八話
黒く巨大な壁面に近づくにつれ、入り口のようなものが見えてきた。
アーチ状になっており、大きめの馬車でも余裕で通れる高さがある。
これまた黒い鉄格子が天井から地面まで伸びている。
コハクくらいなら隙間から通れるだろうが、人間は赤ん坊でも通り抜けられないだろう。
俺の前にある一つに纏められた白髪が振向きざまにサラリと揺れる。
「あの門の先から管理区と呼ばれる地域に入ります。」
「見た目は完全に要塞ですが、出入りは割と自由ですし、危ないところでは無いのでご安心を。」
両目は目隠しで覆われているので、いまいち表情は読み取れない。
続けてギンが後ろから茶々を入れる。
「安全性は最高峰と言っても過言じゃないよねぇ......(出入り自由なのは完全に隊長権限だけど。)」
後半の方はかなり小声だった。
すごいですね...!とコハクは目を輝かせている。
子猫だし、好奇心が旺盛なのだろう。
「ユキ、この辺で降りて良いですよ。」
隊長がユキさんの頭を撫でながら声をかける。
「承知した。」
言いながらユキさんは滑らかに降下していく。
そしてふわりと着地した。衝撃なんて微塵も感じなかった。
俺たち一行はユキさんから降り、歩いて門の方へと向かう。
門の内側で、人影が動いているのが分かる。
何人かがこちらを観測し、パタパタと動き始める。
「隊長が戻ったぞー!」
「早く門開けろ!!」
など、活気のある声が聞こえてくる。
ゴゴゴゴゴ……
重厚な、5mはゆうに超える鉄格子が、どういう仕組みか地面に垂直に吸い込まれて行く。下に開くタイプなのか…。
ゴゴゴ……ガシャァン!!
巨大な鉄格子は完全に地に沈み、地面の一部となった。
「……これ、やっぱり待ってる時間長くて好きじゃ無いんですよね…。」
隊長が呆れを含んだ声音で呟く。
「安全面では結構優秀な作りなんだけどねぇ…。でも僕たちなら、上の方ちょっと開けてもらえば通れるのになぁ〜とは思っちゃうよね☆」
ギンは笑顔ではあるが隊長に同意を示す。
この2人、以外とせっかちなのかもしれないな。
そんな事を考えている間に1人、開いた門の内側からこちらに向かってくる男が居た。
その男は隊長の前で立ち止まる。
短髪で、清廉な感じの男だ。年は30くらいだろうか。俺より少し身長が高い。
隊長やギンと似た装飾の軍服を着ているが、作りや色は2人とはまた雰囲気が違う。
「隊長、今回は早めの帰還でしたね。」
ひと呼吸置き、俺の方にチラリと目線お送る。
「彼が、例の?」
「はい。無事に保護できました。」
「なら良かった。しばらくは管理区に滞在できそうですか?」
「……どうでしょう。一応1週間はこちらに居る予定です。」
「もう少し長く居てくださいよ。管理区にはあなたのファンが沢山いるんですよ?」
「どの区域からも出動要請が無いうちは滞在しますよ。」
「まぁ、そうなりますよね…。こちらに滞在中は是非うちの妻に会っていってください。管理区一のあなたのファンと自負していますから。」
「そうですね、必ず滞在中に会いに行きます。」
口調こそ2人とも固いがお互いに信頼感があるのだろう。和やかな空気が漂っている。
穏やかな昼下がりの平和な井戸端会議だ。
ギンがタイミングを見計らって声をかける。
「セージさ〜ん!そろそろ中入ろ〜よぉ。
今日の門番担当の人達がソワソワし始めてるよぉ!」
門の内側で何人かがこっちをチラチラと見ながら様子を伺っていた。なんか、妙にキラキラした目で俺たちの方を見ている。
「ほ〜ら!みんなでさっさと中に入るよぉー!」
ギンに促され、俺とコハク、隊長とギン、そしてセージさんと呼ばれていた人とでとうとう門の内側へ足を踏み入れる。
なんか、
「キャッ!」とか、
「うわぁ、かっこいい…!」とか、
小さい悲鳴が野郎共から上がっていた気がする。
「恋する乙女か!」
心の中でツッコんだつもりだったが、声に出ていたらしい。
ギンが
「んっ!……ンフフッ…!」
と少し耐えた後に吹き出していた。




