第112話
翌日の昼休み、2年1組の教室へ絵里香が訪ねてくる。
1年生が先輩たちのいる2年生の教室へ入るのだ。
緊張して顔が強張る絵里香を満面の笑みを湛えたガルルンが出迎えた。
「絵里香いらっしゃいがお」
「あっ、ガルルン先輩…… 」
絵里香の全身から緊張が一気に抜けていく、鼻の良いガルルンは匂いで直ぐにわかってドアの傍で待っていたのだ。
「やっほぉ~、絵里香ちゃん、待ってたぞ」
アイスを食べながらサンレイが手を振った。
小乃子がサンレイの向かいでプリンを食べる手を止めた。
「あの娘が絵里香ちゃんか……なかなか好い線行ってるな」
「明るそうな娘ね、霊能力持ってるって言うからもっと地味な感じかと思ったわよ」
「ガルちゃん嬉しそう、ちょっと焼き餅焼いちゃうな」
委員長と晴美もプリンを食べている。アイスもプリンも全て秀輝の奢りだ。
品定めをするように見ている小乃子たちの前、英二の机を囲んでいた秀輝が嬉しそうに声を出す。
「おぅ、結構可愛いな」
横にいた宗哉が秀輝の肩を叩いた。
「結構は失礼だよ、本当に可愛いよ」
「だよね、今朝も学校前の道で会ったけど改めて見るとやっぱ美人だよね」
向かいに座って英二が顔を綻ばせる。
「男共はこれだから…… 」
「伊東は直ぐに厭らしい顔になるよね」
じとーっと見つめる小乃子の隣で委員長がムッと怒っている。
「宗哉くんは年下の方がいいのかな…… 」
晴美は不安顔だ。
秀輝が慌てて弁解する。
「何言ってんだ。そんなんじゃねぇ、サンレイちゃんの友達だろ、可愛いから可愛いって言っただけだぜ」
「そうだよ、秀輝の言う通りだ。小乃子は…… 」
秀輝を援護して何か言おうとした英二が言葉を飲み込んだ。
ニタリと不気味な笑みをしてサンレイが口を開く、
「にっひっひっひっひ、浮気はビリビリだぞ」
「やったれサンレイ、ついでに秀輝もお仕置きしてやれ」
じとーっと怖い目で見ていた小乃子が焚き付ける。
「ちっ、違うから……何も疚しいことしてないだろ…… 」
「サンレイちゃん、ごめん、俺が全部悪かった」
焦って言い訳を考える英二の向かいで秀輝が両手を合わせて謝った。
「なっ、何謝ってんだ秀輝……俺たちが悪いみたいだろ」
女の子の扱いに慣れている宗哉はへたを打たない、黙って英二と秀輝から離れていった。
「言いたいことはそれだけか? 秀輝は許してやるぞ」
ニタリと笑いながらサンレイが英二の前に立った。
「やったれサンレイ、雷パンチだ」
焚き付ける小乃子に構いもしないで英二が頭を下げる。
「悪かった。謝るからさ…… 」
呆れるように溜息をつくとハチマルがドアの傍にいるガルルンの隣りに歩いて行く、
「ガルルン、バカは放って置いて屋上にでも行こうかの」
「わかったがお、絵里香行くがお」
ドアの前に立っていた絵里香の手をガルルンが握った。
「うん、でもサンレイちゃんは? 」
「直ぐに来るから大丈夫じゃ」
ドアを出たところでハチマルが振り返る。
「サンレイ、先に行っておるぞ」
「わかったぞ、お仕置きしたら直ぐに行くぞ」
こたえながらサンレイが英二の肩を掴む、
「痛ててて…… 」
英二が体を仰け反らせる。サンレイのお仕置き電撃だ。
「お仕置き完了、今度浮気したら倍の電気でやるからな」
「ごっ、御免なさい…… 」
机に突っ伏して英二が謝った。サンレイだけでなく小乃子も敵に回っているのだ。へたに言い返したりはしない。
「今日は勘弁しといてやるぞ」
バチッと雷光をあげてサンレイが消えた。
ハチマルとガルルンは絵里香を連れて校舎の屋上へと来ていた。
「ハチマル先輩は屋上の鍵持ってるんですね、流石です」
屋上のドアは普段は立ち入り禁止で鍵が掛かっている。
「持ってると言うか、作ったと言った方が早いのぅ」
感心するように見つめる絵里香にハチマルがばつが悪そうに苦笑いだ。
絵里香の隣でガルルンが自慢気に鼻を鳴らしながらポケットから鍵の束を取り出した。
「がふふん、ガルが作ったがお、屋上は日向ぼっこできるがう、理科の実験室と調理室と体育館に体育倉庫の鍵もあるがお、一々先生に鍵借りなくて済むがお」
