ってから私を海上へ降ろして。その後はしばらく船の連中の注意を引きつけておいて」


 ヘリコプターは貨物船から距離を取った場所で、ロープを下ろす。ブーツを脱ぎ捨て裸足になる高森雪緒に木崎正文は「なぜ」と問いかける。

「裸足の方が能力が伝わりやすいのよ。じゃあ、行ってきます」

 海上へとラペリング降下した高森雪緒は自分の周囲の海面を凍らせて足場としながら、貨物船へと向けて全力で走り始める。

 海の上に氷で出来た白い航跡を作りながら一直線に進む彼女。ヘリコプターの中では三人の特戦群隊員達が八十九式小銃やボルトアクションの狙撃銃を用意して彼女の援護態勢を取れるよう体を機体に固定する等の準備を始める。

 木崎正文は彼等の銃と比べれば豆鉄砲の様な自分の自動拳銃を見つめながら舌打ちする。ロングレンジの撃ち合いでは自分の出番は無さそうだ。

 自衛隊のヘリコプターは先行し、貨物船の船員との銃撃戦を展開する。しばらくして貨物船の船体を跳び越えるほどの巨大な氷柱が海面から出現し、その頭頂から船上に飛び降りていく高森雪緒の姿が見えた。

 ヘリの方に注意を向けていた船員達の背後を取り、自動拳銃のフルオート射撃で敵を薙ぎ倒していく彼女の姿。左手に拳銃、右手に日本刀を抜き放ち、次々に敵の首を斬り落としていく。

 警察組織と自衛隊を行き来し、更には自らが武器を振り回しての圧巻とも言える大立ち回り、木崎正文は思わず声に出していた。

「あいつ、一体何なんだ」

「『雪女』ですよ木崎警部。そして自衛隊唯一の先の大戦の経験者にして日本最強の自衛官ですよ」


          *          *


 ヘリからの銃撃に気を取られた敵に向け弾倉が空になるまで撃ち続けた。瞬時に目視出来た敵は十人で、一撃で頭部を潰せたのは半数。

 思った通り頭部を撃ち抜いた敵は全てドロリと崩れ溶けていく。ここの船員達は全て『ぬっぺらぼう』にすり替わられていると見ていいだろう。

 それでも敵を混乱させるのには十分だった。接近して日本刀を振り抜きその首を切断する。討漏らした何匹かもヘリからの銃撃で体を撃ち抜かれてその動きは制限され、高森雪緒の刃の前に倒れていく。

 グロッグ18C自動拳銃の弾倉を通常マガジンに切り替えセレクターをセミオートに戻す。操舵室から発砲してくる一匹の頭を正確に撃ち抜くと、それで船上での抵抗は完全に止んだ。

 船上にシートを掛けられ駐機しているヘリコプターに近づき、そのシートを引き剥がす。そこには銃撃で穴だらけになった民間ヘリとその中で蜂の巣になって絶命している秋山配下の武装グループ一味の亡骸が放置されていた。

 彼等は『用済み』という事で奴らに始末されたみたいですね。

 秋山達もそうですが、本来なら彼等も私達と共に肩を並べて戦う側だったはず、もっと違う出会い方を出来ていたらと思うと残念でなりません。


 広い船上にある船内格納倉庫の扉が機械音を立てて開いていく。大きくぽっかりと開いた四角い大穴、私に来いと誘っているのでしょうか?

 いいでしょう。格納倉庫の闇の中へ一人で飛び込みました。

 四方を鉄の壁に囲まれただだっ広い空間。その壁には何百というクラゲの様な巨大な虫がびっしりと貼り付き蠢いている。人にすり替わる前の『ぬっぺらぼう』の本体。彼等本来の姿だ。


「こんな所に巣を作るとは。盲点でしたね。以後の討伐の参考にしましょう」


 壁から剥がれて一斉に高森雪緒に飛びかかり襲い来る『ぬっぺらぼう』の群れ、日本刀を振り回しそれらを斬っていく彼女の姿が『ぬっぺらぼう』の山に埋もれて消えていく。

 うず高く積もった『ぬっぺらぼう』の山、その全てが凍りついている。バラバラに砕けて飛び散るその中から姿を現した高森雪緒は前方の鉄壁の向こう、激しい殺気を放つそれに向かい大声で咆えた。


「うちの可愛い孫娘に手を出したお前を、私は絶対に許さない」


 正面の鉄壁が溶ける様に崩れて現われたのは金髪の西洋人、傭兵リチャード。彼の登場と共に潮が引くように生き残りの『ぬっぺらぼう』達が壁に空いた小さな隙間の中へと消えていく。

 傭兵リチャードは西洋甲冑にも似た鎧の様な物を纏った姿で現われた。但しそれは明らかにリチャード自身の体と融合しており超科学による機械と生物のキメラのような存在となっている。

 高ぶる感情で高森雪緒の長い黒髪が激しく波打ち彼女の周囲が氷結していく。


「天井が吹き抜けで外界と繋がっているのならば…」


 高森雪緒は空に手を伸ばし凄まじい程の吹雪の渦を空から呼び込み、自身の周囲に展開する。一瞬で格納倉庫内は真っ白な雪と氷に覆われ、吹雪吹き荒れる極寒の環境へと変貌する。

 傭兵リチャードは右手に握りしめた西洋剣、ロングソードを片手で構えて突き進んでくる。

 高森雪緒の持つ日本刀がそれを受け止め、両者の剣が火花を散らした。


この小説は学園ものです。

戦闘話も次回で最後、戦闘なんて飾りですよ飾り。

学園、恋愛、カンフーアクション、ヤンキー、刑事(SPですが)もの、戦争アクション、ホラーなんかを詰め込んだごった煮小説書いたらこうなった的小説です。

原文の残りページ数から見ると、あと五話ぐらいで完結しそうです。

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