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第65話

 授業が終わって放課後、サンレイが除霊をするというので晴美や浅井に中川だけでなく悪霊が憑いているがまだ風邪のような症状が出ていない級友の数名に噂を聞いた隣のクラスの数名を入れて13名が集まった。

 これに英二や小乃子たちを入れて18名にサンレイとガルルンの20名が残っている。

 メイロイドのサーシャとララミは数には入れていない。


「13人か……サンレイちゃん大丈夫か? 」


 心配顔で訊く秀輝の前でサンレイは机に腰掛けてアイスを食べている。


「平気だぞ、前とは違うからな、低級霊を祓うくらいなら100人でも大丈夫だぞ」

「サンレイだけでダメならガルも力を貸すがお、だから安心がお」


 自分の席に座ってチーカマを食べながらガルルンが言った。

 サンレイが霊力を溜めるのにアイスが必要と言うので秀輝が一っ走りして買ってきたものだ。

 ガルルンのチーカマはおまけだ。2人にとことん甘いのが秀輝である。


「アイス旨かったぞ秀輝」


 礼を言うサンレイのアイスでべちゃべちゃになった口元を英二が拭いてやる。


「俺の霊力は幾らでも使ってもいいからな、無理だけはするなよ」

「心配無いって言ったぞ、アイス食ったからな」


 ニッコリ笑いながらサンレイが机の上で立ち上がる。


「んじゃ始めるか、おらが取り逃がす事あったら頼むぞガルルン」

「がふふん、任せるがお、サンレイが悪霊取り逃がしたらガルが叩き切ってやるがお」


 口の中のチーカマを飲み込むとガルルンが不敵に笑った。


「英二たちは少し離れてろ、そだな、机2つ分向こうに行ってろ、人数多いからな、万一逃げたヤツが英二たちに入ったら除霊やり直しだからな」


 サンレイが言うと小乃子と委員長が逃げるように下がっていく、


「前みたいなキモいのが入ってくるなんて御免だからな」

「この辺りでいい? もっと離れた方がいいかしら? 」


 厭そうに顔を歪める小乃子の隣で委員長が確認を取るように訊いた。


「その辺でいいぞ、ガルルンの後ろについてろ、1番安全だぞ」


 小乃子と委員長がしがみつくようにガルルンの両脇につく、


「心配無いがお、ガルが守ってやるがお」


 2人に頼られてガルルンが嬉しそうだ。

 サンレイが秀輝と宗哉を見る。


「秀輝と宗哉は英二の後ろにいろ、英二の霊力にビビって低級霊は逃げてくぞ」


 最後に英二を見てサンレイがニヤッと悪い顔で笑う、


「英二なら悪霊が入ってくるのが分かるぞ、もし入ってきたら体の中で霊力を爆発させてやれ、練習しただろ心燃焼だぞ」

「心燃焼だな、わかった」


 大きく頷く英二に秀輝が訊く、


「心燃焼ってなんだ? 」

「弱い霊なら自分で祓う事のできる自己祓いだ。他人の霊を祓う事はできないけどね」


 こたえる英二を見つめて小乃子が鼻を鳴らす。


「ふ~ん、色々やってんだな、一寸見直したぜ」

「まぁな、俺を狙ってやって来るなら自分の身は自分で守れるくらいにはなりたいからな」


 照れるようにこたえる英二を見てサンレイが嬉しそうな笑みになる。



 晴美や浅井に中川を含む除霊対象の13人がサンレイが立っている机を囲むように集まった。


「始めに言っとくぞ、除霊したら黒い煙とか蛇とか蛙とか蜘蛛とか百足とかに似た低級霊が出てくるぞ、だから大声で叫んだり、逃げたりするなよ、おらの力で全部やっつけてやるからな」