絵の旨さからわかるようにガルルンは手先が器用だ。鋭い爪と炎を使えば普通の鍵ならそっくりにコピーして作ることが出来る。
ハチマルがガルルンの頭をポカッと叩いた。
「自慢するでない泥棒じゃ、じゃが何かあった時は役に立つからの、儂とサンレイは壁抜け出来るがガルルンは出来んからのぅ」
「がふふふっ、英二も知ってるがお、何かあった時に使えるから作ってもいいって宗哉も言ってたがお」
楽しそうに笑うガルルンの横で絵里香がマジ顔に変わる。
「何かあった時って、やっぱり妖怪と戦ってるんですね」
ガルルンがハッとして自分の口を押さえる。
「何で知ってるがう? ガルは何も言ってないがお」
ガルルンを睨むハチマルの前に出ると絵里香が慌てて話し始める。
「ガルルン先輩は悪くないです。お姉ちゃんから聞いたんです」
「怜那ちゃんがお」
不思議そうなガルルンに微笑むと絵里香が続ける。
「うん、サンレイちゃんやガルルン先輩が私に色々親切にしてくれるってお姉ちゃんに話したら教えてくれたの、サンレイちゃんたちが何かと戦っているようだって、学校でも何度か見たって、それでここからは私の想像だけど悪い妖怪か何かがいてサンレイちゃんたちは戦ってるんじゃないかって、そう思ったんです」
「怜那先輩なら知っておっても当然じゃな」
ハチマルは頷くとガルルンに向けていた鋭い視線を絵里香に向ける。
「じゃが他言無用じゃぞ、仲の良い奈美にもじゃぞ」
「わかってます。霊能力のことも余り言ってませんから……奈美はそれとなく知ってる様子ですけどね」
「それでよい、騒ぎになると碌な連中しか集まってこんからな、それと絵里香も儂らのやっておることには首を突っ込むな、お主程度の力では足手纏いにしかならん」
「 ……そうですね、わかってます。お姉ちゃんにも余計なことはするなって言われました。見る事くらいしか出来ない力じゃ邪魔になるだけだって」
寂しげな絵里香の肩にハチマルが手を置く、
「邪魔になどしてはおらん、戦いでは足手纏いになるじゃろうから首を突っ込むなと言うただけじゃ、戦い以外ならお主の力を借りることもあるやもしれん、邪魔ではなく仲間じゃ、じゃからこそ儂の言うた事には従って欲しいのじゃ」
絵里香が明るい表情で頷いた。
「ハチマル先輩、わかりました。仲間って呼んでくれて嬉しいです」
「では始めるかの、今日は絵里香の霊力を確かめるだけじゃ、後は霊障を受けんようにおまじないをしてやろう」
「お願いします」
絵里香の顔に緊張が走った。
ガルルンが運動場のある方に向き直る。
「サンレイが来るがお」
バチッと雷光をあげてサンレイが現われた。
「なんだ? まだやってなかったのか」
「お主が来るのを待っておったんじゃ」
とぼけ顔で言うとハチマルが絵里香の額に右手を当て左手を胸に持っていく、
「ひぁっ! 」
行き成り胸を触られて絵里香が可愛い悲鳴を上げた。
「じっとしておれ、お主の霊力がどれ程か確かめるだけじゃ」
「へへっ、ごめん、急に触られたから…… 」
照れるように笑う絵里香の額と胸にハチマルがまた手を当てる。
2分ほどしてハチマルが口を開く、
「中々の霊力じゃ、修業を積めば高僧でも呪術者でも霊能者でも何でもなれるのぅ、じゃが絵里香はそっちの道には進まんのじゃろ? 」
「うん、私は普通に暮らしていきたいよ」
困った顔でこたえる絵里香をサンレイが見上げる。
「霊能力を消すことも出来るぞ、霊を見たりしないで普通に暮らしていけるぞ」
「そうじゃな、絵里香が望むのなら直ぐにでも消してやろう、修業もせんでよい、今日で終わりじゃ」
絵里香がサンレイとハチマルを見てから話し出す。
「うん、霊能力のことは邪魔だと思ったこともあるわ、でも中学の時に親戚のおばさんが倒れて入院してお見舞いに行ったの、その時おばさんに悪いものが憑いてるのが見えたの、それで私は悪いものを祓おうとしたんだけど……ダメだった。親に話してもバカな事言うなって、信じてくれたのは姉さんだけ、その姉さんも霊のことは言わない方がいいって、おかしな人と思われるだけだからって」
