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クロエとの接触

 マシロがギルドに来て一ヶ月半が経過した。

 掃除にも慣れて早く出来るようになってきたので最近は機嫌が良かった。さらに料理も作るようになって、今ではすっかり料理好きになってしまった。今マシロは二階の自室でくつろいでいた。上機嫌なのか鼻歌を歌ってベッドで寝そべっていた。


「ふんふーん、ふふん、ラララー」


「最近機嫌良いの?マシロ?」


  不意に二階の窓の方から声が聞こえる。マシロは肩をビクつかせて恐る恐る振り返ると───


「クロエちゃんっ!?」


  そこにはクロエが窓に腰掛けてマシロに手を振っていた。マシロは目を見開いて急いで立ち上がってクロエに駆け寄る。クロエは微笑みながらマシロの一連の動作を見ていた。


「クロエちゃん、どうしてここに!? ギルドに来て大丈夫なの!?」


  矢継ぎ早に繰り出されるマシロの質問にクロエの微笑みが苦笑いに変わっている。クロエが手で制すとマシロは一応落ち着きを取り戻す。


「落ち着いたね? まず、この二階の部屋に"遮断結界"と"防音結界"を展開させてるから大丈夫だよ。騒いでも音が漏れる事は無いし、今のこの部屋は無い事になってるからね」


  マシロはクロエの言ってる事が難しいのか首を傾げていた。


「んー、もうちょっと簡単に言うと外からは私達の存在を確認出来なくなるの。そういう結界を張ったんだ。だから二人だけで話す事が出来るよ。マシロの聞きたがってる質問にもいくつか答えてあげる」


  噛み砕いた説明をし、にっこりと微笑むクロエ。そんなクロエにマシロは食い入るように顔を近づける。クロエは思わず上半身を反らす。胸が強調され、マシロの身体に触れてしまう。その時、クロエが本当に小さな喘ぎ声を上げた。しかしマシロは気にして無いのか聞こえて無いのか、気にも止めずに目でクロエに訴えていた。



「分かった! 分かったから焦らないでマシロ!時間はたっぷりあるから! ちょっと離れよっか……胸が当たって……」


  最後の方は蚊の鳴くような声だったが、伝わったのかマシロはベッドに座り込んだ。それを見たクロエもマシロと向かい合うように椅子に座る。


「ふー、これでやっと話が出来る。で、マシロは何から聞きたい?そうだね、大抵の事は答えてあげるから質問してきな」


「なら最初の質問。 クロエちゃんは一体何者なの? どうして私にここまでしてくれるの?」


「んー、いきなり鋭いとこ来ちゃったね。どうしよかな……」


  顎に手を当てて考える素振りを見せるクロエにマシロが顔をしかめる。それを見たクロエは眉をピクリと動かした。


「うっ……私の正体はまだ言えないけど、そうだね、マシロと運命を共にしてる者、かな? か、ドッペルゲンガーみたいな存在だよ。 何故マシロにそこまでするのかって?

 それは決まってるよ。マシロが大好きだからさ」


  屈託のない笑みで返されたマシロは一瞬唖然とするがマシロも笑みで返した。


「ありがとうクロエちゃん!」


「うんうん、可愛い笑顔! 最近頭痛とか起きてる?」


  マシロの表情が一変し少し影を見せるがすぐに驚いたような顔を作った。


「え、凄い。 誰にも言ってないのに何で分かったの?」


  マシロの表情の変化を見逃さなかったクロエだが敢えて言わなかった。


「んー、ずっと同じ事繰り返してるからね。

 ただ、間隔は短くなってるけど。 マシロ今、記憶無いでしょ? その頭痛は思い出そうとする脳による副作用だよ。 脳に強い負担が掛かるんだ。記憶を思い出させるには何かきっかけを作ってあげるか、ショックを与えるかが主だね。 マシロが多かったのは前者。

 "私" が "きっかけ" となって思い出すのがほとんど」


「……クロエちゃんっ」


  その言葉を聞くだけで胸から想いが溢れ出しそうだった。しかしクロエはさらなる事実を口にする。


「そしてマシロの "力" はその記憶と連動してる。残念ながらこれもまだ教えられない。ごめんね」


  本当に申し訳なさそうにするクロエにマシロはブンブンと手を振る。


「いや、いいよ! 大丈夫だから。クロエちゃんが凄いのは充分わかったよ。 クロエちゃんは過去の私も知ってるの?」


「そりゃあね。 ただ、昔を思い出すとほんと辛い事しかなかったからちょっと思い出したくないかな」


「……分かった。ごめんね。 そうだなぁ、後はクロエちゃんはどんな魔法が使えるの?」


  目を輝かせながら爛々と喋るマシロに嬉々とした気持ちが胸に募るのを感じるクロエ。

 クロエは顎に手を乗せて喋り始めた。


「んー、魔法かぁ。良く使うのは"インフェルノ" だね。使い勝手も良いし。

 あとは雷系の魔法も良く使うね。殲滅力高いし」


「へぇ、クロエちゃんってたくさん魔法使うんだ! 凄いなぁ」


「いや、それ程でも……」


  満更でもない様子で頭を掻くクロエ。少し顔が赤かった。そんなクロエは、何か思い出すような表情をすると口を開く。


「あ、そうだ。マシロ、マシロがここに来てから魔物の数って増えた?」


「え、うーん、確かに増えてるよ? それがどうかしたの?」


  クロエは真剣な表情で何かを考えていた。


「いや、マシロは "力" の関係で魔物を引き寄せやすい体質なんだ。でも殆どの魔物はマシロを襲わないんだよ。これもマシロの"力" が関係してるからなんだ」


  これを一気に言うとクロエは息を整えるようにしてスゥと息を吐く。


「魔物についてはもうちょっと教えたいけどまだ教えれないんだよ。マシロが色々思い出してくれないと……。きっかけは与えたからあとはマシロ次第だよ。頑張れ」


  優しい笑みを浮かべ、マシロの頭をクシャクシャと撫でる。マシロはくすぐったそうに身を捩ったがすぐに恍惚な表情に変化した。


「えへへ、ありがとうクロエちゃん。

 記憶、思い出してみせるね!」


「うん! あ、そうだ。一ヶ月後のお昼、マシロにもう一回会いたいんだけどいいかな?

 場所は……中央都市から離れた荒野。

 あの二人も連れて来てね」


  クロエの提案にマシロは不思議そうな表情をしていた。


「あの二人ってラスクさんとライズさん?」


 マシロがそう訊ねるとクロエは首肯する。


「そう。あの二人に見せつけたい出来事が起こるから。 私の腕も鳴るよっ!」


  クロエが袖をまくって力こぶを作るが上腕二頭筋が少し盛り上がる程度だった。


「じゃっ、そろそろ私は行こうかな。

 じゃあねマシロ。 また来るよ」


  クロエはスッと立ち上がりマシロを見やる。

 マシロもクロエを見上げていた。マシロはにっこりと微笑んで手を振る。クロエもそれに釣られて笑って手を振った。


「バイバイクロエちゃん。 またね」


 クロエはマシロの言葉を聞き終えると瞬間移動でマシロの部屋を後にした。


「……クロエちゃんか。 私の秘密もわかる時が来るかな?」


 少女の声は静かに部屋に反響した。

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