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一ヶ月後に向けて

 気がつくとマシロは、またあの白い空間の中にいた。二回目だが、やはり一瞬固まってしまう。


(……またあの空間だ……)


 雰囲気も以前とは違った感じだ。何処と無く空気が重く感じる。


(……何か、嫌な感じがする)


 背筋に凍るような悪寒が走る。と同時に頭痛がマシロを襲う。


「ぐぅっ……! つっ……」


  激痛に顔を歪め、膝をつくマシロ。マシロは、クロエに言われた事を思い出す。


(この頭痛は思い出そうとする脳の副作用、そして思い出すにはきっかけが必要……クロエちゃんの言葉がきっかけで、私は思い出そうとしている?)


  その答えに辿り着いた瞬間、マシロの頭痛が嘘のように吹き飛び、マシロの視界に黒い影が出てきた。その影は項垂れていおり、マシロから見てもその様子がただ事じゃない事が分かった。


(あれは……。私はあれを知ってる。あれは……)


「クロエちゃんだ。 それも、かなり前の……」


  マシロが言い終わると同時に影が少し薄くなりクロエの身体が浮き彫りになっていった。項垂れているため顔は見えなかったが、荒廃した街並みに佇むその姿は、クロエという事は確認出来た。


「ぐっ、頭が……!!」


  また頭痛が起きてその場にしゃがみ込む。それと同時にクロエの影と背景が霧散する。

 悶え苦しむような激痛ではなく、頭の奥底まで響く鈍痛がマシロの脳と身体を蝕んだ。


「つっ、あああああああああああああああああああああ!!!」


  痛みと思考を振り払うかのようにマシロが咆哮し、身体を思い切り反らす。


「はぁ……はぁ……」


  肩で息をしながら辺りを見回す。やはり何もない真っ白な空間だった。頭痛はもう消えていた。身体がふらつくが気にせずに歩いていく。


「……これが私に関する過去の記憶ならこんな記憶、私はいらない……。苦しむクロエちゃんを見たくない」


  口に出して、この出来事を消そうとするが、頭にこびり付いてるような感覚がして消すのは無理に近かった。また影が出現する。今度はマシロだった。影が抜けていき、完全にマシロの姿になった。


「え、私? どうして……」


「あなたは私、私はあなた。あなたの記憶はあなた自身が拒絶しても絶対に消える事はない。思い出すのも億劫かも知れないけどあなたが過ごしてきた記憶は必ず思い出す。

 過去の私からのアドバイスよ。じゃあね」


「あ……」


  もう一人のマシロは一方的に喋った後、地面に溶けるように消えていった。


「何だったんだろう、今の」


  腑に落ちない点もあったし、過去の自分からのアドバイスというのも可笑しなものだった。


「絶対に消えない……か」


  一字一句が心に刻まれる感じがした。マシロは胸に手を置いて握りこぶしを作る。一度首を振ると、マシロは前に進み出す。ある程度進んだ時、急にマシロの視界が暗転した。



「ん……。夢?」


  目を覚ましたマシロは、さっきまで見てた光景は夢だと自覚した。 半目になりながらもスラスラと着替える。


「ふぁ……んっ」


  小さなあくびをこぼし、伸びをする。

  半覚醒状態の脳を叩き起こして覚醒させる。

 髪留めをし、後ろの髪をポニーテールにする。 いつもはしないマシロだったがたまには良いと思いしたのだった。


  扉の叩く音が聞こえ、マシロが開けるのを促す。開かれた扉の先にいたのはラスクだった。


「ラスクさん、どうしたんですか?」


「いや、そろそろ起きてるかなと思って。

 見に来ただけだよ」


「あ、そうだったんですか。 あ、いまから一ヶ月後にクロエちゃんに会いに行こうかと思います。 ラスクさんとライズさんにも来て頂こうと……」


  マシロが言うとラスクが驚いたような表情をした後、口を開く。


「え、まぁ良いけど。 でも何で一ヶ月後?

 そこが気になるなぁ」


「え、えーとですね……」


  マシロは昨日の事を言おうか迷ったが言う事にした 。


「実は昨日クロエちゃんが来てですね、一ヶ月後に会おうと言う事になりまして、それで。場所は中央都市近郊の荒野だそうです」


「へぇ、そんな事言ってたのか。

 分かった。マシロちゃんを信じるよ。

 一ヶ月後の荒野だね。ライズにも言っとくよ」


  マシロに笑いかけながら頷くラスク。その反応を見たマシロは胸を撫で下ろした。


「 ありがとうございます。楽しみです」


  マシロは軽く頭を下げると自室を後にする。

 ラスクもマシロに続いて部屋から出て行った。

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