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第66話

 翌日、サンレイは昼休みと放課後の2回に分けて学校全体の悪い気を祓う事にした。


「流石に疲れるぞ」


 昼休み、昼食を食べ終わったサンレイが校舎の屋上でバチバチと青い雷光を身に纏わせてぺたっと床に座り込んだ。


「凄かったな…… 」

「凄いなんてもんじゃないわよ、学校全体に稲光が走ったわよ」


 驚いて言葉を失う小乃子の隣で委員長が呆然とサンレイを見つめている。


「うん、凄いよね、校舎だけじゃなくて運動場もバチバチって青く光ったよね」


 普段おとなしくて控えめな晴美が興奮冷めやらぬ様子で声が大きい。


「流石サンレイちゃんだね」


 マジ顔の宗哉の横で秀輝は驚いてうんうん頷くだけだ。

 英二が慌ててサンレイに駆け寄っていく、


「サンレイ大丈夫か? 消えたりしないよな? 俺の霊力を使ってくれ」


 慌てる英二の頭をサンレイがポンポン叩いた。


「心配無いぞ、このくらい平気だぞ、前とは違うからな、でも流石に疲れたぞ、悪霊いっぱいいたぞ、悪霊はガルルンが旨くやってくれるぞ」

「うん、頑張ったな、流石神様だよ」


 英二がサンレイを抱き締めた。


 屋上に立ったサンレイが青く体を光らせて校内全てを雷光で包み込んだのだ。

 悪い気を一掃すると共に結界を張るための前準備らしい、放課後に結界を張る。

 その時にガルルンや英二の霊力を使うという事である。


 空からガルルンが降ってくる。


「悪い気は消えたがお、悪霊が100匹くらい出てきたからガルが叩き切ってやったがお」


 術で出てきた悪霊を退治するためにガルルンは校内を見回っていたのだ。


「100匹も居たんか? そんでやっぱ妖怪はいなかったか、悪い気をこれだけ広げるヤツだぞ、近くにいると思うんだけどな……ハチマルが居てくれたら直ぐに分かるんだけどな、おら攻撃系の術は得意だけど他は今一だからな」


 疲れた顔で言うサンレイを英二が背負う、


「屋上は寒いから教室に戻ろう」

「そだな、今日は英二優しいぞ」


 2人に続いて秀輝たちも屋上から出ていった。

 階段を降りているとサンレイが甘えた声を出す。


「なぁなぁ英二ぃ~、疲れたからアイスが食べたいぞ」

「わかった…… 」


 英二がこたえる前に秀輝がダダッと駆け出す。


「アイスだな、2つほど直ぐに買ってくるぜ、チーカマもな」

「やったぞ、アイス2つだぞ」

「わふふ~ん、ガルもチーカマがお~ 」


 背中で喜ぶサンレイの温かさを感じて英二はほっと安堵した。

 大技を使って疲れているサンレイを叱るような事は流石にしない、それより消えるどころか体が半透明にもならないのを見て前より数段力を持って出てきたのだと分かって安心していた。