「怜那ちゃんは見えるからな」
話に割り込んだサンレイを見て頷くと絵里香が続ける。
「うん、姉さんも色々苦労してるみたいだったけどサンレイちゃんにおまじないして貰ってから凄く明るくなったわ」
「それでどうすんだ? 霊力消してハチマルにおまじないして貰ったら絵里香ちゃんも普通に暮らしていけるぞ」
「私悔しかったんだ。おばさんを助けられなくて……私が霊能力を使いこなせたらって……それでこの先同じ思いはしたくないって思うの」
覚悟を決めた意思のある目付きで言うと絵里香がガルルンに向き直る。
「それにガルルン先輩みたいに優しい妖怪もいるってわかったから、そういうのが見えなくなるのは勿体無いかなって……だから消さなくていい、今の力を少しでも使えるようになりたい、だからハチマル先輩、私に色々教えてください」
ペコッと下げた絵里香の頭をハチマルが優しく撫でる。
「よう言うた。力を持って生まれてきた意味を考えたことがあるか? 運命というのは自分で切り開くものじゃ、じゃが持って生まれたものもある。神が決めた天命じゃ、絵里香が霊力を持っておるのも天命じゃと儂は思う、じゃから何時か役に立つはずじゃ、恐れずに自分の一部として受け入れるのじゃ、儂が修業を付けてやる。手間は掛からん毎日寝る前に30分程修業すれば1年もすれば使いこなせるようになろう、そこらの悪霊なら祓えるようになるじゃろう」
顔を上げた絵里香にサンレイがニッと可愛い笑みを向ける。
「おらとガルルンも協力するから頑張るんだぞ」
「うん、頑張る。寝る前に30分くらいならバカの私でも出来そうだよ」
自分の力を理解してくれる人に出会って絵里香は心から嬉しそうに笑った。
「ではおまじないを掛けてやろう」
ハチマルが絵里香の額に右手を当てる。
「響風、螺旋結! 」
絵里香の体の中を頭から爪先まで気持ちの良い感覚が走り抜けた。
「ああぁ…… 」
思わず声が出るくらいに気持ち良かった。
「これでよい、お主の中に結界を張った。そこらの悪霊は近付くことさえ出来んじゃろう」
「あっ、ありがとうハチマル先輩」
上気した赤い顔で絵里香が礼を言う、ハチマルがスマホを取り出す。
「絵里香のメアドと電話番号を教えるのじゃ、今晩からの修業方法はメールや電話で教えてやろう」
「あっ、ハイ、私の古いスマホだから恥ずかしいな」
絵里香が中学から使っているボロボロのスマホを取り出した。
「ガルとサンレイにも教えるがお」
ガルルンとサンレイもスマホを出す。宗哉に貰った最新のスマホだ。
「サンレイちゃんも最新のスマホなんだね」
「絵里香のボロボロだな…… 」
サンレイが思い付いたようにパッと顔を明るくする。
「宗哉に貰ってやるぞ、仲間だからな同じスマホを使うんだぞ」
「それは良いの、データーの移動は儂やサンレイに任せておけ、なんと言ってもパソコンの神じゃからな」
怒ると思ったハチマルが賛成してくれてサンレイが調子に乗る。
「怜那ちゃんと奈美の分も貰ってやるぞ、おらに任せとけ」
「お姉ちゃんや奈美の分まで……わるいよ」
遠慮する絵里香の腰の辺りをガルルンがポンポン叩く、
「宗哉なら喜んでプレゼントしてくれるがお、仲間になった祝いに貰っとくといいがお」
「そうじゃな、丁度良いからスマホを用意して貰った時に宗哉たちに絵里香を紹介するとしよう、今日はこれでお仕舞いじゃ、今晩寝る前にメールを送るからの、今日から修行開始じゃ」
「ハイ、よろしくお願いします」
元気にこたえる絵里香を見てサンレイがニッと笑う、
「どうしてもわからなかったら絵里香の家におらが行ってやるぞ、電光石火ならバシッと一瞬で行けるからな」
「それは良いの、修業の指導はサンレイに頼むとしよう、毎晩修業して週に一度昼休みに儂が見てやろう、1年3組には遊びに行く約束もしておるしの」
「ありがとう、みんなも喜ぶよ」
嬉しそうな絵里香の胸をサンレイがむんずと掴む、
「ひぁぁ! 」