 説明しながらサンレイが右手にバチバチと雷光を走らせて見せ付ける。


「おらの力だぞ、低級霊なんて一コロで倒せるぞ、だから安心して任せるんだぞ、怖かったら目を閉じてもいいからな、だから大声出したり逃げたりはするなよ」


 サンレイが13人を見回した。


「うん、騒いだりしないよ、サンレイちゃんが除霊する所は見た事あるからね」


 晴美が言うと近くにいた浅井と中川も続ける。


「俺たちも逃げたりしないぜ、今朝頭痛かったのもサンレイちゃんにバチッとやって貰って治ったからな」

「おう、正直怖いけどサンレイちゃんに任せるぜ」


 晴美たちの言葉を聞いて他の級友や隣のクラスの連中も安心した様子で頷いた。


「んじゃ始めるぞ、人数多いから纏めてやるぞ、初めだけビリッとするけど我慢しろよ、おらの電撃で悪霊をあぶり出すからな」


 机の上に立ったサンレイが両手を上げた。


絞雷こうらい鳳仙花ほうせんか! 」


 両手の上に青い雷光の玉が出来てそれが大きくなっていく、サンレイがさっと手を握ると雷光の玉が弾けて周りにいた13人に降り注いだ。


「うわっ! 」


 誰が言ったのかは分からない、小さな悲鳴が4つくらい起きた。

 ビクッとなっているところを見ると電気で痺れたのだというのが分かる。


「我慢しろ直ぐ終わるぞ」


 サンレイに言われて晴美がぐっと唇を噛み締める。

 女子の中には怖くて目を閉じているものもいたが男子は何が起るのか見てやろうと目を開けて周りを見ているものが多い、秀輝と同じスポーツバカの浅井と中川は平然としていた。


 暫くして13人の頭や背中や手足から真っ黒な靄のようなものが吹き出してくる。


「逃げんなよ、悪霊が出てきてんだぞ」


 女子の数名が走り出そうとする前にサンレイが釘を刺した。


「怖かったら目を閉じてろ、悪霊が姿を現わすぞ」


 真っ黒な煙の中から蛇や蛙に蜘蛛に百足、猫や鳥のような姿をした悪霊が出てきた。


「あれは…… 」


 英二が思わず呟いた。

 後ろで見ていた秀輝と宗哉も凝視している。

 ガルルンの左右では小乃子と委員長が気持悪そうに顔を顰めていた。


 出てきた悪霊が全て骨だ。

 蛇や蛙に猫や鳥は分かるが蜘蛛や百足までが骨で出来ているような灰白色をしている。

 冬休みが終わって直ぐに小岩井先生の除霊で出てきた悪霊とそっくりで英二たちが驚いたのだ。


「何だこいつら? みんな骨だぞ」


 出てきた悪霊をサンレイが見回した。


「サンレイ!! 逃げるがお」


 ガルルンの大声でサンレイが我に返る。


「おおぅ、骨ばかりで気を取られたぞ」


 サンレイが気を抜いた一瞬の隙をついて悪霊の数匹が逃げ出そうとしたのだ。

 ガルルンが両手の爪を伸ばして炎を灯す。


「こっちのは任せるがお」


 言うか早いか逃げ出そうとした悪霊をガルルンが切り裂いていく、


「焔爪! 」


 骨だけの蛇や蛙などの姿をした悪霊が切られて焼かれて消えていった。

 サンレイが左右に腕を広げる。


「絞雷、閃光花火、連発だぞ」


 両手から伸びた青い雷光が悪霊たちに絡まっていく、


「終わりだぞ」


 サンレイがギュッと手を握り締めると、雷光が悪霊を締め上げる。


「ギュギュゥ~~、ギャガガァ~~ 」


 断末魔の声を上げた悪霊の頭がボタッと床に落ちて雷光に包まれて消えていった。

 サンレイがパンパンと両手を叩く、


「終わったぞ、みんな喋っていいぞ、除霊は成功だぞ」


 正面にいた晴美がサンレイに抱き付いた。


「怖かったよぉ~~、サンレイちゃんありがとう」

「大丈夫だぞ、晴美にはおらが付いてるからな」


 サンレイが晴美の頭を優しく撫でた。


「おう、体が軽いぜ」

「マジだな、怠かったのが消えてるよ」


 浅井と中川だけでなく13人全員の顔に安堵の笑みが広がっていた。


「サンレイちゃんサンキューな、今度の昼休みにアイスでも奢るよ」

「おう、俺も奢るぜ、ガルちゃんにはチーカマだ」


 浅井と中川の言葉を聞いて抱き付く晴美の頭を撫でていたサンレイがバッと顔を上げる。


「ほんとか? アイス得したぞ」

「わふふ~ん、ガルもチーカマ奢りがお」


 向かいでガルルンも尻尾を振って大喜びだ。

 他の級友や隣のクラスの連中も口々に礼をすると言ってサンレイやガルルンが喜んだのは言うまでもない、浅井と中川が部活に出ると言って鞄を持って教室を出て行く、隣のクラスの連中や他の級友たちも何度も礼を言いながら帰って行った。