 放課後、学校全体に結界を張るというので校舎の屋上に集まる。


「大きな術を続けて使っても大丈夫か? 明日じゃダメなのか」


 心配顔で訊く英二の向かいでサンレイが呑気にアイスを食べている。


「明日じゃダメだぞ、昼間悪い気を祓ったのに一晩明けると無駄になるぞ」

「そうがお、夜はガルたちもののけの世界がう、祓った霊たちがまた集まって来るがお」


 チーカマとサラミを交互に食べながらガルルンが言った。

 アイスもチーカマも宗哉が買ってくれたものだ。


「無理はしないでくれよ」

「そうだぜ、サンレイちゃんが消えるなんてもう嫌だからな」


 心配そうに言う英二の横で秀輝も不安顔だ。


「大丈夫だぞ、昼間はおらの力を使ったけど今度は英二の力を使うからな、英二の霊力とガルルンの妖力で強力な結界を張ってやるぞ」


 美味しそうにアイスを食べながら言うサンレイの前で英二がマジ顔だ。


「俺の霊力でよかったら幾らでも使ってくれ、だからサンレイやガルちゃんは無理しないでくれよ」

「おぅ、遠慮なく使うぞ」


 アイスで口の周りをベチョベチョにしたサンレイがニッと可愛い笑顔を見せた。


「サンレイ…… 」


 英二がハンカチでサンレイの口の周りを優しく拭いてやる。

 心配掛けまいと笑顔を見せたのは英二には一番よくわかっていた。


 2人を見つめて小乃子が口を開く、


「英二は大丈夫なのか? また気絶とかするんじゃないのか? 」


 小乃子の隣りに宗哉が立つ、


「もし気を失ったら僕が車で送ってあげるよ、サンレイちゃんもガルちゃんも疲れているだろうからね」


 口を拭く英二の手を払ってサンレイが身を乗り出す。


「大丈夫だぞ、学校に結界を張る程度なら疲れるくらいで済むぞ、人間の体を作り替えるほどの霊力はいらないぞ、そもそも人面瘡の時もおらじゃなくてハチマルが居たら気絶なんてしなくて済んだぞ、術に長けたハチマルなら半分以下の力で出来たぞ、おら戦い以外の術は苦手だからな、んで結界はそれなりに旨いからどうにかなるぞ」


