七話
ん??飛ぶって言ったか、この男。
「レンギョウくんはコハクくんをしっかり抱っこしてぇ、ユキくんの背中に乗ってちょーだいね〜。」
ギンはさぁさぁ、と俺たちを急かす。
あぁ、ユキさんが運んでくれるんだな。
じゃあ飛ぶじゃなくて走るが正しい表現じゃないかー。と自己完結を済ませようとした瞬間に記憶が蘇る。そういえば、
俺の元に来る時、コイツら上空から舞い降りて来た気がする。
ならば、比喩ではなく…
「皆さんしっかり乗れましたね。それじゃあ飛びますよ。」
「ユキ、お願いします。」
決して大声ではないが、その声はやけに凛と響いて聞こえた。
白く美しい大狼は応える。
「あぁ、任された。」
そして、白く逞しい脚は地を置去りにした。
浮遊感。俺の足は支えるべき重さを失いソワリと震える。ぐんっと広くなっていく地面、小さくなっていく建物達と共に擽るような興奮が滲み出てくる。
なんだこれ。
期待と同時に顔を上げる。開ける視界。少し冷たい風がこめかみを掠める。
何だコレ!!
「すげぇ!!俺たち飛んでるぞ!!!」
先程まで俺たちを見下ろしていた街並みが、今は眼下に広がっている。上空から目にするそれらはまるで綺麗に並べたおもちゃのように感じてしまう。
柔らかくも輝かしい空の青とのコントラストで余計に現実感が薄い。
腕の中で目を瞑り固まっている毛玉に声をかける。
「コハク、目をあけてごらん。」
「これは目を開けてないと勿体ないぞ!!」
発した声は感動で少し震えていたかもしれない。
俺の興奮が伝わったのか、コハクは恐る恐る瞼を持ち上げる。
「………ぅわぁああ……!」
最初は少し怖がっていたようだが、すぐに感嘆の音に変わる。
コハクも俺もその後はあんまり言葉が出てこなかった。
おぉ!とかわぁ!しか発して無かったと思う。
眺めの良さに浸りながらコハクと暫くきゃっきゃしていたら徐々に景色の様相が変わってきた。
先程までは店だったり民家だったり或いは公園だったり、人の営みが伺える街並みだった。
それがなんだか少なくなってきた。
そしてついに真っ平らな地形になった。
木や観葉植物などは一切無くなり物々しい雰囲気が漂ってくる。
心做しか周囲の温度も少し下がった気がする。
「そろそろ目的地が見えてきますよ。」
白髪の少女もとい隊長が、少し声を張って前方に人差し指を向ける。促されるままに指の先に視線を移す。
そこには――――
一言で表すなら、城塞。
黒く重苦しい石造りの巨大な壁が弧を描いてそびえ立っている。10mは軽く越えるだろう。
中に何があるのかはここからは見えない。
ただの壁だ、が、その圧倒的な存在感に気圧されてしまう。
「でけぇ……。」
至極単純な感想しか出てこなかった。
「街一つ分くらいの広さを囲っているんです。外から見ると存在感が凄いですよね。」
隊長が静かに呟く。
そして、
「私たちの目的地はあの中です。」
と続けた。
そして、ギンが補足する。
「あそこが当面の君の居住区になると思うよぉ。」
「まぁ、僕たちの主な活動拠点でもあるからぁ、安心してよ〜。」
詳しいやつが居るのは確かに安心だな。
しかし、少しの緊張はするものだ。
ほんと、こいつらに拾ってもらえて良かったなと思う。
未知の世界に独りで飛び込むのは怖い。
そして今の俺にとっては殆どの場所が未知なのだから。