可愛い悲鳴を上げる絵里香に構わずサンレイが胸を揉みながら口を開く、
「霊力はともかくおっぱいは結構大きいぞ」
横で見ていたガルルンが比べるように自分のおっぱいを持ち上げる。
「ガルよりちょっと大きいがお」
「うう……みんなおらより大きいぞ」
恨めしげなサンレイを見て絵里香は止めろとも言えずに揉まれるままにしている。
「大きいと言うよりサンレイはおっぱいが無いがお、つるぺたなら学校で一番がお」
ガルルンに止めを刺されてサンレイが青い顔で落ち込む、
「ぺったん、ぺったん、ペッタンコ、おらのおっぱいペッタンコ♪、スポーツブラも素通りだ♪ ぺったん、ぺったん、ペッタンコ、おらのおっぱいペッタンコ♪、鞄の紐も引っ掛からない♪ ぺったん、ぺったん、ペッタンコ、おらのおっぱいペッタンコ♪、タオルでツルッと洗うだけ♪、ぺったん、ぺったん、ペッタンコ………… 」
自身の胸に両手を当ててサンレイが悲しい声で歌い出す。
「サンレイが壊れたがお、ペッタンコの歌を歌い始めたがお」
絵里香が慌ててサンレイを抱き締める。
「サンレイちゃんは小さいんだから仕方無いよ、それにサンレイちゃんはそのままが一番可愛いよ、学校で一番可愛いのはサンレイちゃんだよ」
悲しそうに歌っていたサンレイが絵里香を見上げる。
「一番? おらが一番可愛い……一番ペッタンコじゃなくて、一番可愛い? 学校で一番可愛いのか…… 」
乗ってきたサンレイに絵里香が畳み掛ける。
「うん、可愛さならマジで一番だよ、二番はガルルン先輩だ。だから元気出してよ」
「にゅへへへへっ、おらが一番か……仕方無いなぁ、絵里香が言うなら仕方無いなぁ~ 」
元気になったサンレイを見て絵里香がほっと安堵した。
「では戻るとしようかの」
「ハイ、今晩の修業待ってます」
嬉しそうな絵里香を連れて屋上からサンレイたちが出て行った。
2日後、宗哉が最新のスマホを持ってきてくれた。
昼休みに絵里香に渡すことになる。その際に秀輝たちを紹介することになった。
他の生徒は誰も来ない屋上で絵里香に秀輝たちを紹介する。
英二のことは既に知っているので秀輝たちの紹介を簡単に終えた。
「伊東先輩と佐伯先輩と芽次間先輩と久地木先輩に篠崎先輩ですね、よろしくお願いします。私、部活してないから名前で呼べる先輩が出来て嬉しいです」
絵里香は頭は良いらしく顔と名前は直ぐに覚えた様子だ。
サンレイが英二の背を叩く、
「英二のことはおっぱい先輩って呼ぶんだぞ」
「それだけは勘弁してくれ」
弱り顔の英二を見て小乃子が顔を顰める。
「英二に何かされたのか? 」
「違うから、俺は被害者だからな」
迷惑顔の英二の横でサンレイが絵里香に初めて会った時のことをみんなに話した。
「あははははっ、英二はおっぱい星人だからな、うん、おっぱい先輩でいいぞ」
「おっぱい星人なのは認めるけどそれだけは勘弁してくれ」
怖い顔から一転して楽しげに笑う小乃子の向かいで拝むように謝る英二を見て絵里香が口を開く、
「高野先輩と久地木先輩は付き合ってるんですか? 」
小乃子がバッと顔を上げる。
「ななっ、何言ってんだ。あたいが英二なんかと付き合うわけないだろ、只の幼馴染みだ」
向かいで英二が大焦りで小乃子に話を合わせる。
「そっ、そうだよ、小乃子とは家が近いからさ、秀輝と委員長も幼稚園と小学校が同じだったからさ」
絵里香が疑うように2人を見つめる。
「そうなんですか……凄く気があってるから付き合ってるかと思いましたよ、久地木先輩は美人だし高野先輩だってがっしりしてて結構格好良いし、似合いだと思うんだけどな」
以前はひょろっとして頼り無かった英二だが秀輝と体を鍛え始めてからは筋肉が付き、妖怪との戦いで顔つきも精悍になりイケメンとまでは行かないが普通に格好の良い男子という感じになっていた。
「英二が格好良い? 絵里香ちゃんは男を見る目を鍛えなきゃダメだな、外見で惑わされたらダメだぞ、英二なんてエッチなゲームばかりしてるオタクだぞ、おっぱい星人だし」
英二をバカにしながらも似合っていると言われて小乃子は満更でもない様子だ。