 サンレイが甘えるように宗哉を見上げる。


「んでも、宗哉がどうしても車で送りたいって言うなら乗って行ってやるぞ、そんでパフェ食うぞ、プリンとアイスが乗ったデカいパフェ食いたいぞ」


 横からガルルンが顔を出す。


「ガルも食べたいがお、昨日はエビグラタンがう、今日はホタテの入ったグラタン食べるがお、パフェも食うがお」


 ハンカチをポケットに入れながら英二が2人を見つめる。


「また宗哉におねだりして…… 」


 愚痴る英二に待ってと言うように宗哉が片手を伸ばした。


「ははははっ、了解した。終わったら皆で食べに行こう、今日は英二くんと秀輝も一緒だし少し離れた大きなレストランへ行こうか、パフェもグラタンも色々置いてあるよ」


 宗哉がスマホを取りだして電話を掛ける。

 店の予約と普段送迎に使っている車を大型のバンに代えてもらう連絡だ。


「やったぞ、今日もパフェ食えるぞ」

「わふふ~ん、昨日より大きな店に行くがお、楽しみがお」


 大喜びする2人を見て溜息をつく英二の肩に秀輝が腕を回す。


「いいじゃねぇか、みんなのために結界を張ってくれるんだぜ、宗哉も楽しそうだし遠慮したら罰が当たるぜ」


 調子に乗って小乃子も話しに入ってくる。


「そうそう、甘いの食べたらサンレイの疲れも取れるって、皆でパフェ別々に頼んで色んな種類を試そうよ」


 サンレイと同じで遠慮をしない秀輝と小乃子を英二が睨み付ける。

 委員長と晴美は何も言わずに様子を伺っているがその目に期待が浮んでいた。

 爽やかな笑みをした宗哉が英二の肩に手を置いた。


「そうだよ、頑張ってくれたサンレイちゃんとガルちゃん、それに英二くんに僕からのささやかな労いだと思ってくれよ」

「 ……今日だけだからな」


 何とも言えない表情で英二がこたえる。味方不在では飲むしかない。

 アイスを食べ終わったサンレイがパンッと手を叩いた。


「んじゃ、始めるか、やる気出てきたぞ」

「ガルの炎で足場を作って英二の霊力で檻を作るがお」


 ガルルンが両手に持っていた食べかけのチーカマとサラミを口の中に押し込んだ。

 サンレイが振り向く、


「そだぞ、昼間おらが地均ししたからな、あとはガルルンの妖気の炎で骨組み組んで英二の霊力で覆うと結界の完成だぞ」

「成る程ね、サンレイちゃんの説明にしちゃ凄く分かり易かったわね」


 頷く委員長に同意するように英二が口を開く、


「うん、今のは分かった。普段は端折りすぎて何を説明したいのか分からないけどな」

「何言ってんだ。おらはいつも分かり易いぞ、英二がちゃんと聞いてないだけだぞ」


 プクッと頬を膨らませるサンレイを見て宗哉が慌てて割り込む、


「今の説明だと英二くんが一番力を使いそうだね」


 サンレイの膨れた頬が萎んでいく、


「そだぞ、でも心配無いぞ、旨いもの食べて一晩寝たら回復する程度の力だぞ」

「それは良かった。レストランで御馳走するから精の付くものを食べてもらおう」

「そだぞ、だから遠慮なく奢って貰うぞ」

「了解した。好きなだけ食べてくれ、役に立てて僕も嬉しいからね」


 機嫌を直したサンレイを見て宗哉が優しく微笑んだ。



 サンレイが屋上から運動場を見下ろした。

 野球部にサッカー部に陸上部など大勢が部活に励んでいるのが見える。


「部活の奴ら結構残ってるぞ、まぁいいか」

「がひひひひっ、彼奴ら騒ぐの楽しみがお」


 隣でガルルンが八重歯のような牙を見せて楽しそうに笑った。


「悪い顔してるぜ」


 2人を指差して秀輝が言うと英二が弱り顔で口を開く、


「それで俺は何をすればいいんだ? 」


 サンレイとガルルンが振り返る。


「英二はおらの横にいろ、ガルルンはおらの合図で炎を頼むぞ」

「分かったがお」


 サンレイの右に英二がついて左にはガルルンが立つ、


「んじゃ始めるぞ、英二はありったけの力を両手に溜めとけ」


 サンレイの体にバチバチと青い雷光が纏わり付く、


「雷探! 」


 サンレイから四方へ雷光が走って行く、


「ガルルン頼むぞ」

咆哮火ほうこうび! 」