「あれだけ術を使っても消えたりしないようだな」


 サンレイの体に変化が無いのを見て英二も一安心だ。


「んじゃ、バイト行くか」


 笑顔の秀輝が英二の背を叩いた。


「おっとそうだった。今日はバイトだ」


 英二が宗哉に向き直る。


「宗哉、サンレイとガルちゃんを家まで送っていってくれ」

「了解したよ、帰りにファミレスでも寄ってパフェでも食べて帰るよ」


 バイトがあるので2人を送って貰う事は昼休みに話を付けている。


「おおぅ、パフェか、やったぞガルルン」

「ファミレス行くがお、やったがお」


 ポンッと机から飛び降りるとサンレイとガルルンがハイタッチして大喜びだ。


「また甘やかして……ダメだからな、真っ直ぐ家に送ってくれ」


 迷惑顔で頼む英二の前で宗哉が爽やかに微笑みながら口を開く、


「みんなを除霊したんだからパフェくらいいいだろ、僕も何か飲みたくなったからファミレスに寄るついでさ」


 サンレイが宗哉の右に立つ、


「そだぞ、疲れたから甘いものが必要だぞ、霊力使ったからパフェで補充するんだぞ」

「ガルはグラタンも食べるがお」


 ガルルンが宗哉の左で言った。


「補充って……わかったよ、晩御飯もあるから少しにしといてくれよ、宗哉頼んだぞ」


 頑張ってくれたのは確かだし揉めてサンレイが拗ねると厄介なので英二は渋々承諾した。


「分かってるよ、軽く腹に入れるだけさ」


 微笑みながらこたえると宗哉が小乃子たちに向き直る。


「いつもの車じゃなくて大型バンを用意してあるからさ、委員長と久地木さんと篠崎さんも一緒に行こう、パフェでも何でも御馳走するよ」


 待ってましたとばかりに小乃子が即答する。


「ラッキー、除霊が見れてファミレスまで奢って貰えるなんてついてるよ」

「またカラオケ行くって言ってたでしょ、いつ行くか話し合いしよう」


 委員長が思い出したように言うとサンレイが賛成というように手を上げる。


「んじゃ、カラオケ行く日にちを決めるぞ、今度は宗哉も一緒だぞ」

「カラオケかぁ、いいね、僕の予定に合わせてくれるなら全部奢るよ」


 乗り気の宗哉を見てガルルンが大喜びだ。


「やったがお、いっぱい食べていっぱい歌うがう、晴美ちゃんとまたデュエットするがお」

「うん、一緒に歌おうね、次はサンレイちゃんも一緒に歌おう」


 晴美が嬉しそうにガルルンに抱き付いた。

 サンレイが宗哉と晴美の顔を交互に見る。


「そだな、そんで宗哉と晴美ちゃんもデュエットするぞ、みんなで遊ぶぞ」

「宗哉くんと…… 」


 驚いた顔で見つめる晴美に宗哉が振り向く、


「そうだね、一緒に歌おうか、僕はデュエットは余りした事がないからお手柔らかにね」


 爽やかに微笑む宗哉の前で晴美の顔が真っ赤に染まっていく、


「こっ、此方こそよろしくお願いします」


 頭を下げる晴美を見てサンレイが大笑いだ。


「にゃははははっ、写真いっぱい撮ってやるぞ」


 はしゃぐサンレイたちを余所に英二と秀輝が鞄を持った。


「じゃあ、俺たちはバイト行くから宗哉に迷惑かけるなよ」

「んだ? まだ居たのか? さっさとバイト行ってしっかり働くんだぞ」


 早く行けというように手を振るサンレイを見てムカッとする英二の肩を秀輝が掴んだ。


「カラオケは俺たちのバイトの無い日にしてくれよ、楽しみにしてるからな」

「わかってんぞ、出来たら休みの日にするぞ、みんなで歌いまくるぞ」


 にこやかに言う秀輝にサンレイが笑顔でこたえた。


「まったく…… 」


 ムスッとした顔で教室を出て行く英二をサンレイが止める。


「英二忘れ物だぞ」

「忘れ物? 何も忘れてないぞ」


 サンレイがトトトッと英二に駆け寄った。


「一応おまじないだぞ」


 サンレイがチュッと英二の頬にキスをした。


「なななっ、何するんだ! 」


 仰け反る英二を見てサンレイがニッと笑う、


「悪霊よけのまじないだぞ、秀輝にもしてやるぞ」