「俺の個人情報をべらべら漏らすのだけは勘弁してくれ」
普段なら怒鳴っているところだが可愛い後輩である絵里香に怒りっぽい先輩と思われたくないのか英二はぐっと我慢した。
呆れ顔で溜息をつくとハチマルが話を始める。
「まぁこんな感じじゃ、儂らは妖怪と戦っていると言っても向こうから悪さをせん限り此方から仕掛けるようなことはない、あくまで自分たちを守るために戦っておると言う事じゃ、じゃから絵里香も何かあれば儂らに相談せい、怪異だけでなく運動でも勉強でもよいぞ、体の丈夫なのと頭の良いのは揃っておるからの」
秀輝と宗哉をちらっと見てハチマルが話を終えた。
ニヤッと笑いながら小乃子が続ける。
「こっちのゴリラが運動担当だ」
「誰がゴリラだ! 」
怒鳴る秀輝を見てガルルンも楽しそうに話し出す。
「勉強は宗哉といいんちゅに訊くといいがお」
「いいんちゅじゃなくて委員長ね」
横にいた委員長が注意をしたあと絵里香に向き直る。
「何でも相談してね、このメンバーだと大抵のことは大丈夫だからね」
「ありがとうございます。芽次間先輩、伊東先輩」
ペコッと頭を下げる絵里香を見て可愛い後輩が出来たと委員長も嬉しそうだ。
「んじゃ、紹介も終わったしプレゼントだぞ」
サンレイが絵里香にスマホを渡す。
「いいんですか……本当に貰っても…… 」
絵里香が遠慮がちに宗哉を見つめる。
「気にしないでくれ、佐伯重工と取引している所から貰えるんだよ、壊れたら何時でも言ってくれ直ぐに新しいのと取り替えるからさ」
絵里香を気遣って宗哉が嘘をついた。
「宗哉は太っ腹がお、怜那ちゃんと奈美の分もあるがお」
ガルルンが絵里香の姉の怜那と親友の奈美の分のスマホが入った袋を見せる。
「そういう事だぞ、データー移してやるぞ、今使ってるスマホ出すんだぞ」
絵里香から古いスマホを受け取るとサンレイがテキパキと中のSIMとデーターを移し替える。
旧式とはいえパソコンの中で眠っていただけありデーターの移し替えなどサンレイにとっては朝飯前だ。
「終わったぞ、一応確かめてみろ」
3分も掛からずにスマホを絵里香に返す。
暫くスマホを弄っていた絵里香がパッと顔を上げる。
「電話帳とSNSだけじゃなくてゲームのデーターまで全部完璧だよ、凄いね、サンレイちゃんマジで凄いよ」
「にゅははははっ、なんたってパソコンの神だからな、おら電気は得意だぞ」
照れまくったサンレイが隣りに立つ英二の背をバンバン叩く、
「痛いから、なんで俺を叩く」
弱り顔の英二に構わずサンレイが続ける。
「奈美のは放課後にでもやってやるぞ、怜那ちゃんは今晩おらがバチッと家に行ってやってやるぞ、大学生になった怜那ちゃんと話しもしたいしな」
「わふふ~ん、ガルも怜那に会いたいがお、今日はガルもバチッと連れて行って貰うがお」
「仕方無いなぁ、特別に連れて行ってやるぞ」
普段は意地悪するサンレイだが怜那に会いたいガルルンの気持ちはわかるのか勿体振りながらも引き受けてくれた。
「お姉ちゃんも喜ぶと思うよ、大学の新入生は私より大変そうだからサンレイちゃんとガルルン先輩に会えば元気になると思うよ」
嬉しそうな絵里香の肩をハチマルが叩く、
「修業も忘れずにな、1日30分じゃが欠かさず続けることによって力となる」
「ハイ、もちろんです。ハチマル先輩とサンレイちゃんは私の師匠ですから」
サンレイが嬉しそうに笑いながら英二の背をバンバン叩く、
「痛たた……痛いから…… 」
「にへへへ……師匠……おらが師匠……絵里香ちゃんはわかってるぞ」
嬉しそうな顔から一転してじとーっと英二を見る。
「それに比べて……英二はそんな事一度も言ったことないぞ」
二度も背中を叩かれて痛そうに捩りながら英二が口を開く、
「アイスねだったり、ゲームねだったり、嫌いなおかずを俺の皿に入れてくる人を師匠なんて呼べませんからね」
「あははははっ、先輩たち本当に楽しそう、私この学校に来てよかった」
大笑いする絵里香を見て英二たちの顔に優しい笑みが浮んだ。