 ガルルンが口から炎を吐いた。

 火山犬と言うだけあって炎を使う術に長けている。


 炎が鳥籠のように学校の敷地を覆う、運動場で部活をしていた生徒たちが空を見上げて騒ぎ出す。


「凄ぇ! 凄ぇな、凄いよ」


 驚いた小乃子は凄いしか出てこない。


「凄いけど……一寸怖いわね」


 隣で委員長が少しビビっている。


「ガルちゃん強いって言ってたけど本当に凄いんだ」


 晴美も目を見開いて驚いていた。


「流石ガルちゃんだ」

「うん、サンレイちゃんが認めるだけあるよね」


 豆腐小僧の時の戦いでガルルンの力を知っている秀輝と宗哉はそれ程驚いてはいない。

 口から炎を出すのを止めると得意気に鼻を鳴らしながらガルルンが振り向いた。


「がふふん、これくらい簡単がお、サンレイ仕上げがお」

「んじゃやるぞ、英二、両手でおらの肩を掴んでありったけの力を流せ」


 後ろを向いたサンレイの肩を英二が掴む、


「行くぞサンレイ、俺の力を全部送ってやる」


 サンレイの両肩に置いた英二の手が白く輝く、


「いいぞ英二、その調子だぞ」


 英二から出た白い光とサンレイが纏う青い雷光が混じり合う、


八角雷堂はっかくらいどう! 」


 バッと上げたサンレイの両手から白と青の混じった光がガルルンが張った炎の柱を通って流れていく、眩しさに秀輝たちが目を背けた。


「終わったぞ」


 秀輝たちが目を向けると眩しい光も炎も全て消えていた。

 部活をしていた生徒たちは興奮したように空を見上げてまだ騒いでいる。

 英二がふらついてその場にしゃがむ、


「大丈夫か? 」


 秀輝が慌てて駆け付ける。


「情けないぞ、それくらい…… 」


 叱るサンレイもふらついてガルルンに寄り掛かる。

 英二を心配していた秀輝が振り返って大声だ。


「サンレイちゃん大丈夫か? 」


 小乃子と委員長がサンレイに駆け寄る。


「サンレイはあたしと菜子が見るから秀輝は英二を見てろ」


 ガルルンに寄り掛かるサンレイを小乃子と委員長が両脇から支える。


「ガルも疲れたがお」

「ガルちゃんには私がついてるからね」

「晴美は優しいがお」


 ガルルンが甘えるように晴美に抱き付いた。

 秀輝に支えられるようにして英二が立ち上がる。


「俺は大丈夫だ。これくらい……もっと鍛えないとな、情けない」

「無理すんな、あれだけ派手に力使ったら疲れて当然だぜ」


 肩を貸しながら秀輝がニッと笑った。


「サンレイちゃん、これで全部終わったんだね」


 宗哉が確認を取るように訊いた。


「終わったぞ、結界はバッチリ出来たからな、明日からみんな元気になるぞ」

「よかった。お疲れ様だよ、レストランで何でも御馳走するよ」


 疲れを顔に浮かべて笑うサンレイを見て宗哉がメイロイドのサーシャとララミを呼ぶ、


「ララミ、サーシャ、サンレイちゃんとガルちゃんを車まで背負ってくれ」

「了解しましたデス」

「分かりました御主人様」


 サーシャとララミがサンレイとガルルンの前に出る。


「サンレイ様、私の背中にお乗り下さい、車までお運び致します」

「おおぅ、ララミにおんぶしてもらうのは初めてだぞ」


 しゃがんだララミの背にサンレイがおぶさった。

 隣ではサーシャがガルルンを背負っている。


「ガルルンさん、しっかり掴まっていて下さいデス」

「わふふ~ん、サーシャの背中広くて暖かいがお」


 背の高いサーシャに小柄のガルルンが気持ち良さそうに抱き付いた。

 サンレイとガルルンを見ている英二を見て秀輝がニヤッと意地悪顔で口を開く、


「サーシャとララミのおんぶが羨ましいんだろ、俺でよけりゃ背負ってやるぜ」

「バカ言え、1人で歩けるよ」


 照れるように言うと支える秀輝から離れて英二が1人で歩き出す。


「マジで疲れたな、宗哉御馳走になるよ」

「うん、何でも御馳走するよ」


 宗哉と並んで英二が屋上から出ていく、その後をサンレイを背負ったララミとガルルンを背負ったサーシャ、続いて小乃子たち、最後に秀輝が屋上のドアを閉めて階段を降りていった。