 ポンと近くの机に飛び乗るとサンレイが秀輝の頬にもチュッと軽いキスをする。


「ああ……サンレイちゃんが……今日は風呂入っても顔は絶対に洗わないぜ」

「おまじないならもっと別の方法でしてくれ」


 喜びまくる秀輝の腕を引っ張って英二が教室を出て行く、


「しっかりしろ秀輝、デレデレになってるぞ」


 廊下を歩く2人を追ってサンレイがドアから顔を出す。


「アイスの土産待ってるぞ、ガルルンのチーカマも忘れんなよ」


 わかったと言うように英二は手を振ると逃げるように歩いて行った。



 くるっと回ってサンレイが教室内へ戻る。


「嬉しそうな顔しやがって英二のスケベが…… 」


 苛ついたように小乃子が近くの机を蹴った。

 小乃子が英二に気があるのを知っている委員長と宗哉がどうしたものかと思案顔だ。


「サンレイちゃんって本当に高野くんの事が好きなのね」


 何も知らない晴美がクスッと笑うのを見て、委員長が慌てて口を開いた。


「好きって言うか、からかったのよ、サンレイちゃん悪戯好きだから…… 」

「そうだね、英二くんが怒ってたから機嫌直そうとしてふざけただけだよ」


 どうにか治めようと宗哉も追従した。


「からかうとか、ふざけるとか、どうでもいい、サンレイにキスされて嬉しそうな顔した英二はスケベのロリコンだ」


 イラッとしている小乃子の腕をガルルンが引っ張る。


「キスじゃなくて結界がお、悪霊が近付いたら直ぐに分かるようにサンレイが結界を張ったがう、不意に攻撃を受けても初めの一撃は防ぐがお、サンレイが電光石火で駆け付けるまでの時間稼ぎが出来るがお」

「結界? 英二を守るための? 」


 小乃子の表情が緩んだのを委員長が見逃さない。


「成る程ね、英二くんが狙われているって判断したのね」

「そうがお、さっきの悪霊から妖気がしたがお、只の悪霊じゃなくて妖怪が関係してるがお、だからサンレイが英二に術をかけたがお」


 ガルルンの話しに宗哉が頷く、


「そういう事か、あれがキスならガルちゃんも怒っているはずだよね、サンレイちゃんに抜け駆けされたら怒るよね、英二くんを守る術だからガルちゃんは怒ってないんだよ」


 言いながら宗哉が小乃子の様子を伺う、


「妖怪か……英二………… 」


 先程とは打って変わって心配するように小乃子が呟いた。


「心配無いがお、英二は強いがお、それにガルとサンレイが付いてるがお」


 歩いてきたサンレイが小乃子の背をポンッと叩く、


「そういう事だぞ、キスじゃなくて術だぞ、だから安心するんだぞ」

「なっ、何が安心だ。あたしは別に……英二が何をしようと関係ないからな」


 真っ赤な顔で言い訳する小乃子を見てサンレイや委員長に宗哉が楽しそうに笑う、今一状況が分かっていない晴美が口を開く、


「そうだったんだね、高野くんといる伊東くんも危ないから術をかけたんだね」


 サンレイがとぼけ顔で晴美を見上げる。


「違うぞ、秀輝のは只のチューだぞ、羨ましそうに見てたからな、術は結構力を使うんだぞ、秀輝はいつも奢ってくれるから感謝のチューだぞ」


 サンレイが宗哉を見てニヤッと悪い顔で笑う、


「宗哉にもチューしてやろうか? 」

「えっ? 嬉しいけど遠慮しておくよ、クラスの男子に知られたら焼き餅を焼かれて大変だからね」


 一瞬驚くが宗哉はいつもの爽やかスマイルで冗談っぽくかわした。


「宗哉はモテるがお、チューなんてしたら女子を敵に回すがう、だからチューする時は隠れてこっそりするがお」

「あははははっ、隠れてこっそりか、ガルちゃんの忠告は利かないとな」


 大笑いしながら宗哉が鞄を持つ、


「じゃあ、ファミレスに行ってカラオケの日程を決めようか」

「そだな、パフェ食いに行くぞ」


 楽しそうに会話をしながらサンレイたちが教室を出て行った。

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