 英二たちの通う和泉高校から少し離れた大きなマンションの屋上に女が2人立っている。

 女たちはサンレイが学校に結界を張るのを見ていた様子だ。


「あの子が高野英二くんよ、凄い力でしょう? 」


 女の1人はハマグリ女房だ。

 割烹着姿ではなく厚手のジャンパーにスカートといった普通の服を着ている。


「確かに凄い霊力だな……だがな」


 もう片方の女がハマグリ女房を見つめる。


「炎を使う山犬はともかく残りのチビが問題だよ、学校を結界で囲むなんて……神というのは本当らしいな」


 ハマグリ女房に負けず劣らずの美女だ。

 一月の終わり、一番寒い時期だというのに薄手のセーターにズボン姿の軽装である。


「もう妖気も空だわ」


 ハマグリ女房がポケットから水晶玉を取り出した。


「途中で無くなったから気付かれると思ったけど力を使い切ったのか山犬もチビの神も私たちに気付かなかったわね」


 水晶玉を愛おしそうに撫でながらハマグリ女房が続ける。


「あの方から頂いた妖気を使って悪霊を集めたのにこれ程簡単に祓われるとはね、1週間くらい持つと思ったんだけどな」


 美女がハマグリ女房を睨む、


「それを私に倒せというのか? 冗談じゃないよ」


 怖い目付きで睨まれてもハマグリ女房は平然としている。


「大丈夫よ、貴女なら出来るわ、ホレ女、力ではなく惚れさせる貴女の能力ならね」


 もう1人の美女はホレ女と言うらしい、もちろん妖怪である。


「私の力か……奴らを混乱させるのは出来そうだが」


 思案顔のホレ女にハマグリ女房が畳み掛ける。


「あの力が欲しくないの? チビの神と山犬に英二くんも消耗しているわ、この気を逃さずに英二くんをものにするのよ」

「これ程の結界を張っても平然としている霊力か…… 」

「旧鼠もダメ、初物小僧も相手にもならない、男はバカで逸って事をし損じてばかり、でも女の貴女なら、ターゲットは男よ」


 じっと見つめるハマグリ女房の向かいでホレ女が笑い出す。


「うふふふふっ、旧鼠など雑魚が敵う相手じゃない、私レベルでも敵うかどうか……でも英二は結構好みのタイプよ、私の魅力で骨抜きにしてあげるわ」


 ハマグリ女房がニヤッと意味ありげに微笑む、


「英二くんの霊力があれば貴女も大妖怪になれるわ、もちろん私もおこぼれは貰うわよ」

「ふふふっ、わかっている。英二は殺さずにお前に引き渡す。霊力も精もたっぷり吸い取った後でね」

「それでいいわ、私は英二くんをあの方の元へ連れて行けば褒美が貰える」

「久し振りに女が疼くわ……うふふふふっ」


 ハマグリ女房とホレ女、2人の美女が互いの顔を見て笑い合う、美女だが近付きがたい雰囲気だ。


「これを渡しておくわ」


 ハマグリ女房が何かが書かれた紙と水胆を差し出す。


「料理のレシピだな、それとこれは? 」


 ホレ女が水胆を目の前に掲げる。


「水胆よ、一時的に妖力をアップさせる薬です。私が仕える大妖怪が作ったものですよ、これを使った初物小僧はもう一歩というところまでチビの神を追い詰めたのだけど功を焦ってやられたわ」

「水胆か…… 」


 疑うように水胆を手の平で転がすホレ女を見てハマグリ女房が続ける。


「使い方に注意が1つあるの、効き目が15分ほどしかないのよ、それで初物小僧は負けたのよ、所詮雑魚妖怪ね、大妖怪レベルの力を持って舞い上がったのよ」

「私は雑魚じゃない、この薬で本当に大妖怪レベルの力が出せるなら15分もあれば倒してみせるよ」


 怒って身を乗り出すホレ女を見てハマグリ女房が愛らしく微笑んだ。


「分かっているわ、だから任せるんじゃない、ホレ女と呼ばれる貴女の妖術、楽しみにしているわ」

「あら、気付いていないの? 術は既にかけたわよ」


 さっと身構えるハマグリ女房を見てホレ女が笑い出す。


「あふふふふっ、貴女には何もしていないわよ、信用はしていないけど良い情報をくれた。ギブ&テイクの相手を此方から裏切る事はしないわ」

「あの子たちを甘く見ない方がいいわよ」


 構えを解くとハマグリ女房が続ける。


「力を消耗しているから良かったものの、気付かれでもしたら計画が台無しですよ」

「だから今使ったのよ、神を術に掛けるなんて霊力を消耗させた今しか無いでしょ? 現に旨く行ったじゃない、一晩眠れば恋する乙女よ」


 とぼけるように話すホレ女の向かいでハマグリ女房が楽しそうに笑う、


「恋は盲目……楽しみにしているわ」

「女心を操れば男に隙が出来る。その隙に私の愛が骨まで染み込む、どんな男も私の前では骨抜きよ」


 水胆を胸元に仕舞うとホレ女が妖艶に微笑んだ。




 和泉高校から車で30分程離れた所にある大きなレストランでサンレイたちが食事を取っている。


「おおぅ、モンブランケーキの入ったパフェ旨いぞ」


 メロンやイチゴにバナナ、モンブランにプリンなどが入った3人分ほどもあるデカいパフェをサンレイが嬉しそうに食べている。


「カニグラタンも美味しいがお、カニの身がゴロゴロ入ってるがお、ヨーグルトパフェもさっぱりしてていくらでも食べられるがお」


 隣ではガルルンがカニグラタンと普通サイズのパフェを並べて交互に食べていた。

 ガルルンの向かいに座る宗哉が爽やかな笑みをして口を開く、


「気に入ってくれて嬉しいよ、この店は美味しいから僕も時々来るんだ」

「おら気に入ったぞ、まだ色々なパフェがあるからな、おらも時々連れて行くんだぞ」

「ガルも行きたいがお、グラタン全種類食べるがお」


 サンレイの向かいに座る英二が溜息をついた。


「まったく…… 」


 遠慮のない2人を叱ろうとした英二の隣で宗哉が声を出して笑う、


「はははははっ、了解したよ、月に一度くらいなら御馳走するよ、サンレイちゃんやガルちゃんと一緒に食べると美味しいからね」

「マジか? やったぞガルルン」

「わふふ~ん、宗哉は太っ腹がお」


 喜ぶ2人の向かいで英二が顔を顰める。


「また甘やかす…… 」


 隣のテーブルを囲んでいた委員長が安心顔で口を開く、


「でも良かったわよ、サンレイちゃんもガルちゃんも回復したみたいだし」


 向かいに座る秀輝が頷く、


「だな、車の中じゃぐったりしてたからな」

「そうだね、サンレイちゃんもガルちゃんも頑張ったもんね」


 秀輝の隣で微笑む晴美の向かい、委員長の隣で小乃子が意地悪顔をして身を乗り出すと隣のテーブルのサンレイを見つめる。


「パフェとグラタン食べたら直ぐに元気になったよな」


 サンレイがとぼけ顔で返す。


「パフェやアイスはおらのエネルギーだからな、食えば回復するぞ」

「美味しいもの食べると元気になるがお」


 隣でガルルンが屈託のない笑みだ。

 2人の向かいで宗哉が楽しそうに笑い出す。


「はははははっ、2人が元気になるなら何時でも御馳走するよ」

「まったく……まぁいいか、これで全部終わったんだよな、もう悪い気は学校に入ってこれないんだろ? 」


 呆れながら英二が訊くと口元をクリームでベチョベチョにしたサンレイが顔を上げる。


「そだな、暫くは大丈夫だぞ」

「暫くって? 悪い気は全部祓ったんだろ」

「結界はずっとじゃないぞ、3ヶ月くらいしか効かないぞ、でもこれで一先ず安心だぞ」


 不安気に見つめる英二にサンレイがパフェを食べながらこたえた。

 隣でグラタンを食べていたガルルンが顔を上げる。


「1つだけ気になるがお」

「気になる? 何が気になるのガルちゃん」


 不安顔のまま英二が訊いた。


「出てきた悪霊が全部骨だったがお、悪霊には色んなのがいるから骨でもおかしくないがう、でも全部が骨だったがお」

「骨って篠崎さんや浅井たちを除霊した時に出てきたのも骨だったよね」


 英二が思い出すように言うと隣のテーブルの秀輝が大きく頷く、


「ああ、骨の蛇とか蛙だったぜ」

「そういや小岩井先生の時も骨の蛇だったよな」

「そうだったわね、気持悪かったよね」


 秀輝の向かいに座っている小乃子と委員長も思い出したのか厭そうな表情だ。

 英二の隣で宗哉が呟くように口を開く、


「全部骨って事か……1番始めに除霊した小岩井先生の時から繋がっているって事かな」


 パクパクとパフェを食べていたサンレイがスプーンを止めた。


「そだぞ、全部同じだぞ、忘れてたけど恭子ちゃんの時と同じ妖気だぞ」


 グラタンをフーフーして冷ましていたガルルンが顔を上げる。


「ガルも思い出したがお、恭子ちゃん先生の時と昨日の晴美と今日やっつけた悪霊は全部同じ妖気の匂いがお」

「全部同じ……冬休み終わってから何者かが悪い気を流してたって事か」


 宗哉が顰めっ面をして考えるように黙り込んだ。

 小乃子が隣のテーブルから身を乗り出してサンレイを見つめる。


「小岩井先生が変なものを連れてきたって事は無いのかな? 」

「そうね、冬休みに行ったスキーで妖怪に取り憑かれたとかはないのかな? 」


 委員長にも訊かれてサンレイがスプーンでパフェを一口食べてからこたえる。


「違うと思うぞ、恭子ちゃんが狙いならおらが祓う前に取り殺す事も出来るからな」


 口の中のグラタンを飲み込むとガルルンが続ける。


「狙いは英二がお、恭子ちゃん先生や晴美が無事がう、他の生徒たちも霊障を少し受けてるだけがお、無差別に襲うなら死人が出てもおかしくないがお」

「そだな、たぶん骨系の妖怪だぞ」


 言いながらサンレイがパフェに乗っているイチゴを摘まんで口に放り込んだ。


「骨の妖怪か……ガシャドクロってのは聞いた事あるな、デカい骨の妖怪だ」


 英二に続けて委員長も知っている妖怪の名前を並べる。


「骨女とか蛇骨婆とか妖怪図鑑に載ってたわよ」


 グラタンを食べていたスプーンをそのままパフェに突っ込んでガルルンも話しに入る。


「骨鬼に狂骨、髑髏百足とか色々いるがお、でも殆ど雑魚妖怪がう、ガシャドクロはデカいからそれなりに強いけどガルの敵じゃないがお」


 暫く考えていた宗哉が口を開く、


「骨の妖怪は分かった。でも何でこんな遠回りな遣り方をするんだろう、英二くんを狙っているならサンレイちゃんやガルちゃんに気付かれないように隙を狙って襲う方がいいよね、態々知らせるように他の生徒たちを襲っているようにしか思えないんだけど」

「そうよね、現に警戒して結界を張ったり高野くんが襲われても初めの一撃は防げるようにサンレイちゃんがおまじないしたわよね」


 委員長だけでなく秀輝たちもサンレイに注目だ。


「何か考えがあるんだぞ、その内出てくるだろ、今の弱い妖気じゃ探す事も出来ないぞ」

「自分の力を過信したバカ妖怪かも知れないがお、凄いだろって力見せるバカがよくいるがう、ガルとサンレイが居るから安心がお」


 緊張感が無いのかサンレイとガルルンはパフェやグラタンを食べるのに夢中だ。

 宗哉が険しい顔を崩さずに続ける。


「どちらにせよ、警戒した方がいいね」

「そだな、相手の出方が分からんとこっちも動けないぞ」


 3人分はあったパフェをサンレイが食べ終わった。

 隣でガルルンもスプーンで皿をカツカツ鳴らして底に残ったグラタンを食べ終わる。


 サンレイがにぱっと笑顔で宗哉を見つめる。


「食後のデザートにソフトクリーム食うぞ」

「ガルもアイス食べるがお」


 2人の催促に宗哉が笑顔でこたえる。


「いいよ、幾らでも食べてくれ」

「デザートってパフェ食っただろ、今日だけだからな」


 2人が頑張ってくれたのは確かなので英二も強く言うのは止めた。

 委員長が店の時計をちらっと見る。


「私はそろそろ帰らないと…… 」

「私も…… 」


 晴美も言い辛そうに小さく手を上げた。


「んじゃ、ソフトクリーム頼んで車の中で食うぞ」

「ガルもソフトクリームでいいがお、車の中で食べるがお」


 宗哉の大型バンの中で食べる気満々の2人を英二が慌てて止める。


「ちょっ、ダメだよ、車汚したら大変だろ」

「構わないよ、いつもの車と違ってバンはアバウトに使うためにあるからね、それじゃあソフトクリーム頼んで帰ろうか、みんな車で送るよ」


 宗哉が笑顔でウエイトレスを呼んだ。

 サンレイとガルルンだけでなく小乃子までソフトクリームを頼むと車の中で食べながら宗哉に送ってもらって帰って行った。

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